第971話 〈サンダーボルケーション〉VSマッスラーズ?
ここはフィールドの北側。
〈エデン〉から見て北西、〈筋肉は最強だ〉から見て東、〈ミスター僕〉から見て西側にある拠点、そこで亀のように引きこもっていたのはBランク非公式ランキング第九位〈サンダーボルケーション〉。
名前の由来は〈サンダーボルト〉と〈バケーション〉の組み合わせだ。
直訳すると〈電撃戦と休暇〉みたいな意味を持つ。名前の通り、速攻とヒットアンドアウェイが得意だ。
また〈雷属性〉が得意なギルドでもあった。とはいえそれだけに特化したギルドというわけでもない。
その実力は順位から見て分かるとおり可もなく不可もなく。
それなりの実力を持ってはいて、〈雷属性〉対策をされても別の攻撃手段を持つなど〈炎主張主義〉よりも柔軟な行動が出来るためこの順位についていた。
そしてここのギルドマスターはギルドの名前とは裏腹に慎重に行動することで有名だった。
相手に隙が出来るまでは動かず、斥候を放ち続け、相手に隙を見つけたら電撃戦のごとく速攻で仕留める。もしくは狩る。
だからこそ近くに非公式ランキング第十六位の〈ミスター僕〉と睨み合いをして均衡が崩れるまで攻めることはなかった。その間に周囲を知ることにこそリソースを振っていた。
つまりは辺りに斥候を放ちまくっていたのだ。
しかし、それが逆に〈サンダーボルケーション〉を苦しめることになる。その斥候がマッスラーズと〈エデン〉に次々と討ち取られてしまったからだ。おかげでかなり人数を減らしてしまった。
これではお得意の電撃的戦法も使えず、もしこちらの人数がかなり減っていることを〈ミスター僕〉に知られれば逆に攻め落とされかねない。
故に睨み合いを続けるしか無かった。
しかし、その均衡がとうとう崩れた。
「〈エデン〉が派手に動き出したわよギルマス、どうするの!?」
「このままだと蹂躙されるのも時間の問題だ!」
「分かっている」
〈サンダーボルケーション〉のメンバーの言葉に焦りの表情を浮かべるのはここのギルドマスター、ボルス。肩まで伸ばしたロン毛にサングラスをした男子だ。
ポイントを豊富に手に入れていたはずの〈エデン〉だが、動くのは想定の範囲内だ。出来ればそうならないでほしかったとは思わずにはいられないボルス。
だが、当初の予定通り動くしかない。
「慌てるな、予想できたことだろう! 〈エデン〉が動くなら俺らも動く必要がある。それだけだ」
ボルスの一喝でギルドメンバーの騒ぎも少し収まる。
そう、これは想定の範囲内。
〈エデン〉は今まで全ての〈拠点落とし〉でタイムアップまで行ったことが無い。それはポイントに余裕があっても変わらない。
最近では〈城取り〉でもコールド勝ちばっかりで判定までいかないKOギルドだ。
Aランクギルドに確実昇格できるポイントを稼いだからといっておとなしくしていると考えるのは考えが甘すぎる。
じゃあどうするか?
〈エデン〉が動けばそこにできるのは屍の山だ。まず近隣は全てやられてしまうだろう。
そして残念なのは〈サンダーボルケーション〉がその近隣に含まれていることだ。
同じく警戒していた〈ミスター僕〉は現在蹂躙されている。可哀想に。
「当初の予定通りだ。〈エデン〉が俺たちのギルドを襲えば生き残ることは困難だろう。故に、他のギルドを潰し、俺たちの番になる前にこの〈拠点落とし〉を終わらせる!」
「「「「応!」」」」
「「「「はい!」」」」
これが対策。いや、対策と言えるのか分からないが、要はやられる前に終わらせてしまえ作戦だ。
生き残りが6ギルドあればいいのなら、速攻で他の拠点を落としまくり、災害の手が自分たちに伸びる前に試合を終わらせてしまおうという特攻作戦である。
すでにBランク非公式ランキングで第一位の〈サクセスブレーン〉や第八位の〈集え・テイマーサモナー〉、第十位の〈表と裏の戦乱〉に事前に協力すると決まっていた。というより〈サクセスブレーン〉によってもたらされた協力願いだった。
〈エデン〉が派手に動いたら自分たちも派手に動こうと。
本当は他にもいくつか協力願いを出していたギルドはあったのだが、それらはすでに退場してしまっている。
自分たちもそうならないため、命がけで勝ち残るしかない。
「それでボルス、どこに攻める?」
「一番近いのは〈ミスター僕〉だが〈エデン〉が攻めている。これを横から掻っ攫うのはよろしくない。近いのは〈筋肉は最強だ〉と〈ハンマーバトルロイヤル〉の二つだが、どちらも格上だな」
「ま、マッスラーズには行きたくないわ」
「「私も」」
「ああ、そうだな。なら、〈ハンマーバトルロイヤル〉に攻める――」
満場一致で〈ハンマーバトルロイヤル〉を攻めるかと決まりかけたときだった。
そこに急報が飛び込む。
「大変だ! 〈ミスター僕〉を攻めていた〈エデン〉が退いた!」
「なんだと!」
「確かなのか!?」
「ああ、だが〈ミスター僕〉が追い返したというより見逃された感じなんだ」
「どういうことだ?」
〈エデン〉が退いた。
信じがたい事実。情報も錯綜していて分からない。
実際はラナたちにやり過ぎと警告が出たので引いただけだ。あのままだとそのまま拠点を落としかねない勢いだったのでリーナが止めたのだ。
十分楽しんだラナたちは意気揚々と拠点に帰還していった。
「どうするギルマス? 俺たちが総出で〈ハンマーバトルロイヤル〉に向かえば〈ミスター僕〉に落とされる危険があるぞ」
どうせ〈エデン〉に来られたら落ちる。
生き残るには速攻による総出の特攻が良いと判断した〈サンダーボルケーション〉のメンバーたちだが、先ほどから睨み合いをしていた〈ミスター僕〉が生き残ってしまったのはよろしくない。〈エデン〉以外から隙を突かれるのはダメだ。それは後悔が残る。
「やむをえない。〈ミスター僕〉は弱っているな?」
「はい。計測班が確認したところ、最低でも15人が退場しています」
「15人!?」
「え、〈エデン〉がヤバい」
「ごほん。なら俺たちが蹂躙しよう。ここには5人を残し、まずは〈ミスター僕〉を速攻で沈め、その後〈ハンマーバトルロイヤル〉へ総出で向かうぞ! 〈エデン〉は一度撤退戦をしたことで少しくらいなら自分の拠点から出てこないだろう。その間に締める!」
「「「「応!!」」」」
こうして〈サンダーボルケーション〉は〈ミスター僕〉へと挑み、〈ミスター僕〉を1人の退場者を出すだけの被害で拠点を落とすことに成功する。
〈ミスター僕〉のサブマスターゴロウは、もうどうにでもなれ! と言って退場していったらしいがそれも結局誰の記憶にも残らなかった。
こうしてまた一つのギルドが陥落し、テンション高めに拠点に帰ってきた〈サンダーボルケーション〉だったが、そこで見たものは。
「へい、サンダーたち、元気にしているか?」
「俺たちと筋肉しようぜ?」
「……マッスラーズ!」
そこには防衛モンスターを蹴散らし、居残り組5人と絶賛バトル中の〈筋肉は最強だ〉のメンバーがいたのだった。しかも15人くらい。
〈サンダーボルケーション〉は外組が12人。拠点に5人。
見事に留守を突かれていた。
「ふっ、声も出ないようだな」
アランがキランと歯を光らせる笑いとキレッキレのポーズを取ると、筋肉たちもそれに続く。そして戦闘が始まった。
「はっは! 行くぜ? 〈マッスルポーズ〉!」
「すげえぜアラン!」
「そのポーズ、とても切れてるよ!」
「ナイスバルクだ!」
「くっ!?」
マッスラーズのメンバーが全員一歩前に出れば〈サンダーボルケーション〉が一歩下がる。
〈サンダーボルケーション〉はとてもおののいていた。
「来ないのか? なら、こっちから行くぞ?」
アランがそう言うと、片手を挙げ人差し指を上に向けるポーズで叫んだ。
「行くぞ! 〈マッスラーズコール〉だ!」
「「「「応っ!!」」」」
また何か筋肉技が飛び出す予感。
横にならんだ筋肉たちは、グッと腕を内側にいれて体を丸め、溜めのポーズを取ったかと思うと、一気に開放し胸を張り腕を上へ向かせて上腕二頭筋を盛り上げる筋肉ポーズを取った。
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
そして叫ばれるコールの嵐。
マッスラーズの「マ」の部分で体を丸め、「スラーズ」のところで筋肉ポーズ。
それが繰り返される。
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
それは筋肉を呼ぶ儀式。
そしてコールの雨の中、黒いマントとぴっちぴちのライダースーツを着ている影が宙を跳び、〈筋肉は最強だ〉と〈サンダーボルケーション〉外組の中間地点に着地したのだ。
「ふ、呼んだか? このマッスルを」
マントの男が不敵に言う。
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!!」」」」
その後ろにまるでバックダンサーのようにコールする筋肉たち。
「ふ、いいだろう。見よ! これこそが筋肉、俺こそがマッスルだ! ふうんんんん―――『パージ』!」
「ボォンッ!」と弾ける服。裸族の仲間入りを果たす筋肉。
これは黒マントの服に付与されたスキル、『パージ』のスキルだ。
効果は文字通り、自分の服をパージする、だ。
「「「「きゃあああああ!?」」」」
悲鳴発生。
〈サンダーボルケーション〉の女子が悲鳴を上げた。一部黄色い悲鳴も混ざってる。
観客席の盛り上がりも増した。
そこに居たのは紛れもなく〈筋肉は最強だ〉のギルドマスター、マッスル――ではなくランドルだった。
この〈マッスラーズコール〉とは、ランドルを召喚するコールなのだ(?)。
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