第1365話 新メンバー初めての〈クジャ〉戦――決着!




 道中〈クジャ〉についての攻略の仕方や相手の攻撃パターンなどは教えてきたのでおそらく大丈夫だとは思う。このパーティで十分いけるだろう。

 あっとそうだ、これも伝えておかないと。


「あと、〈クジャ〉を初めてやるときは注意するように。かの〈キングアブソリュート〉も恐怖で動けなくなったらしいからな」


「ボス、怖いの?」


「だ、大丈夫だよアリス。私がしっかり守ります!」


「うん」


〈クジャ〉の最初の咆哮だな。

〈キングアブソリュート〉もあれによって動きが鈍り全滅したことがあると言っていた。

 え? 〈エデン〉はって?

 ……〈エデン〉にはそんな咆哮、欠片も効かなかったなぁ。


 まあ、それは来ると分かっていたから心構えが出来ていただけかもしれないが、逆に言えば心構えさえあれば何とかなるのだ。

 故に、忘れないようボス部屋に潜る直前に話した。ということにしておこう。


 少し緊張感を持ったアリスとキキョウ。

 そしてヒナに騎乗するアルテと、〈アイスエイジウルフ〉のルーちゃんに騎乗するフラーミナを見る。

 その後ろには〈プロミネンスウルフ〉のウーちゃんと、〈ライトニングセンスウルフ〉のフーちゃんがいる。こちらは『三体導入』スキルでフラーミナが召喚しているモンスターだ。


 準備完了。


「よし、いくぞ!」


「「「「おおー!」」」」


「みなさん、がんばってくださいましー!」


「いってらっしゃいですのー」


 気合いを入れ、ノーアやサーシャたちに見送られて俺たちは最奥ボスの門を潜った。


 すると案の定、見慣れたボスモンスター、〈暴風爬怪獣・クジャ〉がそこにいた。

 HPバーが3本ある。

 相変わらず威圧感が、威圧感が……あれ? 威圧感あるかな?


「?」


「ギ、ギャアアアアアアアオ!」


「ふええ」


「私が行きます!」


〈クジャ〉が吠えた。最初の咆哮だ。これに足が竦む者は多いらしいが。

 アリスが目をパチクリして「ふええ」と言っていたが、顔を見ても恐怖に引きつっている感じはしないな。まるで「おっきな怪獣さんだ~」とでも言いそうな表情してる。

 なんか〈クジャ〉、迫力落ちてない? なんか尻尾とかに力がないような気がするよ?


「まずはヘイトを取ります! 『羨ましいでしょ? あげないよ?』!」


「ギャアアアアオ!」


 キキョウも普通にタゲを取り始めた!

 せっかくフラーミナを連れてきてウーちゃんとフーちゃんがいつでもアリスとキキョウを守れる配置に付いていたが、無駄になってしまった様子。


 クジャの胸の水晶が光り出すのが見えたので、キキョウに指示を送る。


「キキョウ、ビームが来るぞ! 封印の門!」


「はい! 『封印の門』!」


 俺の言葉にキキョウが空中に浮かぶ本、〈羨望取消書〉に左手を翳すとその瞬間、鳥居のような門が登場する。


「ギャアアアアオ!」


 そこに〈クジャ〉がビームを発射。

 しかし、それは門に吸い取られ消えてしまうのだった。

 相変わらず凄い防御魔法なんだぜ。


 しかもこれ、防いだ攻撃のクールタイムを5倍にするというとんでもない効果も持っている。とはいえ対象は1つだけなので、さらに攻撃されると上書きされ、最新の攻撃のみクールタイムが5倍になって、今まで封じていたのは解除されてしまうのだけどな。

 しかし、これはキキョウのスキルの序章に過ぎない。


「アリス! アルテ! フラーミナ! 攻撃開始だ!」


「うん! 『雷こそ最強なの』! 『エレクトリック・ビーム』!」


 今度はアリスが自己バフを掛けてビームを発射ーーー!!

 目には目を、ビームには……ビームを!


 そして直撃。


「ギャアアアアオ!?」


「いっくよヒナー! 『スターストライクノヴァ』!」


「ウーちゃん! ルーちゃん! フーちゃん! レッツゴーだよ!」


「『ぱららラライズ』!」


 そこへ目をギラリと怪しく光らせたヒナが突っ込み、続いてフラーミナの3体のウルフがその能力を遺憾なく発揮して火、氷、雷を発射しまくって攻撃する。


〈クジャ〉も尻尾払いや翼で払うなどして防御しつつ、キキョウへと向かう。

 遠距離攻撃のビームを封じられてしまったので接近戦に持ち込む構えだ。

 翼を羽ばたかせて突風まで追加でプレゼントしてくる。


「防ぎます! ユニークスキル『大お社様ご光臨』!」


 そこへキキョウが出したのはお社様。

 巨大な社が召喚され、その扉がガコンと開くと、そこはまるでゲートのよう。

 中心は渦を巻いており明らかにヤバそうな雰囲気を持っていた。


「ギャアアアアオ!」


 そこへ〈クジャ〉の突風が突き刺さる。

 しかし、お社様はもちろんびくともしない。


「ギャアアアアオ!」


 怒った〈クジャ〉が『封印の門』の鳥居をなぎ倒して進む。その姿はまさに怪獣。

 なんということだ、さらにはお社様に組み付いた。ガンガン殴られ、噛みつかれ、お社様がダメージを受けていく。


「『悪いものは社へ』! 『悪いもの、おいでおいで』! 『社強化』! 『お社様リフォーム』!」


 キキョウは動じず挑発スキルを使って〈クジャ〉をお社様へ誘導、『社強化』でお社様をさらに強化し、『お社様リフォーム』で受けたダメージを回復していく。


 このお社様はキキョウの身代わり。キキョウがヘイトを稼ぐと『悪いものは社へ』の効果でお社様へ攻撃が行くため、お社様を召喚して強化回復しながら相手の攻撃を防ぐのがキキョウの下級職【神社の守護者】の防御方法だった。

 え? それ守護してないって? むしろ守護されている側だって? 細かいことはいいんだよ!


 まあ、攻撃を受け続けたのでお社様もガンガン削られていっている。

 そろそろHPがゼロになり消えてしまうだろう。

 だが、その前に俺たちが〈クジャ〉の1本目のHPバーを削る方が早かった。


「――『雷虎アターック』!」


「――『フルライトニング・スプライト』!」


「あ、HPバー1本目、消えましたよ!」


 最後は体長10メートルにもなる電撃の虎でアターックするアリスと俺の雷の花火が直撃し、〈クジャ〉は第二形態になる。

 俺も手を出して削っていたからな。結構早く削れてしまったんだぜ。


〈クジャ〉第二形態。

 変身など劇的な変化は無いが、その挙動は大きく変化するのだ。

 胸の水晶が光り出し、お社様にレーザーショットガンを放った。


「ああ! お社様が!」


 レーザーはお社様の屋根などを貫通。

 しかし大部分は渦へと飲み込まれた。

 お社様のHPはもう少しで尽きる。


 ――よし、今だ。


「キキョウ!」


「はい! お社様、解放です!」


 瞬間、ズッッッドンと強力な衝撃。


「ギャア!?」


 お社様の渦から、特大の強力な衝撃が放たれたのだ。

 実はこのユニークスキルは蓄積と反撃のスキル。

 一見防御スキルに見えるが、相手に攻撃されるとその攻撃を蓄積し、一気に解き放って反撃ダメージを与えることができる強力なスキルなのだ。


〈クジャ〉は先程からメガトンパンチや強力な噛みつき、ショットガンレーザーなどの攻撃で蓄積した威力を、その身で味わうことになった。


 その衝撃は凄まじく、あの怪獣〈クジャ〉が3メートルほど吹っ飛んで倒れダウンするほどだった。


「ダウン! 全員総攻撃だーー!!」


「おおー! 『最後の力を振り絞れ』! みんないくよー!」


「「「ウォン!」」」


「アリスも行くよ! 『雷雷ライライサンダー』! 『グローリアス・エレクトリー』! 『かみなりさま』!」


 ダウンしたら、総攻撃!

 フラーミナは30秒間モンスターが怒りモードになる『最後の力を振り絞れ』を使って火力を5割増しにし、アリスは強力で超威力の雷でちゅどーんしてた。

 おかげで一気に2本目のバーも半分だ。ダメージ高ぇ。まあ、俺のせいでもあるけど。


〈クジャ〉がダウンから復帰するとキキョウは普通に盾を翳してタンクする。

 アルテが補助して回復しつつ、俺もヤバければ介入して回復を送った。

 さすがに初めての最奥のボス戦だ。

 今までお社様がいたから楽だったが、いないときはちょっと厳しいようで、1度俺がタンクをスイッチし、アルテが『モンスターカバー』で2度ほどサポートした。


 そこで2本目のHPバーも消える。


「や、やっと第三形態です」


「油断するなキキョウ。だが、安心してタンクに集中しろ。マズければ俺やアルテがフォローする。だから気にするな」


「はい!」


「ギャアアアアオ!」


「おっと毒の息吹か『勇猛結界』! 反撃開始だ!」


「『真・ぱららラライズ』!」


 なんか、最初に挑んだ時を思い出す。

 その毒、勇者には効かないからな?


 攻撃を防いだら反撃だ。

 これは教え込んでいたためしっかりみんな切り替えて攻撃していたよ。

 

「! ビームのなぎ払いが来るぞ! キキョウ!」


「はい!」


 第三形態のビームは大範囲攻撃だ。

 ビームを放ちながらぐるんと回るせいで逃げ場が少ない。

 しかし、こっちにはキキョウが居るんだぜ?


「『吸魔封印盾』!」


「ギャアアアア……アア?」


 四段階目ツリー『吸魔封印盾』はそのまま、相手の魔法攻撃を吸収してHPを回復。相手はその攻撃を封印され、3分間使用不可。

 これで〈クジャ〉はビームなぎ払いが封じられたな。


「『吸物封印盾』!」


「ギャアアアア……アア?」 


 続いて大突風。もうこの部屋を洗濯機のようにハチャメチャのぐるぐるにしてしまう全体攻撃だが、これは物理。『吸物封印盾』により3分封じられてしまう。

 突如封印されて使えなくなってしまったスキルに、〈クジャ〉はめちゃくちゃ不思議そうな顔をしていたのが印象的だった。


 しかもな、この『吸魔封印盾』と『吸物封印盾』はこんなにもはちゃめちゃ凄いのにクールタイムがそんなに長くないんだ。

 大体1分半ほどでクールタイムが明ける。ヤバかろう?


 これに『羨望の取消』なども加わるのだ。

〈クジャ〉の攻撃が消されまくる!

 これで〈クジャ〉の厄介な暴風とビームを封じられたのはデカい。

 というかデカすぎた。さらに。


「ギャアアアアア!?」


「痺れるんだよ~『感電ホネホネパラライズ』!!」


「ギャギャギャギャギャ!?」


 アリスの『感電ホネホネパラライズ』は〈麻痺〉の状態異常魔法。

 実はさっきから〈二ツリ〉の『ぱららラライズ』や〈三ツリ〉の『真・ぱららラライズ』で麻痺を蓄積していたのだが、ここで〈四ツリ〉を発動。

 まるで感電して骨がスケスケで見えるかのような見事な電撃により、ついに〈クジャ〉が〈麻痺〉ってしまったのだ。


 こんなところも最初の〈クジャ〉戦にそっくりだぜ。

 あの時はシエラが〈クジャ〉を〈麻痺〉らせたんだったよな。懐かしい。


 ということで、ここで一気に決める。


 ギャオギャオ悲鳴を上げるしかなく身動きの取れない〈クジャ〉に総攻撃を叩き込む。


 すると、ここで〈クジャ〉のHPバーがゼロになり、膨大なエフェクトを発生させてその海に沈んで消えていったのだった。


 そして、その後には〈金箱〉が残っていた。

 1年生最初の上級ダンジョン―――攻略完了。



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