第1327話 上級職ランクアップ! ナキキ編!




 シュミネがまず【世界樹の番人】へ〈上級転職ランクアップ〉した。

 これは大きい。

 重要な職業ジョブをギルドメンバーに加えられたな。

 ふう、これで思い残すことは無い。


「次はうちっす! ゼフィルス先輩! なんか終わった雰囲気出してないっすか!?」


「はっ! 大丈夫大丈夫。全然そんなことないぞ?」


「今「はっ」としてたっす!」


 うっかりうっかり。

 ずっと前から欲しかった【世界樹の番人】がギルドに加わってくれたので安堵が強かったのだ。

 もちろんナキキとミジュも忘れてないぞ?


 何しろナキキについて欲しい職業ジョブもずっと前から欲しかったものだからな!


 そう取り繕ったがナキキからの疑わしげな視線がヒシヒシ突き刺さっていた。

 ちなみにミジュは眠そうにあくびしている。こっちは平常運転だった。


「こほん。じゃあ次はナキキだな。ナキキには2つの道があるぞ――上級職、高の上、SUP36のガチガチの戦闘職、【金剛王】。それに【破壊王】だ」


「【金剛王】と―――【破壊王】!?」


 空気を変えるべくナキキに〈上級転職ランクアップ〉先を告げると、勢いよく食いついた!

 ふふふ、そうだろうそうだろう。食いつかずにはいられまい! これぞ今まで謎に包まれていた――ドワーフの上級戦闘職よ!


「説明は、どうやら要らなそうだな?」


「そりゃそうっす! どちらも名の知れたとんでもない職業ジョブっす! 【金剛王】はあまりにも硬いタンクで全ての攻撃を防ぎきるとも言われているっす! 対して【破壊王】と言えばその名の通り、強力なアタッカーでなんでも粉砕するとんでもない職業ジョブだと言い伝えられているっす!」


 どうやらナキキの興味を完全に引けたようだ。

 1つはタンク特化職業ジョブ――【金剛王】。

 金剛、と聞くとなぜかギルドハウスで新しくボディガードになった〈ヘルプニャン〉を思い出す。いや、正確にはそのレシピをドロップした〈金剛マッチョ〉たちが……いやよそう。アレと【金剛王】はまったく関係ありません!


 そしてもう1つの【破壊王】はその名の通り、破壊の王。

 様々なものに対して特効効果を持つ非常に強力な職業ジョブだった。

 もちろん〈城〉カテゴリーにも特攻を持つ! しかしだ、それがただの片鱗に過ぎないと言えばどれだけ凄まじいかわかるだろうか?

 ドワーフは鎧系全般に適性があって着られるため、防御を防具に頼って城に近づきやすく、破壊の力でガンガン城を落とすことができて爽快だった。

 これをやるだけでも使う者は多かったな。


 ただ、そんな時代はすぐに廃れてしまったんだがな……。

 ドワーフ系のアタッカーなんて【破壊王】か【炎雷鋼ドワーフ】の上級職、【炎雷魔鋼王えんらいまこうおう】しかいなかったものだから、城に近づくドワーフなんて【破壊王】とみなされて即狩られる狙われる対象になってたからな。

 螺旋らせんの執事時代ブームの幕開けになった悲しい出来事だった。


 一応他にもギルド〈氷の城塞〉に所属している【破創金剛はそうこんごうハイドワーフ】などもあるが、あっちは戦闘と生産が半々くらいのスペック、しかも大体が建造のために連れてくるので、やっぱりこっちも狩られる狙われる対象だった。

 こうしてドワーフをギルドバトルに連れてくると、逆に狙われるので、護衛しなくちゃならなくて、割に合わんと徐々に誰も使わなくなっちゃったんだよ。

 強いのも考えものである。


「私の担当はタンクっす! でも【破壊王】は気になるっすよ!」


「分かる」


「というか、【破壊王】って伝説のすんごい職業ジョブっすよ!? ドワーフの伝説には【破壊王】1人で城を落としたという逸話があるくらいっす!」


「それ多分、事実なんだよなぁ」


 少し前に【破壊王】がどの程度認知されているのか調べたことがあったのだが、やはり城塞を落とす職業ジョブという認識はされているようだ。伝説という名のドワーフの本が情報源ソース


 そして伝説なんて言われている通り、現代に【破壊王】なんて職業ジョブに就いているドワーフは皆無らしい。

 その性能を知っている人も限られているとか。


 ほほう? 破壊してもいいですか?


 ギルドバトルで【破壊王】を使い、城を破壊しまくりたい!

 もちろん城だけでは無く、あれらも――ふはは!


 しかし、ナキキはタンク。

 そっちに特化させたいのであれば【金剛王】に向かうのが本来のやり方だ。


 だが、【破壊王】ではタンクができない、というわけでもない。


「なら、【破壊王】でタンクをしてみるか!」


「え、ええ!? できるんっすか!?」


「【破壊王】も大盾、両手盾は持てる。防御しながら城塞に近づいて装備を換装しドカンするというやり方もあった。今のセレスタンのやり方だな。それに防御スキルも結構覚える。ブレイク系もな。『ダイヤモンドジャケット』が無いから【金剛王】より全然打たれ弱いし、防御のタイミングもシビアになるが、タンクができないことはないぞ?」


「えっと、つまり難易度が高いってことっすか?」


「そのとおりだ。具体的に言うと大盾にハンマー装備で、ハンマーによるブレイクを狙うことになる。刀のように速度の出る武器ではないハンマーでパリィを狙うのは難しいから、ブレイクで打ち消すんだ。難易度は高いぞ?」


「でもできるんっすね! やるっす! 【破壊王】の方が興味あるっす!」


「よし、じゃあ決まりだな」


「いいんすか!? というか出来るんすか!?」


「出来なきゃナキキには2つの道があるなんて言わないさ。今後ナキキはアタッカー&タンクだな」


 ということでナキキは【破壊王】のアタッカー&タンクという道に突き進むことになった。

 アタッカー&タンクとしてダンジョンの攻略に貢献し、ギルドバトルでは防御しながら城に近づいてぶっ壊す。いいじゃないか! ふははは!


「じゃあ早速やろう。ナキキにもシュミネと同じく〈天進の宝玉〉だ」


「う、うっす! 使わせてもらうっす!」


 俺が早々に〈天進の宝玉〉を取り出すと、少しひるんだ様子のナキキだったが気合いを入れ直して〈宝玉〉を受け取った。


 そして使用。さらさらと粒子になって、〈宝玉〉はナキキの中に吸い込まれていった。


 ナキキの進化だ。シュミネが言っている通りなら【破壊王】はハイドワーフということになるんだろう。今のうちにビフォーアフターを比べるためにスクショを撮って置いた方がいいか? パシャリ。


「それと、ナキキは【破壊王】だから両手槌を2つ、それぞれの手に装備してくれ。はい、これ両手槌」


「う、うっす! 用意いいっすね。あれ? でもこれチケット握れないっすよ?」


「そこは頑張れ」


「が、頑張るっす!」


「冗談だよ。装備するだけで手に持っている必要は無いから、自分に立てかけさせておけば大丈夫だ」


「良かったっす」


 ナキキ、超素直。いや、頑張れで通じなかったので慌てて訂正。

 ナキキの【武装鋼ドワーフ】はパッシブスキル『ドワーフは力持ち(右)』と『ドワーフは力持ち(左)』を持っている。これで両手系の武器か盾を持つことができるため、両手槌を2つ持つことが可能になるわけだな。


「さらに、最後にこれだ。〈壊れた玩具〉これを持ってタッチしてくれ」


「なんっすかこれ!?」


 なんっすかと言われても文字通り、壊れている玩具である。元がなんであったかはわからない。ブリキかな?

 おそらく【破壊王】に就けるドワーフが少ないのはこれが原因なんじゃないか?

 両手槌を2本装備しているだけでも〈上級転職チケット〉を持てないという問題が発生しているのに、さらに〈壊れた玩具〉まで持ってタッチである。


 ゲームでは普通に出来たが、現実では色々と問題だらけだ。

 さらに、この世界のドワーフはこういう壊れた物はすぐに修理するか、処分するか、素材に戻してしまうらしいので、そもそも壊れた何かを持っていること自体が少ないそうだ。(ナキキ談)


「なんか、これを持っていると懐かしい気持ちになるっすね。父さんもよく私が玩具を壊したらすぐ直してくれたっす」


 いい話じゃんかよ。


「よし、じゃあ〈竜の像〉の前に立って、2本の両手槌は自分に立てかけて、そうそう。じゃあこれ、〈上級転職チケット〉な」


「あ、ありがとうっす!」


 俺から〈上級転職チケット〉を受け取ったナキキが〈竜の像〉に触れると、ジョブ一覧が現れた。そこにはしっかり【破壊王】の文字があった。


「あ、あったっす! 【破壊王】あったっす!」


「ナキキ、落ち着いてタッチするのですよ」


「ファイト」


「うっす! 慎重に、慎重に、タッチっす!」


 ずいぶん勢いのある慎重だったがそれは置いておき。

 ナキキは無事【破壊王】をタップした。

【破壊王】がクローズアップしてナキキの上に輝き、ナキキが【破壊王】に就いたことを教えてくれる。


 そして瞬間、ナキキの周りが黄緑色の光で包まれた。


「うひゃっす!? なんすかこれ!?」


「お、覚醒の光出たな」


「覚醒の光ですか!?」


「驚いている暇は無いぞ。これはすぐに終わってしまうからな。まずは楽しめ! ポーズを取るんだナキキ」


 パシャパシャ。


「何やってるっすかゼフィルス先輩!?」


「はっ! そうです記念を残さないといけません。ミジュ、ナキキの前へ、3人で映りましょ?」


「おけ」


「あ、シュミネがまたお母さんしてるっす!」


 さすがはお母さんシュミネ、我が子の晴れ舞台にみんなで記念撮影しようということか。新しい展開だぁ。

 もちろんパシャパシャ。

 覚醒の光には他の人は入れないので、その前にシュミネとミジュが立って記念撮影。


 ふぅ。良いのが撮れたんだぜ。


「あ、あ、収まってきたっす」


「終わってしまいましたか。――ゼフィルス様」


「おう、ばっちり良い感じに撮れてるぜ」


「さすがです」


「ナキキ、〈上級転職ランクアップ〉、おめでとう」


「おめでとうナキキ。覚醒の光も現れて、とても立派ですよ」


「おめおめ」


「あ、ありがとうっす!」


 最後にみんなでナキキを祝う。

 ナキキは無事、【破壊王】に〈上級転職ランクアップ〉だ!

 ふはははは!


 後はミジュだけだな!




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