第1317話 20層守護型も〈謎ダン〉と同じだブラザー!




 ―――〈魔法使いの箒杖〉。

 スキル『魔法飛行』が使用可能になる上級中位ジョーチュー級の両手杖装備だ。

 つまりはこれ、箒に跨がって空を跳ぶ、魔法使いにとって定番であり、夢のアレである。


 フラーミナの左手に装備されている〈レビテーションスノー〉は、スキルが浮遊系で移動速度が遅く、上空の安全地帯に逃れるくらいしかできなかったが〈魔法使いの箒杖〉は飛行系。その速度もなかなかのものである。

 これが一般魔法使いでも装備できて空を飛べてしまうというのだからどれだけ恐ろしいか分かるだろう。


 これで飛行しながら魔法やユニークスキルをばらまけたら相当強かったが、残念ながらそこまで強くは無い。飛行中は他の〈スキル〉〈魔法〉〈ユニークスキル〉が使えない制限を受けるのだ。

 しかし、飛行できるということは城壁を飛び越えることが可能という意味でもあり、ギルドバトルでは猛威を振るっていたとんでもない杖である。


 魔法隊出陣とか言って数十人単位で城壁内に乗り込んで、高火力を一気にぶっ放して離脱するなんて戦法もあって楽しかったんだ。あれ決まると気持ちいんだよなぁ。やられる方はたまったもんじゃないけど。

 まあ、〈エデン〉にはカタリナがいるので空からの侵入対策も万全だけどな!


 しかしロマン杖、これが来てくれるとかマジ大当たり、早速製作しよう!


「空が飛べるようになる杖、ですか。これは売れますわ!」


「私も空を飛んでみたいと思っていたのよ! これは使ってみたいわ!」


 リーナやラナのハートにもズキュンと突き刺さった模様だ。これはいける。

 リーナはこの杖がどれだけ価値があるか即座に見抜いたようだ。

 すでに作製後の売買について考えを巡らせていらっしゃる。


 ラナは普段タリスマン装備だが、杖にも適性はあるので空を飛んで遊ぶくらいならやらせてあげたいところ。なお、祈りはタリスマンがすっごい強いので戦闘時はタリスマン確定だけどな!


 しかし、これを作るためにはちょっと問題があった。


「待ってリーナ。レシピのここを見て。木材の加工に『魔女錬金』の使用と書いてあるわ」


「……なんですって!?」


 シエラの言葉に普段冷静なリーナが取り乱す。

 ―――『魔女錬金』。

 魔法使いの箒と言えば魔女。これは古代から切っても切れない関係。

 それ故か、この〈魔法使いの箒杖〉に使われる木材を加工するには【闇の魔女】の生産スキル『魔女錬金』が必要なのである。

 これだけはハンナでも難しい。


 とんでもなく強力な飛行できる杖のレシピ、それは強さに比例し、簡単には作り出せないよう難易度が高く設定されているのである。作製には【闇の魔女】や【木工師】の上級職【魔工聖人まこうせいじん】の力が必要だ。


【魔工聖人】は杖や弓などを作製できる【木工師】の上級職だが、これは〈青空と女神〉に頼めばいいだろう。問題は素材を作り出す【闇の魔女】だ。

 しかしタイミングが良い。丁度【闇の魔女】には1人心当たりがあったところ!

 セルマさんに打診にいかなければなるまい!

 そう決意を新たにしていたらいつの間にかシエラとリーナが詰め寄られていた。


「ゼフィルス」


「ゼフィルスさん」


「お、おう? どうしたんだ2人とも?」


「今回のこれは私たちが預かるわ。ゼフィルスは余計な行動はしないように」


 どういうことなんだいシエラ!?


「これもゼフィルスさんを魔の手から守るためですわ。ご自重くださいな」


「すまんリーナ、俺の自重はこの前家出したっきりまだ帰って来ないんだ」


「捕まえてあげるからこの件は私たちに任せなさい。ゼフィルスは動かないように。間違ってもセルマさんと接触してはダメよ」


 俺が信用されていないのか、それともセルマさんが危険視されているのか。

 両方?

 分からない。

 でも俺が信用されていないということはないだろう。ないと思う。


 結局〈魔法使いの箒杖〉については全てをシエラとリーナに委ねることになったのだった。

 とりあえず加工前の上級木材だけでもこっちで用意しよう。

〈守氷ダン〉の中庭では少ないが木が生えていて『伐採』ポイントがある。

 しっかり上級中位ジョーチュー素材を用意しておくぞ!


 その日は11層で『伐採』したのち帰還した。




 翌日、日曜日。

 今日も元気に〈守氷ダン〉!

 昨日で慣れたからか、みんなの行動がかなりスムーズ。

 迷いそうになってもリーナの〈竜の箱庭〉と『フルマッピング』のおかげで現在地が丸わかり。攻略がサクサク進む!


 だんだんと効率化が進んできて、中庭は救済場所セーフティエリアだと気付いたリーナが中庭で指揮を執り、6のパーティがバラバラに散って人海戦術を使って次々氷の宮殿を暴いていく戦法まで取り始めたのだ。これには俺も驚かされたよ。ギルドバトルの経験がとても生きてるな! お宝もたくさんゲット!

 同じく中庭にいるカイリが『エリアボス探知』でエリアボスのいる方角を常に把握しているため、事故もなく進む。


 万が一エリアボスと遭遇するときは、複数のパーティを近くに派遣したりと警戒を強めて突破。エリアボス以外であれば脅威になるものは罠くらいなのでパーティごとの行動でも安心だ。

 一部レアイベントなどに遭遇してしまう可能性も俺がいるから潰せて安心。

 レアイベントの場所は50層なのでそこまでは安定して進めそうである。


 階層門を見つけたら〈学生手帳〉でリーナにメッセージ。

 リーナは届いたメッセージを見て他のメンバーに『ギルドコネクト』で通信する。そんなシステムだ。


「『みなさま、3班が階層門を発見しましたわ! これから案内します。ゼフィルスさんのいる1班は中庭へ寄ってわたくしたちを拾ってください』」


「オーケー。というわけだ。エステル、〈イブキ〉を出してくれ」


「了解いたしました」


 たまには他のメンバーにも階層門を見つけてもらわなければ怪しまれてしまうかもしれない(?)。

 時々階層門のある方角とは逆を探索したりしてメンバーにお手柄を譲りつつ、少しずつ先へ先へと進んで行った。


 14時を過ぎたころにはついに階層門が2つある20層に到着した。


「ここが〈謎ダン〉と同じなら、階層門が2つあるはずですわ」


「この大きな〈守氷ダン〉で同じ階層にある階層門を2つも見つけなくちゃいけないなんて、難易度高いわよ。それも、本当にあるか分からないんでしょ?」


 ラナの言うとおり、この広い〈守氷ダン〉で2つの階層門発見とか難易度高い。

〈謎ダン〉で20層は階層門が2つあるんだと知らされていなければ攻略は大いに難航しただろうな。


 だが問題は無い。

 すでに知るべき情報は〈謎ダン〉で得ているのだから。

 俺はキランと歯を輝かせて自信満々に告げた。


「大丈夫だ。俺に策がある」


「へぇ」


 あれ? シエラの反応が薄くない?

 いや、きっと気のせいだろう。だってシエラのジト目がこっちを向いているのだから!

 俺は策を語り出す。


「作戦はこうだ。まず1つの階層門を探し出す。1つ目を見つけるだけならば今までと変わらない」


「それは、そうね」


「そして〈謎ダン〉と同じなら階層門の前にはどちらを見つけたとしても守護型ボスがいるだろう」


「あ!」


「……なるほど、そういうことね」


 おっとここでラナやシエラから反応あり。どうやら気付いたらしかった。

〈謎ダン〉に参加していなかったリーナたちがピンと来ていなかったので、まずはあの時のことを説明する。


「あれは20層で〈金剛マッチョ〉と戦った時のことだ。なんと片方と戦っていたらもう片方の守護型ボスが乱入してくるという〈守護型ボス参戦現象〉が発生したんだ! どうやらお互いのボスはお互いの状況を感知できるらしい。今回はそれを逆に利用し、どこから守護型がやってくるかを見極める。守護型がやってきた方向にもう1つの階層門があるだろう。つまり、1つ階層門を見つければもう1つも見つけたも同然だ!」


「「「「おお~!」」」」


「さすがはゼフィルスさん。素晴らしいですわ!」


 片方の守護型と戦っていたらもう片方がやってくるフィッシュする。それを利用し、どこからやってくるのか、突き止めようという魂胆だった。

 これなら〈謎ダン〉ですでに判明したことしか喋っていない。問題無いはずだ。

 シエラとリーナの表情が明るいぜ。


「思っていた以上にまともな作戦だったわ」


 シエラがなぜか俺の作戦に驚きを隠せていないのはどういうことだろう?

 まあいい。俺はリーナとカイリに向きなおる。


「この作戦にはボスがどこからやってくるのか見極めるリーナとカイリのスキルが必要だ。やってくれるか?」


「もちろんですわ!」


「まっかせてよゼフィルス君!」


 守護型ボスはリーナやカイリの索敵には引っかからない。

 地図に表示もされない。されたら階層門の位置を探すまでもないしな。

 ただし、それは守護型ボスがノンアクティブ状態だからだ。

 ボスが何かの波動を感知してアクティブ俺たちの敵状態になればそれは地図に反映されて見ることができるようになる。実際エリアボスでもアクティブ状態になれば〈竜の箱庭〉に映っていたので今回も行けるハズだというのが俺の主張だ。


「決まりだ! やるぞ!」


「「「「おおー!」」」」


 そこからはみんなで一丸となって作戦開始。


 2パーティが守護型に挑み、残りの4パーティはここに繋がる通路に配置、現れればすぐにメッセージを送れる体制を作る。

 リーナとカイリは階層門のある部屋の隅で〈竜の箱庭〉を起動しリアルタイムで追跡する心算だ。


 守護型ボスの名前は〈アイスゴーレムブラザー(兄)〉である。ゴーレムに兄弟が居たのだろうか?

〈アイスクリスタルゴーレム〉をベースに、かなり機械的な見た目をしている。全部氷だが。


 そして戦闘を開始。

 ガガガガガガと銃撃、いや氷撃(?)してくる〈ブラザー〉に応戦してシエラが自在盾で防御。一撃たりとも後ろに抜かせないという凄まじい盾捌きで防ぎきり、その間に俺たちが攻撃まくった。

 そしてHPを半分まで削ると、それは起こる。


「! 反応ありましたわ!」


「南南東の方角だよ! 3班の近く! 意外に近い、すごいスピードでこっちに向かってきてるよ!」


「『ギルドコネクト』! 3班、聞こえますか!?」


「よし、聞いたなみんな! もう1体の守護型ボスが参戦してくるぞ! ラクリッテ、後方防御だ!」


「は、はい!」


 前回の〈金剛マッチョ〉たちの時のように参戦個体はタンクに任せ、先にHPが5割削られている〈ブラザー〉の方を叩く。


「ゴオオオオオ!」


「レエエエエエ!」


〈ブラザー〉の大声に返す形で叫び参戦してきたのは――〈アイスゴーレムシスター(姉)〉。


 って姉!? そこは弟や妹じゃないんだ!?

 そんなツッコミを幾度も受けたボスが参戦。

 しかし、〈謎ダン〉で何度か経験していた俺たちは慌てることはない。


「『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! おっしゃ〈ブラザー〉を倒したぞ! 次は〈シスター〉の番だ!」


「レェェェェェ!?」


 こうして1体ずつしっかり〈ブラザー〉と〈シスター〉を撃破したのだった。


 宝箱は〈ブラザー〉が〈銀箱〉で、〈シスター〉が〈金箱〉2つだった。

 うおっしゃー!!

〈幸猫様〉ありがとうございます!


 ちなみに〈ブラザー〉からは〈アイスゴーレム盾のレシピ〉というゴーレム加工のレシピがドロップ! これはハンナのお土産だな!


〈シスター〉からは料理アイテム系の生産レシピと、上級の氷を生産できるギルド設置アイテム〈氷上のナダレ〉をゲットした。

 ほほう? 悪くない。顔が大きい動物の石像姿の〈ナダレ〉は、口が開くとジャラジャラ氷を出すアイテムだ。しかし顔があまり良くないので今度マリー先輩に変えてもらおう。


 その後の大捜索の結果、2つの階層門は無事発見した。

 俺の作戦の大勝利だ!


「ブックマークも付けましたわ。まずは片方の階層門に潜りましょう」


「今まで見てきた限り〈守氷ダン〉は〈謎ダン〉に酷似してるように見えるわ」


「〈謎ダン〉の25層ではお宝がザクザクだったのよ! 楽しみね!」


「〈金箱〉何箱あるかなぁ」


 2つ階層門があっても俺たちがやることは変わらない。〈金箱〉に思いを馳せるのだ。間違えた。

 どうせ25層で一旦行き止まりというのは分かっているのだ。

 これも〈謎ダンチュートリアル〉の経験が生きているな。


 こうして俺たちはその日、〈守氷ダン〉の25層行き止まりまで行き、帰還したのだった。



 楽しい日曜日が終わり、1学期最後の週。

 テストが帰ってくる!

 今週も楽しいぞー!



 ――――――――――――

 後書き失礼いたします! 新刊発売のお知らせ!


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 表紙にはなんとサチ、エミ、ユウカが初登場! 近況ノートにイラストあり!↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16818023214223333657


 口絵にはカイリ、ニーコ、アルルが登場します!


 レグラムは挿し絵で登場です!


 みんなとっても可愛くてかっこいいので是非是非見てほしいです!

 また挿し絵では夏服姿も多く登場! 表紙では冬服のサチ、エミ、ユウカも挿し絵では夏服バージョン! 是非見比べてください!

 マリー先輩の夏服姿もあるよ!

 

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(約5000字)


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