第1101話 〈生徒会〉選挙の発表が意外な結果に。
2月になるととあるイベントが行なわれる。
それは、〈生徒会選挙〉だ。
正確には学園公式ギルド〈生徒会〉の隊長を決めるための選挙がある。
〈生徒会〉は学生のみで運営されている学園公式ギルドなため、毎年入れ替わりが有る。
入れ替わる代表を学生たちが選ぶのだ。
これが結構重要で、〈生徒会〉なら生産を
そんなところに変な人物を頭に置けばどうなるか。火を見るよりも明らかだ。
品不足が解消されない状態になれば、巡り巡って自分たちの首を締め付けることになる。
アイテムは学生にとってなくてはならない物。手に入らなければダンジョン攻略が停滞する。
それは学生たちも分かっているため、〈生徒会〉だけは投票で決める形を取っている。
基本的に立候補制で、学生の投票で代表である隊長職を決めているわけだ。
貴族のいる世界でなぜ民主主義? と思うかもしれないが、貴族はカテゴリー的に生産職になる人なんていないので、ノーカテゴリーから代表決めようぜと、つまりはそういうわけだ。
ちなみに他の学園公式ギルドである〈救護委員会〉は代表が会長職で公爵家が務めているので選挙は無し。
学園の治安を守っている〈秩序風紀委員会〉は実力主義。そもそも衛兵隊の下部
最後の〈ハンター委員会〉は発足したばかりでまだ手探り状態。卒業後もアーロン先輩が隊長となりやっていくと表明している。こちらも選挙は無しだ。
さて、長々と説明したのには訳がある。
なぜかハンナが、いつの間にか生徒会生産隊長の有力候補になっていたからだ。
「それでハンナ、何がどうしてそうなった?」
「そ、それがよく分からないんだよぉ。私、立候補してなかったんだよ?」
ハンナが情けない声で俺の問いに答えた。
ここは〈生徒会室〉。
リアル〈生徒会室〉にちょっとだけテンションが上がっている。
「では僕が説明しよう」
「ローダ隊長、お願いします」
「あの、本当は隊長代理なのだが……」
俺が生産隊長のデスクを見ると、デスクに肘を置き指を組んだポーズの女子がこちらを見ていた。
彼女が〈生徒会〉の代表。3年生のローダ隊長だ。【闇錬金術師】で闇っ気の強いローブを着ている。
……実は彼女は隊長代理で、その横の席にいるムファサ先輩が本当の隊長なのだが、なぜか乗っ取られていた。理由は知らない。
小さく主張するムファサ先輩だが、あまり気にされていなかった。
ローダ隊長を挟んで反対の副隊長席にはフラーラ先輩が座っている。
彼女には上級ぬいぐるみでお世話になっているな。
実はフラーラ先輩も副隊長代理なのだが、席を乗っ取っていた。
他にはアルストリアさんとシレイアさん、ミリアス先輩。あとサトルもここに居る。
知らない先輩が数人いたが、これで生徒会メンバーは全員らしい。
その〈生徒会〉メンバー大集合の場所に、俺が居る。
なぜに
問題を聞きに来たのだ。
問題が起きたのは数日前。いやむしろもっと前から?
〈エデン〉の生産職であるハンナが、立候補もしていないのに生徒会生産隊長の投票先に選ばれていたところから始まる。
ローダ隊長の説明は非常にシンプルで分かりやすかった。
「ハンナ君が大人気で推薦された。以上だ」
短っ!?
な、なんて分かり易く、かつ想像しやすい理由なんだ!?
「ローダ、真面目にやりなさい」
「いや、これ以上無い程分かりやすかったと思うのだが?」
ローダ隊長にツッコミを入れたのは〈生徒会〉の庶務担当、3年生女子のチエ先輩だった。
「確かに、想像にしやすかったが、もうちょっと情報が欲しいな」
「そうか? そうだな、では説明しよう。〈生徒会選挙〉のシステムだが、まず生徒会生産隊長には立候補以外でも就任する方法がある。かなり稀な方法だが、本来なら現在立候補している候補者に不満がある場合に学生がとれる手段がある。それが推薦だ。学生が出来るのは投票だけでは無い、推薦も可能。そしてハンナ君は大人気過ぎて推薦数が、現在暫定1位の投票数を誇るミーアちゃんを超えた」
「なんてこった」
投票はすでに始まっている。1月から集め始め、2月の上旬、3年生が引退する前に発表するのだ。
しかし、ハンナが大人気過ぎて候補者を押しのけてしまったらしい。
ちなみにミーアちゃんとは、ギルド〈味とバフの深みを求めて〉所属でいつも打ち上げの時に料理で大変お世話になっている、ミリアス先輩のことだ。今そこで頭を抱えている。
「もちろんミーアちゃんに不満があったわけではないのじゃ。ハンナ後輩が大人気過ぎたのじゃ」
「補足すると、普通なら推薦が数票混ざったところで生産隊長候補になるわけではありません。推薦数が立候補者の投票数を1000票以上超える必要があるのです。1000というのは学園に在籍する生産職のほぼ半数ですね」
ローダ隊長の説明にフラーラ先輩がフォローを入れ、チエ先輩が補足を入れてくれる。
チラッとミリアス先輩の方を見れば、頭を抱えながらとても言葉にできないような複雑そうな表情をしていた。心中察するぜ。
「あわ、あわわ――」
そしてハンナを見ると、むっちゃあわあわしていた。
でもなんだか見慣れた光景で内心ホッとしたのは内緒にしておこう。
「推薦数が候補者たちの投票数を超えた場合、学園が候補に加えることを容認している。そして投票をし直した結果。暫定1位はハンナ君になった。それもぶっちぎりでな」
「なんてこった」
ローダ隊長のセリフに2回目の「なんてこった」が飛び出た。
ハンナ、いつの間にそんなに大人気になっていたんだ? 1000票って結構すごいぞ?
「あのぅ、辞退って」
「まあ、辞退は出来なくもない。だが、生産隊長になれば色々特典も多いぞ? 希少な素材とて真っ先に回してもらえるようになるし、今後の人生に箔が付く。これが一番大きい利点だ。他にも――」
「そういえばローダ先輩と初めて会ったときは〈キングアブソリュート〉が手に入れた上級素材で生産中でしたわね」
「懐かしいですね」
ハンナの辞退宣言にローダ隊長が〈生徒会〉生産隊長に就いたときの利点をあげる。
アルストリアさんとシレイアさんがこっそり話しているのを俺の耳が拾ってきた。
なるほど、素材が手に入りやすくなるのは良いな。
とはいえ、俺は強要はしない。やるもやらないも、すべてはハンナ次第だ。
「どうするハンナ? ハンナが決めて良いぞ?」
「え、えええ!?」
聞き方によっては許可を出したように聞こえる俺の言葉にハンナがとても驚いていた。
ちなみに俺がここにいる理由は、ハンナがこのままだと本当に〈生徒会〉代表になりそうだったためだ。というかハンナが頷けばほぼ決まりのような状態らしい。
そのため、前回ムファサ先輩に挨拶したときのように、〈エデン〉の許可を取りたいという意味を込めて説明してくれているわけだ。
「あのあの、ミーア先輩ではダメなんでしょうか? ミーア先輩今までとっても頑張ってきたのに」
確かハンナはミリアス先輩の選挙活動に参加して助けてきたはずだ。
ミリアス先輩の頑張りを一番近くで見てきたのはハンナだろう。
「まあ、ミーアちゃんの頑張りは知っている。それでも投票数は絶対だ。とはいえハンナ君が辞退すれば、ミーアちゃんが次点で生産隊長候補になる。2番目に投票数が多いのはミーアちゃんだからね――」
とそこまでローダ隊長が説明したときのことだった。
「はい! ハンナちゃんが生産隊長になるなら私は副隊長になるわ!」
「あれ!? ミーア先輩!?」
おっとここで急展開。ミリアス先輩がまさかのハンナの下に付く宣言をしてきた。
見ろ、ハンナが目をまん丸にしてるぞ。
興味深い展開。
「私が生産隊長になりたかったのには理由があるのだけど、今思い至ったのよ。そういえば私が生産隊長になりたかった理由って、もう達成されてるなって」
「ええっ!?」
ミリアス先輩の告白にハンナのはわわが増大している。
後でハンナに聞いた話では、ミリアス先輩は同僚のベルウィン先輩という現副隊長が生産隊長になるのが気に入らず、それなら自分がと立候補したのだそうだ。しかしそれは投票数ですでにミリアス先輩に軍配が上がっている。自分は副隊長でハンナが生産隊長に就いても達成できる。とのことだった。
「今までの選挙活動も、ハンナちゃんを生産隊長にするための活動だったと思えば、うん。受け入れられ――るしね!」
どうやらミリアス先輩の中で折り合いが付いた様子だ。途中でつっかえていたけど。
「ミーアちゃんはこう言っているけれど。どうするハンナ君?」
「え? で、でも私には〈エデン〉が、それに生産隊長なんて荷が勝ちすぎる気が――」
「そんなことないよハンナちゃん。ハンナちゃんはもっと自分の実力に自信を持つべきなんだよ!」
「は、はい!」
ハンナが自信なさげに言うと、ミリアス先輩がビシッとハンナに言い切った。
いいぞミリアス先輩もっと言ってやってくれ! ハンナは凄いぞ、自信持っていい。俺も断言する!
「大丈夫、ちゃんとフォローするから。副隊長に任せて!」
「み、ミーア先輩がもう副隊長気分です!?」
そうミリアス先輩がハンナの緊張を解きほぐすかのように言うと、他の人たちからもハンナに声が掛けられた。
「ハンナさん、選挙でトップになられるなんて友人としてとても誇らしいですわ。私に出来ることならいくらでもお手伝いします。だから頼ってくださいな」
「あ、アルストリアさん」
「わ、私も頑張りましゅ! ハンナ様を支え、〈生徒会〉を盛り上げます! ハンナ様なら学園をもっと盛り上げることも出来ます!」
「し、シレイアさんまで、あの私にそこまでのことは……」
シレイアさんの言葉にハンナができないと唱えようとしたようだが、今までの実績を顧みたのかそれ以上言葉が続かなかった。
ハンナ、むっちゃ学園に影響力あるからな。
「はいはい! 来年度からは学生もすっごく増えるって言うし、ハンナ様の生産力なら怒濤の時代も乗りきれると思いますよ! 俺も全力でサポートしますし!」
「さ、サトル君も」
うむ。サトルの言葉はとてももっともだった。
これから学生数がすんごく増える。
そんな怒濤の時代、強い隊長が求められるだろう。
ハンナの力ならそんな時代も乗りきれるかもしれない。
「うむ。ハンナ後輩、
「本当に気が進まなければ辞退しても構わないさ。しかしやるのであれば、〈生徒会〉はみんなハンナ君の助けになるだろう」
フラーラ先輩とローダ隊長の言葉に、周りを見渡したハンナは「は、はい!」と気合いを入れ。
「わかりました。みなさんが支えてくれるなら。やってみます」
力強くそう言った。
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