第1096話 山ダン最奥ボス〈エルダートレディアン本体〉
「というわけで、〈エデン〉が最初にボスへ挑戦することが決まった! 目的はボスの情報を持ち帰り、共有して対策することだ!」
俺は自分のメンバーの元へ行き、先ほど決まったことを高らかに宣言する。
〈エデン〉がトップバッターに選ばれたのは、やはり慣れ。公式記録では〈エデン〉はすでに3箇所の上級ダンジョンを攻略した実績を持っている。証もチラチラ見せている。つまり、上級最奥ボス戦闘のスペシャリストだ。
故に、ボスと長く対峙でき、その分情報を持って帰ることが出来る。というのが理由らしい。別に倒しちゃっても良いのだろう?
この世界って最奥ボスを初見で攻略するって発想がないからなぁ。
何度も何度も挑戦し、メンバーを入れ替え攻撃パターンを見極めるなどして活路を見いだし、そうしてやっと撃破する。
なので最初〈エデン〉が選ばれたのは慣れからくる見極め役というわけだ。
まあ、なんとなく〈エデン〉ならこのまま攻略しちゃうんじゃ、的な視線を全方向から感じるけどな。ふはは!
今回の合同攻略のリーダーは〈エデン〉。もし攻略しちゃっても問題無しというのも理由らしいな。
「へ~。わるくないじゃない」
「そうですね。お望み通り1発攻略をして見せましょう。私と教官の力、見せてあげます」
悪魔っ娘のエリサが何かを企むような悪い顔で笑うと、横のフィナもグッと拳を作って気合いを入れる。
「相手がなんであれ、ゼフィルスさんがやられることがまず思い浮かばないわね」
「はい。どんなボスが待ち受けていようとも撃破できてしまいそうですよね」
タバサ先輩とアイギスの信頼の厚さを感じる。
よーし、ならばその信頼、応えてあげようじゃないか!
「じゃあ早速準備が出来たら行こう。まずは料理バフからだな」
「私はまだ継続しているからいいわ」
「私もです」
「あ、頂戴頂戴! さっき切れちゃったのよ」
「私にもいただければと」
「じゃあエリサとアイギスの分だな。今出すぜ」
初めての最奥のボス戦に料理アイテムは必須。
出したのは、いつも通りセレスタンが入れてくれた上級ティーだ。
エリサがレモンティーでアイギスのはロイヤルミルクティー。
それぞれバフの効能が違う。
「ありがとうご主人様!」
「ありがとうございます。いただきますね」
実はこれまでも毎日ティーを飲んでは攻略を進めてきた。
いやほんと、ティーって毎日飲めるのが良いと大好評だ。最大の強みだな。
ただ、手軽に飲める分、すぐに効果が切れてしまうものも多いが。
エリサとアイギスが飲んでいるのがそれだな。効果時間が4時間とかなので日に2回飲んでもらっている。多いときには3回だ。
わざわざテーブルと椅子を用意して、お茶を飲みながら作戦会議する。
すると、それを見た〈ミーティア〉のアンジェ先輩が声を掛けてきた。
「美味しそうですね」
「お、アンジェ先輩。どうしたんだ?」
「いえ、少し気になったものですから。ゼフィルスさんなら真っ先に門を潜りそうと思っていましたので」
「ああ。俺だけならともかく、彼女たちは最奥ボスに初挑戦だからな。準備は怠れないさ」
「なるほどです。準備は大切ですね。しかし、その準備の料理アイテム、いつ見てもお手軽ですね」
「だろ? 俺もこれにたどり着くにはなかなか苦労があってな。予想外のことが多すぎたよ。普通の料理アイテムは常食に向かないし、最終的にたどり着いたのがこれだったんだ」
アンジェ先輩は上級ティーが気になるご様子。お目が高いぜ。
この機会にお勧めしておいた。上級ダンジョンを進むにはできれば料理アイテムの補助があった方が良い、あるのと無いのでは雲泥の差だからな。
これまでの道中にもたまに常飲している姿を見せていたので〈ギルバドヨッシャー〉や〈ハンター委員会〉はすでに動き出している。
〈ミーティア〉もがんばって負けないよう動いてほしい。
「ご教授ありがとうございました。ゼフィルスさんに感謝を」
「ああ、いや俺の方も勝手に喋りすぎた。感謝は別にいらないさ」
その代わり強くなってね?
そんな副音声を載せてアンジェ先輩と喋っていると、――『直感』に警報。
そして横腹に衝撃!
「ドーン! ご主人様! エリサちゃんフルパワーよ!」
「準備完了です教官。早速ボス戦に挑みましょう」
「ごっふぁ!? お、おおエリサとフィナか。了解だ。あと次からは優しく抱きついてほしいな。――ということでアンジェ先輩」
「うふふ。ええ、ご武運をお祈りしています」
「さあさあ、行くわよご主人様!」
「教官、こっちに来てください」
「おおおう? そんなに急がなくても大丈夫だぜ??」
なぜかアンジェ先輩から引き離そうとするエリサとフィナに両手を引っ張られ、そのままタバサ先輩とアイギスが待つ、ボス部屋の門の前へと連れて行かれた。
「ゼフィルスさん、気合いを入れてね?」
「ゼフィルスさん最奥のボス戦ですよ。それも未踏破の。油断しているとゼフィルスさんといえど負けてしまうかもしれませんよ」
タバサ先輩とアイギスの注意が飛ぶ。
おかしいな。さっきと言っていることが違うような。俺はやられそうにないんじゃなかったっけ? そう思ったが、言わないでおいた。
うむ、誰でも負けることはあるよね。負けないが!
「ふ。大丈夫だ。すでに気力は満ち満ちている。俺の準備は万全だ!」
「ならいいのだけど」
「よし。みんな、準備は良いか!」
「「「「おおー!」」」」
「これからボス戦だ! 全員ベストを尽くせ! 目指すは初戦で攻略だ!」
「「「「おおー!」」」」
「では、出発!」
軽く激励して士気を上げ、俺はボス部屋の門を潜った。
すぐにエリサ、フィナ、アイギス、タバサ先輩の順に門を潜る。
本来はタンクのフィナを最初に潜らせるべきなのだが、なんとなく俺が先導する雰囲気だったのだ。
「……敵は、どこでしょうか?」
「大きな木が邪魔で部屋が見渡せないわね」
「――みんな、あの樹木から目を逸らすなよ?」
アイギスとタバサ先輩が警戒しながら辺りを見渡してそう言う。
ボス部屋の奥には巨大な樹木が鎮座していた。ただ巨大さがヤバい。大人が数十人規模で手を繋がないと囲めないほど幹が太い。その樹高は天井を貫通して部屋を突破、上の様子は分からない。
これまで遭遇したことのないほど巨大なボス。こいつこそ――。
「! 幹が動きました!」
「みんな警戒して! あの木がボスよ!」
そうフィナとエリサが気が付いたように、この木が〈山ダン〉最奥のボス。
高く高く、より高く、高すぎてボス部屋まで突き破った文字通りの天井破りのボス。
「こいつは――〈エルダートレディアン本体〉だ」
「あの守護型ボスの親玉って訳ね!」
即〈幼若竜〉で『看破』して名前を共有。エリサご明察。
35層から登場した〈エルダートレディアンの◯枝〉という名の守護型ボス。
50層までに北、西、南、東の枝として登場し、55層では
その本体が最奥のボス。このボスから伸びた枝が守護型ボスだったのだ。
故にその特徴として、枝が無事か消滅しているかで最奥ボスの強さが変わっていたりする。
35層から55層までの枝がその日倒されていればいるほど、本体の能力値が下がる仕様だった。逆に倒されていなければ能力値は高い。
守護型の〈◯枝〉がノンアクティブボスで、かつ倒すまでに時間を掛けなくちゃいけない、スルーされがちな仕様なのは最奥ボスの難易度に直結しているからなんだ。
今日は、55層の
とはいえ負けないぜ?
「まさか、あの天井を貫通した幹が枝分かれしていたのですか? あれ? でもここって崖の一番上のはずじゃ?」
なお、崖を登っていく階段仕様のダンジョンなのに、その一番上に本体がいることについてはツッコんではいけないぞフィナ。ダンジョンは不思議なのだ。
「! 動き始めました。ヘイト、取ります! 『天空飛翔』! 『天使の敵』! 『宣戦布告』!」
「おお~、眷属たちがワラワラ出てきた! まだ攻撃してないのに! しかも大きい! 太い!」
「眷属がこの大きさでこの物量、思ったより危険かも知れないわね。タンクが囲まれてヒーラーから見えなくなれば、回復が上手くいかない可能性があるわよ?」
「タバサ先輩の言うとおり普通のタンクなら厳しそうですね。ですがフィナさんなら空を飛べるので全く関係ないみたいです。攻撃もほとんど届いていませんね」
初手、フィナの飛行スキル。
空を飛んだフィナが続いて挑発スキルでヘイトを稼ぐと、〈エルダートレディアン〉の体からワラワラと眷属モンスターが現れてフィナに攻撃してきたのだ。
なお、空を飛ぶフィナに全然届いていないのでフィナへのダメージはほぼ皆無だった。
一部の眷属が『シードバレット』や『種マシンガン』などの遠距離攻撃で狙ってくる程度だ。
これが対策1。
タンクが空を飛んでいるだけで当たらない、である。
そして対策その2。
「エリサ。いつも通りやってやってくれ」
「まっかせてご主人様! 『ナイトメア・大睡吸』!」
「「「「! ―――zzz」」」」
「植物が寝るってどういうことよってツッコミはもう言い飽きたわ! まとめて光に還りなさい! 『夢楽園』!」
「「「「――――」」」」
眷属モンスターはボスでは無いので普通に状態異常がぶっ刺さる。
ダンジョンの道中でも〈良い夢をごちそう様〉戦法で無双していたエリサの攻撃は、ここの眷属にも有効なんだ。
数の暴力とか、この姉妹には効きません。
――――――――――――
後書き失礼いたします!
なぜ〈主枝〉と〈本体〉で別れているのかは後日判明します。
フィナ「崖の上に本体が居るのに、崖の下に枝が居るってどういうことですか?」
ゼフィルス「それはな、枝は地面から伸びていたんじゃないんだ、実は上から突き刺さっていたんだよ!」
エリサ「そうなの!!?? え、主枝も!?!?」
ゼフィルス「きっと重すぎて曲がっちゃったんだろうなぁ~」
ダンジョンって不思議ですね~。
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