第1373話 最終日はボス戦200連戦。行ってこいニーコ!




 ゆ~っくり、じっくり、の~んびり~。

 本気を出せば20層まで1日掛からず踏破出来る〈食ダン〉を、4日掛けて各地の観光名所(?)を回って19層までやってきた。


 今日が最終日だ。


「今回の合宿は凄く新鮮で楽しかったわね!」


「去年とはまた違った楽しさがあったと思うわ」


「去年は確か、2日目に最奥へ到着して最奥ボスを狩り続けていたのでしたか?」


「おかげで肉うまうま」


「エステルの言うとおりだ。おかげでこの人数でも卒業まで食べきれないほどのお肉を確保している」


 朝になってラナがここ数日の疲れを感じさせない元気さで〈食ダン〉が楽しかったと感想を告げると、シエラもそれに同意する。

 エステルは去年ラナの帰省で〈食ダン〉に来られなかったので確認すると、現在進行形で肉をほおばるカルアが頷き。リカがそれに補足していた。

 俺もそれにうむと頷く。


「というわけで最奥ボスのドロップはまだまだまだまだいっぱいあってな、今回は〈食ダン〉の名所を巡る旅を企画したというわけだ」


「最奥ボスで欲しいのはレアボスのお肉だけだもんね。今回は何回〈笛〉が当たるかなぁ」


「いつの間にか〈笛〉も増えに増えて25個もあるからな。100回戦闘ができるから、70戦はレアボスがヒットするんじゃないか?」


「サティナさんの回数アップも合わされば、倍以上に増えるよ」


「そうなると200回は吹けるな~」


 よし、この機会にサティナさんにも〈公式裏技戦術ボス周回〉を教えてあげよう!

 きっと驚くぞ~。


「サティナさん、〈笛〉吹きお願いしますね!」


「え? え? ええ??」


 レアボス戦と聞いて指示を送っているのはまさかのハンナだ。

 絶対にレアボスドロップは逃さない。そんな気迫を感じる。

 20層への階層門に怯えた3体のレアボスの幻影が見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。


「今回、ニーコちゃんは強制参加です!」


「ええ!? まさか僕が全てに『トレジャーショット』するのかい!? そんなの無理だよ!?」


 ニーコの『トレジャーショット』はトドメで使うとドロップ品が増えるラストアタック効果がある! 素材集めには最適なスキルだ。


「大丈夫です! ニーコちゃんの『ボスドロップ量増加LV10』だけでも期待しています!」


「君は本当にハンナ君なのかね!?」


「ハンナちゃんが指揮してる!?」


 おおっとニーコをビビらせるハンナの手腕に脱帽。クイナダがまたも新鮮なハンナにおののいていたよ。

 これから連続ボス戦200連戦が控えていると知ってしまったニーコは憔悴の表情だ。信じられない、みたいな顔をしている。

 少し、フォローをしておこう。


「まあ、所詮は初級のボスだ。今の俺たちが本気を出せばすぐに終わる。大丈夫だニーコ」


「それは、確かにそうだが。むしろ手加減が難しくないかい?」


「大丈夫だ。こういう時のために〈手加減の腕輪〉を持ってきた。テイム効率を上げるためのアクセサリー装備で、どんなに攻撃してもHPが1残るやつ。これをニーコ以外の4人に持たせよう」


「わーい楽勝じゃないかー、とでも言うと思ったのかね! 1戦3分で終わったとしても200戦で600分、10時間掛かる計算なんだよ!? 無理だって!」


「初手全力攻撃で20秒くらいで終わるんじゃないかな?」


〈笛〉を吹く時間、宝箱とドロップを回収する時間、メンバーチェンジの時間も合わせたら3分くらい掛かるかな?

 ニーコの言う10時間が現実味を帯びていたが、俺は戦闘時間は20秒で終わると言ってごまかした。


 ボス戦開始。


 実際問題、ニーコと残りはアタッカー4人で楽勝。

 ニーコ以外には〈手加減の腕輪〉を着けて開幕早々「我がギルドのお供え物になるがいい!」と言って五段階目ツリーを発射しまくるんだ。

 するとな。たとえボスと言えど「ブモー!?」「プギィー!?」「コケー!?」という断末魔の声と共にマジで20秒ほどで決着する。もちろん最後はニーコが最後に撃ってトドメを刺せば終わりだ。


 俺たちも強くなったなぁ。ボスを瞬殺か。

 ニーコの『ボスドロップ量増加』によってウハウハ。

 1戦で20個以上のドロップが落ちるというのだからパナい。


 宝箱は……おみやげかな?

 みんなで素早く回収して戻る。

 ニーコの10時間もやっていたら死んでしまうという懇願を受け入れ、なんとか半分くらいの時間で済ませられるよう頑張ったところ、約7時間で〈笛〉を吹き終わったよ。

 最初は驚きまくってたサティナさんもすっかり慣れてしまった。


「レアボスのドロップ類が、3000個もあるぞー! すっげぇー!」


「ふわわ~! これだけあればおいしい物たっくさん作れるよ~。えっと1ブロック肉が2キロだから~10人くらいで1食としたら約60人でえっと……ゼフィルス君?」


「1回6個消費だな。3000個消費するのに500回。1日1食はこれを使うと考えれば毎日食べて約1年半分ってところか」


「1年半分!」


 もう何戦やったか覚えていないが、レアボスドロップは3000個を超えたよ。ハンナが必死に計算しようとして、俺に助けを求めて上目遣いしてきたのにはちょっとグッときた。

 ハンナ、それくらいの計算自分でできなかったっけ? そんなことを思いつつ答えてあげたよ。


 ニーコよ、よく頑張ってくれた。サティナさんとの合わせ技が思いの他とんでもなかったな。


 横でカルアの腹が盛大な音を奏でている。


「今日はちゃんとこのお肉を使うから安心してほしい」


「ゼフィルス、素敵」


 ちなみに宝箱は〈金箱〉が164個。〈銀箱〉は覚えてないほどドロップした!

 全てが中級下位チュカ級か初級上位ショッコー級のもの、それも生産や採集系の装備やアイテム類が多数なので、ハンナを通して1年生の生産職の子たちに安く売ってあげようと思う。

 ガンガンレベル上げしてほしいね!


 そして夕方。最終日の夕食の時間だ!


「みんなー! 3泊4日の行程、ダンジョン泊お疲れ様だー! 1年生たちも初めてのダンジョンでの寝泊まりと冒険、そしてグルメを探す旅、楽しんでくれたか? だが、これはまだ夏休みの序の口だ! まだ他にも楽しいダンジョンが待っているからだ! これからもまだまだ面白楽しく遊び尽くすぞ。楽しみにしていてくれよな! じゃあ〈食ダン〉最後のダンジョン飯――いただこうか! かんぱーい!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 音頭を取って、乾杯です。

 今日の夜のメニューは――BBQバーベキューだ!


 やっぱり最後っていったらこれが定番だよね。パーッとやろうぜ!

 良いお肉もいっぱいゲット出来たし、19層では高級お野菜エリアが多くあるので採取しまくったのだ。

 これを使わない手はない。


「ニーコ! ニーコにもいっぱいあげよう! お肉と、野菜と、タレもたっぷり掛けてくれ! あ、それとも塩がいいか? 実は岩塩エリアがあってな」


「いやいや、勇者君。労ってくれるのは大変ありがたいが、よそいすぎだよ。ぼくの小さなお腹にはこんなに入らないって。カルア君と比べられても困るのだよ?」


 おっと、ついニーコに渡す皿を山盛りにしてしまった。

 カルアがこの3倍くらいの山にチャレンジしているからうっかり流されてしまったんだぜ。ちなみにカルアは全部食べきっていた。マジどこに入ってるんだ。


「ん。ゼフィルス。おかわり」


「まだ足りないのかよ!?」


 いつもカルアのお腹は摩訶不思議です!

 ニーコをチラッと見たら目を逸らされた。おかわりはいらないらしい。

 

「う~ん、狩りまくった甲斐があるデースね! 働いた後の食事はとっても美味しいデス!」


「それはぼくも同意だよ。……パメラ君はそんなに食べないんだね?」


「カルアと同じと思われると困るデース! あれは無限に広がるお腹兵器を所持しているのデス!」


「お腹平気? そうなのか。う~ん、ちょっと調べてみたいよ」


 パメラとニーコが喋っていたが、なんだか言葉に行き違いを感じるのは俺の気のせいだろうか?


「ゼフィルスさん、採集物の集計が終わりました! すごいですよ! すごい量ですよ! 昨年とはやはり比べものになりません!」


 そこへやってきたのはマリア。こんなお祝いの席でも仕事を進めていたらしい。


「おお! マリアお疲れ様。助かる」


 資料を見せてもらうと、結局119個の〈空間収納倉庫アイテムボックス〉が満杯になったという。マジとんでもないな! 超ギリギリじゃねぇか!

 やはり大活躍したのは〈採集無双〉の面々。特にモナとタイチとアンベルさんだ。

 モナは野菜類や穀物類、タイチはもちろん魚、そしてアンベルさんは果実類の採集がとんでもないレベルの成果を上げている。レア食材がたんまりだ。やべぇ。


 採集職にとってここは独壇場ではあるんだが、今まで上級職がいなかったからだろう。質もさることながらその量もまた凄まじい。

空間収納倉庫アイテムボックス〉を余裕を持って持ってきておいてよかったよ。


「あと、これがセレスタンさんが許可した売り払うものの査定表です!」


「どれどれ……? ゼロが多いなぁ」


 さすがは安くないQPを支払って入ダンするダンジョン。実入りがすごい。


「ですがこれは価値を保ったままの金額ですね。全部いっぺんに売ったら値崩れするので小出しで売っていきます。それで、どうせ売ってしまうのでしたらちょっと私のお店で使わせてもらえませんでしょうか?」


「マリアの店、〈ダンジョンショップ〉か!」


「はい! あそこで料理アイテムを売りたいんです! そこで〈調理課〉の学生も巻き込んで、安く手に入る料理アイテムを量産したいんです! それでこの数日で手に入れた調理系の〈金箱〉産〈銀箱〉産アイテムを融通していただきたく――」


「許可する! 全部使ってくれ!」


「早っ! さすがは即断即決のゼフィルスさんです!」


「わははははは!」


 マリアの提案は願ったり叶ったりだ。

 生産職の地力アップに加え、今回ゲットしたアイテムの大半が捌けるし、恩恵を受けた学生たちがボスを倒せれば軒並み成長できる。まさに良いこと尽くめだ!

 むしろ今回の成果を全部投資してもいいくらいだ! まあレアボスドロップとアップルジュースだけは〈エデン〉のものだけどな!

 シエラやセレスタンにも後で話を通しておこう!


 これで〈ダンジョンショップ〉はさらに需要が増すだろう。夏休み明けの新しい公式学園ギルドの発表がとても楽しみだ!


 3回目の〈食ダン〉祭りはこうして過ぎていったのだった。




 ――――――――――――

 後書き! 次回予告!


〈食ダン〉編終了。

 明日から始まるのはSランク戦ギルドバトル〈ミーティア〉VS〈百鬼夜行〉!?

 そこにまさかのゼフィルスが関わっていく~!


 次回「第1374話 Sランク戦の実況席になぜかゼフィルスがいるよ」

 お楽しみに。



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