第1102話 ハンナちゃんの生産隊長任命式!かんぱーい!




「では~、ハンナの生徒会生産隊長就任内定を祝して~! かんぱーい!!」


「「「「「かんぱーい!」」」」」


 ハンナが生産隊長になることが決まったので、乾杯だ。


 みんなでハンナに祝いの言葉を贈る。

 ギルド〈エデン〉のギルドハウスの大ホールは宴会場に早変わり。

〈生徒会〉のメンバーも数人参加しての打ち上げ会を行なうことになったのだった。


「それでハンナは最後には「わかりました。みなさんが支えてくれるなら。やってみます!」と力強く宣言していたんだ。あれは頼もしかったぜ」


「「「「おお~」」」」


「ちょ、ゼフィルス君恥ずかしいよー!」


 俺もみんなにハンナの勇ましくも頼りがいのあったあの時の話を雄弁に語った。

 みんなから関心を寄せられたハンナが照れてあわあわしている。


 ハンナの実力ならば当然と言えば当然。上級職の生産職なんて学園にはまだほとんどいないのだ。

〈生徒会〉であればハンナとアルストリアさん、シレイアさんの3人らしい。(フラーラ先輩は卒業なので除く)

 ちなみにミリアス先輩はまだ下級職。この辺も明暗を分けたのかもしれない。

 つまり〈生徒会〉で実力、実績、名声、投票数でトップなのはハンナなのだ。

 生産隊長就任はまさに順当と言える。


 おそらく歴代の生産隊長の中でもハンナはトップの実力者だ。

 もの凄く安心。


 なお、〈エデン〉との兼任についてだが、この度副隊長に就任することになったミリアス先輩もギルド〈味とバフの深みを求めて〉と兼任するので、兼任自体は問題無し。

 作業内容なのだが、どうも生産隊長自体の仕事は思ったよりも多くはないらしい。


 現在ローダ隊長代理から話を聞いているハンナだが、ローダ隊長の話は軽いものだ。


「本来の隊長が半年近く不在でも回せるのが〈生徒会〉だよ? そんなに仕事は多くは無いのさ。大体が書類に目を通してハンコを押すだけだしね。書類はフラーラの弟が作ってくれるし、いや予想以上に楽な仕事だったよ」


「ええ!?」


 ローダ隊長の言葉に「そんなのでいいの!?」と言わんばかりにハンナがビックリした声を上げる。

 だがローダ隊長はジュースをグイッと飲み干してから次々ハンナの想像とは違う話を繰り出していった。


「そもそも〈生徒会〉の本分はアイテムや素材の供給と管理だ。生産ギルドはアイテムや装備を、戦闘ギルドは素材を売る。これが滞れば学生たち全体の攻略が滞ってしまう。まあ、経済の流れのようなものだよ。僕たちはそれを十全に回るよう手筈を整えるだけでいい。問題があれば動く。ただ、最近は問題らしい問題が起きてないんだよね」


「そ、そう、なんですか?」


「そうなんですかってハンナ君、君のおかげだよ?」


「ふえ?」


 全く身に覚えが無いと言わんばかりにハンナの目が点になった。

 ローダ隊長はおかしそうにクツクツ笑いながら続ける。


「まあ、ハンナ君のおかげもそうだけど、〈エデン〉のおかげかな。そもそも生産ギルドっていうのは物の有る無しや値段の変動が激しいんだよ。ポーション1つとってもすぐに無くなってしまうし、これまで生産ギルドからは十分に購入できないことが多かったんだ。装備なんて一度ひとたび人気に火が付けばそこからはもう取りあいさ。学生は流行に敏感だからね」


「は、はあ。なるほどです……」


 学生が集まるこの学園では、当然のように流行もあった。

 この装備がすごいと一度噂になり人気に火が付けば、学生は我先に手に入れようとする。

 だがそんなことになれば在庫なんてすぐに無くなり、生産職はその装備しか作れなくなり、素材は無くなって値段は大きく変動し市場に混乱を生む。

 フラーラ先輩もそれが原因で一時期身を躱していたこともあったと言っていた。


「だが、現在はポーションも豊富にあり、〈エデン〉や〈ワッペンシールステッカー〉を始めとするギルドが装備の値段を一定にしてくれるおかげで、今や生産ギルド自体の混乱は皆無だ。非常に落ち着いて安定していると言っていい」


 言わずもがな、〈エデン〉のポーションは売り切れたことが無い。いつでも購入できると知った学生たちはこれまでの買いあさりをやめたことで、生産ギルド自体が落ち着いたのだ。

 ローダ隊長の言うとおり、これはハンナのおかげでもあり、〈エデン〉のおかげでもあった。


 今まではいくら〈魔石〉を入荷しても、生産職の生産が追いつかなかった。

〈魔石〉自体もドロップ率はさほど高くもないので供給が安定せず品薄になることも多かった。〈生徒会〉にとってポーション問題とは頭の痛い話だったのだ。


「私が生産隊長代理に就いた時は驚いたぞ。何しろポーションの問題が全部解決していたのだからな。おかげで私は日がな一日研究に没頭し、気が向けばハンコを押すだけで任期が終わってしまった。はっはっは!」


「ほへ?」


 まさに「楽な仕事だったぞ」と言わんばかりに笑うローダ隊長にハンナは目を点にしたままだった。

 つまり、現在の〈生徒会〉生産隊長の仕事はほとんどない。むしろ書類仕事の方が多いくらいとのこと。ハンナの生産隊長のイメージが崩れた瞬間だった。


 まあ、そんなこんなで〈エデン〉で活動すればそのまま〈生徒会〉の助け仕事になるという不思議現象のおかげで、ハンナの生産活動はほぼこれまで通りとなったとさ。



 数日後、学園と〈生徒会〉から公式に発表があった。


〈生徒会〉はハンナを生産隊長とし、副隊長はミリアス先輩が務める。

 会計をアルストリアさんが、書記をシレイアさんが、そして庶務をサトルが担当することに決まり、これから動き始めるようだ。


 3年生であるローダ隊長、フラーラ先輩、ムファサ先輩、チエ先輩は卒業のため引退。

 2年生で副隊長だったベルウィン先輩とヤークス書記は予備役という、現在のローダ隊長のような位置に付くらしい。誰かが〈生徒会〉に参加出来ないことがあれば代理として加わるそうだ。


 ということでほとんどの〈生徒会〉役員を現1年生が務めることになってしまい、今は引き継ぎで大忙しらしい。ミリアス先輩の肩に年長者と責任の文字が大きくのしかかっているとのこと、がんばってほしい。


 そしてあっという間に新〈生徒会〉メンバーの任命式の日がやって来た。


「――以上とし、本日をもってハンナ君を〈生徒会〉生産隊長の役職へと任命する。ハンナ君、大変だろうががんばっての」


「は、はい! 精一杯務めさせていただきます!」


「うむ。では生徒会前代表者から挨拶を――」


 任命式では学園トップ、学園長が直々に〈生徒会〉メンバーに任命状なる書状を渡していった。これを持っていることは大変名誉なことらしく、就活ではとんでもない効果を持つのだとか。この書状を見せれば即採用されるレベルらしい。王宮にもいらっしゃーいと出迎えられるそうだ。すごいな。


 相変わらず壇上に立つことに慣れていないハンナがやや緊張した面持ちで書状を受け取り、ミリアス先輩、アルストリアさん、シレイアさん、サトルと次々書状を受け取っていく。


 学園の中でも多くの関係者や学生が見守る中、こうしてハンナは生徒会生産隊長へと正式に就任したのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る