第1347話 ついにゼフィルスが来ちゃったんだってさ!




 一方エステルVSシエラ。


「さすがはシエラ殿です。私を相手しながらシズとカイリ殿の援護射撃を完全に防ぎきるとは」


「それほどでもないわ。できればこちらは犠牲を出したくなかったのに、シュミネにヴァンまで討たれてしまったもの。とても悔しいくらいよ」


「いえ、ここまで戦力を投入しても2人、しかも新メンバーしか討てなかったという事実がとんでもないのですけど……」


 距離をとって睨み合ったエステルとシエラがそれぞれ槍と盾を構えながら言葉を交わす。

 実はエステルの言うとおり、一見エステルVSシエラに見えるこの状況だが、姿を隠せるシズとカイリが援護射撃をしてシエラを封じ込めていた。


 しかし、それでもシエラは1人でほぼ全ての攻撃を防ぎきっていた。

 シエラに『直感』系のスキルは無い。だがそれでもシズの狙撃やカイリの属性矢はことごとくがシエラの自在盾に阻まれてしまっていた。


「さすがはシエラ殿、私の位置を攻撃からほぼ把握して自在盾を上手く使って射線を切って来ます」


「あー、やっぱりシエラさんを倒すのは難しいっぽいね」


「足止め出来ただけで十分としましょう」


「だね。シエラさんを足止め出来るだけで本拠地の攻略成功率が上がるもん」


 シズとその後ろに立ってスキルで2人の姿を隠しているカイリが揃って頷く。

 シエラをここに封じ込めている理由は1つ。孤立させて本拠地に行かせないため。

〈エデン〉最強タンクの名で呼ばれるシエラが居るだけで白の本拠地はエグいくらい陥落しないだろう。今の所第二拠点よりも厄介である。


「私たちは退きます。あわよくばシエラ殿を倒せればグッと勝ちは近づきましたが、どう考えても私たちでは倒せません」


「了解」


 できれば倒したかったシズたちだったが、倒せなければ仕方ない。

 なんで3人がかりで倒せないのか。だってシエラだもん。仕方ない。

 自在盾で防ぎながら、攻撃が緩むクールタイムの隙を見計らって〈エリクシール〉でHPを全回復された時点で色々諦めた。

 なのでシズは早々にカイリと移動の準備を始める。


 シエラの足止めはエステルだけで十分。自分たちは本拠地攻略に参加する遊撃としてシズとカイリが行動を起こそうとした、その瞬間、新手が来る。


「『天海の雷神』!」


「『天海の津波』!」


「! シズさん回避! 『インストラクター』!」


「!?」


 カイリの『危険感知』が警報を鳴らして、人を連れて移動する『インストラクター』でシズを連れて急速回避。しかし。


「だめ、効果範囲が広すぎる!」


「『バードデスストライク』!」


 それは雷撃の乗った津波。

 疑似的な雷海らいかいの範囲攻撃を生み出すそれは2人の力が乗ったコンボ攻撃。カイリのAGIでも範囲外に逃れることが出来ず、苦し紛れのシズの攻撃も飲み込んで直撃した。


「「きゃああああああ!」」


「シズ、カイリ殿!?」


「来たわね。私がここで足止めされていれば、ゼフィルスは何かしらのアクションを起こすと思ったわ」


「待たせた、シエラ殿」


「お待たせいたしました」


「いいえ。助かったわ」


 そこに来たのはこの雷海らいかいを生み出した術者。レグラムとオリヒメだ。


 隠蔽系で隠れていても、レグラムにはそれを見破る『天眼』がある。

 シエラの予想通り、ゼフィルスはレグラムとオリヒメのツーマンセルを援軍に送り出していたのだ。


「シズ殿とカイリ殿は俺たちがやる」


「エステルさんはお任せいたしますねシエラさん」


「ええ。任せて頂戴。――エステル、今度は私があなたを足止めする番よ」


「! 逃れてみせます!」


「逃がさないわ」


 形勢は逆転。

 シエラの足止めだったエステルの周りに4つの小盾が囲い、進路を阻む。

 しかしAGIが高いのはエステルの方だ。小盾の包囲網を抜ければ脱出は可能。

 シエラVSエステルの戦いはまた別の形で巻き起こった。


 ◇


 一方セレスタンVSカルア、パメラ、アルテの方はと言うと、そこにラクリッテとナキキが味方に入り応戦中だった。


 そちらはカルアたちに任せ、〈ブオール〉に乗っていたメルト、ミサト、アイギス、ロゼッタ、フラーミナ、サーシャ、カグヤは迂回して本拠地へ再度侵攻する。

 しかし、ゼニスが警戒を口にした。


「クワァ!」


「ゼニス、助かりました」


 それが目前に迫ったところで気配をゼニスがキャッチしたのだ。


「くっ、来たか。もう少しだというのに」


「たはは~やっぱり来るよね。タイミング良すぎだよ~」


 後方のメルトが振り向き、ミサトも苦笑い気味になる。


「みんな戻ってきて! ゼフィルス君たちが来てるよ!」


「ゼフィルスさんたちが相手側だというのは、なんというかこう、心許ないというか、不安しかないですね」


「よ、弱気になっちゃダメですのロゼッタ先輩! 心で負けたら本当に負けてしまいますの!」


「良いこと言うな~サーシャは~。うん、ここからが本番、気を引き締めないとだよね!」


 メルトたちと同じく後方のフラーミナがモンスターたちを呼び戻し、盾を構えたロゼッタが横転したままの〈ブオール〉を見て困った顔をする。

 サーシャとカグヤはまだゼフィルスの恐ろしさを知らない1年生。気合いが入ってる。その気合いが長続きすればいいが。


「待たせたなメルト!!」


「別に待ってないぞ!?」


 そう声を掛けながら接近してきたのはまさにその人――ゼフィルス。

 側にはミジュがいるツーマンセルだ。後方からはさらにシェリアなどが追ってきているが、まず到着したのはこの2人。


「警戒しろ! ゼフィルスチームが2人しかいないわけがない! 奇襲が来るぞ!」


「前へ出ます! 『天守護の誓い』!」


「デバフかけるよー『素早さドレイン』! 『魔法力ドレイン』!」


「おっとそうはいかん――『勇猛結界』!」


「む、デバフが通らないよ!」


「ゼフィ先輩、むっちゃ狙われてる」


「人気者は辛いなぁ!」


 ゼフィルスが突っ込めばみんなが応戦する。

 ロゼッタが防御力をバフする『天守護の誓い』を使って前へ出ると、サポートするようにミサトがデバフを放つが、これはゼフィルスの盾のスキル『勇猛結界』によって阻まれる。


「サーシャ嬢、上下からいく、合わせろ――『ブリザードテンペスト』!」


「了解ですの――『一面氷土』!」


「お?」


 メルトとサーシャのコンビネーション攻撃。

 メルトが視界を奪いつつ面で攻撃し、サーシャは『氷の大地』の上位魔法で地面を氷にしてしまう。

 そこからメルトは重力攻撃で身動きを封じ、サーシャが『聖操氷層』でアタックを仕掛けてくるところまで見えた。突破してやろう。


「ミジュ、掴まってろ」


「ガッテン」


「『英勇転移ブレイブポート』!」


「転移だ!」


 ここでゼフィルスが発動したのは転移スキル。

 その恐ろしさはみんなが知っている。


「『ミラークロスバリア』!」


「『絶対守護防御盾』!」


 ミサトが周囲に鏡の結界を、ロゼッタが全体攻撃にも対応する大盾を召喚してゼフィルスがどこに現れようが、どこから攻撃が来ようが対処しようと警戒するが。


 ゼフィルスは構わずメルトの真正面に登場した。


「なにぃ、俺だと!?」


「いくぞメルト!」


「覚悟ー『激烈熊掌』!」


「ぐはぁ!」


「メルト様ーー!?」


 狙いはメルト。いくらバリアを張ろうが盾で防ごうとしても転移は防げない。

 メルトは遠距離攻撃を吸収し、吸収したエネルギーを使ってぶっ放す攻撃が強力。

 ゼフィルスとしてはこの中で真っ先に倒したいのはメルトだったのだ。

【大罪】持ち2人や【竜騎姫】などをさらっと無視してメルトを真っ先に仕留めに来た。


 転移後の硬直でゼフィルスがスキルを放てないところ。しかし、一緒に転移したミジュは別だ。素早い発動ができる〈三ツリ〉を使ってメルトの懐に潜り込むと、強力なノックバックを引き起こす『激烈熊掌』をメルトの鳩尾にぶっ放す。


「『お稲荷召喚・カンザシとモミジ』! ダメ、間に合わない!」


「いっけーチーモチッコちゃん、ミーネコちゃん、リーフェアリーちゃん!」


「行かせないよー『ダンス・音符・サークル』!」


「ノエル!? ということは――」


「私も居るよー! 『そして時は動き出す』!」


「やばっ! みんな避けるのー!!」


 ここで本拠地の防衛班ノエルとルキアの援軍登場。音符のサークルでフラーミナの召喚獣を囲んで閉じ込めると、そこへルキアが今まで溜めまくっていた攻撃魔法をぶっ放し、フラーミナの3体のモンスターは一瞬でHPがゼロとなり〈御霊石〉になってしまう。

 フラーミナは〈レビテーションスノー〉で空中に退避していたために召喚獣を狙った形。


「ノエル、ルキア、ナイス! ――『ハヤブサストライク』!」


「ぐおおおお!」


 ここでゼフィルスの転移を警戒して使用した魔法とスキルが脚を引っ張り、カバー系が使えなかったロゼッタ。いや、どちらにせよ間に合わないタイミングだった。

 ゼフィルスが発動したのは速度のある〈三ツリ〉スキル。ノックバック中に超速の2連斬りの追撃を食らい、メルトは呆気なくダウンした。


「ゼニス!! 『エア・ストーム・ランス・シュート』!」


「クワァ!」


 しかし、ここは敵陣のど真ん中。空中からゼニスに騎乗したアイギスが嵐を纏った投げ槍を放つ。しかし。


「『ガブリエルの瞬盾しゅんじゅん』!」


「! トモヨさん!?」


 そこに割り込んだのは背中に白い翼をはためかせて飛ぶ、2枚の大盾を持ったトモヨだった。

 ブリッツ系の防御版とも言える、超移動からの防御スキルで放たれた槍の正面に割り込み、防ぎきったのだ。


「ナイスタイミングだトモヨ!」


「えっへん! アイギスさんは任せてね!」



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