第952話 炎主張主義に凶報。マッスラーズが攻めてきた。
「ほわああああああ!? 〈弓聖手〉落ちたーーーー!?」
「と、とんでもない事態になりました。試合開始2分24秒でまさかのBランクギルドの一つが落ちました」
「まさに速攻の早業だったわね……」
「しかもそこ、Bランク非公式ランキングで第七位の所なんだけど!? 優勝争いはともかく、6席を取り合う勝ち抜き争いでは間違いなく参戦してくると思われていたギルドだったんだけど!?」
「……開始直後から一方的に〈エデン〉から攻撃を受け続け、約2分で落ちたわね。あの数は、初めて見るけれど、光の剣を撃ったのは間違いなく王女殿下だわ」
「お、王女殿下が強すぎる!? というか自拠点から相手の拠点へ攻撃出来るって、そんなのあり!?」
「ラナ殿下の攻撃は射程がとんでもないですね。まさか自分の拠点に居ながら相手の拠点を狙えるとは。そして射線が通っていた〈弓聖手〉が最初に狙われてしまったと」
「〈弓聖手〉がドンマイ過ぎるよ。遠距離攻撃や狙撃で優秀な〈弓聖手〉が逆に狙撃でやられてるし」
「あの連続攻撃が気になりますね。いったいどれほどの光の剣が放たれたのでしょう? 僕の目には3回ほど攻撃が放たれたように見えましたが、あれほどの威力の攻撃を短時間で3連続使うなんて可能なのでしょうか?」
「それなのだけど、さすがにサポートはあったみたい。〈歌姫ノエル〉さんからの手厚いサポートで連続で攻撃が放てていたみたいね」
「なるほど。あのクールタイム無視はそういうことだったのですか」
「た、確かに、クールタイムを完全に無視してたからね。というかあれってどうやって防げばいいの!? あの光の剣だってとんでもない火力なのに他の〈エデン〉メンバーも一斉に来て!?」
「あの有名な〈ダンジョン馬車〉を使った運搬ですね。とはいえ距離が短かったので足の速いメンバーはダッシュで追ってきたようですが。いえ、逆でしょうか、これは足の遅い魔法使いを乗せてきたと言う方が適当でしょうね。……〈エデン〉メンバーの襲撃がこれほどとは予想外でした。さすがは評価規格外」
「奇襲が完璧だったわね。光の剣で浮き足立ったところに強襲。防衛モンスターまで全滅させてしまって、〈エデン〉は早々にトップにたったわ。これから面白くなりそう」
「はい。観客席の盛り上がりも凄まじいですね。とりあえず、〈エデン〉はこれで勝ち点も含め800点が入りました」
「防衛モンスターで最大200点、拠点で600点。一気にトップに躍り出たわ」
「〈弓聖手〉を下した〈エデン〉は今後どう動くのか!? 一度自分たちの拠点に引き返す模様です。そして他のギルドは……ん!? やや、あのギルドはまさか!」
「あ、あ、あ、マッスラーズが動き出しました!」
◇
「ようアラン。筋肉の調子はどうだ?」
「ふっ。ウォーミングアップは完璧だぜ」
ここはギルド〈筋肉は最強だ〉の拠点。
試合開始から拠点の周囲をマラソン……いや斥候していたのだが、ここは比較的周りに拠点の少ない外側のエリア。
人は少なく、しかもマッスラーズを見ると例外なく逃げていくので戦闘は起こっていない。
見回りから帰ってきたアランたち筋肉が
斥候から帰ってきた者に聞くべきことを絶対に間違えていると思うのだが、もう仕方が無い。
マッスラーズの言動は半分以上が筋肉で構成されているのだから(筋肉語)。
「頼もしい筋肉だ。では早速
「お、それはいいな! みんな筋肉を魅せたくてうずうずしているんだ。このままじゃ筋肉の魅せ方も忘れちまいそうなくらいだぜ」
「そいつはいけない。筋肉を魅せるには
そんなこと誰も頼んでいないのだが……ま、まあ拠点を落としに行くと脳内変換すれば別におかしなことは言っていない。いや、やっぱり脳内変換しても無理があるかもしれない。
「見せつけてやろう」
なにを?
もちろん筋肉だろう。絶対拠点へ攻める理由が間違っているのだが、残念ながらここには筋肉肯定派しかいない。
ボケでは無いためツッコミをする人は皆無なのだ。
「はっは! 筋肉が唸るぜ。まずは12人の
「そうだな。スマイルも忘れないようにな」
「もちろんだ! 魅せるには表情も大事。笑顔は筋肉を
やめてあげてほしい。筋肉たちが笑顔で迫ってきたら、その人たちは確実にトラウマを抱えてしまうだろう。
だが、残念ながらここにツッコミが出来る人材はいなかった。本当に残念ながら。
こうしてアランを中心とした12人のメンバーたちが南へ、フィールドで言えば真西にあるギルドへ出撃していったのだった。
ここにはBランク非公式ランキング第十一位、〈炎主張主義〉の拠点が建っていた。
筋肉の弱点である魔法使いたちの多いギルドだ。
しかし、筋肉には秘策がある。
◇
―――ギルド〈炎主張主義〉。
主に炎をメインに使う使い手たちが集まる所として割と有名なギルドだ。
基本的に炎さえ使えれば魔法使いだろうが剣士だろうが、その他の
つまりは「僕たち、私たちは、炎使いです!」というギルドである。
故に
どういうギルドだろう? と思うだろう。だが炎とはダメージ、火力として非常に優秀だ。
〈火属性〉で攻撃していると相手は〈火傷〉を負い、スリップダメージを受ける状態異常に掛かる事もある。スリップダメージはダメージを受けるだけで行動が阻害されないため軽視されがちだが、積もり積もるととんでもなく化ける強力な状態異常である。
例えば〈炎主張主義〉ギルドの〈戦闘課1年2組〉所属、【アークメイジ】アケミはボスを〈火傷〉状態にして生き残って勝つ。という戦法を得意とする学生だ。
相手を〈火傷〉状態にする専門の魔法なども持っている。
……本来【アークメイジ】といえば高火力のダメージディーラーだが、アケミはちょっと変わっているのだ。ダンジョンではしぶとく生き残る故に〈
要は〈火属性〉が強いということだ。ダメージ的な意味で。
あまり適切な説明じゃ無かったかもしれない。
そんな〈火属性〉使いたちが集まるこのギルドに、凶報が舞い込んできたのは試合開始から1分30秒のことである。
「た、大変だ! 北のお隣さんにマッスラーズがいる!」
「な、なんだってー!?」
ざわわ。
あまりの事態にギルド全体がどよめいた。
マッスラーズといえば少し前までBランク非公式ランキングで第一位に君臨し、挑む者拒まず、むしろ自分から行くの精神でトラウマを植え付けまくる最凶ギルドだ。
かのギルドの犠牲になった者は多い。
しかも最近では全員が【筋肉戦士】に〈転職〉するという暴挙を繰り出し、その後のLV上げという名のトレーニングで全員がLVは60を超えているという報告が上がっている。
以前まで凄まじかったギルドが、もっと凄まじくなって戻ってきたのだ。
そして、お隣の拠点に建ってしまったが運の尽き。
絶対にマッスラーズたちは生まれ変わって凄まじくなった筋肉を魅せに来ると、もう確信がギルドマスターにはあった。
「ど、どうしますかヒガルグさん!?」
髪を赤と橙色に染め、まるで炎のような髪型に固めているギルマスへ斥候が問うた。
「燃やすしかねぇ。メラメラの炎で道を焼き尽くし、奴らが来られないよう炎の壁を張るぞ! 筋肉たちは必ず攻めてくる。こっちからは絶対に仕掛けるな! 北に警戒態勢を敷く! 奴らが来た時全力で燃やし尽くすんだ!」
「お、おう! それしかねぇ!」
「や、やってやる! 俺はやってやるぞ!」
「くっ、南と東に行った奴らを呼び戻さねぇと」
「なら俺たちがマッスラーズに狙われているって情報を合わせて他所のギルドに教えてやれ」
「へい!」
ギルドマスターヒガルグの言葉にメンバーたちはざわめきつつもやるべきことをやっていく。その辺Bランクギルドなのだ。動きはテキパキしていた。
また、マッスラーズに狙われているギルドと知って手を貸してくれるギルドはいない。
南と東へ同盟を組みに行った仲間も連れ戻さなければならないだろう。
しかし、それだけではダメだ。マッスラーズから狙われているという情報を敢えて流す。
こうすることで南と東のギルドはこちらに関わって来なくなるだろう。
野戦最強の【筋肉戦士】が狙っていると知っているのに手を出すギルドはBランクにいない(……〈エデン〉を除いて)。
そして、試合開始6分30秒。
早々にその時は来てしまった。
「き、来ました! ママママ、マッスラーズです!」
「警報を鳴らせ! 床を燃やすぞ! アケミ、準備はいいか!?」
「もちろんよ! 私が培った力、見せてやるわ!」
カンカンカンカンと警報が鳴らされる。
マッスラーズが接近中、それを知らせる鐘の音だ。
〈炎主張主義〉の拠点より少し距離は離れて北側には、優秀な7人の炎魔法使いたちが集まっていた。その中の1人には1年生も混じっている。あのアケミだ。
「来たぞ!」
ヒガルグが叫ぶ。
「「「「マッスラーズ! マッスラーズ!」」」」
「ひっ!」
「奴らの威嚇に惑わされるな! しっかり心を保つんだ!」
先制はマッスラーズの威嚇、威嚇?
とにかくマッスラーズの叫び声にビビるメンバーにヒガルグが発破を掛ける。
そして同じマスの圏内に入ったところで、まず〈炎主張主義〉が仕掛けた。
「今だ!」
「「「「「『フレアロード』!」」」」」
マッスラーズに向けて巨大な炎の道が出来た。
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