第1098話 決着。〈エルダートレディアン〉真の本体形態




 ゼニスの口から放たれた『ドラゴンブレス』が迫り来る枝を吹き飛ばした。

 一時だけ猛攻が止まる。


 だが、それも一瞬のことすぐに次々と枝が襲ってくる。絶える様子は見られない。


「く、これは!」


「きりがありません!」


 やっぱり第二形態相手では空中戦は厳しいな。

 よし、そろそろ第二形態の観察も終わりでいいだろう。

 俺が指揮を執る。あ、ちゃんとこのボスと戦うのは初めてだよと言葉の端々ににじませるのも忘れない。シエラたちとやるときみたいに指揮すると混乱させちゃうかもしれないから。


「フィナ! アイギス! 降りてきてくれ! こいつはどうやら空中にいる相手を優先的に攻撃するらしい! 地面に降りたときの反応を知りたい!」


「わかりました教官!」


「了解しました!」


「クワァ!」


 それっぽい理由を告げるとフィナとゼニスが地面に一気に降りてくる。

 すると枝が敵を探すかのように彷徨い始めた。


「攻撃が、来なくなりましたか?」


「今のうちに回復! フィナちゃん大丈夫だった!? 『MP譲渡』! 『ダークエリアハイヒール』!」


「ありがとうございます姉さま――ごくごく――これでMPは大丈夫です」


 フィナとアイギスが降りると、急に〈エルダートレディアン〉の猛攻が収まった。

 その隙に補給。エリサの『MP譲渡』と〈エリクサー〉によりフィナのMPは全回復する。アイギスの方はタバサ先輩が回復してくれたようだ。


「む、今度は向こうから根っこが来ています!」


「狙いは、フィナちゃん!?」


「ヘイトが生きているわ!」


「――受けますね。『エルガード』!」


 今度は根っこが伸びて攻撃。

 しかしそのターゲットはフィナだけだった。

 これはちゃんとヘイト管理が活きている証。


「……分かったわ。第二形態は、空を飛んでいたらダメなようね」


「だな。あの柵を破って本体に攻撃を加えていくのが正解のようだ」


 タバサ先輩も全容を把握し、俺もそれに同意して誘導していく。

 第二形態の攻略法は、なんと地上戦だ。

 一見防御柵の無い上空から狙えば良いと感じるかもしれないが、それをすると手痛いしっぺ返しを食らう。防御柵を破って攻撃する正攻法が一番被害を受けないのだ。


 襲い来る根っこと時々上から来る枝や種子の攻撃をすり抜け、眷属を倒し、ひこばえの柵を破壊して本体へと攻撃。ダメージを与えていくというのがセオリーだ。これも上下から来るので結構侮れないけどな。


〈山ダン〉のダンジョンは空を飛べる人がいればスムーズに階層門を見つけられる。

 その攻略法に頼りすぎて飛行系を使っているとここで叩き潰されるので要注意な点だ。さすがは上級の最奥ボス。


 しかし攻略法さえ分かってしまえばこっちのものだ。

 ちなみにこの柵の耐久力もなぜか守護型ボスの撃破数に応じて変わるため、守護型を1体も倒せていないと柵がなかなか壊せなかったりする。

 手間取っている間攻撃にさらされ続けるのでなかなか厳しくなる所だが、対策があれば問題は無い。


「『属性剣・火』! 切り開け! ――『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


「柵が開けたわ!」


「教官、凄い!」


「ゼニスはここで待機を。突撃します!」


「クワァ!」


「マンちゃんも行って! 突撃よ!」


「――――!」


 防御柵は〈斬撃〉と〈火属性〉に弱い。それに勇者の剣ブレイブスラッシュがあれば紙切れも同然よ! 弱点さえ攻めれば割と簡単に切り込めるのだ。 


 続いて柵へ突撃してくれた〈マンちゃん〉が防御柵を突破出来ずに止まってそのままぬいぐるみにされていたが、それはともかくだ。

 俺が切り開いた突破口からフィナとアイギスも入り、攻撃を加えていく。


 上からの枝と下からの根っこはフィナに任せ俺とアイギスが集中攻撃する展開が続くと程なく第二形態も打ち破り、第三形態へと突入した。


「やったわ! フィナちゃんたちすっごい!」


「姉さま油断しないでください。次が来ます!」


「みなさん離れてください!」


 第二形態のHPをゼロにし、エリサが拍手で出迎えてくれるがフィナがそれを諫める。アイギスの一言で俺たちも本体から離れた。防御柵は第二形態の終了と同時にしなしなになっているので余裕で離脱する。


 そして第三形態が登場。


 これが、またすごいんだ。


「何これ、マンドラゴラ? パペット人形?」


「あ、歩いてきます!」


 形態変化、ここにきわまれり。

 なんと本体は巨大な幹の殻を脱ぎ捨てるかのように、まるでマンドラゴラとパペット人形を合体させたような人型が幹からくりぬかれて歩いて来たのだ。

 残されたのは穴が開いた巨木のみ。

 これには全員がビックリする。「お前、それ脱げるのか!?」「さすが狂樹と名のつくダンジョンの主、こいつもかなり狂ってやがる」などと〈ダン活〉プレイヤーから猛ツッコミをもらった形態だな。さらに。


「剣を持ったわよ!」


「こっちは盾です!」


 こいつ、武装しやがった。剣、盾、槍、槌、鉈、斧、更に鎧などが装備されていき、武者のような姿へと変貌する。

 体長10メートル。巨大なマンパペ人形で腕が6本、ハニワのような顔をした〈エルダートレディアン〉第三形態は、なんと戦士に変化するのだ。ここでも守護型ボスの撃端数が影響し、5体全てを倒せていれば武装は一切無し、体格も小さくなるなど弱体化するのだが、今回は〈主枝〉しか倒していないのでなかなかに豪華だ。腕が8本生えてないだけ優しいか。


 これが別名〈真の本体〉と呼ばれていた、本当のボス形態。

 なぜ〈エルダートレディアン〉は〈主枝〉と〈本体〉で名称が分かれているのか、それはこのマンパペ人形こそが〈真の本体〉だからだ。

 あの後ろに脱ぎ捨てられた巨大樹木は〈真の本体〉に栄養パワー(?)を送る装置だったというわけだな。

 いや、割とどうでもいいな。そんなことよりも、来るぞ!


 突如、戦闘開始とばかりに振り下ろされる7メートルを超える大剣。


「! 受けてたちます! 『天障壁』!」


 ズドンという超級の衝撃が見た目10歳のフィナを襲った。

 しかしフィナは受けきった。盾を上にあげるポーズが勇ましい。強い!


「体格差がとんでもないわ――『快癒の儀式』!」


「あの体格であの強さ。さすがはフィナちゃん、かっこいいわ!」


 タバサ先輩は驚き、エリサは目を輝かせた。

 フィナのダメージは、それほどでもない。防御スキルで受けたので5%も受けていなかった。


 これは防御スキルで受けたからというのもあるが、純粋にフィナのステータスが高いのだ。その正体は『ミカエルの剣LV5』『ミカエルの盾LV5』『ミカエルの衣LV5』。これはパッシブで装備の能力値を上昇させるスキル。

 元々は『大天使の◯』というスキルだったが、『ミカエルの妙技』というスキルの効果で『ミカエルの◯』というスキルに進化している。

 ラナが持っている『加護』から『大加護』に進化させた『大いなる加護の恵み』と同じ系統だ。


 これに加え『大天使の盾技』という心得系のスキルを持つフィナは防御力がかなり高い。

 上級最奥ボスの第三形態であろうと受けタンクが出来る程だ。

 しかし、フィナは受けタンクだけではない。


「吹き飛ばすぜ――『ディス・キャンセル・ブレイカー』!」


「ありがとうございます教官。決めます――チェンジ『大天使フォーム』!」


 俺がボスをノックバックさせて受け持つと、フィナが今まで温存していた変身スキルを使う。

 翼が大きくなり天使の輪が輝いてフィナが大天使に変身する。


「『暴風雪』! フィナちゃん援護するわ!」


「タバサ先輩は状態異常サポートを!」


「『六転式札ろくてんしきふだ』! 『病魔払いの儀式』! サポートは任せて」


「おっしゃ! 行くぜフィナ! アイギス! ゼニス!」


「「「はい!(クワァ)」」」


 上空、中空、地上、それぞれに分かれて俺たちは斬りかかった。

 上空も第二形態ほどの猛攻では無くなっている。あの木は抜け殻になっているしな。


 第三形態の攻撃方法は戦士系。5本の武器を振り回し盾で防御するなどのスタンダード(?)な戦法に加え、地面から根っこの攻撃。これが様々な状態異常を引き起こす。しかも貫通が付いているせいで耐性を持っていても時々食らうので要注意だ。しかし状態異常については大丈夫だ。こっちにはタバサ先輩とエリサ、それにフィナも自分で状態異常を回復出来る。俺も出来る。


 さらにタバサ先輩の『六転式札ろくてんしきふだ』は例え食らったとしても、身代わりに式札が消えるという超効果を持っている。状態異常とかこのパーティには関係無い。


 警戒すべきは、あの抜け殻の木の自爆攻撃だ。最後の手段だな。

 こいつ自爆するんだよ。さすがは〈エルダートレディアン〉。あの初級ボスだった〈ビッグマッシュ〉と同じツリー系統にいるモンスターなだけはある。最後は爆発してくるのだ。こっちは通常スキルだが。

 あ、キノコがなんで樹木になるのってツッコミは無しで。俺にも分からん。


「『聖剣』!」


「ホ――――!」


 俺が『聖剣』でボスの動きを一瞬だけ止めると、そこへフィナが中空から躍りかかった。


「『エルライトブレイカー』! 『エルライトブレイカー』! 『天罰』! 『エルデュエルソード』! 『エルライトブレイカー』! 『エルライトブレイカー』! 『エルライトブレイカー』! 『エルライトブレイカー』! 『エルライトブレイカー』!」


「―――――!?」


 フィナの連打が突き刺さる。

『大天使フォーム』の変身中は『エル』の名の付いたスキルのクールタイムを軽減し、同じスキルなら無視して連打が出来るという超効果だ。

 これにより一気にHPが激減していく。


 マンパペ人形も6メートル級の盾をかざしたり、5本の武器で猛攻を仕掛けてくるなどかなり強力な攻撃を繰り出し、さらには根っこからの強襲を加えて反撃してくるが。

 根っこの攻撃はそもそもフィナの眼中に無い。

 激しく動き回り、武器を躱して盾を迂回し、背後に回り込んで攻撃したりとタンクとアタッカーを両立していた。フィナがヤバかっこいい!


 俺も負けてはいられないと〈五ツリ〉を使いまくった。


 そして、ある一定を超えたとき、マンパペ人形と幹が発光し始める。『直感』がガンガン警報を鳴らした。


「フィナさんストップです! 抜け殻の方から何か凄まじいものが来ます!!」


「クワァ!」


 どうやらアイギスも気が付いたらしい。おそらく『竜の権能』の効果だろう。

 俺はそれに便乗する。


「あれは、〈ビッグマッシュ〉戦の大爆発の兆候そっくりだぞ!」


「え、ええ!? 爆発するってこと!?」


「全員集まれ! フィナ! 防御スキルを!」


「はい! 『ミカエルの聖法』! 『エルワルツカーテン』! 『エルワルツカーテン』! 『エルワルツカーテン』!」


 攻撃を叩き込みまくっていたらマンパペ人形が動かなくなり、脱ぎ捨てたはずの幹の殻の発光がどんどん強くなっていく。

 すぐに全員を誘導して集めると、みんなを庇うようにフィナに大量のスキルを使用してもらう。

 そしてその時は来た。

〈真の本体〉が小さく丸まったかと思うと、幹が大爆発を起こしたのだ。


「「「「きゃあーー!!」」」」


 俺たちはそれなりに離れていたし、フィナが防御スキルを重ね掛けしていたが、それでももの凄い衝撃。

 フィナの『ミカエルの聖法』は結界スキル。さらに『エルワルツカーテン』は攻撃を不思議な力場によってねじ曲げ、フィナを避けるように明後日の方向へ向かわせるスキルだが、それを追加で三重に重ねたのが良かったのだろう。

 衝撃波はあったが俺たちは無傷ノーダメだった。そして。


「あれ? 〈エルダートレディアン〉は?」


「あそこでひっくり返ってる! ダウンだ! 全員総攻撃だーー!!」


「「ええーー!?」」


 自分の爆発でひっくり返る。よくあることだ。

 あの〈ビッグマッシュ〉も自分の爆発で光に還ったりしていたからな。

〈真の本体〉も同じく、爆発に巻き込まれ、こうしてひっくり返っていることがよくあるのだ。

 ということでこのダウンは見逃せない。


 フィナは『大天使フォーム』が切れてしまっていたが普通にアタッカーへ加わり、アイギスとゼニスがここぞとばかりにハニワの顔面に『ドラゴンブレス』を当てるなど強襲して、〈エルダートレディアン〉がダウンから回復する前になんとかHPをゼロにすることに成功したのだった。


「なんだか、途中から思っていた上級最奥ボスと違ったわ」


 そんなエリサの声が聞こえると共に、〈エルダートレディアンの真の本体〉は膨大なエフェクトの海に沈んで消えたのだった。

 そして残された場所には〈金箱〉が残されていた。


 キタ! 〈金箱〉キタぞーーーー!!



 ―――――――――――――

 後書き失礼いたします!


「このライトノベルがすごい!2024」の投票が開始されています!

 もしよろしければ〈ダン活〉へ投票していただけると嬉しいです!

 期限は9月24日(日)までだそうです!

 前回は16位でした。今回はもっと上位に加わりたい思いです!!

 よろしくお願いいたします!



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