第1364話 〈嵐ダン〉突入!過密状態の上級ダンジョン!




「結構他の学生が多いですわね」


「なんだか注目されてるよ~?」


「アリスはあまり前に出ないようにしてください」


 ざわざわ、ざわざわ。

 いざ出発しようとしたところで多くの学生が〈嵐ダン〉に潜っていることに気が付いた。

 ノーアとアリスがのんきにキョロキョロしていると、スッと現れたキキョウがアリスを背中にかばう。


 ちなみにクラリスはそのままだ。

 ノーアよ、守る必要がないと思われているぞ。実際ノーアなら大抵のことは大丈夫そうだけどな。


 しかし、本当に上級下位ダンジョンへ潜るギルドも多くなってきたなぁ。

 とても良き。

 噂によれば、少し前までBランクのごく一部までしか上級下位ジョーカーに潜れなかったが、今では〈煙玉・特級爆〉と〈転移水晶〉のおかげでBランクどころかCランクの一部までが〈霧ダン〉ヘと潜ることができるようになったらしい。


 ただ、おかげで〈霧ダン〉の浅層の辺りは過密パンク状態。

 下級職も多く来ているため浅層しか潜れず、〈上級転職チケット〉などを落としやすいエリアボスを狩りたくて頑張っているらしいが、さすがに窮屈すぎて〈嵐ダン〉や〈山ダン〉に流れてきているのだ。


 おかげで〈嵐ダン〉の浅層もこんなに人が溢れているという状態だな。

 ということで、


「ミジュ、アルテ」


「うい」


「私たちの出番ですね!」


 新メンバーの中で〈乗り物〉使いはこの2人。

 俺の言葉に頷いたミジュがまず〈空間収納鞄アイテムバッグ〉から〈クマライダー・バワー〉を取り出した。


「「「おおー!?」」」 


「クマが出てきたぞ!」


「シロクロのクマ!」


「いや違う、あれは〈クマライダー・バワー〉だ!」


「エ、〈エデン〉まであれを使い出したというのか!?」


「ちょっと可愛い……」


 瞬間、周りが騒がしくなったがそれは置いておこう。


 続いてアルテも〈空間収納鞄アイテムバッグ〉に手を入れて。


「いざ、〈イブキ〉――召・喚!」


 それ誰に教えてもらったんだー!?

 アルテが身に覚えのありすぎる動作で〈イブキ〉を取り出していた。

 それ召喚じゃねぇー!


 ロゼッタか?

 俺はロゼッタの方を向くと、ロゼッタは首を傾げるだけだった。

 知らなそう。ということは、アイギスか。「こうやって取り出すのが〈エデン〉のルールです」「へー」とかやり取りしているアイギスとアルテの光景が目に浮かぶようだ。

 まあ、いいか。


 だいぶ人も集まってきたし、そろそろ出発しよう!


 俺はミジュの〈クマライダー・バワー〉、通称〈パンダ号〉に乗り込みそのまま出発することにした。

 と、そこでフラーミナがやってくる。


「ゼフィルス君、私たちの出番はないのかな!? なんか出番が少ない気がするんだよ!」


「今はまだな。でも大丈夫だ。どこかでボス戦をする機会があれば活躍の場も用意するぜ」


「本当!」


 そういえばフラーミナって出番が減ると寂しがる子だったなと思い出し、ボス戦を約束する。するとフラーミナは跳び上がるほど喜んでロゼッタの方へ駆けていった。


「ゼフィルスさん、ご無理をなさらないでくださいね」


「大丈夫だカタリナ。これくらいで無理なんてことはないからな! それよりも結界を頼む」


「わかりましたわ――『乗り物用移動結界』!」


 カタリナが杖を掲げると、〈パンダ号〉に結界が張られる。

 これで多少の攻撃が来ても問題は無くなったな。


「カタリナがまた清楚アピールしてる」


「邪魔してはいけません。後が怖いですからね。ですが、ゼフィルスさんは先程カタリナとクルクルダンスをしませんでした。カタリナが暴走し始めたら、すぐに止めるのですよ」


 カタリナの後ろではフラーミナとロゼッタがこそこそ話して、臨戦態勢を取っている気がする。まだボスには早いぞ?


「それじゃあ、準備も終わったし、ボスを目指して突っ切るぞー!」


「「「「おおー!」」」」


〈パンダ号〉の背中にあるデッキの上で、俺はそう告げた。



 そして翌日。


「ゼフィルス様。なぜ私たちは最奥にいるのでしょうか?」


「それはなクラリス。最奥まで爆走してきたからなんだよ!」


「…………(じー)」


 気が付けば俺たちは〈嵐ダン〉の最奥に居た。

 ボスと出会うまで進もうと思ったのだが、〈パンダ号〉に恐れを成したのか、ボスと全然出会わなかったんだ。気が付けば俺たちは最奥にいた!

 いや、冗談だ。おそらく、〈嵐ダン〉でもボスの取り合いで狩られまくってしまったのだろう。守護型ボスなんて55層まで全くいなかったんだよ! 全て撃破されていたんだ!


 今日はカイリにまで来てもらって『エリアボス探知』までしてもらったのだが、ほとんど反応無し、あるところもみんな他のギルドと戦闘中で、結局俺たちは60層まで直で来てしまったというわけだ。


「あははは!」


「……本校の学生ってみんなこんななの? 1層から59層までのボスが全滅って」


 アルテが笑う傍らでクイナダが戦慄を隠せない様子だ。

 学生、超成長してるな! 成長著しいぜ!

 きっと朝一番に狩っているのだろう。結局昨日から今日までボスと戦えず終いだった。


 さすがに物足りないので深層では〈フルート〉を使いエリアボス周回なら何戦かしたが、本当にそれくらいしかボス戦できてない。


 俺はノーアたちとパーティを組んだが、楽しかった~。

 カウンターの名手にさらにカウンター技を教え込んでしまったんだぜ。


「とても楽しくて有意義でしたわ~」


「私はヒヤヒヤしましたよお嬢様。――ゼフィルス様、なに積極的にお嬢様をボスの前に立たせに行っているんですか。ここ上級ですよ?」


「はっはっは! 側に俺がいただろ?」


「そうですわクラリス! クラリスは心配しすぎですわ!」


「私はお嬢様の護衛なんですが?」


「はっはっは!」


「おほほほほ!」


 まあエリアボスも楽しかったのだ!


「しかし、最奥ボスは空いていてよかったでありますな」


「ここのボスを倒してしまうと帰らなくちゃいけないからね。おかげで貸し切りだよ!」


「誰も居ないのならボス周回ができますの! 鈍った身体を動かしますのよ!」


 ヴァン、カグヤ、サーシャが最奥ボスを狩る気満々だ。

 うむうむ。ボスと戦えなかった鬱憤が溜まっているようだ。


「まあ、待て。まずは料理アイテムで腹ごしらえしよう。上級料理だぞ?」


「上級料理アイテムですの!」


「美味しいの、お兄ちゃん?」


「し、舌が肥えてしまったら大変です!」


「それは分かる。なにしろとんでもなく美味いからな。だが最奥ボスはさすがに強敵だ。食べておいた方がいいぞ。これぞ上級最奥ボスへ挑む作法だ」


 ノーアが顔を輝かせ、アリスが首を傾げ、キキョウが言葉とは裏腹に楽しみという表情をする。俺はそれにうむと頷いて上級料理が如何に大切なのかを説くのだ。


「〈エデン〉のギルドマスターが勧める上級最奥ボスに挑む作法……」


 一部クイナダが必死にメモを取る様子がちょっと気になった。

 それをどうするつもりかね? もしかしたら分校にも〈エデン〉流が伝わるのかもしれない。


「ゼフィルスくーん、準備出来たよー!」


「おう! ありがとなフラーミナ!」


 フラーミナたちが準備してくれていたのでありがたく向かう。

〈イブキ〉のデッキにみんな集まり、それぞれに合うステータスバフの付くメニューを配る。もちろんこのメニューは俺のお手製だ。


 フラーミナの妖精型テイムモンスターのリーちゃんがふわふわ飛び回りながらメニューを配る光景が可愛らしい。

 見ろ、アルテがとてもキラキラした目を向けてるぜ。まあ、騎乗出来ないモンスターはテイムできないのでアルテには諦めてもらうしかない。


「これ、他の人とはメニューが違うんですの!」


「個別で用意しちゃうんだ」


 お、なんだか他のみんなからもキラキラした尊敬の目を向けられている予感。

 俺は今回、新メンバー組のサポート役だからな。

 みんなには、是非上級ダンジョンを攻略し、上級生レギュラー組に追いついてほしいのだ。


 というわけで昼食後、早速パーティを組んで最奥ボスにチャレンジしてもらうことになったのだった。


「まずは俺、アリス、キキョウ、アルテ、それとフラーミナ行こうか」


「いいの!? やったー!」


「喜んでる、喜んでる!??? 本校ってなんで上級ボスにも怯まないの!?」


 せっかく付いてきてもらったのでフラーミナにも参加してもらおうと声を掛ければ、跳び上がって喜んだ。クイナダがまた戦慄している気がするが、きっと気のせいだろう。


「アリス、頑張るよー!」


「が、頑張ります、ね! 私がみなさんを守ります!」


「ヤバかったら私が攫って回復するよー」


「その時は俺も回復やタンクに参加するから安心してくれ。それに指示も出す。キキョウはもっと肩の力を抜いても大丈夫だぞ」


「は、はい!」


 ということで、久しぶりの〈クジャ〉戦と行こうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る