第957話 〈エデン〉VS〈中毒メシ満腹中〉。
ここはギルド〈中毒メシ満腹中〉の拠点。
ドスンドスンと重い足音を鳴らしながらギルドマスターが走っていた。
「ほ、本当に〈エデン〉が来ちゃったのだ?」
「来ちゃいました! むっちゃ接近中です!」
「オォーノゥー!?」
横を走る採集課に所属する細身の男子がする報告に、頭を抱え叫びながら走るという器用なことをする太めの男子。
この太めの男子こそギルド〈中毒メシ満腹中〉のギルドマスター、ダムダンである。
「ぐぬぬ。ありったけの料理を集めてテーブルに並べるのだ!」
「! ですが、まだ試合始まったばっかりですよ!?」
「構わないのだ! むしろ全部吐き出しても〈エデン〉を追い返せるか分からないのだ。お前も知っているだろう。あの〈弓聖手〉が開始3分で陥落した光景を。あまりにもびっくりすぎて昼に食べたパスタが危うく鼻からぴゅるっと出るところだったのだ!」
「それは、ちょっと見てみたかったですね」
「そういうことじゃないのだ! 作業を急ぐのだ!」
さすがはBランクのギルドマスター。
〈エデン〉が戦力を集めて接近しているという情報を一早く聞きつけたかと思うとすぐに指示を出し、ギルドメンバーにありったけの料理を出させる。
〈中毒メシ満腹中〉は見回りを採集課のメンバーに任せ、防衛モンスターや拠点防衛に20人という全戦力を置いて来るべき時に備えていた。
お隣の拠点が〈エデン〉と知った時から絶対こうなると分かっていた。
来ないでくれと願いながらも絶対来るだろうなという確信があったため、その行動はかなりスムーズだ。むしろ準備万端だった。奇襲なんてさせない。待ち構える。
拠点の東側に並ぶ太めの男子たち。
周りには色とりどりの料理がずらりと並び、これから戦闘が起こるなんて微塵も感じさせない雰囲気を放っている。しかし、彼らにとってこの状態こそ自分の力を真に発揮できるのだ。
ちなみに女子はいない。
このギルドは男子オンリーギルドである。
なぜか? それは。
「! 〈エデン〉メンバーを確認!」
「食え!」
採集課メンバーが双眼鏡アイテムで〈エデン〉の姿を捉えると、すぐに太めの男子たちが一斉に料理を食べ始めた。その速度はまさに早業の早食い。
皿に盛ってあった料理が一瞬で消えたのだ。当然消えた先は腹の中だ。
しかし、味わうのも忘れはしない。〈中毒メシ満腹中〉がメシを食い、そして。
「「「「『美味い
口と目からビームを放った。
◇
「ビーム来た! リカ! ミサト! シエラ! 頼んだ!」
「
「わわ、多すぎるよ! 『リフレクション・ヘル』!」
20人からなるビーム攻撃の一斉射。
横並びする太め男子たちの目と口からビームが出ている絵が強烈。
それをリカが二刀流の早斬りで打ち落とし、打ち落とせなかった大部分をミサトが跳ね返す。
しかし、
「わわ、何このビーム!? ちょ、威力高すぎるんだけど!? ってわきゃああ」
あまりの威力に跳ね返せたのは僅か数砲だけで、『リフレクション・ヘル』が破られ、半分近くを後ろに通してしまう。とんでもない威力だった。
一気に2人抜きされたビームが〈エデン〉に迫るが、しかしこれが〈エデン〉に届くことは無かった。
「任せて。『アジャスト・フル・フォートレス』!」
シエラの五つの盾が防いだからである。
横に広がり、仲間を守り切るというように五つの巨大な盾の幻影が立ち並び、ビームの津波を全て防ぎきる。それはまさに防波堤だった。
「うっひゃあああ~!」
「すっごいシエラさん~」
「なんて強力な防御スキルなんだ!」
仲良し3人娘が仰天を含んだ感想を叫んだ。
リカの『制空権・刀滅』やミサトの『リフレクション・ヘル』はかなり強力なスキルと魔法だ。
しかし、数の暴力でそれを破壊、突破した、恐るべき威力のビーム。それをシエラは完全に防いで見せたのである。
これがシエラの五段階目ツリー、『アジャスト・フル・フォートレス』だ。
「ば、バカななのだ!?」
それを見て〈中毒メシ満腹中〉のギルドマスター、ダムダンが叫んだ。
いや、ギルドメンバー全員が驚愕している。
彼らの
料理を食べ、その味を分析し、評価をビームで表す
要はフードアナリストのビーム版である(?)。
もちろん【投擲士】の親戚なので攻撃もできる。ビームで攻撃だ。
美味いものや効果の高い料理を食べればそれだけ火力の高い良いビームが撃てる。それが彼らなのだ。故に伝説の料理レシピを味方に付けた〈中毒メシ満腹中〉は、これほど特殊な
なおアイテムを触媒にして魔法を使っているのに近いので【触媒導師】と混同されることもあるが、【味砲】はスキル系なので導師ではない。
触媒、つまりアイテムを消費しているため、料理の質が良ければ良いほど威力が増すので火力という一面ではかなり侮れない
それはリカの防御スキルを突破し、ミサトの四段階目ツリーは砕いたことからも分かるだろう。
とはいえ下級職の攻撃なのでシエラの五段階目ツリーのスキルには止められてしまったというわけである。
逆に言えば四段階目ツリーを軽く貫通するので下手をすればどのギルドにも勝つ可能性のあるギルド、それが〈中毒メシ満腹中〉だった。
「ぐっ、まだなのだ! あれほどの盾、そう何度も使えないのだ! 食え! フード戦士たちよ! 俺たちには最高の料理が付いているのだ!」
「「「「おおおおーーー!! バクン――ゴクン――『フードキャノン』!」」」」
食う、飲みこむ、ビームを放つ。
それこそがフード戦士の生き様だ。
彼らにとって料理アイテムとは攻撃するための道具でもある。
ここに広がった全ての料理が自分たちの味方だ。
ゼフィルスはその思い切ったやり方に感心していた。
「おお~。料理アイテムをあんなにガツガツ食って、すげぇな~。さすがは『早食い』や『もう一杯』、『超食吸収』なんかのスキルを持つだけあるぜ」
【味砲】は料理アイテムを効率よく食べることの出来る
料理アイテムの力はすごい。それは上級ダンジョンのクジャ攻略でゼフィルスが示したとおりだ。
しかし、料理アイテムというのは1度食べたら時間切れまで何を食べても上書きされないデメリットがある。
だが【味砲】はそれを無視出来る。さらに重複不可な料理アイテムの効果を重複させる事が可能なスキルも持っているとあって、とてもユニークなネタジョブだった。
ゲーム〈ダン活〉では割と使っている人多かったんだよな~と感慨にふけるゼフィルス。
ちなみにリアルではこんなに金の掛かる
今も昔も異世界でも、食への探究心を追求する人がいるのは変わらないということだ。
「感心している場合かゼフィルス。俺たちもやり返すぞ――『アポカリプス』!」
「おっとそうだったな。行くぜ――『フルライトニング・スプライト』! ミサト、素早さドレインだ」
「オッケー『素早さドレイン』~!」
「え!? ご主人様私は!?」
「よし、エリサ、眠らせてしまえ!」
「任せなさい! ――『ナイトメア・大睡吸』! 『睡魔の砂時計』!」
攻撃、妨害、状態異常攻撃。
〈エデン〉も反撃を開始する。
ミサトは『正方浮遊結界』で鏡の結界を空中に浮かべ、出来る限りビームを反射しながら『素早さドレイン』も放った。
エリサは状態異常攻撃。
相手を眠りに誘う凶悪な魔法だ。
「ふん! 『食貯め』で状態異常の対策は万全なのだ! 我らに状態異常は効かんのだ!」
しかし、相手は料理バフを貯めることが出来る【味砲】。
全員がすでに『睡眠耐性』のある料理を食べていたようだ。
だが、対するは睡眠のスペシャリスト、エリサ。
どちらに軍配が上がったかというと――エリサだった。
「な! フード戦士たちよ、どうしたのだ!?」
数人の太めの男子が倒れ、いびきをかき始めたのだ。
もちろん〈睡眠〉状態になっており、しかも叩いても目覚めない。
完全にエリサの手の内に落ちていた。
「ふふ、私の『食後のまどろみ』はどうかしら? もうビックリするくらい強いでしょ?」
「ああ。マジでやっべぇ。完全に刺さってらぁ」
彼らが眠ってしまった原因はエリサの四段階目ツリー――『食後のまどろみ』。
通称〈料理殺し〉。
料理アイテムを食べて効果発揮中の相手に〈睡眠〉特効を加えるパッシブスキルだ。
例え『睡眠耐性』を持っていても特効効果で高い確率で眠ってしまう恐ろしいスキルである。
―――つまりは料理アイテム対抗スキルである。
エリサの前では料理アイテムを食べている敵はまどろんでしまうのだ。
もうマジでヤバい。
迂闊に料理アイテムも食べられない。完全に対人特化スキルだった。完全に眠らせに来ている。
特効効果とはいえレジストされる可能性はあるものの、目の前には20人もいるのだから誰かしらやられるというものだ。
「エリサちゃんだけ活躍なんてずるーい! 私だってやっちゃうよー『三体導入』! 行っけールーちゃん! チーちゃん! ミーちゃん!」
「おお~」
フラーミナの
本来なら2体までは出しても能力が低下しないルールをぶっ壊し、3体でも能力が低下しない自分ルールを作り出す。
『モンスター収納』でマントに入っていたウルフのルーちゃん、モチッコのチーちゃん、猫のミーちゃんが飛び出してきたのだ。
しかも、全部が上級モンスターへと進化していた。
これはフラーミナの四段階目ツリー『上級進化ルート開放』の影響が大きい。
これにより、上級モンスターへ進化出来たのだ。
〈バトルウルフ〉だったルーちゃんは〈ラウルゼ〉に。
〈スパプルモチ〉だったチーちゃんは〈ウルトラモチッコ〉に。
〈猫侍のニャブシ〉だったミーちゃんは〈ツルギノニャイチ〉に。
〈ラウルゼ〉はアーロンが騎乗していたジェイウォンの種族〈ラウルフ〉の上位だ。
四足の狼で体長は3メートル弱のモフモフ。
〈ウルトラモチッコ〉は〈嵐ダン〉の5層でボスとして出てきた〈フルモチモチモチッコ〉のさらに上位モンスター。3分間
〈ツルギノニャイチ〉はアーロンが持っていた〈スピリットニャニャ〉とは別系統、二足歩行で鉄の剣を使うモンスターとなっている。体長1メートルほどの袴を履いた猫で風格が出ている。強者の風格だった。フサフサした猫が袴を履いている。可愛い。世が世ならバズること間違いなし。
チーちゃんに飛び乗ったフラーミナが振り返ってエリサに問う。
「エリサ乗る?」
「やっぱり私はここに居るわ。ご主人様と一緒にね!」
フラーミナは『仲間騎乗』のスキルで騎乗可能モンスターに仲間を乗せて運ぶ事が出来る。
ミーちゃんは2足歩行で乗れないので定員は1人だ。
前はエリサが乗っていたが、さすがにあのビーム飛び交う中に突入するのはごめんなので遠慮した様子。いや、ご主人様の横にいたいというのが半分以上本音なのかもしれない。
「むむ、じゃあ――」
「あのフラウさん、私を連れて行っていただけますでしょうか?」
「アイギス先輩!」
そこに立候補したのはアイギスだった。頭の上には竜のゼニスも浮いている。
「もちろんだよ。一緒に行こう!」
「ウォン!」
フラーミナの即オーケーに顔を綻ばせ、ルーちゃんに乗るアイギス。
遠距離攻撃はあまり持っていないので助かるアイギスだった。
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後書き失礼いたします! お知らせです!
いつも〈ダン活〉をお読みいただきありがとうございます!
ゴールデンウィーク企画発表でたくさんの★をいただきました!
★のプレゼントたくさんいただけて作者は大変嬉しかったです!
改めて大感謝です! ありがとうございます!
5月は小説、コミックス、グッズの三つ同月販売も記念して、今日から5月7日まで5日間、話数増量でお届けします!
初日の今日は――4話行きましょうか! 作者頑張っちゃいますよ!
では本日は後3話あります。楽しんでください!
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