第1095話 ダンジョン週間最終日。最奥へと到着。




 みんながエリアボス周回に嵌った。

 全部で7ギルドもいると自分の番まで回ってくるのがえらく時間が掛かるため、〈エデン〉の〈フルート〉も貸し出し、50層と51層の2箇所で吹くことになった。


 これは同じエリアボスは同階層に出現できないシステムのため、50層で複数の〈フルート〉を吹いてもボスが2体以上湧かないためだ。故に階層を分ける必要があった。


 階層門付近で周回です。

〈トリキスザク〉は飛行型なので、崖の上まで来れるのもここを選んだポイント。

 通常モンスターの邪魔を気にしないで周回できるのが良き。


 なかなか効率良く周回ができるようになったな。

 ちなみに〈エデン〉は〈フルート〉を貸す代わりに回復代は6ギルド持ちとなっている。なお、エリアボス周回には〈エデン〉も参加しているので、こちらの周回代は丸々浮くことになった。

 ふっふっふ、無料でエリアボス周回が出来るとかちょっとだけ嬉しい!


 サティナさんも〈フルート〉の回復代は6ギルド持ちで、笛を吹くだけで経験値が入ってくるので楽しそうに吹いてる。

 それに今回は無料サービスだが、これが広まったら今後はアイテムの使用を依頼として受けられるようになるだろう。サティナさんの懐も潤うし、【アイテムエンハンス】の有用性をどんどん示していこう!


「ゼフィルスさん、これ、回数1回になった〈フルート〉」


「おう。回復しに行ってくるな」


 各ギルドがエリアボス周回をしている間に回数の切れた〈フルート〉をサティナさんから預かり、レンカ先輩の下へ転移する。


〈上下ダン〉にいるレンカ先輩に「新しく〈フルート〉がドロップしたんだー」と報告したら「へー」と遠い目をしながら気のない返事をもらったよ。

 どうしたのかな?


「うん。いやごめんね。実は〈千剣フラカル〉も〈フルート〉を手に入れたらしくてね」


「マジで!? おお~。それはおめでたいな! マジおめでたいな!」


「うふふ。そうだね。おめでたいね。それで私のLVさ。もう25なんだけど?」


「早いな~」


「早いね~」


「ははは」


「うふふ」


 うむうむ。レベルが上がるのは良いことだ。

 レンカ先輩も笑顔だ。ちょっと笑顔が黒い気がしたけど、きっと気のせいだろう。


〈フルート〉は等級的には上級中位ジョーチュウ級なので経験値が多いのだ。

 それを差し引いてもレンカ先輩の下には連日のようにいろんな上級アイテムの回数回復依頼が舞い込むようになっていた。すごいなぁ。

 LV25といったらSPも潤沢。レンカ先輩のしたかった上級爆弾の作製も十分可能だ。


 それはそれとして、毎日のように指名依頼を受けているのでここから動けないらしい。

 ダンジョン週間中は9時から18時頃までここに常駐しているとのことだ。ありがとうございます! 助かります!


 待遇も悪くないらしい、むしろ手厚い待遇を学園から受けていると聞いているしレベルも超高速で上がっている。

 おそらく、嬉しい悲鳴ってやつを感じているんだろうなぁ。


 俺はレンカ先輩と少し話した後、回復してもらった〈フルート〉を持ってまたエリアボス周回へと戻った。


 ボス戦に慣れてきたら〈エデン〉から〈金箱〉のドロップ率を上げる〈金猫きんねこ小判こばん〉を貸してあげて、じゃんじゃん〈金箱〉をドロップしてもらえるようにする。

〈ハンター委員会〉はすでに持っていたので、他のギルドにも効果を説明。

 欲しければ〈エデン〉で販売もするよと囁いておいた。全ギルドが購入を求めた。


「〈金箱〉! って〈上級転職チケット〉か。誰か欲しい人~」


「「「「はい!」」」」


 俺の言葉に元気な声と手がたくさん挙った。


〈金箱〉は3、4回に1回くらいの確率で〈上級転職チケット〉が出るのだが、〈エデン〉〈アークアルカディア〉のメンバー分はすでに確保済みなので、合同攻略の時は他のギルドに譲るようにしている。もちろん、そのギルドの次の〈金箱〉は〈エデン〉のものだ。実質交換っこだな。


 すでに俺が〈上級転職チケット〉を当てて少し残念がる光景はみんなにとって見慣れたものになりつつある様子だ。……みんな最初はあんなに驚愕していたのに、ちょっと寂しい俺氏です。


 なお、俺以外の〈エデン〉パーティはこのダンジョン週間中順調に上級ダンジョンを攻略&周回中。ラナたちは〈山ダン〉を30層まで進めたとのことだ、現在は少し満足して〈嵐ダン〉でボス周回をしているらしい。


〈上級転職チケット〉もすでに5枚も確保しているとのことだ。だから積極的に他のギルドに譲ることが出来るわけだな。

 おかげで〈集え・テイマーサモナー〉のアイシャを始め、合同攻略に来ていたメンバーの中でまだ下級職だった人はすでに全員が上級職に就いていたりする。


 ちなみにアイシャは【シャドウ】の上級職、高の下【イモータルシャダウン】という防御支援系の魔法使いに〈上級転職ランクアップ〉していた。

 魔法タンク&バッファーだな。デバフも出来る。

 敵の攻撃を影で受けてシャットアウトするタンク系職業ジョブだ。


 これまでのようにテイムモンスターに影を纏わり付かせて身代わりにも出来る。

 アイシャにとっても嬉しい職業ジョブだったようだ。

 なお、俺がこっそり口を出したのは内緒の話。


 アイシャの職業ジョブは【暴食】に近いところが多いのでロデン先輩に色々聞いていたよ。おかげでこの数日でメキメキ実力を付けている。

 こりゃ、進級のクラス替えではアイシャは1組に食い込んでくるかもしれないな。


 連日の周回でアイシャを含む元下級職組も十分レベルが上がったことを確認し、俺たちは先へ進むことにした。


「いよいよ、最奥だね」


「大丈夫。私たちなら攻略出来る」


「「はい(ですよ)!」」


「おー」


「ここで攻略して帰って、防衛戦でも勝とう!」


 カリン先輩がギルドメンバーを激励していた。

 実はダンジョン週間に突入したときすでに〈集え・テイマーサモナー〉の防衛実績は切れていたのだが、今はどこのギルドも育成に必死、3年生は就活に必死、さらに言うと2年生合同攻略という俺たちの話題性が〈集え・テイマーサモナー〉へのランク戦申し込みに歯止めをかけていた。


 要は〈集え・テイマーサモナー〉に挑めば第2回合同攻略は確実にストップする。つまりは合同攻略の妨害だ。それは〈集え・テイマーサモナー〉だけではなく、〈エデン〉や他の参加ギルドを怒らせる可能性があるということ。

 誰もAランクやSランクにいる高ランクギルドに恨まれたくないということで、〈集え・テイマーサモナー〉はランク戦を挑まれなかったのだ。


 しかし、契約ではダンジョン週間が終われば合同攻略も解散。

〈集え・テイマーサモナー〉は力を付けたが、まだまだ不安でいっぱい。ここの最奥ボスを倒し、上級ダンジョン攻略者となり、実力を示したい様子だ。

 がんばってほしい。


 そう、実はダンジョン週間も今日で最終日。

 月日が経つのは早く、すでに2月に突入していた。


〈山ダン〉の最奥に到着した俺たちは、さて、誰から挑むかというところで話し合っていた。


「やはり最初はギルドマスターで行くべきじゃ無いか?」


「いや、ここには〈ハンター委員会〉〈エデン〉〈ミーティア〉〈ギルバドヨッシャー〉〈カオスアビス〉〈サクセスブレーン〉〈集え・テイマーサモナー〉の7ギルドがいる。2人弾かれるだろう?」


「弾かれた2人が不憫ですわ。それにもし、初見でその5人が攻略に成功すれば」


「弾かれた2人、ひいてはその2つのギルドは立つ瀬が無くなってしまうな」


「ならば自分のギルドで挑めばいいんだね。ギルドで挑めば勝つにしろ負けるにしろ不憫ということはないんだね」


「それにも問題はある。攻略者の証を手にしたギルドは先に帰還できるのだ。これがどういう意味を持つかわからんではあるまい?(順位付けとかマジやめて?)」


「あ~、先に凱旋した方が盛り上がるよね。最後のギルドなんて注目度はかなり下がっちゃうか~」


 各ギルドからメンバーを出し合って攻略するのも問題があれば、ギルド単位で攻略しても問題がある。その話し合いだった。


 まあ結局はギルド単位でボスの攻略を目指すことに決定することになる。

 この世界は実力主義。実力的に最後の攻略者になってしまったのであれば、それは受け入れようということだ。


「ふぅ…………(先に攻略しても注目され、最後に攻略すれば期待を裏切る、か。辛い……)」


 なぜかカイエン先輩が黄昏れていたけど、どうしたんだろう?


 そして順番を決め、今まで数多の上級ダンジョンを攻略してきた〈エデン〉がトップバッターで挑むことになったのだった。




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