第1362話 初の上級上位級〈金箱〉でゼフィルスご乱心!!





「徘徊型ボスから2つの〈金箱〉が出たぞーーーー!!」


「オーイエー!」


「……」


「さらに最奥ボスからも〈金箱〉が出たぞーーーー!!」


「イエーイイエーイ!」


「…………」


 俺とエリサは〈金箱〉を見てはしゃぎまくっていた。

 側には無言のシエラがいる。もうちょっとでジト目になりそうなんだ。このまま良いの当てればイケるか!?

〈幸猫様〉〈仔猫様〉! よろしくお願いいたします!!


「ゼフィルス、倒したのねって――キャー! 〈金箱〉が3つもあるじゃない!」


「待てラナ、これはやらんぞ!」


「あ、ラナ殿下! なら私と一緒に開けるデース!」


「いいの!?」


 あ、しまった! パメラが〈金箱〉を!

 油断したぜ。

 今回のメンバー的に〈金箱〉を開けたがるメンバーは俺以外皆無。

 エリサは俺のノリに合わせてくれるが積極的に宝箱を開けにいくタイプではない。

 シエラもリカもパメラも同じだ。

 故に、これは俺が3つとも開ける流れなのでは!?


 そう思ったらパメラが1つ持っていった!


「嬉しいわ! ありがとねパメラ! ゼフィルス!」


「そうだな。一緒に良いの当てようぜ!」


 まあいいか。ラナも喜んでいるしな!

 それに、ラナならまたとんでもないものを当てそうな予感。

 徘徊型の〈金箱〉の1つは、ラナに開けてもらうとしよう。

 もう1つは俺だ!


 そして最後の最奥ボスの〈金箱〉はエリサとフィナが共同作業で開けることになり決着。――したかに思った時だった。


「シエラは入らなくていいのか? 強力な先輩が現れたのだろう?」


「……そうね、タバサ先生には負けられないもの。リカ、ありがとう。私も行動に移すわ。――ゼフィルス」


「おお?」


「私も一緒に開けるわ」


「!! 大歓迎だ!」


「大歓迎!? ちょっとシエラ、それは抜け駆けじゃないの!?」


「ラナ殿下、これは一緒にボスを倒した者が受けられる褒美なのよ。私がゼフィルスと一緒に開けることは、何もおかしくはないわ」


 ズイッと、いつもより押しが強いような気がするシエラが俺の隣にしゃがんで来たのだ。

 ラナが「むむむ~」と難しい形相でこっちを見ている。

 こんなシエラ、あまり見たことがないぞ?

 いったい何が起こっているのだろう?


「ゼフィルス。その、もう少しそちらに寄っていいかしら? ここだと少し力が入りづらいわ」


「もちろんだ! どんどん寄ってくれ!」


 しかし、すぐにそんなこと気にならなくなった。

 腕がくっつくほどシエラに寄られ、俺はちょっと幸せになったのだ。

 ずっとこのままでも良い……。


「では、開けましょうゼフィルス。――? ゼフィルス?」


「はっ! そうだな。開けようか!」


 危ない、幸せで一瞬旅立ち掛けてしまったぜ。

 慌てて意識を取り戻して俺が左を、シエラが右を掴み、一緒に宝箱を開ける。

 シエラとの共同作業だ! 思えば、シエラから一緒しに来たのは初めてかもしれない?


 俺の意識はシエラでいっぱいになった。

 徘徊型ボスの〈金箱〉からは上級上位ジョウジョウ級の装備などがドロップする。前回の調査団では〈銀箱〉ばかりだったからな。初めての徘徊型ボスの〈金箱〉。しかも2個だ。

 これは大チャンス。超大チャンスだ。

 しかし、俺の意識はシエラに持ってかれてしまった。


 それが、功を奏したのかもしれない。

 物欲センサーの乱入を許さなかったのか、当たったものはなんと。


「これって、レシピ?」


「すぐに鑑定しますね。――『解読』!」


 シエラが〈金箱〉から取り出したのは、なんとレシピだったのだ。

 上級上位ジョウジョウ級レシピ! これには〈エデン〉のメンバーもどよめき、すぐにエステルが〈幼若竜〉で鑑定する。すると。


「これ――〈守護伯爵シリーズ〉? しかもこれ、全集だわ!」


 そこに書かれていたのはなんと、装備シリーズ全集だったのだ!

 伯爵というと、さっき戦っていた筋肉もりもりの〈ヴァンパイアアール〉を想像してしまうが、安心してほしい。ちゃんとした鎧系の装備シリーズだ。

 守りの「伯爵」に合うよう、非常に防御に特化したタンク系装備である!


 再びメンバーがどよめいた。

 例の〈アダマンタイト〉装備系よりもさらに格上。

 しばらく上級中位ダンジョンで活動して良い感じのタンク系装備が出なかったら、シエラには〈アダマンタイト〉系を装備してもらおうと思っていたが……ここですげぇの出たぁぁぁーーー!!


「ちょっとみんな見て! 私たちもレシピよ!」


「2連続レシピだとーーー!!」


「すぐに『解読』しましょう」


 どよめきはとどまるところを知らない。

 なんとラナとパメラのペアもレシピを引き当てていたのだ!

 実を言うと、上級上位ジョウジョウ級からはやたらとレシピが出やすくなる。

 装備ももちろん出るのだが、レシピの方が生産系の職業ジョブを活かせる他、上手く生産できれば同種のドロップ品よりも強くなるためとてもありがたい。


 また、上級上位ジョウジョウ級からは下手なアイテムなどが、あまり出なくなってくる。上級上位ジョウジョウともなれば学園生活も終わりエンディングに近づいているため、寄り道系のアイテムは少なくなり、逆に装備系のレシピが多く割合を占めるようになる、というわけだ。


 まあ、上級上位ここまで来た時にはタイムアップまで残り僅か、なのにくだらんアイテムが出まくったりすればプレイヤーの怒りを買うからな。

 何しろ最上級ダンジョンからはレイドボスだって登場するのである。早くギルドメンバー全員の装備を整えたいのだから、このタイミングで装備のブーストスピードアップは不可欠なのだ。シリーズ全集だって多少ではあるが出やすくなるぞ。


「『解読』!」


「……読めたわ! これは――〈テレポート水晶〉のレシピ?」


「―――!!!!」


〈テレポート水晶〉だとおおおおおお!?

 俺はそう叫ぶ寸前でなんとか口を閉じることに成功した。


「見せてくれラナ! 俺の『直感』が、これは凄まじいものだと告げているんだ!」


「落ち着きなさいゼフィルス、上級上位ジョウジョウ級の〈金箱〉産レシピなんてどれも国宝級よ」


「ならこれは超国宝級に違いない!」


「ゼフィルス、落ち着きなさいったら」


 シエラからついにガシッと肩に手を置かれ、俺は少しだけ冷静になった。

 気が付けば俺の右手はラナの肩を抱いていた。あかん、クルクル回る寸前だぞ! 気が付かなかったぜ。


「んもう、ゼフィルスはしょうがないわね。い、いいわ。一緒に見ましょ」


 そう言ってラナが半歩身を寄せてきた。肩に置かれたシエラの手に力が入った予感。


「ひゃー、見て見てメルト様、シエラさんとラナ殿下の攻防、良くない!?」


「俺は肝が冷える……」


「うふふ、甘酸っぱいですわね。目が離せませんわ」


「オリヒメ、こういうのはあまり見てやるものじゃないんじゃないか?」


 なぜか誰からも何も言われず見守られているのはなぜだぜ?

 メルトとレグラムが不思議とこちらを見てくれない。


「ってちょっと! これすごいことが書いてあるわ! 使い捨てアイテムみたいだけど、一度行ったことのある同ダンジョンの階層なら、好きな階層へ転移することのできるアイテムですって!」


「転移アイテムデス!? ほ、本当デース! これ、本当にそう書いてあるデス」


「え、ちょっと待ってラナ殿下。それは最奥の階層にも転移できるということ?」


「そうみたいよ! 狙いのエリアボスのいる階層へもひとっ飛びですって! さらにね、錬金系で量産出来るみたいなの! ハンナに頼めば、きっととんでもないものが出来るわ!」


「「「「わー!!」」」」


 それは今まで上級ダンジョンの生命線とも言われてきた〈転移水晶〉と同系統のアイテム。しかもパワーアップ版。

 同じダンジョン内なら好きな階層に転移できる強力な転移アイテムだ!


〈転移水晶〉の場合、メンバー固定に加えて、一度使用した場所にしか転移できなかった。最奥ボスの転移陣で帰還した場合、最奥へ転移することはできないのである。

 しかし〈テレポート水晶〉さえあれば、今まで階層移動が面倒だった最奥まで一瞬で転移できてしまうのである!


 これがどういうことか分かるだろうか?


 つまり、ついさっき問題になったボス周回問題、それすらも、ボスの転移陣を使用してからテレポートで最奥へ戻ってくることで解決が可能なのである!

 来年の新入生が加入する前に確保しておこうと思っていたこれが、なんともうゲット出来てしまったのだ!


 これはやっべぇぇぇぇぇぇ!


 ラナの宣言にみんなのテンションが上がった! 

 同時に俺のテンションも上がる――そして振り切れる!


 俺はガシッと肩に置かれたシエラの手を掴まえ、ラナの肩に置いていた手を腰へと回し、2人を引き寄せた。


「ひゃ!?」


「きゃ!」


「いぃぃひゃっほおおおおお!!」


「ゼフィルスさんがご乱心デース!?」


 もう俺を止めることはできない!

 クルクル祭りじゃーーーー!!


「すっげぇぞーーーーー!!」


「ゼフィルス、みんなが見てる! 見てるから!」


「きゃー♪」


「メルト様、私たちも踊っちゃう?」


「踊らんぞ」


「出遅れましたわ! アイギスさん、わたくしたちも巻き込まれに――んん、ゼフィルスさんを止めに行きますわよ!」


「はい!」


上級上位ジョウジョウ級アイテム、〈テレポ〉のゲット記念だーーー!!」


 そうれクルクルクルクル~~~。

 途中で意識が彼方へ吹っ飛んだ俺。

 何やらシエラがとても抵抗を見せていたような気がしなくもないが、いや、きっと気のせいだ!

 ラナなんか黄色い声を上げてノリノリだった気もする。これは気のせいではないだろう!


 ひゃっほーーー!!


 どのくらい時が経っただろう。

 俺が我に返ったとき、気が付けば俺は〈上級転職チケット〉を持ったエリサとフィナを抱いてクルクル踊っていた。


 あれ? シエラとラナは?

 あとリーナやアイギスも顔を赤くして肩で息をしているのだが、いったい何があったんだ?




 ――――――――――――

 後書き! 宝箱の種別一覧!(謎ダン編)


 最奥ボス系

 通常ボス=上級中位級

 レアボス=上級上位級(銀箱以上確定)


 フィールドボス系

 守護型=上級中位級

 徘徊型=上級上位級(銀箱以上確定)


 エリアボス系

 階層ボス=上級中位級

 希少ボス=上級中位級(金箱確定)


〈マジスロ〉=通常ボス

〈アール伯爵〉=徘徊型


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