第1358話 〈彫金ノ技工士〉でタネテが裏ボス化してる!?




 夏休みのスケジュールを練っていたら追い出されてしまった件。


「ゼ、ゼフィルスさん~!!!!」


「どうしたんだサトル、そんな羨ましいを通り越して妬ましいみたいな顔をして」


「まさにその通りなんですよー!」


 追い出されたのはサトルも同じだ。

 しかしサトルの表情は涙が決壊しかねない勢いで歪んで俺を見つめていた。

 メルトとレグラムは肩をすくめている。


「ゼフィルスさん、モテモテですね」


「分かる。分かるぞサトル君。今日はもう釣りに行こう。そして何もかも忘れよう!」


 モナはなぜか俺に尊敬の眼差しを向け、タイチはそんなサトルの肩に手を置いてうんうんと頷き、そのままどこかに連れて行ってしまった。

 サトルのことはタイチに任せておくとしよう。

 ……一瞬だけモナがここにいることに「あれ?」と疑問に思ったのは内緒にしておこう。モナは男です。


「それで、これからどうするんだゼフィルスさん?」


 ラウが改めて聞いてきた。

 そうだな。いつまでもここに居るわけにはいかないな。


「そうだな。夏休みのスケジュールはもうほとんど決まった。今日はこれで解散にするか」


「それなら、ヴァン。この後俺と訓練にでも行くか?」


「よろしくお願いするでありますメルトさん」


「ならば、俺も同行させてほしい」


「ソドガガ。僕たちは素材の納品に行きましょうか」


「……おう」


 メルト、ヴァン、レグラムは訓練に行くようだ。

 モナとソドガガはどうやら生産ギルド回りに行く様子だな。

 男子が全員集まっているし〈海ダン〉へ素材集めに行くという手もよかったが、こういうのはこっそりとやるもんだ。今はタイミング的に女子に勘づかれる可能性が高い。ということでまた後日にする。

 男子はこういうことがバレるのを恥ずかしいと思う生き物なのだ。


 さて、なら俺はどうするか。そう考えていると、スッとセレスタンが出てきた。


「ゼフィルス様」


「お、おう。どうしたセレスタン?」


 ちょっとびっくりしたのは内緒。今意識の外側から入ってこなかった?


「先程連絡がありました。〈彫金ノ技工士〉で〈エデン〉用の〈クマライダー・バワー〉が完成したと」


「お! もう出来たのか! すぐ引き取りに行くぞ!」


「承知いたしました」


「そういえばセレスタンはどうする?」


「僕はまだやるべきことがありまして、これから学園長先生のところへいってきます」


「そうか。学園長先生によろしくな!」


「畏まりました」


 ということで俺の予定は決まった。

〈クマライダー・バワー〉を引き取りに行こうじゃないか!


 実は前々から〈彫金ノ技工士〉には〈エデン〉用に〈クマライダー・バワー〉を発注していた。

 だが例の〈ダンジョンショップ〉の関係で忙しく、最近は〈マッシュルーム・キャラバンⅡ改〉の作製ばかりしていたらしいのだが、それもようやく落ち着いて来たようだな。


 学園側も〈ダンジョンショップ〉がどれほど学生のレベルアップに繋がるのか、正しく認識しているようでよかったよ。俺も学園用の〈マッシュルーム・キャラバンⅡ改〉優先で大丈夫と言っておいたしな。

 おかげで、夏休み中にでも〈ダンジョンショップ〉を開始できると学園から連絡が届いていたんだ。楽しみだ。ふはは!


 そんな訳で俺は1人、Bランクギルド〈彫金ノ技工士〉へ向かった。


 まずは店の正面玄関から入ると、そこには売り子をしていた〈彫金ノ技工士〉の1年生メンバー、タネテちゃんがいた。


「タネテちゃん、こんにちは」


「ゼフィルス先輩。ようこそいらっしゃいましたです」


 最近はタネテちゃんのことをちゃん付けで呼んでいる。ちょっと前まで心の中だけで呼んでいたのだが、ある日うっかり口が滑ってバレた。とりあえず、ケンタロウの口癖が移ったことにして難を逃れ、それからはちゃん呼びが続いていたりする。

 すると俺に気が付いたタネテちゃんが近寄って来た。


「早いですね。例の〈クマライダー・バワー〉の件であってるです?」


「おう。〈クマライダー・バワー〉を引き取りに来たぜ」


「でしたらこっちです。――裏の駐車場行ってくるです」


「はーい」「いってらっしゃーい」「がんばって、ください!」


 おっと、いつの間にか3人くらいの女子たちが店の奥からこっちに顔だけ出して覗いていた。タネテちゃんが店の奥へ声を掛けるとその3人が手を振ってお見送りしてくれる。何これ? 新しいサービス? 俺も笑顔で手を振り返した。

 女子たちはキャッキャ言ってたよ。素晴らしいサービスだ。


「失礼したですゼフィルス先輩。あの子たちはミーハーなんです」


「全然失礼じゃないから大丈夫だぞ」


 女子に手を振って見送ってもらえるのが失礼なわけがない。

 タネテちゃんの話によれば、あの女子は俺のファンなのだという。

 マジで?


「そりゃ上級中位ダンジョンの攻略者で、ギルドを大きくする切っ掛けになった〈上級転職チケット〉を提供してくれる超スポンサー様で、かっこいい先輩となればみんな気になるですよ。というか、この間のギルドバトル凄かったです」


「嬉しいこと言ってくれるなぁ」


 あの子たちも腕が良ければ〈上級転職チケット〉をあげようと決める。

 ファンは大事に育てなければならない! あれ? 大事にするだっけ? まあどちらでも変わらないだろう。


 それからもタネテちゃんの最近のことを聞いた。

 新メンバー組が集めてきた中級素材、その多くをタネテちゃん用に提供したからな。進捗状況も含めてだ。


「おかげさまで、私のLVもすでに60に迫ってるです。こんなに早くレベルアップ出来たのも先輩がたくさんの素材を提供してくれたからです」


「もう60に迫ってるのか!」


「もちろんです。早く上級職になってゼフィルス先輩に恩返ししたいです」


 な、なんて良い子なんだタネテちゃん!


「着きましたです。――ケンタロウ先輩!」


「うっす? あ、タネテちゃんっす!」


「ゼフィルス先輩が来られているですよ。〈クマライダー・バワー〉を見せてあげてくださいです」


「ゼフィルスさんっす!? ようこそおいでくださいましたっす! とっても待っていたっすよ!」


「前と全然雰囲気違うなケンタロウ」


 そこに居たのはケンタロウ。しかし夏だからかタンクトップに鉢巻きというザ・職人みたいな姿で作業に没頭していた。

 しかしタネテちゃんが声を掛けるといつものケンタロウだった。雰囲気が違うのは気のせいだったか?


 あとタネテちゃんがちゃんとケンタロウ先輩って呼んでる! 前はタロウ先輩だったのに、これだけで成長している予感。


「ケンタロウ先輩、感謝を申し上げるです!」


「うっすタネテちゃん! ――ゼフィルスさん。お手間かけましたっす! ゼフィルスさんのおかげで無事〈彫金ノ技工士〉も立て直すことが出来たっす! いくら感謝してもしたりないっすよ!」


 調教されてる!?

 タネテちゃんが腕を組んで告げると、ケンタロウは脇目も振らずにジャンピング土下座してお礼を言い始めた。なんだこれ?


「タネテちゃん?」


 これはいったい?


「ギルド一同、ゼフィルス先輩には感謝してるです。文字通り学園からの依頼もひっきりなしで、ギルドも無事立て直すことが出来たです。噂ではうちのギルドにランク戦をしかけようとする動きがあったらしいですが、それも無くなったとのことです」


 なるほど~。まあ、学園が動きまくって依頼するギルドにランク戦なんか仕掛けたら学園からの覚えが悪くなってしまうからね。せめて時期を見計らわないと。

 タネテちゃんの言うことに納得する。〈彫金ノ技工士〉は〈クマライダー・バワー〉と〈マッシュルーム・キャラバンⅡ改〉のおかげで持ち直したらしかった。

 ただ……ギルドマスターが順調にタネテに調教されているようなのがちょっと気になるけど。


「ケンタロウ先輩、いつまでそこにいる気ですか、超スポンサー様を早くご案内するです」


「うっす! こっちっすゼフィルスさん」


 タネテちゃんの言葉に俊敏な動作で立ち上がったケンタロウに付いていく。

 タネテちゃん、やっぱり〈彫金ノ技工士〉の裏ボスじゃないかな?

 ケンタロウってギルドマスターだったよね?


「これっす!」


「ちょ、これは!」


 大きな布が被せてあった動物の姿の〈乗り物〉の前に連れて行かれると、ケンタロウが意を決してその布を剥ぎ取った。

 そこで俺が目にしたものは。


「〈クマライダー・バワー〉の3台目のお披露目っす! 〈救護委員会〉にはシロクマ、先生方にはクロクマを納品したので、〈エデン〉はシロクロにしてみたっす!」


「パンダじゃん!」


 パンダ柄の〈クマライダー・バワー〉だった。




 ―――――――――――――

 後書き!?


 次回、〈ガンゴレ〉に続き〈クマライダー・バワー〉もイメチェン!?

 タネテちゃんが思わず「こんのヘボマスター!」と本性毒舌キャラを顕わす!?

 はたしてパンダ柄にしてしまったケンタロウの運命は!?


 次回「第1359話 唐突にパンダとロリレンジャー撮影会始まる!」

 お楽しみに。



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