第958話 料理を奪われた〈中毒メシ満腹中〉陥落。




「ゼニス、行きますよ」


「クワー!」


「『竜の息吹』!」


「クワー!」


 駆けるチーちゃんたち3体とその上に騎乗するフラーミナとアイギス。

 リカを追いかけるようにして〈中毒メシ満腹中〉の拠点へ向かう途中、アイギスがスキルを使った。


『竜の息吹』はテイムしている竜によって効果が変わる特殊なスキルで、主にサポートとして使われる。

 アイギスの上を飛んでいた、ゼニスが口からキラキラ光る緑色の息吹を吐いた。


〈聖竜の幼竜〉の息吹はバフと回復だ。

 息吹を浴びた全員の攻撃力、魔法力を上げ、HPを中回復させる。

 スキルLV10なのでかなりの効果だ。

 ビームの余波でほんの少し受けていたダメージも即座に全回復しバフが付いた。


「たぎってきたよー! チーちゃん突撃ー!」


「プルプルー!」


「攻撃を引きつけるわ『インダクション・フォートレスカバー』!」


「露払いは任せてもらおう。はあ! ――『二刀斬・氷雪月下ひょうせつげっか』!」


「「「―――!?」」」


 ビームがフラーミナに集中するがシエラが『インダクションカバー』の上位スキル『インダクション・フォートレスカバー』でビームを引き寄せ、巨大な盾で防御。

 迎撃用に集まってきた防衛モンスターたちをリカが氷の横払い範囲攻撃で崩す。

 そこへチーちゃんがジャンプし『鏡餅プレス』で防衛モンスターを押しつぶした。


「ノーーーー! 防衛モンスターよ、がんばるのだ! みなのもの気合を入れて食せ! むしゃむしゃ『美味い砲』! やつらを引き剥がすのだ! むしゃむしゃ」


 食べるか指示するか、片方しか出来ない〈中毒メシ満腹中〉がピンチ。


「ゼニス――『ドラゴンブレス』!」


「クワーーー!!」


「のわーーー!?」


「な、なんだありゃ、トカゲじゃないのか!?」


「空を、飛んでる!?」


「まさかドラゴン!? あの伝説の食材!?」


「美味そう……」


「クワァ!?」


 アイギスのスキル『ドラゴンブレス』はテイム竜にブレスを吐かせて攻撃するスキル。

 極太ビームのような砲撃が防衛モンスターをなぎ払い、ついでに拠点にもダメージを与えた。

 幼竜とはいえ竜は竜。

 スキルはアイギスのSTRとゼニスのSTRを参照しているのでかなりの威力を誇る。


 そんなブレスを受けて〈中毒メシ満腹中〉が驚愕した。

 何しろ竜である。

 トカゲとも、恐竜とも、怪獣とも違うあの独特なフォルム。

 完全に竜だと誰もが思った。数人がすぐに食べたい欲求にかられたようでゼニスが悲鳴を上げてアイギスの胸にダイブする。


「大丈夫ですゼニス、怖かったですね。安心してください食べさせやしませんから」


「クワァ」


「はい。ゼニスが食べられないためにも全力です。ゼニスはサポートをお願いしますね」


「クワァー!」


「では行きましょう。『竜祝投天槍』!」


「クワー!」


「『バカ美味いぞー』!」


 アイギスがゼニスを慰め、竜の祝福が掛かって威力が大きく上がったランスを投擲すると、相手のビームを貫いて食卓に刺さった。


「ってあーー!?」


「俺たちの料理アイテムが!? 命綱が!?」


「メルト、今だ。やってしまえ!」


「本当にそんなことが出来るのか? 『グラビティ・アトラクション』!」


「うおおお吸い込まれる!? 俺たちの料理が吸い込まれる!?」


「ダメだーー! 行くなー!」


「食えーー! 食うんだー!」


「いや仕舞え!? 料理を避難させろ!」


「迎撃! くらえ『むっちゃ美味いぞー』!」


「『ミラークロスバリア』!」


「反射された!?」


「ぐあああああ!?」


 出たのは吸引力の変わらない指向性のブラックホール。

 これは裏技チックなのだが、『グラビティ・アトラクション』は遠くにあるアイテムを引き寄せることも可能だ。

 遠くに落ちていて取れないアイテムなどをゲットするスキルというのはいくつか存在する。【超能力者】の『サイコキネシス』とか。【トレジャーハンター】の『ロープアクション』とか。


『グラビティ・アトラクション』もそんな能力の一つでアイテムに対しても有効だ。

 まあ手で押さえていれば防げる程度だがあれだけの料理を全てカバーするなんて不可能だろう。


 しかも空気を吸い込んでいるのではなく引力で引き寄せているので、途中にミサトの反射バリアを置いてもアイテムを引き寄せてしまう。

『グラビティ・アトラクション』を破壊しようとしたビームはミサトに反射されてさらなるダメージを生んでしまったようだ。


「お、俺たちの料理アイテムがああああああ!?」


「うわぁ……これはむごいんだよ」


 悲鳴を上げるダムダンとちょっぴり苦笑いのミサト。


「ビームが止んだな。行けサチ、エミ、ユウカ! 今こそコンボスキルであの拠点を落としてしまえ!」


「防衛モンスターを狩るんじゃなかったっけ!?」


「無論、防衛モンスターも巻き込んでしまえ」


「おーいえー!」


「任せてくれ!」


 料理アイテムを体を張って守る太め男子たちをよそにゼフィルスは絶好調だ。

 指示によって仲良し3人組が新スキルをお披露目しながら拠点へ駆けた。


 すでに3人は魔装を纏い準備万端状態だ。


「いっくよー!」


「おーなんだよー!」


「新しい力、是非見てもらおう」


「「「――『神気共鳴』!」」」


 瞬間、3人の体から神々しい光が溢れパスが繋がった。

 これは【魔装】系のユニークスキル『魔装共鳴』に似たスキル。

 あれはパッシブだが、こっちはアクティブスキルで2人以上が一緒に『神気共鳴』をしたときに発動するバフスキルだ。攻撃力、魔法力、器用さがどえらい上昇する。そして、


「「「――『神気開砲撃』!」」」


 自分に掛かっているバフを解除するのと引き換えに特大威力の砲撃を放った。

 サチの剣の先から、エミが前へ向ける手から、ユウカが放った矢が、三つの砲撃が途中で重なって合わさり、一つの特大の攻撃として拠点へ着弾した。防衛モンスターが飛び込んで体を張って防ごうとするが、なぎ払われて光に消えた。


「オーノーーーーー!?」


 ダムダンの叫びが轟いた。

『神気開砲撃』は物理職、魔法職でも関係ない強力なコンボスキル。

 3人の攻撃が一つになって直撃するため対人で命中すれば一撃で退場することも少なくない大技。

 おそらく、〈エデン〉が持つ火力の中でもトップクラスの威力を誇るスキルである。


〈ジャストタイムアタック〉でもあるこの攻撃は、【神装】シリーズにとっていわば〈五ツリ〉や〈六ツリ〉に至るまでの繋ぎみたいなポジションのクセに、ギルドバトルではあまりの威力の高さに猛威を振るう凶悪スキルとしてゲーム〈ダン活〉では知られていたほどである。


 もちろん、個人でこれを撃ってもあまり威力は上がらないので3人合わさったときという条件こそ付くものの、その威力はAランク戦〈拠点落とし〉の拠点で、HPをごっそり3割弱も削るほどである。ラナの十宝剣より上だ。


 拠点の残りHPや防衛モンスターの多くが退場してしまったこの攻撃を見て〈中毒メシ満腹中〉のギルドマスターダムダンがさらに悲鳴を上げた。


「さあさあ敵は浮き足立ってるぞ! 今のうちに全員で攻めるのだ! わはははは!」


「ゼフィルスよ。その笑い方は勇者っぽくないぞ」


「! さて、そろそろ俺も行こうか(キリッ)」


 メルトに諭されたゼフィルスもキリッとして攻撃に参加する。

〈中毒メシ満腹中〉は頑張った。


 だが〈エデン〉にここまでボロボロにされては巻き返すことはできず、試合開始から22分。ついに陥落してしまうのだった。


 当初の予定よりずいぶん時間が掛かった様子だが、〈エデン〉メンバーは新人5人も加わったメンバーズ。強くなって新しいスキルや魔法を試したかったので仕方ない。

 後はなるようになるだろうと、1人の脱落者も無く〈エデン〉は自分の拠点へと帰って行ったのだった。


〈エデン:1598点〉1位

〈新緑の里:798点〉2位

〈筋肉は最強だ:788点〉3位

〈氷の城塞:600点〉4位

〈サクセスブレーン:271点〉5位

〈集え・テイマーサモナー:20点〉6位

 …………。




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