第1348話 トモヨVSアイギスの空中戦。連続攻撃の果て。





「『人竜一体』! 『竜の友』!」


「『終わりの予告』! 『始まりの予告』!」


 アイギスが自身にバフを掛けて能力を上げると、トモヨも対抗するようにデバフとバフを掛けて防御力を底上げする。


 アイギスはゼニスに跨がり片手槍を構え自在に動き回る小盾を展開、対するトモヨはフィナと同じくMPを常時使用する代わりに飛行が出来る『天空飛翔』を使用してゼニスの正面へ陣取り、2枚の大盾を前に向けて構えていた。


「ここから先は通せんぼうだよアイギスさん」


「いいえ、押し通らせていただきます!」


「受けて立つんだよ!」


「クワァ!」


 先に仕掛けたのはもちろんアイギス。

 ゼニスが翼を羽ばたかせると、一気に下降しようとする。

 もちろん狙いはゼフィルスだ。

 ゼフィルスを止めなければ被害が増すのは分かりまくっていた。


 しかし、それを押さえるのがタンクだ。


「『速飛そくひ回り込み』! 行かせないよ!」


「タンクなのに――速い! ゼニス!」


「クワァ!」


「『ドラゴンクロー・セイバーランス』!」


 トモヨの『速飛そくひ回り込み』は相手が向かおうとしている正面に回り込む、カバー系に近いスキルだ。

 タンクなのに竜をも超える速度でゼニスの前へ回り込むトモヨに、アイギスは術者と竜のコンボ攻撃を繰り出す。しかし。


「『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』!」


「くっ、これは、硬い!」


 アイギスのランスとゼニスのクロー攻撃。1回の挙動に2回の同時攻撃という防ぐのに苦しい左右からの攻撃、しかしトモヨの2枚の大盾に防がれる。

 同時攻撃だって2箇所を同時に防御できるトモヨの敵ではない。


「なら、『激・火炎放射』!」


「ふっ。――『ライトハイヒール』!」


「回復魔法……っ!」


 アイギスが一度空に上がり五段階目ツリーを発動。非常に強烈な火炎放射だが、これをトモヨは防御スキルを使わずに盾のみで受ける。そして二段階目ツリーの回復魔法で回復したのだ。


 これぞ少し前のトモヨにはできなかった戦術。

 天使特性である回復魔法により、トモヨはちょっとやそっとのダメージを受けても回復ができるようになった。さらにはパッシブスキルの『ガブリエルの盾』と『ガブリエルの衣』、盾スキルの『ダメージ減少』、防具スキルの各種耐性などによりダメージを減少させている。

 トモヨは防御スキルを発動しなくても盾で直撃を防ぐだけで非常にダメージが軽減される身体となっていた。そこへ回復が加われば怖いもの無しである。


 LV差が20以上もあるためかなりのダメージを受けたものの、やはりタンクであるため数撃受けた程度では沈まない。


 だが、逆に言えば数撃の直撃で倒せる。

 回復されないように押し勝つとアイギスは気合いを入れる。


「短期決戦です。ゼニス、行きますよ! 狙いはトモヨさんです!」


「クワァ!」


「私だって負けないんだから!」


 トモヨを抜くのは難しいと判断したアイギスは、短期決戦でトモヨを倒すことを決断。

 飛行している間、トモヨはMPを消費し続けるため時間が経てば経つほどアイギスが有利になる。というのがセオリーに思うかもしれないが〈エデン〉ではそんなの通じない。〈エリクサー〉1瓶を飲む数秒があれば回復されてしまうからだ。

 時間稼ぎなんて温い攻撃をしていたら、〈エリクサー〉が尽きるまでトモヨを抜くことはできないだろう。


 ならばアイギスは時間稼ぎは下策と踏んでトモヨを倒しに来たのだ。


「『エアリアル・アクロバット』!」


「『エルシール』!」


 そこからはアイギスの猛攻が始まった。

 回復魔法を使わせない、使われても回復を超えるレベルの猛攻を仕掛ける作戦。

 速い連撃を可能にするため通常攻撃も織り交ぜる。しかし。


「『ガブリエルヒール』!」


「くっ、もう少しでしたが」


「まだまだだよ!」


 後もう少しでトモヨのHPを削りきれるというところで防御勝ちされてしまい、その隙に〈四ツリ〉回復魔法でほぼ全快までHPを回復されてしまったのだ。

 仕切り直し。


「……これでは突破できません。ゼニス、ユニークスキルを使いますよ」


「クワァ!」


「そう来ると思ったよ! でも私だって同じようなのを持ってるんだからね」


「いざ、勝負ですトモヨさん『姫騎士覚醒』!」


「『大天使フォーム』!」


 それは奇しくも同じ系統のユニークスキル。

 クールタイムを軽減し、連続でスキルや魔法を連打できるようになる優秀なユニークスキルだ。

 アイギスが先にユニークスキルに包まれる。しかし、トモヨの『大天使フォーム』は変身スキルなのでかなり時間が掛かっていた。

 ここを見逃すアイギスでは無い。


「『竜祝りゅうしゅく投天槍とうてんそう』!」


 強力で素早い投げ槍。

 変身中は無防備になるトモヨだ。直撃すれば大ダメージを食らい、変身も失敗ファンブルしてしまうだろう。

 そして槍がトモヨに届くまさにその時、トモヨの変身は完了した。


「あぐぅわ!?」


 咄嗟に盾で挟んだがほとんど直撃だった。

 トモヨが見事に吹き飛ばされる。


「今です! 『エアリアル・アクロバット』!」


「な、なんのー!」


 アイギスが使ったのはソニック系。

 一気にトモヨとの距離を詰めて鋭い攻撃を放つ。

 トモヨは吹き飛びながらも咄嗟に盾で防いだが、防御スキルを使っている余裕は無かったためかなりのダメージを負った。

 ここからアイギスの猛攻が始まる。


「『ドラゴンクロー・セイバーランス』! 『ロングスラスト』! 『トリプルシュート』! 『オーバードラゴンテイル』! 『ロングスラスト』! 『プレシャススラスト』! 『レギオンスラスト』! 『ロングスラスト』! 『閃光一閃突き』! 『ドラゴンクロー・セイバーランス』! 『ロングスラスト』!」


 普通のタンクが相手であれば1度やられてさらにお釣りが来るような圧倒的攻撃の猛攻だ。――だが。


「『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』!」


 トモヨも全力で防御しに掛かる。

 だが、トモヨは度重なる攻撃を受けて大きなダメージを負っていた。

 防御スキルはあくまで防御。完全なダメージ無効とはいかずいくらかのフィードバックを受けてしまう。


 しかし『大天使フォーム』の特性上、連続でスキルを発動しているならクールタイムを無視出来るが、『ガブリエルヒール』を割り込ませて使用した瞬間『エルシール』はクールタイムに突入してしまいバランスが崩れてしまう。

『ガブリエルの盾壁じゅんぺき』は強力すぎてMPがキツく、連続発動していればMPはすぐに枯渇するだろう。コスパと防御性能に優れた『エルシール』が最適解。


 しかしアイギスもピンチだった。何しろ『姫騎士覚醒』は最大で16秒しか持たない。対して『大天使フォーム』は3分持続する。

 早期決着を付けなければ、もうトモヨを倒すチャンスは来ないかも知れない。

 もう少し、あと少しでトモヨもHPが無くなる。


 しかしここでアイギスも『姫騎士覚醒』が切れてしまう。

 だが、回復魔法を使われなければ十分にトモヨを倒せる範囲内だとアイギスは察知していた。


「うっ!」


 ここで大きくトモヨが高度を下げて逃れる。


「逃がしません――『エアリアル・アクロバット』!」


 それをソニック系のスキルで追いつき、回復魔法を使う隙を作らせないアイギス。だが、トモヨの狙いは別にあった。


「『エルシール』! そんでもういっちょ、『エルシール』!」


「! これは!」


「クワァ!?」


 それは『エルシール』のもう1つの特性。

 トモヨは『エアリアル・アクロバット』を『エルシール』で防いだ後、さらに通常攻撃を仕掛けてくるゼニスの懐に飛び込み、ゼロ距離で『エルシール』を発動したのだ。

 するとシールのようにピタッと盾がゼニスに張り付く。そして。


「今だよ!」


「ナイスだトモヨ! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「クワァ!?」


「ゼフィルスさん!?」


「アイギス、ゼニス、すまんがこれも勝負ってことで」


「ゼニス空へ!」


「ク、クワァ!?」


 そこはいつの間にか地上付近だった。

 トモヨが急下降したのはアイギスから逃れるためではなく、下に居るゼフィルスに攻撃役をお願いするためだったのだ。

 すぐに上空へ戻ろうとするアイギスとゼニスだったが、トモヨは逃がさない。


「こんどは私が逃がさないよ~『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』!」


『エルシール』はゼロ距離で発動すると3秒ほど相手にピタッとくっついて逃がさない性能を持つ。

 そして『大天使フォーム』中は、連続使用ならクールタイム無しでスキルが使える。

 つまり、疑似的な〈拘束〉にすることが可能なのだ。

 しかもこれ、状態異常攻撃じゃないので耐性があっても防げない。

 一度これをやられると、トモヨを何とかするしか無くなってしまうのだ。


 もちろんこれはゼフィルスが伝授したテクニックである。

 ゼフィルスはこの機に一気にアイギスのHPを削りまくった。


「うおおりゃあ!!」


「くっ――ゼニス! 『ドラゴンブレス』! トモヨさんトドメです!」


「クワァ!」


「ゼフィルス君、私に構わずトドメを! 『エルシール』!」


 トモヨのHPは残り僅か。そこへゼニスの『ドラゴンブレス』が直撃したら間違いなく敗者のお部屋へ行ってしまうだろう。しかし、回復魔法を使って『エルシール』を解けばアイギスには逃げられる。

 ここが正念場だとトモヨが覚悟を決めて選択したのは――『エルシール』だった。退場してでもアイギスを拘束するという執念を見せる。


 だが回復魔法が使えるのは、トモヨだけではない。


「『オーバーヒール』!」


「な!」


 ゼフィルスが選んだのはアイギスへのトドメでは無く、トモヨへの回復だった。

 特大回復魔法が『ドラゴンブレス』直撃直前に差し込まれ、トモヨを回復させ存命させる。そして――。


「『聖剣』! 悪いがアイギス、ゼニス! これでトドメだ! 『スターオブソード』!」


「わ!」


「クワァ!?」


 ズドンと衝撃。

『聖剣』の一撃でアイギスの自在盾を弾き――剣と盾を融合させた巨大な光の剣を顕現させ、ゼフィルスはゼニスをぶった切った。

 これがトドメとなってアイギスのHPはゼロとなり、敗者のお部屋へ向かってしまう。主が戦闘不能になったことでテイムモンスターのゼニスも〈ファーム〉へ送還されてしまった。


「や、やったー」


 トモヨがゴロンと大の字になって荒く息を吐く。

 アイギス対トモヨの戦いは、なんとゼフィルスの協力でトモヨの勝利に終わったのだった。


「ナイストモヨ! 【竜騎姫】を相手に凄いじゃないか!」


 トモヨは過去、周りと比べて自分の弱さを痛感して、世界トップクラスのLVをわざわざリセットし、天使へ〈転職ジョブチェンジ〉した。

 不安だったことだろう。本当にLVをリセットしてしまって良かったのか。

 その答えは、今ここに出た。


「え、えへへへ。や、やばかったー。アイギスさん強すぎだよ」


 満足そうにそう言ってトモヨは笑った。

〈エデン〉のメンバー。それも【竜騎姫】という〈エデン〉でも特別強いメンバーに勝利した。これは以前の自分では絶対に無理だっただろう。

 トモヨは今、自分の成長をとても実感していた。じーんと来たってやつである。

 だが、残念ながら感激に浸っている時間は無かった。


「LV差があんなにあったのに耐えただけスゲぇぞトモヨ。だが話している暇はあんまりない。すぐに次へ動くぞ!」


「へ? そういえば今ってどんな状況?」


 だが、喜びも束の間だった。

 トモヨがバサリと身体を起こして周りを見渡すと、さっきまで居たはずのメルトやミサト、フラーミナにロゼッタ、それにサーシャやカグヤも誰も居なかったからだ。

 アイギスとトモヨが戦っていたのは長くて3分ほど。

 さすがにこれにはトモヨも驚いてゼフィルスに問いかけたのだった。

 そしてゼフィルスの答えは。

 

「メルトは倒したぞ。そしたらみんな白本拠地の方へ向かっちまった。時間も無い。トモヨはすぐに本拠地の防衛へ向かってくれ」


「え、ええええええ!? 本拠地が攻められているってこと!?」


「おう。防いできてくれ」


「軽っ! ゼフィルス君は!?」


「俺か? 俺は――ちょっと相手の本拠地に行ってくる」




 ――――――――――――

 後書き失礼いたします。


 アイギス退場したけどゼニスの進化ルートの「一度も戦闘不能にならない」の条件は大丈夫!?

 というご意見がありましたのでここで説明させていただきます。

 結論としては大丈夫です。ゼニスは戦闘不能判定になっていません。

 今回戦闘不能になったのはアイギスというのがみそで、ギルドバトルの試合中に召喚したモンスターは、主が倒されると強制的に送還されます。

 今回はゼニスへの攻撃をアイギスが肩代わりしていて、主の戦闘不能と同時にゼニスは〈ファーム〉に送還されているのでゼニスは戦闘不能になっていない。という扱いです。

 ちなみに前話でルキアにやられたフラーミナのモンスターはしっかり〈御霊石〉になってます。これがテイムモンスターの戦闘不能判定となります。


 以上です。


 今の所の退場者↓


 白チーム、シュミネ、ヴァン


 赤チーム、クイナダ、ラウ、アイギス、メルト


 現在6人!



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