第970話 〈エデン〉大暴れの裏。エンディングは見えた。




「お、おお、おおお!? 〈エデン〉が大暴れ、大暴れだーーー!!」


「これはなんとも……〈エデン〉はAランク昇格のチケットを得ても止まらないようですね」


「予想通りだったわね」


 実況席では〈エデン〉の止まらない大暴れにキャスが湧き、スティーブンとユミキは予想通りとコメントする。


「スティーブン君スティーブン君!」


「はい。聞こえていますよキャスさん。隣にいますからね」


「〈エデン〉の快進撃が止まらなさ過ぎて私は困惑なんだけど! というかどこを見ればいいの!?」


「観客席も盛り上がっているところと阿鼻叫喚な場所がありますね。今ので〈筋肉は最強だ〉〈ミスター僕〉〈集え・テイマーサモナー〉〈ダンジョンライフル〉〈サクセスブレーン〉に少なくないダメージが入りましたからね。阿鼻叫喚しているのはその関係者でしょう」


「黄色い悲鳴を上げているのはファンクラブね」


「ちょっと暴れすぎなんじゃない!?」


「そうとも言えません。攻撃は最大の防御という言葉もあります。相手の戦力を削っておけばそれだけ自分の拠点に手を出されるリスクが減る。という作戦の可能性もあります」


「でも普通はリスクが高すぎないかな!? 逆に各個撃破されればせっかくのAランク昇格権が水の泡に消えるかもだよ!?」


「〈エデン〉もその辺はわかっているみたいよ。良いところで引いているわ。今の所誰も退場していないのがその証拠ね」


「そうですね。逆にもっと違う理由なのかもしれません」


「Aランク昇格権を手に入れても出撃する理由とは!?」


「冷静に考えれば成績上位ギルドからギルドハウスを選ぶことが出来る。というところですね。新築の3棟のどれかを得たいのであれば……いえ、それも暴れるに足る理由では無い気がしますね」


「おおっとスティーブン君でも頭を悩ませる難問だーー! 〈エデン〉は全体のギルドに攻撃を仕掛けまくっていったい何をするつもりなのか!?」


「案外、遊びたいだけなのかもしれないわよ?」


「いやいやいやユミキさん! このAランク昇格のビッグチャンスの場で遊ぶってそんなわけ無いでしょ!」


「そ、そうですね。ふう、少し冷静になりましょう。〈エデン〉引き際も見事なものです」


「〈ミスター僕〉のギルドがほぼ総力戦で対抗したのにボコボコにされたけどね!」


「いや、ほんとに何で〈エデン〉があれほど優勢なんでしょうね? 相手はBランクギルドが総出でお出迎えですよ? なのに〈エデン〉は5人でなぜ優勢なのか」


「おかげで〈ミスター僕〉とにらみ合いをしていた〈サンダーボルケーション〉が引きこもって震えているし」


「あそこは少し前にマッスラーズにやられたのだし、そのせいもあるでしょうね。周りでマッスラーズと〈エデン〉が活発に動いているならそれは動けないわ」


「触らぬ〈エデン〉に祟りなしー!」


「いえ冗談ではなく本当にそうです。特にギルドマスターゼフィルスが率いて西に向かった集団、あそこで〈筋肉は最強だ〉とぶつかっていなければ〈サンダーボルケーション〉に来ていた可能性もあります」


「まさに災害ね」


「災害扱いになってるよユミキさん!?」


「ですが〈筋肉は最強だ〉も素晴らしい。今のところ一番被害を抑えているのはかのギルドです。〈炎主張主義〉との対戦では5人が、そして今回は1名の退場者が出たとはいえ、〈エデン〉と当たって被害をここまで抑えているのは素晴らしいですよ」


「〈マッチョーズ〉を引き込み、ギルドメンバー全てを【筋肉戦士】にして揃えた優勝候補の一角。元Bランク非公式ランキング第二位の名は伊達ではないわね。また筋肉ブームが来るのかしら?」


「状態異常に強い耐性が出来てたのが本当ビックリした! まさかあの高価なポーションを飲んで突撃してくるなんてね! マッスラーズの懐具合は大丈夫なのか!?」


「マッスラーズは装備にお金を使いませんからね。懐にはかなり余裕があるようですよ」


「〈エデン〉を止められるのはマッスラーズだけなのか。〈エデン〉を唯一退かせた〈筋肉は最強だ〉の次の一手に期待ね!」


「さて、最も話題を避けていた部分、中央のデカマス山の攻防の話題に行きましょう。一ついいでしょうか? あれはなんだったのでしょう?」


「私に聞かれてもわかるわけ無いでしょスティーブン君! というか本当になんだったのあの船は!? 槍を発射してたよー!」


「凄まじい威力でしたね。あれを運転していたのは、奇抜な乗り物を足にくっつけて戦うことで有名なエステル女史だということが分かっています。つまりあれも何らかの乗り物なのでしょう」


「〈馬車〉はどこいった!」


「ええ、本当に。馬車にプラスして砲撃機能付きというところを見るに〈戦車〉ではないかという意見が濃厚のようですね。ユミキさんは何かご存じでしょうか?」


「ノーコメントよ。後で〈エデン〉に取材に行くから。話が聞けるなら聞きたいところね」


「よろしくお願いいたします。私もあれが気になって夜も眠れません」


「ってあああ! また〈エデン〉が飛び出した! 第二陣だ!」


「一旦は撤退した〈エデン〉がほとんど間をおかずに飛び出しました! 先ほどと同じような展開です!」


「観客席の悲鳴と応援が凄まじい! もしかして〈エデン〉はファンサービスに応えて出撃している説もありうる!?」


「ありえそうで恐ろしいわね」


 何しろ〈エデン〉ギルドマスターゼフィルスが手を振りながら走っているのだ。

 誰がどう見ても楽しみまくっている。

 そのままゼフィルスたちはピラミッドを左回りに迂回しながら進んでいった。


「おっとこのままでは〈ハンマーバトルロイヤル〉とぶつかるぞー!?」


「かのギルドは先ほど見事な撤退をしておりました。〈エデン〉の攻撃をどう凌ぐかが注目されます」


「あっと〈ミスター僕〉でも変化があったー! 王女様たちが退いて行きます! 〈ミスター僕〉ボコボコにされ退場者が多数出ている模様だー!」


「! てっきり拠点を落とすところまで行くのだと思いましたが、このタイミングで撤退ですか? このままではどこかに奪われてしまいますよ」


「さすがにクールタイムやMPが厳しいのかしら」


「あっと様子見していた〈サンダーボルケーション〉が動いたー! 〈ミスター僕〉狙い!?」


「〈ミスター僕〉も風前の灯ね。ギルドマスターもやられてしまったようだし、これは落とされる可能性が高いわ」


「あ! スティーブン君今度は南側見て! 〈集え・テイマーサモナー〉が〈ダンジョンライフル〉の拠点を攻めるみたいだよ!」


「! これは妙手みょうしゅですよ。お互い〈エデン〉にボコボコにされた口ですが、ピンチは逆にチャンスでもあったわけですね」


「これは予想外の攻勢だー! 〈ダンジョンライフル〉が浮き足立っているー!」


「おっと!? 東側では〈表と裏の戦乱〉が南下し始めました! これは〈氷の城塞〉を目指しています!」


「いきなり各箇所が動き始めたーー! これはいったいどういうことなんだー!?」


「なるほど、〈エデン〉が暴れたことで均衡が崩れたのね。どこのギルドも早くこの〈拠点落とし〉を終わらせる気なんだわ。〈エデン〉に襲われる前に」


「おっと南でも動きがありました!?」



 ◇



「私たちを捕まえて、どうする気よ」


「くっ殺せ」


「それは女騎士のセリフであろう」


 ここはフィールド南のとある場所。

【悪の女幹部】のアキラと【アベンジャー】のケシリスが縄でグルグル巻きにされ捕らえられていた。

 そしてその前には1人のスレンダー系の女性。

 そのスレンダー女性が2人に言う。


「なに、少し頼まれてほしいのだ。カイエンに直接これを届けてほしい。それさえしてくれれば解放しよう」


「な、解放するですって? このまま人質として使うのではないの?」


 女性の言葉にアキラは訝しむ。いつものオホホ笑いはなりを顰め、自分たちを捕らえたのに解放すると言った女性に疑いの眼差しを向ける。だが、女性は一つ溜め息を吐いた。そして言った。


「人質とは価値ある存在でないと効果が無いのだ」


「ちょっとそれどういう意味よ!?」


「こ、こんのー言わせておけば!」


「まあまあ落ち着け。解放すると言ったであろう。それともここで退場するほうがよいか?」


「くっ」


「くっ殺せ」


「いつまでクッコロの真似をしとるのだ?」


 不利な立場に変わりない賊職女子たちは結局スレンダー女性の要求を飲み、解放される道を選ぶことになる。


「「お、覚えてろーー!」」


「清々しい悪役っぷりよな」


 スレンダー女性はその去って行く賊職女子たちを見て感心したように呟いていた。




 そうして〈サクセスブレーン〉の拠点に戻ってきた賊職女子たちがカイエンへと報告する。


「以上が報告よ」


「なるほど、悪くない。〈エデン〉の動きが活発になって勝負を急がなければならなくなった」


「カイエン、あの女は信用出来るの?」


「ああ。彼女は出来ないことはしない女傑じょけつだ。やると言うのならやるだろう。〈サクセスブレーン〉も遅れるわけには行かない。おかげでこのギルドバトルを終わらせることが出来る」


 こうして〈エデン〉の動きによって様々なギルドが動き出し、これまで慎重に事を進めてきた〈サクセスブレーン〉も大きく動き出すことになる。

 カイエンの中にはギルドバトルの終わりへの筋道がすでに完成されていた。


「動くぞ。全メンバー集結だ」


 スキルを使い、フィールド中に散らばったメンバー全てに通達を行なった。


「……〈表と裏の戦乱〉、共闘出来るのはどうやらここまでだ。先ほど〈世界の熊〉を通したツケ、払ってもらうよ」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る