第951話 開幕の強襲。〈弓聖手〉に初手狙撃。




「へ?」


 それに気が付いたのはギルド〈弓聖手きゅうせいしゅ〉のメンバーの1人、〈戦闘課1年2組〉所属、【剛速弓士】のレミだった。


 試合開始直後、いつもコンビを組んでいるアディとは戦いたくないなぁと、アディが所属するギルド〈ハンマーバトルロイヤル〉の方を見たとき、なんだかギルド〈エデン〉のいる方角から10もの光の宝剣が迫ってきている光景が視界に入ってしまったのだ。

 それは威力の減退をしているようにはまったく見えず、似たものを他のギルドバトルで見たことがあったレミはすぐにそれに気が付いた。


 そしてすぐに叫ぶ。


「て、敵、いや、攻撃来てるよーーー!! 北西の空!」


「は? はあああああ!?」


「攻撃!?」


「――――げ、迎撃! 迎撃しろ!」


「まだ試合が始まったばかりだぞ!?」


「今出ていったやつを呼び戻せ!」


 しかし、それに気が付いたのが遅かった。いや、誰もが予想外だった。こんな試合開始直後に攻撃がくるわけがないと思っていたのだ。普通はそうだろう。というかマスの減退をせずに攻撃が飛んでくること自体おかしいのだ。

 故に対応が遅れ、完全に迎撃が間に合わない所まで接近される。

 唯一迎撃出来たのはレミと他2名くらいだった。


「『剛速弓ごうそっきゅう』!! 『速射連矢』!」


「タンクはどこだ!?」


「ま、間に合わな―――」


 レミたちが強矢スキルと連射スキルで迎撃するが、相手の攻撃は〈五ツリ〉だ。

 下級職のレミたちでは荷が勝ちすぎていた。


 そしてタンクも間に合わないというほぼ無防備の拠点に10の宝剣が突き刺さった。


 ドドドドドドという隕石でも降ってきたのかという衝撃。


 拠点への超遠距離からの奇襲(?)攻撃だった。


「「「「わああああああ!?」」」」


「「「「きゃあああああ!?」」」」


 こうなるともう叫ぶことしかできない状態。色々察するにあまりある。


 攻撃が止むとさすがはBランク、すぐに拠点の状態を確かめた。


「HPが2割も!?」


「どんな攻撃だよ!?」


「た、退場者は!?」


「わ、わからないわ!」


 残りの拠点のHPは8割だった。

 拠点を落とすには数人どころか数十人が集まらないと落とすのが不可能と言われるレベル。なのに一撃で2割も持っていかれたのだ。しかも自分たちも得意としている遠距離攻撃で、である。


 しかも、それだけでは終わらない。


「だ、第二波来ました!? さっきと同じ攻撃です!」


「は? はあああああ!?」


「ちょ、何!? 早すぎるだろ!? どうなってんだ!?」


「いいから迎撃しろーー!!」


「え? ちょっと待て上からだけじゃない、下! 下! したあぁぁぁぁ!?」


「〈エデン〉来てるーー!? た、大軍来てるぞーーー!?」


「だ、〈ダンジョン馬車〉ーー!?」


「「「「えええええええ!?!?」」」」


 大混乱。

 今し方食らった攻撃がほとんど間を置かずにまた迫っていると報告を受けた〈弓聖手〉は大慌てだ。

 これはラナが『大聖光の十宝剣』を使う前に、ノエルが「掛けた相手が次に使った〈スキル〉・〈魔法〉のクールタイムをゼロにする」『リ・エール』を発動したことで『大聖光の十宝剣』のクールタイムをゼロにして、ノータイムでもう一発放った結果だった。

 とんでもない事である。


 しかも『大聖光の十宝剣』は〈五ツリ〉。

 完全に防ぐのは難しい。「これって迎撃出来るの?」な攻撃。


〈弓聖手〉は完全に浮き足立った状態。そこへさらに最悪の報告が飛ぶ。

〈エデン〉が来ちゃったのだ。10人以上。


「ぼ、防衛モンスターを出せぇぇ! なんとかそれで帰ってもらうのだ!」


「でも守りが!?」


「光の剣が迫ってきてるって!!」


「げ、迎撃ーー! 矢の雨で牽制しろーー!!」


「うおおおおおおお!?」


 もういきなりの強襲で大パニックな〈弓聖手〉。

 光の剣を撃ち落とす者が少なくなり、また拠点へ突き刺さる。


 そこへ〈エデン〉が到着した。


「『ドラゴンブレス』!」


「へ?」


 開幕はアイギスの竜。ゼニスの『ドラゴンブレス』から始まった。「クワァ」と鳴いたゼニスの口から炎の光線が放たれる。それはまさしくブレスだった。

 光の剣第二波とほぼ同時にきちゃったブレスに〈弓聖手〉はギリギリ対応。

 上級モンスターとはいえまだ幼竜のゼニスのブレスは少々力不足で2人のタンクがなんとか防ぎきった。しかしそれはまだまだ序章にすぎなかった。いや、すでに終章へ突入している気がしなくも無いが。


 隣接マスで〈馬車〉から下車して飛び出したゼフィルスたちが、光の剣が降り注ぐ〈弓聖手〉の拠点マスへ進入したからだ。


「矢の雨を蹴散らす! 『フルライトニング・スプライト』!」


 まずはゼフィルスの〈五ツリ〉。

 剣から放たれた特大の雷が、迫る大量の矢の雨にぶつかると周囲に雷撃の光をまき散らして爆ぜ、大量の矢を巻き込んで消滅させてしまう。その様子はまさに雷の花火。開幕を彩る一撃だった。

 そしてその下を掻い潜るように接近する〈エデン〉メンバーズ。


「ふむ、先陣は任せてもらおう。――『二刀斬・氷雪月下ひょうせつげっか』!」


「ルルも行くのです! とう! 『ディストラクションブレイカー』! からの~『セイクリッドエクスプロード』なのです!」


「狙撃対策はお任せください『デスショット』! 『ジャッジメントショット』!」


「最大まで溜めたこれを食らうのデース! 『忍法・えん爆裂丸ばくれつがん』!」


「右側に隙が出来たな『アポカリプス』!」


「おっとさすがは良い反撃するね! デバフの矢かな? でも『セイクリッド・オールレジスト』!」


「私たちも行くよー!」


「うん! 大技だよ~」


「2人に合わせる」


「「「『神気開砲撃』!」」」


「みんな眠ってしまいなさい! 『ナイトメア・大睡吸』!」


「は、反撃! 反撃だーー!」


「『ブラストアロー』! って何ぃぃぃ!? 俺の『ブラストアロー』が全然効いてなぎゃぁぁぁぁ!?」


った!? なんだこりゃ、無茶苦茶硬いぞ!? 全然ダメージが通らなうおぉぉぉぉぉ!?」


「止まらないよーー!?」


 なんだか四段階目ツリーやユニークスキルなどのオンパレードが混乱中の〈弓聖手〉を襲った。

 ガチのぶつかり合いだ。そして装備が整っている〈エデン〉が当然のように勝っていく。

 防衛モンスターは瞬く間に蹴散らされ、反撃に転じようとした優秀な人材は真っ先に狙われて退場してしまった。


 まだ〈イブキ〉を操るエステルなど、切り札が投入されていないにも関わらず〈弓聖手〉は一気にその人数を減らしてしまう。拠点へのダメージもとんでもないことになっていた。


「きょ、拠点は!?」


「の、残りHP、20%です!」


「やばいやばい! 落ちる! 拠点落ちるって!? 『ストームアロー』!」


「え? ちょっと嘘でしょ? そ、空を見て!」


「ま、また来たあああああああ!?!?」


「ちょ、クールタイムはぁぁぁ!?」


 レミの声に再び〈弓聖手〉メンバーたちが北西の空を見ると、そこにはまた10の宝剣が迫っていた。

 これはノエルが一つ前に使ったスキルのクールタイムをゼロにする『アンコール』を使って、再び『リ・エール』をラナに掛けていた結果だった。

 ラナの『大聖光の十宝剣』。第三波だ。


 第二波を迎撃するためと〈エデン〉の対応で全力を出してしまって多くの強スキルがクールタイムに突入していた〈弓聖手〉は、これに対応しきれなかった。

 そしてあの宝剣は拠点に2割(20%)のダメージを与える。


 ゼフィルスたちが防衛モンスターを狩りきったまさにそのタイミングで、宝剣が〈弓聖手〉の拠点に突き刺さった。


 拠点のHPがゼロになった。



 ◇



「ほ、報告! 報告します! カイエンさん! たった今、ギルド〈弓聖手〉が落ちました!」


「…………なに? まだ試合開始から3分も経っていないが?」


「ですが本当なんです! 落としたのは、ギルド〈エデン〉です! すぐに対応を!」


「…………」


 誤報かと思いたかった。でも、誤報じゃなかった。

 カイエンは同盟相手のギルドが開始3分持たずに落ちたことを知り、しばらくお腹に添えられた手が離せなくなった。




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