第918話 冬休み突入。まずはギルドでブリーフィングだ!




 12月も下旬に入った21日土曜日。

 今日から冬休みだ。


 昨日俺たち〈エデン〉はCランクギルドからBランクギルドのギルドハウスへと引っ越した。

 朝出発し、足がC道に行きそうになるのをハンナに正されてBランクのギルドハウスが立ち並ぶB街へと向かう。


「もうゼフィルス君ったら、そっちはC道の方でしょ?」


「いやあ、長くCランクギルドハウスを使っていたからつい足が向かいそうになっちまった」


「気持ちは分かるけどね。私もふとした拍子にそっちに行っちゃいそうなるもん」


「気をつけないとなぁ」


 今日も朝からハンナと2人で歩く。

 いやぁしかし、未だにBランクに昇格したという実感が薄いのはなぜだろう?

 あれか? 昇格したけど数日後にはまた昇格しそうだからBランクという意識が低いのかな?


「でも荷解きとかどうしよう? 工房もお店も、改装している暇なんか無いよね?」


「だな。Aランク〈拠点落とし〉は第二アリーナで3日後の火曜日開催されることが決まったからな。それに勝てば昨日引っ越したばかりなのにまた引越しだ。改装には最低でも2日掛かるから、今から改装を始めても出来る頃には引っ越さなくちゃいけなくなっている可能性が高い」


 つまりは工房もお店も〈拠点落とし〉の結果が出るまでお預けということだ。


「うう~ん。しばらくはアイテム作るのもお休みかな?」


「だな。しばらく働き詰めだったからこの機会に体を休めるのもいいんじゃないか?」


 上級アイテムはそれなりに在庫がある。1週間ハンナが休んでも問題ないくらいには〈転移水晶〉も〈霧払い玉〉もあるし、売らないのであればポーションの在庫も余裕がある。

 ハンナにはいつも頑張ってもらってるからな、この際お休みにしてしまってもいいと思う。

 どうしてもアイテムを販売したいなら露店〈マート〉という手もあるが。


「お休みか~。〈上級錬金セット〉はあるから、生産量は少し落ちちゃうけど出来ない事はないよ?」


「ま、そこらへんはハンナにお任せだな」


 そういえばハイスラリポマラソン用の〈上級錬金釜〉があったのを忘れてたな。

 まあ、休むも良し、ハイスラリポマラソンをするのも良し。そこらへんはハンナに一任するとしよう。


「うん。そういえばAランクのギルドハウスってどんなところなんだろう。新しいハウスを新築したって話だったよね?」


「気が早いなハンナ。まあ気になるのも分かるけどな。Aランクのギルドハウスは4棟が新築されたって話だ。新築だからとても綺麗らしいぞ。この4棟に加え、Sランクと公式ギルドへ移動して3棟が空き家になる。俺たちBランクギルドはそれを取り合う形だな」


「出来れば新築がいいな~」


「だな。学園長の話だとギルドハウスは勝者の順位順に選択権があるらしい。1位なら6棟のうち好きなギルドハウスを選べる。2位なら1位が選んだハウス以外から、というわけだな。あと新築のうち1棟は生産ギルド行きになるかもしれないから、戦闘職で新築が選べるのはおそらく3位以内だな」


「ゼフィルス君、頑張ってね! 3位までに絶対入るんだよ!」


「ハッハッハ! 誰に言ってるんだハンナ。俺に任せとけ、3位どころか1位入賞してやるよ!」


 俺も出来れば新築がいいなぁと思っているので異論は無い。

 まあ、3位どころか1位狙っていくけどな!


 そして新しいハウスで祝勝会をあげるんだ!

 学園長の話では、新築のハウスは入居者が出て行く必要が無いため、〈拠点落とし〉当日から引越しが可能だという。

 このまま荷解きをせずに3日後即引越しすることにしよう。(すでに勝った気)

 あ、でも〈幸猫様〉はもちろん別です。今日もお祈りさせていただきます。


 さて、早速この方針をメンバーに伝えるべく、俺たちはBランクギルド(仮住まい)へ足早に向かったのだった。


「うーん、何度見てもその、普通だね」


「改装前だしな。これがBランクギルドハウスのスタンダードだ」


 うむ、俺たちはBランクギルドハウスに到着したのだが、なぜかスタンダードに戻したCランクギルドハウスよりも地味に見える不思議。これが愛着の差か。


 中に入るとみんなが集まる大部屋へと向かう。


「あ、ゼフィルス、ハンナ、来たわね! おはよう!」


「おはようなのです! ゼフィルスお兄様、ハンナお姉ちゃん!」


「おう、ラナ、ルルも、おはよう~」


「おはようございます」


 テーブルに設置された椅子に腰掛けていたメンバーが振り返ったので挨拶しながら中へと入る。


 一通り挨拶が終われば我らが〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の下へ行き、お祈りだ。

 引越しで一番大事なこと。それは〈親子様〉へのお祈り。当然荷解き済みで神棚が飾ってあった。

〈幸猫様〉たちだけは荷解きしておかないとな。『幸運』が切れたら困る。


「ルルもぬいぐるみさんを愛でるのです! いいこいいこなのです!」


 だが大量のぬいぐるみも荷解きされているのはなぜだろう?


「うう、ちょっと寒いね。〈あねたい〉は設置しておかないとだね」


「ギルド設置型アイテムは最低限必要だよな。ぬいぐるみは、必須かなぁ?」


「ゼフィルスお兄様! ぬいぐるみさんは必須なのですよ!」


「そうか~」


 うむ。そういうことだ。


 しばらくすると〈アークアルカディア〉の6人も加え全員が揃ったので、俺は壇上に立ちいつも通りブリーフィングを開始した。


「みんなも知ってのとおり、3日後に〈拠点落とし〉が開催される! Aランクギルドの6席を取り合うギルドバトルだ! 参加ギルドは現Bランクの18ギルド全て、〈25人戦〉で行なわれ、上位6ギルドはAランクギルドの仲間入りを果たす。だが、俺たちは6位に入ればそれでいいなんて小さいことは言わない。目指すは1位だ!」


「「「「おおー!!」」」」


 まずは情報共有とギルド〈エデン〉の基本方針を通達する。

 さっきハンナにも話した上位入賞ギルドの順にギルドハウスの選択権が与えられる旨も話すと、メンバーのテンションは最高潮になった。


 ちょっと落ち着くのを待つ。


「さて、ではこの〈25人戦〉に誰が出場するのか、気になっている人も多いだろう。もちろんやるからには全力だ。故に、俺は今回も全員上級職で行こうと思っている!」


「「「あ~」」」


 俺がキリっと宣言したらなぜかため息とか呆れたような「あ~」になった。

 おかしいな。


「こほん。続けるぞ。今、俺たち〈エデン〉の手の中には〈上級転職チケット〉が4枚ある! そして〈エデン〉メンバーで上級職は21人だ。ちょうどになるな。だが、さすがにハンナは生産職なので1人はメンバーチェンジする所存だ」


「うん。そのほうがいいと思うよ。私はさすがにBランクギルドが18ギルドもせめぎ会う〈拠点落とし〉で生き残るのは、ちょっと難しいと思うし」


「というわけだ。では今日も全力で〈上級転職チケット〉を手に入れるとして。まずはこの4枚を誰に使うのか、これを使うということは〈拠点落とし〉の出場者になるということだ。それをこの場を借りて発表したいと思う!」


「「「「わ~!!」」」」


 再び大部屋から歓声が上がる。

 現在〈エデン〉で下級職なのは、サチ、エミ、ユウカ、トモヨ、カタリナ、フラーミナ、ロゼッタ、エリサ、フィナリナの9人だ。

 この中から最低4人を上級職にしてAランク〈拠点落とし〉に参加してもらう。

 さらにハンナとチェンジでもう1人参加、これは最悪下級職でも構わないが、出来れば上級職で揃えたい所存。

 明後日までに〈上級転職チケット〉が出てくれれば25人全員上級職で参加できるだろう。


〈妖怪・後一個足りない〉のせいで後一個が中々落ちないが、物量作戦で妖怪を退治してやる。


 まあそれは置いといて、〈拠点落とし〉参加者の残り5人中、とりあえず4人を発表したい。


「ではこの4枚の〈上級転職チケット〉だが――」


 そこで一度区切る。ドキドキと全員の視線が俺に集中するのを感じた。

 今〈上級転職ランクアップ〉しておけば今日と明日と明後日がレベル上げに使える。

 ここで発表するのは必須だった。


 俺は意を決して発表する。


「使用するのはサチ、エミ、ユウカ、それにフラーミナだ!」


「「「「わ!!」」」」


 一気に発表。

 大部屋がドッと感情が爆発したみたいな、大きなテンションに包まれる。


「サチ、エミ、ユウカ、おめでとう!」


「うん! ありがとうねトモヨ~」


「フラウ、私たちの分まで頑張ってきますのよ」


「任せてよ! 私、カタリナやロゼの分まで頑張るからね!」


 選ばれなかったトモヨやカタリナ、他のメンバーもみんながサチたちを祝福していた。

 今回俺が選んだのは仲良し3人娘のサチ、エミ、ユウカ。そしてテイマー系の使い手であるフラーミナだった。


 フラーミナには防衛戦。防衛モンスターの召喚と操作をお願いしようと思っている。


 サチ、エミ、ユウカは遊撃だ。

 彼女たちの強みは火力と連携にある。

 他のメンバーと比べ、個としては弱い【魔装】系だが、3人が揃ったときの火力は個なんか軽く吹き飛ばす。3人が常に行動を共にしているときに倒すのは容易ではなく、逆に大火力による反撃が恐ろしくて容易に近づけない強力な戦力となる。


 他に3人組を組ませるより、仲良し3人娘の方が牽制できるのだ。連携力も〈アークアルカディア〉の頃からずっと磨いてきており、あのアイアムソードマン先輩のような人が相手でなければ遊撃として非常に優秀な戦力であると俺は見ている。


 要は〈拠点落とし〉と相性が良いのだ。


「じゃあ、サチ、エミ、ユウカ、フラーミナは、俺について来い。これから〈上級転職ランクアップ〉を始めるぞ」


「「「「はい!」」」」




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