第959話〈エデン〉が昇格ラインを突破? 動きだすギルド




「ああっと〈中毒メシ満腹中〉も落ちたーー!? これで四つの、いえ五つのギルドが陥落したことにー!!」


「これは〈エデン〉、対策を練っていたのでしょうか? 途中から〈中毒メシ満腹中〉が手も足も出なかったように見えました」


「対策を練っていたというより対策が最初からあったというか、本当に〈エデン〉は不思議なギルドね」


 実況席ではパターン化してきたキャスが叫び、スティーブンとユミキが解析する形で実況中だった。


「というかあんな頭が五つくらい飛び出たギルドが対策までしてきたらいったいどうやって戦えって言うんだー!」


「まったくよね」


「今観客とキャスさんの心が一つになりましたね。〈エデン〉が全力プラス対策まで練って攻めてきたらもう諦めるしかありません」


「Bランクギルドのスローガンは『〈エデン〉はけよう、〈エデン〉はけよう。向こうから来たら諦めよう』だからね」


「そんなスローガンがあったの!?」


 ちょっとユミキがボケつつキャスがツッコミを入れて場を和ませる。


「あと私、すごく気になったことがあるんだけどさ」


「なんですかキャスさん?」


「あの〈新学年〉トップのアイギスさんが使役しているのって、竜なんじゃないかなって」


「……そう思うのは私だけではなかったようですね」


「やっぱりスティーブン君も思ったんだ! アレ竜だよね!? 小さくて可愛いけど! 伝説の竜だよね!? 竜なんてどこに居たの!?」


「僕には判断が付きません。見たことがありませんからね。ユミキさんはどうお考えですか?」


「ノーコメントとさせてもらうわ。でも、〈エデン〉なら伝説の竜でもテイムしても不思議じゃないわね」


「すごい説得力だー!」


「『ドラゴンブレス』とか聞こえたような……」


「なぎ払っていたわね。小さいのにとっても強かったわ」


「あれは欲しがる人多いよ! だって強くて可愛いもん、私も欲しーー!!」


「竜じゃなくてもあのモンスターは人気が出るでしょうね。しかし、やはり見たことはありません。上級モンスターでしょうか?」


「間違いないでしょうね。中級以下のモンスターは全て記憶しているけれど、あんなモンスターは見たことがないわ」


「〈エデン〉は上級で色々と騒がれていますからね。これはまた上級ダンジョンへの熱が上がりそうです」


「観客もさっきから沸き上がりまくってるーー! でも上級ダンジョン行くなら気をつけてーー!」


「竜の話もしたいところですが、今はAランク戦の真っ最中。話を戻しましょう」


 このままだと竜の話でAランク戦の解説が忘れ去られそうだったためスティーブンが修正。〈エデン〉の勝利とまさかの竜登場!? で沸きまくった観客席が落ち着くまで雑談する。


「でもこれで〈エデン〉は1200Pを超えたわね。それどころか1600P近く稼いでいるのだけど」


「さすがは、〈エデン〉強し、ですね。Aランクの昇格ラインと言われていた1200Pの壁をもう越えてきました」


「昇格するのは6ギルドで、参戦したのが18ギルドだからね」


「そうです。つまり二つの拠点を落とせば昇格のラインを突破出来るというわけですね。時間切れも考えますと、7ギルドが残ったとして1200Pを獲得していれば昇格ライン。という基準です。かなり大雑把ですが間違えてはいないでしょう」


 集まった観客席の人たちに向け、説明口調で解説するスティーブン。


「これで〈エデン〉はリスクのある攻めをせずとも守りに徹すれば昇格ですね」


「おおっとー! やはり一抜けしたのはこのギルドー! 新進気鋭の1年生ギルド〈エデン〉だーーー!!」


「「「「おおおおおおーー!!」」」」


 キャスが絶妙なタイミングで〈エデン〉を盛り上げ、観客を沸かす。


 もう〈エデン〉はAランク昇格を果たしたも同然だ。

 後は守っていれば勝ちである。そして、〈エデン〉の拠点はあの要塞だ。誰も近づくまい。


 というわけで昇格出来るのは残り5席だ。うん、前評判から何も変わらない。予想通りである。

 キャスとスティーブンもその流れを読みきり、他のギルドに焦点を当てて説明していく。


「今のところAランク昇格にリーチを掛けているのはー、いつの間にか〈零の支配〉を倒していた〈新緑の里〉が798点で2位ー! そして〈炎主張主義〉を下したギルド〈筋肉は最強だ〉788ポイントで3位だー!」


「そして〈サクセスブレーン〉の動きに便乗して倒しきった〈氷の城塞〉が600ポイントで4位ですね」


「そしてそれを追いかけるのが〈サクセスブレーン〉! まだ拠点こそ落としていないものの、〈集え・テイマーサモナー〉ギルドと組んでの〈ダンジョンライフル〉にプレッシャーを掛けておりまーす!」


「〈サクセスブレーン〉の動きはいつ見ても素晴らしいですね。〈エデン〉が近いために動きづらそうではありますが、他のギルドのように引きこもらずに出来る限りで動いていますから」


「ピラミッド山の周りにある囲いの中の拠点と外の拠点で動きが全然違うものね。中にある拠点は中央の5×5マス、デカマス山のおかげで上手く動けないのよね」


 鮮やかに相手の人数を削り、ポイントを掠め取っているのは〈サクセスブレーン〉だ。

 これこそが王道とでも言わんばかりの戦法で〈クラスメートで出発〉を皮切りに、次に近い〈ダンジョンライフル〉の拠点へ狙いを定め、自分たちに被害を出さないよう上手く防衛モンスターを狩りとっていた。

 その賢いやりかたにスティーブンが唸る。


「それはそうと、〈エデン〉が再び自分の拠点に引き上げてから他のギルドの動きがだんだんと活発になってきているみたいよ」


「これは――〈エデン〉が昇格ラインを超えたことで動かなくなると予想したギルドがようやく動き出した模様です!」


「なるほど! 動かないとポイント貯められないからね! いよいよ本格的に動き出したかー!」


「〈エデン〉は予想通り拠点に戻りましたね。今後動くのか動かないかは不明です。たまに斥候が様子見に近づいては宝剣にズドンされていますが。近づかなければ問題なさそうでしょうか」


「ということでランキング下位から上位まで、次々フィールドに出てきたー! 〈拠点落とし〉はここからが本番かーー!」


「みんな〈エデン〉をどれだけ恐れていたかというのが分かる光景ですね。しかし、〈エデン〉はおとなしくするのでしょうか? なんとなく、まだまだ波乱が起こりそうな気がしてなりません」


「同意ね。〈エデン〉がこのままジッと引きこもっているなんてあるのかしら?」


 スティーブンとユミキが不穏なことを言っては観客は盛り上がるのだった。



 ◇



〈サクセスブレーン〉のギルドマスターカイエンは各所に指示を飛ばしていた。


「〈ダンジョンライフル〉戦、お疲れ様。みんな見事だ。次は〈明るい光の産声〉を狙う。そうだ、ピラミッド山を越えるぞ。〈エデン〉が拠点に引きこもっている間にポイントを確保する。そろそろこちらも本気を出すぞ――〈氷の城塞〉? 今はまだ放置でいい。やるべきことを見失うな」


 無理をする必要は無く、高い順位を取る必要も無い。

 ただ堅実にポイントを稼ぐ。

 それだけで勝利は自分たちの手に転がってくるのだ。

 カイエンは、それをよく理解していた。


「少しのアクションで最大の成果を狙う。行くぞ。ピラミッド山に突入だ! 『暗号送信』!」


 彼がいるのは〈サクセスブレーン〉の拠点内部。

 独り言を呟いているようにしか見えない彼だが、スキルを使用した時その手に握っているものにエフェクトが纏う。


 それは一見電卓に見えるもの。とある【ブレイン】専用アイテム〈電脳機械〉だ。

 カイエンの職業ジョブ【ブレイン】は助言を得意とする、【参謀】の上級職。

 そのスキルの一つ『暗号』系は〈電脳機械〉に書かれた特定の文字を離れた仲間に送ることが可能だ。

〈学生手帳〉のメッセージ機能はギルドバトル中は使えない。

 それに代わる情報媒体となるこのスキルは非常に有用だった。


 これだけでどれほど重要なものかわかるだろう。リーナの『ギルドコネクト』の劣化版ではあるが、全員に送信することも出来、クールタイムが短いのも魅力的な部分だ。


「『暗号受信』! 『電脳解析』!」


 しかも『暗号受信』で味方が書き込んだものまで受信することが出来るため、離れていても相互通信が可能だ。味方は〈学生手帳〉に書き込めば良いので〈電脳機械〉を複数確保しなくていいのが素晴らしいところ。


 カイエンはこれで様々な場所に送り込んだ人員から膨大な情報を集め、『電脳解析』によって情報を分析、一瞬で理解する。

 ゲームの時はパーティ系のバフ扱いだったが、リーナの『ギルドコネクト』同様化けていた。


 これを使い、Bランクギルドのフィールドでの動きを脳内で構築し、指示をドンドン出していく。


「『〈世界の熊〉に動きアリ、警戒されたし』か。問題は無い。ギゼル班の作戦は続行だ。こちらは例の作戦デルタを実行する。〈表と裏の戦乱〉に至急連絡だ。ナギ、コブロウ、頼むぞ」


「任せて!」


「任務の成功を約束する」


 時には威厳たっぷりに直接メンバーへ指示を出すのも忘れない。


〈エデン〉が拠点に篭ったことで他のギルドが活発に動き出した今がチャンスだと、〈サクセスブレーン〉は次々攻めに転じていく。


「頼むからもう動かないでくれよ〈エデン〉。今のうちに速攻で終わらせる準備を整える!」


 カイエンは頑張る。




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