第1351話 赤チーム撤退。白チームが赤本拠地に逆侵攻!




 ゼフィルスたちがたどり着いたとき、白の本拠地はすでに隣接されていたものの、その攻略はあまり上手くいっていなかった。

 人数優勢もそうだが、赤チームのアタッカーの多くが退場してしまい、白が赤チームを上手く押さえていたからだ。


 そしてゼフィルスたちが合流したことで白本拠地には白チームが全員集合したことになり――白19人VS赤10人。

 さすがにこれ以上は難しいとリーナも撤退指示を出した。


「ええー!? ここまで来て撤退ですか!?」


 シェリアの、なんか凄まじい攻撃の嵐からアルテに騎乗させられて逃げ回るノーアが、リーナの『ギルドコネクト』を聞いて不満の声を上げていた。

 やっとエリサを退場させてこれからだ、というときに撤退指示である。


「『これ以上戦っても本拠地落城は難しいですわ。巨城を落城させていった方がまだ勝機があります。すでに〈中央東巨城〉と〈南東巨城〉のちょい残しに成功。後は〈北巨城〉〈中央西巨城〉〈南西巨城〉を落とせば逆転できますわ!』」


「むぅ。残念ですが、わかりましたわ。――シェリアさん、決着は預けますわ」


「お待ちなさい! おとなしくしなさい! この鉄槌を受けなさーーい!」


 残念ではあるが、軍師の戦略に否を申すことはしないノーア。

 初のギルドバトルである。ノーアもまだまだギルドバトルのことはよく分かっていない部分も多い。専門家が撤退と言っているのだから撤退するのが最善だと判断したのだ。

 シェリアはとてもお冠状態だが、さすがにヒナを操るアルテの速度には付いていけない。待てと言われて止まる人はいないのだ。だが。


「逃がしませんよ」


 もちろん容易く逃がすフィナではない。

 回り込んだフィナとアルテが交差する。


「――『ソニックエルソード』!」


「アルテさん!」


「すり抜けながら立ち去るよ! 『ゴーストドライブ』!」


「くっ――な!」


 ソニック系の『エルソード』でフィナが仕掛けるが、しかし攻撃をすり抜け回避しながらダッシュする『ゴーストドライブ』でノーアを連れて逃げられてしまう。

『ゴーストドライブ』はあのセレスタンの攻撃すらすり抜けたドライブスキル。

 それはフィナですら捉えきれないものだった。


「むむ、アルテさんが手強いですね。結界魔法の方が良かったみたいです。失敗しました」


 どうやらフィナもエリサがやられて少なからず動揺していた模様。

 つい攻撃的になってアルテを逃がしてしまったようだった。こんな様子をエリサに見られようものなら感激されて抱きつかれることだろう。

 フィナはそれを想像してすぐに気持ちを切り替え、シェリアを連れてゼフィルスの下へと向かうのだった。


 ◇


 赤チームの撤退が始まった。

 リーナの作戦はこうだ。赤チームは5城の巨城を陥落させるか、白本拠地をひっくり返さないと勝利はできない。

 しかし本拠地攻略は戦力が足りないので巨城攻略にスイッチすることにしたのだ。


 幸いと言っていいのかは分からないが、赤本拠地に近い〈中央東巨城〉と〈南東巨城〉の2城はすでに後一発当てれば陥落するようなHPにしてある。これはラナの遠距離攻撃によるものだ。

 これで残り時間が2分を切ったとき、HPを削りきってしまえば、もう白チームにひっくり返し返しされることはない。


 2城が終わっているのであと3城ひっくり返せば良い。

 白チームも本拠地が狙われていると分かっているためかなりの防衛を配置するだろうというのがリーナの予想。いや願い。

 そしてゼフィルスならば、きっと赤本拠地へ攻めに来ると読んでいた。


 そうすれば赤チームを追う戦力が少なくなって戦力差は再び拮抗し、各個撃破ができれば勝機はある、かなりギリギリで細い勝利の糸だが。

 しかし、ゼフィルスはいつもその糸を斬ってしまうのだった。 



 セレスタンとナキキ、ラクリッテがいてカルアとパメラと対峙している所。

 そこにゼフィルスたちが到着する。


「カルアー! パメラー! 覚悟ー!」


「ん!? ゼフィルス来ちゃった!?」


「とんでもないことになったデース!?」


 リーナの撤退指示が出て撤退しようとしたカルアとパメラだったが、しかしセレスタンたちがあまりにも厄介で突破できなかった、下手をすれば一発でやられそうなセレスタンのせいで無茶ができなかったのだ。アルテに逃げられてからセレスタンがより本気モードになっていたというのも理由。


 しかし、ここで朗報。


「ん! クールタイム明けた」


「ナイスカルア! 逃げるデース!」


「ガッテン。『ナンバーワン・ソニックスター』!」


 ここでカルアのユニークスキルのクールタイムが明けたのだ。


 もうカルアたちは即で逃げた。カルアはパメラを掴まえて一瞬で立ち去る。

 さすがに出現場所を予想出来なければセレスタンも捕まえること適わず、そのまま逃げられてしまう。


「あ、待つっすー!」


「……逃げられてしまいましたね」


「ゼ、ゼフィルスさん! シエラ様たちも!」


「さすがにカルアに追いつくのは骨だな。ナキキは戻って来ーい。セレスタン、攻勢に出るぞ。馬車を出してくれ」


「承知いたしました。『こんなこともあろうかと』!」


 セレスタンが『収納』系スキルを使って〈からくり馬車〉を取り出していた。

 さすがはセレスタン。話が早い。

 あまりに展開が早すぎてラクリッテは「ふえぇ」ってなっていた。

 ゼフィルスが指示を出す。


「ラクリッテは本拠地の防衛。シエラ、セレスタン、ナキキ、アリス、キキョウは馬車に。後は本拠地に寄ってノエルを回収後、最速で赤の本拠地まで進行する! レグラムたちが先導してくれるから、セレスタンは追いかけてくれ」


「了解です」


「は、はい!」


 あっという間に攻撃隊が組織される。

 出撃は今言ったゼフィルス、シエラ、セレスタン、ノエル、ナキキ、アリス、キキョウ。

 それにダンディ君に跨がり先行するレグラムとオリヒメの9人だ。


 本拠地防衛のためにかなりの人数を割かなければならないというリーナの予想は当たった。

 攻勢部隊を組織されても赤本拠地の守りは硬く、残り時間も僅かなため赤本拠地は陥落しないだろうとリーナは予想していた。


 赤本拠地に攻めて来るならば、赤チームの巨城攻略メンバーがその分動きやすくなるとも思っていたくらいだ。

 普通ならその考えで問題ない。

 だって〈エデン〉本拠地の守りはゼフィルスが太鼓判を押すほどなのだ。

 まあ、その太鼓判があるからこそ油断が見えているのだが。


 ゼフィルスが大丈夫と言う防衛手段なんだから間違いない。

 以前城壁を破った〈ミーティア〉ですら30人も掛かったのだ。10人に満たない攻撃隊ではまず落とせない。うん。間違いない。

 そんなリーナたちの思い込みを、ゼフィルスは容易く打ち破る。


 完璧な防衛手段なんてありはしないのだ。

 どんなに強固な防衛でも、〈ダン活〉プレイヤーたちは試行錯誤のうえにそれを突破してきた。

 ゼフィルスが言っていたのは、ここまで強固にしておけばそう簡単には突破できないという意味。絶対ではない。

 実際〈ミーティア〉には破られているのだから過信は禁物だった。


「よっしゃ、ノエルも合流したし、いくぞセレスタン!」


「発車します!」


「うひゃー、すっごいことになったー!? 残り時間あと5分だけど行けるの!?」


「ギリギリだな! だが、いけるいける」


「……〈エデン〉の最高防御力を誇る本拠地を5分足らずでいけるって、逆にそんなことになったら困るのだけど」


 ノエルが聞き、ゼフィルスの答えにシエラが憂うが、これは必要なことだとゼフィルスは考えている。〈エデン〉にとっても本拠地が陥落してしまうという衝撃は経験しておいた方がいい。何事にも絶対はなく、陥落するものだと思っておけば油断はそうそう出なくなる。逆にいくら攻めてきても大丈夫と思っていた方が危険だ。

〈ダン活〉プレイヤーはそんなことを考えた者から粉砕されてきたのだから。


 また、もう1つ狙いもある。


「大丈夫さ! それに、城壁が容易く破壊できると知れば〈エデン〉にギルドバトルを仕掛けてくれるギルドも出てくるはずさ!」


「むしろこれを見てさらに挑戦してくるギルドが減るんじゃないかな?」


 ノエルの言葉の説得力。

 もう1つの狙いは果たして達成できるのか? それは不明だ。


〈からくり馬車〉発車。突如攫われた姫になったノエルがキャーキャー言うがゼフィルスは余裕の表情だ。

 なお、シエラがジト目で見つめるためにゼフィルスのテンションもとどまるところを知らない。

 完全に全力で赤本拠地を落とす気満々だった。


 試合残り時間まで3分を切ったところで、ついにゼフィルスたちが赤本拠地、ラナの攻撃範囲へと進入した。


 ◇


 対してリーナたちもしっかり罠を張ってゼフィルスたちを待ち構えていた。

 目的は時間稼ぎ。3分赤本拠地が陥落しなければなんとかなる。なればいいなぁ。


「ラナ殿下、準備はよろしいですか?」


「いつでもいいわ! 〈馬車〉は防御スキルを使えないし、今度こそ当ててあげるわよ!」


 ラナが気炎を吐く。

 ゼフィルスはラナの能力をそれはそれは十全に知っていたため、先程は保護期間バリアを張られることで完全に防がれてしまった。

 しかし、今度は保護期間バリアを張られる心配は無い。

 何しろ、先程ゼフィルスたちが抜けたときにやった〈ロードローラー戦法〉で赤本拠地の西側はほとんどが白マスになっているからだ。


 白チームは白マスを取ることは出来ない。取れないのだから保護期間バリアを張られる心配は無い、というわけだ。


 ゼフィルスたちがラナの攻撃範囲に飛び込んで来れば、自力で防ぐしかない。


「行くわよ! 『聖魔の大加護』! 『大聖光の十宝剣』!」




 ――――――――――――

 後書き!


 次回「レグラム&オリヒメVSラナ宝剣&リーナの砲撃」

 お楽しみに!



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