第933話 宝箱回! 大変なことに気が付いて大混乱!?




 最近、最奥のボスを初めて倒した時は〈金箱〉が出る。

 そんなジンクスというかビギナーズラックのようなものがあった。


 なのに記念すべきランク6〈岩ダン〉の最奥ボス、〈マグネットメタモルゴーレム〉を粉砕したのに、初のドロップは〈銀箱〉だった。〈金箱〉じゃないだと!? もしかしたら第一形態と第二形態をほとんど完封されたのが気にくわなかったのかもしれない。


 否!

 そんなの関係無い!

〈金箱〉を寄越せぇーーー!!


「ギガーーーーー!?!?!?」


「だらしゃーー! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』! 〈金箱〉寄越せスラァァッシュ!!」


 ということで周回だ!


 さっきの戦闘をなぞるかのように第一形態と第二形態を完封して第三形態で急にアクロバティックになった〈マグメタ〉をボコって撃破してやる。戦闘時間は9分。何このタイム、凄いんですけど。


「ドロップは!?」


「ん、〈木箱〉」


 ランク落ちた!?


「なにぃ!? もう一回だ!」


「〈金箱〉が出るまで倒すわよ!」


「次こそ〈金箱〉をドロップするんだ! さもないと、俺たちは帰らないぞ!」


「いえ、時間が来たら帰るわよゼフィルス。その時は諦めなさい」


 まさかの2周目〈木箱〉。

 俺の〈金箱〉欲しい寄越せスラッシュが効かないだと!?

 くっ、妖怪の目に留まってしまったのかもしれない。


 否否否!

〈金箱〉が落ちるまで周回するぞ!

 俺たちは君が〈金箱〉をくれるまで帰らない!

 だが、シエラに時間になったら帰るわよと言われた。

 むう。なんとしてでも〈金箱〉をドロップしてもらわなくていけないな!


 なんだか〈マグメタ〉の目カメラが動揺しているように見えたが、きっと気のせいだろう。


 次! 3周目だ!


 それから俺たちは〈マグメタ〉を周回し続けた。

〈マグメタ〉は〈嵐ダン〉の最奥、〈クジャ〉を相手にするよりもやりやすい。


 本来なら第一形態や第二形態の時、宙に浮いた岩やゴーレムを落としてくる〈マグメタ〉。

 ゴーレムだってこれまで出た上層の〈ファイアゴーレム〉や中層の〈ポイズンファイアゴーレム〉や下層の〈ルビーゴーレム〉など、様々な種類のゴーレムが落ちてくるため本来ならこんなに楽勝な敵ではないはずなんだけどな。

 というか、状態異常をばらまくゴーレムを落としてくるせいでかなりキツかったりする。


 それがほぼスキップ出来るのだ。

 マジかよ。この状態異常ゴーレムがいるためにランク6最奥の〈マグメタ〉は周回に不向きなボスと言われ、倒すのに時間が掛かるボスとして知られていた。

 それなのに、〈クジャ〉を倒すのに掛かる時間が早くて15分なのに対し、〈マグメタ〉は大体9分である。これで料理アイテムが良い物だったり、俺たちの戦闘が慣れてきさえすればさらにタイムは短くなるだろう。ヤバいんだけど!?


 しかし、〈マグメタ〉の根性もかなりのものだ。

 こいつ、中々〈金箱〉を落とさない。

 上級ダンジョンボスで〈金箱〉率が上がっているはずなのに!


 だが、そんなやせ我慢もついに最後の時を迎える。


「ギギ…………」


 それは11周目のこと、とうとう俺たちの前に〈金箱〉がドロップしたのだった。

 しかも二つも!


「やっと〈金箱〉だわ!」


「ん! 長かった!」


「はーっはっはっは! 参ったか〈マグメタ〉め!」


 最後に笑うのは俺だ! ふはははは!

 最後まで抵抗していた〈マグメタ〉もなんだか悔しそうにしている光景が見えた気がした(妄想です)。

 ということで、俺たちは〈金箱〉回へと突入する。


「じゃあ、早速俺はこれを」


「ん」


「って、ちょっと待ちなさいゼフィルス! カルア!」


「ラナ?」


「ん?」


〈金箱〉に一番近い位置に居た俺とカルアで〈金箱〉を分け合う直前、ラナから待ったが掛かった。

 その声色がいつもの感じと違ったので思わず伸ばした手を止めてラナを見る俺とカルア。


「さっきのことを忘れたの! ゼフィルスとカルアの気持ちはとても分かるけど、〈金箱〉はローテーションって決めたでしょ! こ、今度は〈金箱〉が私たちの手から離れていくかもしれないわよ!」


「「!?!?」」


 それはなんとも衝撃的な発言だった。

 少し前、〈金箱〉が自ら開けて欲しい相手にシエラを選んだことは記憶に新しい。

 ラナはこれを、〈金箱〉が開けて欲しい人を選ぶのではない、〈金箱〉が俺たちを避け始めているかもしれないと指摘したのだ。


 これには俺もカルアも雷に打たれたような衝撃を受けた。


 俺たち、〈金箱〉に避けられてる!?


 た、確かに。ボス周回を10回やって〈金箱〉がドロップしなかったのだ。

 ラナの言うことにも一理あった。


 なんということだ。〈金箱〉に避けられたら〈ダン活〉の世界では生きてはいけない。


 ラナの発言には恐ろしい、まことに恐ろしい意味合いが込められていた。

 発言した当のラナも、自分は恐ろしいことに気が付いてしまったかもしれないと言わんばかりに珍しく顔を青くしている。


 それからの俺たちの行動は早かった。


「シエラ! エステル! ささささ、どうぞどうぞ、俺たちの代わりに――じゃなくて2人には〈金箱〉が似合うさ! どうぞどうぞ!」


「ん! ん! 2人は〈金箱〉を開けるべき」


「そ、そうよ! シエラ、エステルは宝箱を開けなさすぎだわ! だから開けるのよ! そして平穏を取り戻すのよ!」


「ちょっと3人とも!?」


「はい。ラナ様!」


 全力でシエラとエステルを〈金箱〉の前に誘った。

 ここまで必死に他の人へ〈金箱〉を譲ったのは初めてかもしれない。

 エステルはラナ大好きなのですぐに〈金箱〉の前にやってきたが、シエラはなぜか俺の肩に手を置き説得し始めた。


「ちょっとゼフィルス? 目を覚ましなさい。〈金箱〉から嫌われるなんて迷信よ」


「でも、10周ボスを狩っても〈金箱〉出なかったもん」


「もんって、ゼフィルス、しっかりしなさい! どうしてあなたは〈金箱〉のことになると正気を失ってしまうの? 大丈夫よ、ちょっと運が悪かっただけだわ。その証拠に、ちゃんと〈金箱〉が出たじゃないの」


「そういえばそうだな」


 シエラの言葉に俺は希望を見いだした。

 そうだ。〈金箱〉は出たのだ。まだ慌てる時では無い。

 危ない。何かに取り憑かれてしまうところだったかもしれない。

 我らをお救いください〈幸猫様〉〈仔猫様〉!


「はあ」


「まあ、それはともかくとして今回はシエラ、エステルが開けてくれ。それで平穏は保たれる」


「それであなたたちが正気に戻るならいいけれど……」


 まだ何か言いたそうなシエラだったが、溜め息を一つ吐いてエステルとは別の〈金箱〉の前にしゃがむ。


「みんなお祈りだ! 10周倒しても〈金箱〉がドロップしなかったのはお祈りが足りなかった可能性もある! みんな全力でお祈りするんだ! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉、良い物ください! お願いします!」


「「「「良い物ください! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉!」」」」


 みんなで精一杯お祈りする。

 そうだ。〈幸猫様〉方の力が強ければたとえ〈金箱〉からそっぽ向かれたとしてもきっと〈金箱〉を出してくださる。今回のように。


 だからこそ最後の希望の〈幸猫様〉と〈仔猫様〉には全力でお祈りとお供えをするのだ!

 やはり料理人の上級職は急務かもしれない。お供え的な意味で。


 お祈りを済ませると、まずはエステルから〈金箱〉を開けた。


「これは――またレシピですね」


「すぐに〈幼若竜〉を準備しないと!」


 しまった。

〈金箱〉に気を取られすぎて〈幼若竜〉を準備するのを忘れていた。不覚。

 そういえば〈幼若竜〉は普段宝箱を開けないエステルが持っているんだったと思い出した。


 ラナにエステルのレシピを預かってもらい、その間にエステルが〈幼若竜〉を準備する。


「解読は俺にやらせてくれ。これからしばらくは俺が〈幼若竜〉を担当する!」


「承知いたしました。ではこちら、〈幼若竜〉ですゼフィルス殿」


「おう、ありがとよ。じゃあエステルレシピを持ってくれ。そう、そのまま――『解読』!」


 再びラナからレシピを返還(?)してもらったエステルもレシピを広げるようにして持ってもらい、『解読』スキルを使う。

 ミミズがのたくったような文字がすぐに日本語へと変換された。


「……これは、槍、ですか?」


「た、〈タケミカヅチ〉か!」


 エステルの〈金箱〉に入っていたレシピは黄色に輝く1本の槍のイラストが書かれていた。

 当然俺はそれを見たことがあった。

 両手槍にして〈雷属性〉を内包し、優秀な攻撃力を誇る上級武器。

 ―――〈雷槍・タケミカヅチ〉だ。


 その基本性能がこちら。

 ――――――――――

・武器 〈雷槍・タケミカヅチ〉(両手槍)

 〈攻撃力178〉〈雷属性〉

 『貫通強化LV10』『雷槍LV5』

 ――――――――――


 やべぇ。今エステルが装備している〈マテンロウ〉をそのまま強くしたような槍だ。

〈雷属性〉の槍に加え、〈マテンロウ〉と同じ『貫通強化LV10』を持ち。そして槍投げの中距離攻撃スキル『雷槍LV5』まで加わった強力な装備だ。


 これはエステル行きだな! Aランク戦に間に合うか!?


 夢が広がるぜ!


「次は私の番ね」


 おっと次はシエラだ。危ない危ない。

 今回は〈金箱〉は二つだった。

 シエラが宝箱をそっと開けていく。


「これは、〈上級転職チケット〉ね」


 チケットだーー!!

 妖怪退治したあとチケット来る。

 良くある事だ。ちゃんと妖怪を退散させた証拠だな!


 良し、良し、良し!

 このままどんどん〈金箱〉を当てるぞ!

 周回の続きだ!



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