第934話 ついに到達LV30!明日はレアボスで試し撃ちだ!




〈タケミカヅチ〉が出た後も5周して、さらに〈金箱〉を一つゲットした俺たち。

 その〈金箱〉も普通に〈上級転職チケット〉だった。それはまあ良いだろう。

 さすがは妖怪。今まで出なかったクセに欲しかった後1枚が出た瞬間からひょっこり出てくる。侮れない。


 これだから妖怪は! いいぞもっと出せ!


 ふう、落ち着こう。

 もう一つ吉報があるんだ。


 なんとな。予想以上の周回スピードによって俺の想定を越え、俺たちは明日になる予定だったLV30に全員が到達したのだ!!


 それはつまり五段階目ツリーが開放されたということを意味する。


「LV30よ!」


「ん!」


「今日は帰ってお祝いだな!」


「待ちなさいゼフィルス。お祝いしたい気持ちは分かるけれど明後日は〈拠点落とし〉なのだからお祝いはそれが終わった時にしなさい。それと、あなたにはまだ考えるべき事があるでしょ?」


「考えるべき事?」


 テンションが弾けて上がって打ち上げを提案する俺にシエラが待ったを掛けた。

 確かにそうだ。

 俺のギルドではいつでも打ち上げが出来るよう、ジュースやパーティ料理を始めとする打ち上げ用のあれこれは全て〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の中に入っていたりする。

 むしろ打ち上げ用のマイバッグ(?)があったりする。


〈エデン〉ではたまに連続で、それこそ2日おきとかで打ち上げを開催していた時もあったのでいつの間にか出来た知恵だ(?)。

 しかし、今は〈拠点落とし〉の前、みんな忙しいだろう。それに〈拠点落とし〉の終わりにはちゃんとみんなで優勝おめでとうの打ち上げする予定が、すでに入っている。

 今は打ち上げするべきではない。


 だが、シエラの言っている後半。俺の考えるべき事ってなんだろう?


 俺が首を傾げるポーズを取ると、俺の横にいたカルアも同じく首を傾げるポーズを取った。

 面白い! カルア可愛い。撫でたらダメかな? ダメかもしれないな。


 そんな俺たちを見てシエラが溜め息を吐いた。


「まずあなたがその胸に着けているここの攻略者の証だけど、外して」


「そんな!?」


 シエラからとんでもない言葉が飛び出した。

〈マグメタ〉を狩り、ランク6の正式な攻略者としての証を手に入れ、意気揚々とそれを胸に着けていた俺に対し、シエラはそれを外すよう言ったのだ。なぜ? ホワイ? 怖い?

 ちなみに他の4人は証ケースに入れる派なので胸には着けていない。


「なんでって、そんなの言わなくても分かるでしょう? むしろそれを着けたまま帰る気? 大騒ぎになるわよ?」


「ゼフィルス殿、〈キングアブソリュート〉はまだ〈霧ダン〉すら攻略していないのです。それをいきなりランク6を攻略して抜かしてしまうのは……」


「あ!」


「……今気が付いたのね」


「いやいや、気付いていたさ。ちょっとテンション上がって忘れていただけだ」


 現在、学園で最も攻略が進んでいるのはSランクギルド〈キングアブソリュート〉と言われている。理由はランク2である〈霧ダン〉を攻略中で、すでに50層のフィールドボスを倒しているからだ。さすが、順調だな。


 しかし、それを俺たちがポッと出て2日でランク6を攻略しましたというのはどういう反響を呼ぶだろう?


「この世界で記録上初となる、上級ダンジョン複数攻略を成した最初のギルドが〈エデン〉。――〈キングアブソリュート〉あとちょっとのところで抜かされる」


 そんな話が歴史に残ることになる。

 ヤバいな〈キングアブソリュート〉に泥を塗ってしまう。さらにはラナの成果が上がりすぎてしまう!


「せめてそれを着けるのは〈キングアブソリュート〉が〈霧ダン〉を攻略した後にしなさい。それまで攻略したことは秘密よ」


「そうだな。うっかりしてた。シエラ、サンキュ」


〈キングアブソリュート〉はラナのお兄さん、ユーリ先輩がいて、今実績や大成果を残している最中だ。俺もそれに協力しているし、このまま突き進んでいってほしいと思っている。

 そこに俺たちが泥を塗ってしまうのは大変よろしくない。

 せっかく順調に実績と成果を稼いでいるのに水を差すことになるだろう。

 それは誰も望んでいない展開だ。危なかった。シエラに感謝だな。


 俺はランク6の証を外し、どうしよう? とりあえずバッグに入れておく。

 攻略者の証はトロフィーみたいなものだ。飾って見せびらかすことに意味がある。(ゼフィルスの主観です)

 それができないので当面は部屋にでも飾っておくとしよう。


「さて、済んだところでいよいよ五段階目ツリーのSP振りだな!」


「楽しみ! 私、すっごく楽しみにしていたのよ!」


「俺もだ!」


 ラナと気持ちが通じ合い、両掌でタッチし合う。イエーイ!


「でももう外は暗くなってるわよ。続きは明日ね」


「ええー!?」


「シエラ!?」


 確かにもう19時だ。外は真っ暗だろう。ダンジョンの中は夜でも明るいままだが。


「仕方ないじゃ無い。私だって新しいスキルにSPを振りたいわ。でも19時までと約束したのはゼフィルスでしょ?」


「そうだった……」


 本来なら明日五段階目ツリーになる予定だったのにギリギリで届いてしまったので、俺たちがLV30になったのはもう19時のことだった。

 19時にはみんなを帰す。ダンジョン終了というのは俺がこのリアル世界で女の子に夜の1人歩きをさせないために自ら決めた制約だ。


 SPを振ったら最後、「練習したい」から始まって「ボス戦したい」「もっともっとしたい」となるに決まってる。帰る時間が何時になるか分からない。へたをすれば『テント』まで使うかも!? 絶対にSP振って終わるなんてことにはならないだろう。まあ『テント』を使用するには事前申請が必要なので結局出来ないのだが。


「よし。今日は解散だ!」


 俺は涙を呑んで宣言した。


「ええー!」


「みんな、勝手にSPを振るんじゃないぞ? もちろん俺も振らない。明日一番でSPを振るからそれまでみんな我慢だ。そして明日は五段階目ツリーの試し撃ちだ!」


「むむ、それは楽しそうね」


「ん」


 悩ましいという表情のラナとカルア。いや、カルアは首を捻っているだけだな。

 もしかしたら伝わっていないのかもしれない。

 しっかり言い聞かせとかなければ。


 ラナのことはエステルに任せる。楽しい楽しいSP振りは時間に余裕がある時にやるべきだ!


「ねえゼフィルス、明日はどこに行くの? もうレベル上げは上限に届いたでしょ?」


「そうだな。みんなはもう〈マグメタ〉じゃ物足りないだろう」


 俺は腕を組んで頷いた。なぜか機械の目から涙っぽいものを流している〈マグメタ〉が見えた気がしたが、きっと気のせいだろう。

 ハメ技は確かに強いが、強すぎた。レベルが上限に行った今、あのボス戦では物足りない。

 そこで一つ提案をしてみる。


「それならみんな、上級のレアボスに挑戦してみるか?」


「上級のレアボス!?」


「ん!」


 上級ダンジョンのレアボスと聞いてラナとカルアの目が輝いた。

 五段階目ツリーの試し撃ちにちょうど良いと思っているに違いない。


 シエラとエステルも少しそわそわしているように見えた。

 レアボスならドロップもさらに期待が持てる。

 決まりだな。


「なら明日やるべきことも決まったな。明日は〈嵐ダン〉最奥で〈笛〉祭り。レアボス周回をしようか。俺たちの今の実力ならレアボス周回も余裕だろう」


「やるわ!」


「やる!」


「シエラとエステルはどうだ?」


「もちろん参加させてもらうわ」


「はい。とても楽しみです」


 というわけで、明日は上級ダンジョンのレアボス周回に決まった。

 最初なので、一番弱いランク1の最奥に行くことにする。

 新しいスキルの試し撃ちをするには、ちょうど良い相手となるだろう。


 超楽しみだ!


 俺たちはワクワク気分のまま転移陣・・・で帰還した。


 また、今回〈マグメタ〉からドロップした素材たちはまだ市場に流通させてはいけないとシエラから厳重に注意されたため、ギルドで保管することになった。

 マリー先輩の肝が取れなくてちょっと残念。


 まあいい。明日いっぱい取ってやるからな!


 その頃、マリー先輩が急な寒気に震えていたのを俺は知るよしもないのだった。




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