第1372話 〈食ダン〉の4日間、メインは要塞じゃ無いよ!?




 10層に着いて果樹園エリアで果物という果物を採りまくり1日目の探索も終了だ。

 みんなで宿泊の準備をする。


「ダンジョンで寝泊まりなんて初めてでワクワクしますわね」


「はい。〈食ダン〉ではモンスターはそれほどいない……? らしいですから初めてのダンジョン泊にはオススメのスポットらしいです、よ……?」


「さっき盛大に要塞攻めしましたわ」


「そうですね……。〈食ダン〉にモンスターがあまり居ないという情報は間違っていたかもしれません」


「明日も要塞攻めでしょうか? とても気持ちが昂ぶりますわねクラリス」


「……そうですね。ゴブリンの要塞攻めは思いのほか楽しかったです。またやりたいですねお嬢様」


 ノーアとクラリスがテントアイテムの前で楽しく談笑する微笑ましい姿が目に入る。


 おかしい。

〈食ダン〉が要塞攻めメインのダンジョンだと思われてる。

 明日も要塞攻めする気満々じゃないか!

〈食ダン〉は採集するダンジョン。ノーアとクラリス、それに他の1年生たちにもしっかりそのことを認識させなければ。


「お兄ちゃん! テントの中がすっごく広かったよ~」


「はい。見た目はとても小さいのに。中は貴族舎のアリスの部屋より広いんですね」


 アリスとキキョウが自分たち用のテントの中を見て、わざわざ俺に報告しに来てくれた。可愛い。


「これがダンジョン泊の醍醐味だ。今年はボリュームを増してな。中で別のテントと繋がっている宿泊用アイテムを選んできた。さらにテントは1つ辺り4人から5人寝れるし、くつろぐために内部空間が広いものをチョイスしてきたぜ」


「すごいね、すごいよー!」


 うむうむ。アリスのすごいの言葉になんとも言えぬじんわりした気持ちが沸き起こる。

 テントアイテムは最新式で一番良いのを選んだ。上級中位ダンジョンの素材と交換と言ったら一番良いのを持ってきたんだよ。

 というか内部で繋がってるテントってどういうこと? ハンナとアルストリアさんとシレイアさんが触発されたのかテントをじっくり調べてるよ。


 後は去年作って結局使わなかったアイギスの〈からくり馬車〉、〈シャインブレイカー号〉の『テント』も開放済みだ。宿泊用に内装を整えたが使うのは今日が初めて。今回カイリが操縦していた〈からくり馬車〉だな。

 え? どんな内装なのかって? ぬいぐるみがいっぱい、とだけ……。


「寝床の準備が整ったら、夕食の準備だ!」


「ゼフィルス兄さん、もうだいぶ仕度は整ってるで~」


「食材が多すぎて訳分からん状態だったっすが、マリア先輩たちが整えてくれたっす!」


「採れたて新鮮を食べる」


「絶対美味しいですよね」


 アルルの報告で見れば、すでにコンロやキッチンが大量に設置されていた。すごいな、まるで家庭科室のようだ。

 ナキキ、ミジュ、シュミネはアルルを手伝っているらしい。

 ちなみに今日の成果物である〈空間収納倉庫アイテムボックス〉はすでにマリアが整理してくれたようで、分かりやすい配置に整えられ巨大な台に山積みになって置かれていた。何かの料理対決番組かな?


「普通なら料理っていうのは時間が掛かるんだけどね、ゼフィルス君がこの日のためにたくさんの料理作製用アイテムを手に入れてきてくれたからすぐにできるよ~」


 あれ? テントを調べていたはずのハンナがすでにキッチンに!

 さすがはハンナ、エプロンを身に着けたハンナはとても可愛い、じゃなくて板についた様子だった。

 ハンナをリーダーとしてみんなで調理に取りかかる。


「〈自動調理器〉に野菜を入れたら調味料も入れて? 後はボタンを押すだけなんて簡単ですわね」


「これなら私も出来そうです」


〈自動調理器〉って実は最強アイテムの1つなのでは無かろうか?

 リーナやアイギスを初めとした貴族組はみんな〈自動調理器〉に感心している様子だ。いや、感動かもしれない。

 キッチンやコンロを使って調理する班と〈自動調理器〉を使う班に分かれて作業開始だ。


 ハンナの班はフライパン型や鍋型など、様々なアイテムを使っている。『時短』スキルの恩恵もあってどんどん料理が出来上がっていくんだぜ。

 フライパンに卵を落とした瞬間2秒で目玉焼き完成って早すぎじゃね?


 57人分のスープを作ることができる巨大寸胴鍋も5秒で沸騰だよ。『時短』スキルが凄すぎる。


「ハ、ハンナちゃ~ん、これ入れ忘れちゃったというかタイミング逃しちゃったんだけどどうすればいいかな!?」


「わ、私はこの食材を入れる前にすでに調理が完成していたんだけど!?」


「うん。これちゃんと火が通ってるよ。すごいね」


「はいはい今行きまーす」


 サチ、エミ、ユウカがハプニング。まあ『時短』しすぎると、こういうこともあるよね。ハンナはヘルプに呼ばれてそのまま行ってしまった。

 さすがは調理リーダーだ。


 程なくして料理が完成する。野菜炒めから煮物、豚汁からビーフシチューまで。時間が掛からなさそうなものから時間が掛かるものまで様々だ。

『時短』の効果が凄く発揮されています!


 ダンジョンなのに巨大テーブルをいくつも置いて、料理が足りなければ〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から持ち込みを出す形にしている。


「それじゃあみんな、1日目お疲れ様、調理してくれた人たちと採集頑張ってくれた人たちに感謝して、いただきます!」


「「「「「いただきまーす!」」」」」


 みんなで手を合わせていただきます。


「ふわ、美味しい~!」


「とても美味しいですの!」


「自分たちが採集したものを使って料理し、食べる。趣があっていいでありますな」


「美味しさが何倍にも膨れ上がって感じるですね~」


 カグヤ、サーシャ、ヴァン、アルテなど、キラキラした目をしながら食事をしていた。

 自分たちで採ってきたものだから、より一層美味しく感じるようだ。

 その気持ち分かるなぁ。実際美味しいしな。


「時間が掛かる定番の角煮に、シュウマイまであるよ! 角煮は『時短』で分かるけど、シュウマイなんてどうやって作ったの!? 包むの手間だよね!?」


「〈自動調理器〉が役立ってくれました~」


「〈自動調理器〉ってすごいね!?」


 クイナダが〈自動調理器〉の性能におののいていた。

 いや、ぶっちゃけ〈自動調理器〉ってすごいからなぁ。とはいえハンナの料理の方が美味しい気がするので、おそらく手作りの味よりかは劣るんだろうが。


 食事も進めばだんだんと日は沈み、暗くなった夜空には満天の星が輝き始める。


「ふわ~」


「星がいっぱいだね~」


 ルキアとミサトの「兎人」組が星を見上げている。月が恋しかったりするのだろうか?

 まあ、ダンジョンの月と星は作り物らしいんだけど。


「ゼフィルス君、今日は夜に何かしないの?」


「今日はまだしないさ。今日は、な」


「わ、やっぱりする気だ!」


「〈海ダン〉の幽霊船ゴーストシップイベントが楽しかったからなぁ」


 しかし肝試しというのは何度もやるものではないのだ。

〈食ダン〉では食休みということにしてもらって。

 夜の女子テントにスクショを持ってお邪魔することも考えたが、『直感』さんに「やめておけ」と止められたのは内緒にしておこう。

 各自明日の予定に胸を膨らませて眠ってもらったよ。




 翌日。2日目は基本に立ち返り、採集へと出かける。

 今度は10層の羊牧場エリアで――羊狩りだ。実際は牧場じゃないけどな。


「メェ~!?」と叫びながら逃げ惑う羊たちを容赦なく狩っていき羊肉と羊毛をゲット!

 ここは数百匹どころか数千匹はいるエリア。

 ゲームの時では動かせるパーティは1つだったのでなかなか全部狩るのは難しかったが、今は仲間がたくさんいる! ということでみんなで楽しく狩った。


「数えてみましたが、全部で4198匹でした」


「すんげぇ狩ったな!?」


 クイッとメガネを上げるマリアの報告に目を見開いたよ。狩りすぎたかな?

 マリー先輩のお土産にしよう。驚く顔が目に浮かぶようなんだぜ、メイリー先輩なんか「羊が1匹、羊が2匹……zzz」とか数えた瞬間に眠りそう。

 マリアはよくこれ数えたな?


 次に向かったのは11層。

 ここからは1層1層じっくり進む予定だ。1層ごとに色々エリアがあって楽しめる作りになっているからだ。

 11層は水田と川と山エリア。イネと魚が豊作だった。


 お昼になって12層に到着。


「うわ~、ここ懐かしいね~」


「去年はここでキャンプしたんですよね」


「それであっちでゴブリン要塞を陥落したんですわ」


 ノエル、ラクリッテ、リーナが懐かしいと言わんばかりに去年の思い出を語る。

 真っ先に出てくる思い出がゴブリン要塞を陥落したことであるのは置いといてほしいところ! でも楽しかったよなぁ。


「はい! ここでもゴブリン要塞があるなら、狩りに行かない?」


「「「「さんせーい!」」」」


 ノエルの言葉に賛成多数により、急遽ゴブリン要塞攻略が行なわれることになった!

 こういうこともあるよね。なお、攻略は蹂躙だったとだけ言っておこう。

 5層の時よりゴブリンもパワーアップしていたはずなのだが、よくわからなかったんよ。

 あ、ちなみにここは高山帯。高級トマト、高級ジャガイモなどはしっかり確保済みだ。


 続いて13層はウシ、ヤギ、ウマの広大なエリア。乳と肉を大量ゲット!

 14層は恐竜の仲間の中でも草食竜の大きな縄張りがあるところだ。

 お肉狩りの時間じゃーー!!

 お肉は、〈丘陵の恐竜ダンジョン〉で採れるものより美味しかった。


 また、今回の〈食ダン〉に来たメインの1つ〈深泉しんせんのアップルジュース〉が採れる、アップルの泉へ行ったよ。ここには一度来てみたかったんだ。

 凄かったよ。近づくだけでリンゴの素晴らしい香りが漂ってきて、目的地に至ってはリンゴジュースの泉が広がっていたのだから!

 ここだけで〈空間収納倉庫アイテムボックス〉が30箱も埋まってしまったが後悔はしていない。枯れない泉が悪いのだ。日が暮れるまで採集しまくったよ!


 2日目の夜は14層で過ごした。


 翌日3日目。

 アップルの泉と泣く泣くお別れして15層へと向かう。


 ここは超卵エリア。

 そこら中にニワトリがいるので狩って卵をゲットしよう。

「ほうら卵出せー!」「ズバンッ!」「コケー!?」こんな感じで卵をゲットしまくった。冗談だ。


 中にはウズラやダチョウもいる。とにかく鳥の多いエリアだ。

 そこら中に鳥の巣みたいなところがあって卵があるので勝手に貰っていく。


「『鑑定』しますからみなさんこの〈空間収納倉庫アイテムボックス〉に入れてくださいね~」


「「「は~い」」」


 卵は鑑定でなんの卵か分かるのが便利。

 たまに落っこちているモンスターの卵を採集出来れば、孵化させてモンスターをゲットすることもできるぞ。まあ、大抵は孵化させずに食べるけど。なんか普通の卵よりモンスターの卵の方が美味しいらしい。頑張れニワトリ。


 16層から18層では、野菜、果樹がメインになるのだが、一部シルクエリアという虫系モンスターが登場するエリアがある。

〈ダン活〉はそもそも虫系モンスター自体が少ないのだが、ここでのみ結構な確率でエンカウントするのだ。ちなみに登場するのはクモ系とキャタピラー系。シルクを落とすぞ。


 3日目は18層で夜を過ごした。


 そして最終日4日目。


「ようやく到着したな! 19層、最奥ボスの一個手前の階層だ!」


 今日はいよいよレアボス周回の日である。

 今まで手に入れまくった〈笛〉を使いまくるぞ!

 道中出番が無かったニーコを今、開放する! 出番だニーコ、行ってこーーーい!



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