第950話 〈エデン〉配置完了準備万端。強襲班スタート!




「〈試合開始5分前となりました、拠点へ転移いたします。〈空間収納鞄アイテムバッグ〉は持っていないと一緒に転移されませんので、手に持って待機していてください〉」


 ついに会場入りだ。

 試合開始の5分前になるとアナウンスが流れ、その30秒後には拠点へと転移する。

 その30秒の間にメンバーを鼓舞して士気を上げるのが一般的だ。

 転移する時間を計算し、口上するギルドマスターの指揮力がためされる。


 あんまり口上が長いとその間に転移してしまうし、早く終わりすぎても微妙な間が空いてしまう。まあ、そこはメンバーも歓声などでフォローする。ギルドは1人のものではない、ということだな。


「さあ、いよいよ楽しみに待っていたAランク戦だ! 全員後悔の無いようにだけ頑張ろう。そして全力で楽しめ! 〈エデン〉――出陣だ!」


「「「「おおおおおー!!」」」」


 全員の前に立ち、そう宣言すると控え室で歓声が上がった。

 そしてちょうど良いタイミングで足元に転移陣が現れたかと思うと、俺たちは別の建物の中にいた。俺たち〈エデン〉の拠点だ。

 さ、ここからは時間との勝負だ。動くぜ。


「まずは状況を把握いたしますわ。シャロンさん、ラクリッテさんは内部を。斥候班は周囲を確認してくださいませ」


 どうすればいいかの指示をすぐにリーナが飛ばしてくれる。

 心強い。


「ゼフィルスさんは」


「おうよ。召喚盤の設置だな」


「お願いいたしますわ。フラーミナさんもゼフィルスさんに付いていってください。――シズさんたちは物資の確認を」


「あいよー!」


「こちらも進めております。確認をお願いします」


 何しろ試合開始まで4分強しかない。

 それまでにやるべきことは多く、みんなそれぞれ役割分担どおりに動く。


 他のメンバーのことはリーナに任せ、俺は俺の仕事をする。


「フラーミナ、召喚盤の設置に行こう」


「わかったよー」


 フラーミナを連れて移動。


 拠点の中心地、そこに以前クラス対抗戦の時も見た石版のコンソールが鎮座していた。


「なんかクラス対抗戦のときより大きいね」


「Aランク戦〈拠点落とし〉のやつだからだな。とはいえ、これでも小型なんだが」


 召喚盤を設置する窪みが今回はあの時とは違い五つある。前は三つだった。

 そしてそのコストはクラス対抗戦の時の倍――200だ。

 Aランク戦ともなると召喚する防衛モンスターが貧弱だと防衛すらままならないためコストは高く設定されている。ゲームでは500とかざらだったが、今回は200だと事前に知らせがあったのでそれに合わせて召喚盤を持って来ていた。


 上級モンスターだと通常のやつでコスト20とか30とか食うからな。普通なら上限が200では少ないと思う部分だが、未だ上級の召喚盤なんてそうそう出回っていないのでこれでちょうど良いらしい。


 五つの召喚盤を使うも良し、数を絞って強力なモンスターを使うも良しだ。

 ちなみに俺はコストが2ポイントの〈ウルフ〉をよく使う。あれは倒されてもほとんど痛手にならないし、地味に嫌がらせとHPを削ってくれるからだ。

 数も揃えられるしな。


 残りは四つだ。

 ここに俺はエステルが当てた〈捕獲召喚盤〉を嵌める。ついでにもう二つを設置。この日のために用意した特別なやつだ。

 ふっふっふ、度肝を抜いてやるんだぜ。


 余った一つは予備だ。一度嵌めると試合の最中は外せないからな。候補はクラス対抗戦でも活躍してくれた〈ジェネラルブルオークの召喚盤〉。これを含めたいくつかの召喚盤をコンソールの横に置いておく。

 防衛モンスターはフラーミナが担当だ。どれを採用するかは任せる。状況に応じて選んでほしい。


 次にコンソールを操作し、初期に配置される防衛モンスターを設定していく。

 しかしだ。俺が今回持って来た召喚盤ではコストがオーバーする。上級モンスターを召喚したいなら上限200だと全然足りない。そこで活躍するのがフラーミナだ。


「後は頼んでいいかフラーミナ?」


「うん! こっちは任せてよ!」


「頼もしい! ふっふっふ、悪いなぁBランクの諸君。勝負は時に非情なのだよ。ドンドン来てくれ!」


 ふはは!

 思わず声に出しそうだったので心の中で高笑い。

 ふう、危ない危ない。


 上限200。

 そう、普通は召喚出来るのはコスト200までなんだ。しかし、フラーミナの【傲慢】はそれを強引に変えてしまうスキルを持つ、まさに大罪。すごく良いと思う。


 なお、準備万全にして待ち構えているのにも関わらず、全てのギルドから総スルーされていることを、俺はまだ知らない。




 防衛モンスターの準備が整って戻ると、シズとリーナ、タバサ先輩を中心に物資が整理整頓されているところだった。


〈馬車〉そして〈イブキ〉が出され並んでいる姿は壮観だ。


 そして〈白の玉座〉。そこにラナが堂々と腰掛けている。

〈玉座〉に座ったラナの前には〈竜の箱庭〉が置かれ、リーナがいつでも起動できるよう待機していた。

 試合前のスキルの使用は禁止されているからな。〈試合前〉にスキルを発動していいのはローカルルールをOKした〈決闘戦〉だけだ。


「大型のものはこれでいいですわね。消耗品の類はすでにみなさん自分の分は持っていますから、足りなくなったらここに来て補給してください」


「もしくは私に言ってくださればお届けいたします」


「私の式神で運搬することもあるから、敵と間違えて攻撃しないでね」


 準備は最終段階に移っていた。


 すでに拠点内部と周囲の見回りは終わっており、カルアやラクリッテは報告済み。

 アイギスは〈馬車〉のチェックを終えてゼニスを腕に乗せ、エステルは〈イブキ〉に乗り込んでいていつでも起動できる状態だ。

 ラナも〈白の玉座〉に座っており、〈竜の箱庭〉の前にはリーナが構えていた。


 一度集合して改めてリーナ、シズ、タバサ先輩から物資について話が終わると、全員が俺の方へ向く。

 試合開始まで残り1分30秒。

 少し時間が余ったな。みんな優秀。

 そしてなんか言わなくちゃいけない雰囲気。え、もう一度? 

 オーケーオーケー。ならもう一度激励行ってみようか!


「みんな、Aランク戦〈拠点落とし〉が始まる。だが緊張はしなくていい。俺たちはどんな敵が来ても、それこそ17ギルド全てを相手にしても勝利を掴めるよう準備してきたからだ! だから勝つぞ! ここで勝ち上がり、〈迷宮学園・本校〉に〈エデン〉有りと見せ付けてやれ!」


「「「「「おおー!!」」」」」


 見せ付けてやるも何もすでに常識レベルで周知されているがそれはともかく。


 俺の激励に全員が気合の声を上げ周囲へと散る。


 まずは強襲作戦だ。

 間違えてないぞ。強襲だ。クラス対抗戦で〈58組〉にやったあれだな。


 しかし守りも疎かにしてはいけない。

 むしろ一番力を入れなくちゃいけないのが守りだ。

 故に、最初は半数での強襲作戦だ。


 俺たち強襲班は隣接マスとの境界線手前で試合開始のブザーが鳴るのを待った。


 そして、アナウンス。


「〈定刻になりました。これよりAランク戦〈拠点落とし〉を開始します。スタート〉」


 試合開始!


 ブザーが流れると同時に俺たちはスキルを開放していった。


「みんないっくよー『コストを下げよ』! 『上限を上げよ』! 召喚盤――召喚!」


「バフ行くよー『プリンセスアイドルライブ』!」


「『全軍一斉攻撃ですわ』! みなさんお気を付けて!」


「『病魔払いの大加護』! みんな頑張ってねー!」


「私も全力で要塞建てるよー! 『防壁召喚』! 『城門召喚』! 『物見台召喚』!」


「ゼニス、落ちないでくださいね。『オーバードライブ』!」


「クワァ!」


 バフが掛かり、強襲班が拠点を飛び出していく。


「ではこちらも――『フルマッピング』ですわ!」


「続いて行くわよ! 『大聖女の祈りは癒しの力』!」


「行くよラナ殿下、『リ・エール』!」


「吹き飛びなさーい――『大聖光の十宝剣』!」


 初手、ラナが五段階目ツリーを発動。

 十本もの宝剣が〈エデン〉拠点から見て南東側、ギルド〈弓聖手きゅうせいしゅ〉の拠点へ向けて飛んでいった。


 強襲作戦が静かに開始された。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る