第911話 〈浮遊戦車イブキ〉完成! 即受け取りにゴー!
結局巨大な孵卵器は物理的に背負って持ち帰った。
さすがは生産ギルド、ちょちょいっと背負子を作ってくれたよ。
STRのおかげであまり重くなかったのがありがたいところだな。
アイギスはとても恐縮して「私が背負います」と言っていたがさすがに女の子にやらせるのは俺の気が引けるので「ここは俺に任せておけ」と言って押し通した。
そう言うと、アイギスは大人しく三歩後ろを付いてきた。
俺は孵卵器をギルドに置いてアイギスと別れ、今度は寡黙な先輩ことガント先輩のギルド〈彫金ノ技工士〉へと訪ねていた。なんととある報告が舞い込んできたためである。
「ガント先輩いるか~」
「表に出ろ」
俺がいつもマリー先輩の店を訪ねるノリで店の入口を潜ると、いつかと同じような言葉が返ってきた。
「表に出ろ、っじゃないっすよギルマス!?」
そしてケンタロウ君のツッコミも相変わらずだな。
「ケンタロウ君もおはよう。相変わらず大変そうだな」
「え? はいっす! ゼフィルスさんいらっしゃいませっす。そしていつもギルマスがすみませんっす」
「はっはっは、別に大丈夫だ、慣れたもんさ」
「そう言ってくれると助かるっすが……いえ〈上級転職チケット〉なんていう貴重なアイテムを融通してくれた大スポンサー様にはやっぱり失礼っす! 僕がなんとしてでもギルマスを
「無理じゃないかなぁ」
ケンタロウ君の決意は尊い。だが、チラッとガント先輩を見る。
相変わらずマイペースに表に出て目的の場所に歩いて行っていらっしゃった。
うん。やっぱり無理じゃないかなぁ。
俺は心の中でケンタロウ君の健闘を祈りつつ、ガント先輩の後を追った。
すると、いつもの駐車場でガント先輩が〈
「見ろ」
「おお~! すっっげぇ~~!!」
ドンッとテロップが付きそうな勢いで出てきたのは依頼していた〈乗り物〉装備。
―――〈浮遊戦車イブキ〉だ。
白を基調とし新幹線の頭のような直角三角形の滑らかなフォルムが見える。見た目はクルーザーに近い。
まだ装備していないため地面に下ろされているが、これをエステルが装備すればどんな原理かは分からないが地面から浮き上がり、走行することが可能になるのだ。
ロマンの塊だぜ!? やっべぇだろ!! 早く乗りたい!
俺は初めて無機物馬が引く馬車、〈からくり馬車〉を見たときを超える感動を味わっていた。
「ガント先輩すっげぇよ! マジすっげぇよ! これすっげぇよ!」
本物の感動を味わったとき、人の語彙力は迷子になると言うが、まさにこの事だぜ。
一通り〈イブキ〉の周りをグルグル回って感動した後、ようやく少し落ち着いた俺の脳が「早う『解析』せぇ」と騒ぎ始めたので早速〈幼若竜〉を取りだして『解析』した。
―――――――――――
〈浮遊戦車イブキ(高級品):攻撃力225。乗車人数12人〉
〈『空間拡張LV6』『フォルムチェンジ』『浮遊走行』〉
―――――――――――
装備枠を二つ使うとはいえ攻撃力がまさかの200超え! 強っ!
『空間拡張』は〈からくり馬車〉にもあった内部の空間を拡張するスキルだ。〈イブキ〉の場合はこれにデッキも含まれる。ちなみに〈イブキ〉も内部に入るドアが有り、中で休憩なんかも出来るぞ。
『フォルムチェンジ』は所謂オープンカーの屋根を出すのと同じ感じのスキルだな。
現在クルーザーのような見た目でデッキは当然開けているが、これを使えば透明な膜が張られて雨や雪、日差しなんかの対策が出来るスキルだ。
『浮遊走行』はそのまんま、浮遊したまま走るスキルだな。
さすがは
〈エデン〉の装備の中でも竜系に並びうる最強の装備だろう!
「の、乗ってみてぇ。だが、お披露目の前に俺だけ乗るのは……」
「好きにしろ」
「いや。やっぱりそれはダンジョンのお披露目の時だな! これはこのまま持って帰ることにするぜ。ところで作製費とか本当にいらないのかガント先輩?」
「二言はない」
「そんな事言って、だったら大量に上級アクセ装備を作ってもらうぞ? タダより怖い物なんて無いんだからな」
「……上等だ」
「ふっふっふ、ならそっちのレシピは後で渡そう。とりあえずはこのイブキだな。この性能でも十分すごいが、やっぱりレアボス素材を使ってないからな。最上級品にするために今度〈嵐ダン〉のレアボスを狩れるようにしないと」
実はこの〈浮遊戦車イブキ(高級品)〉だが、もう一段上がある。〈サンダージャベリン号〉たちでお馴染みの最上級というクラスがあるのだ。まあ、それを作るにはレアボス素材が大量に必要で、今回は色々足りていなかったために徘徊型素材と最奥ボス素材のみで作ったため高級品止まりだったというわけだ。
最上級になれば攻撃力上昇、乗車人数上昇に加え『フォルムチェンジ』が『環境対策モード』に進化して耐熱、耐寒なども付与される。
さらにイブキはカテゴリー〈乗り物〉〈馬車〉〈戦車〉なため、他のメンバーでも操縦可能だ。故にできれば量産したいが、するなら最上級を量産したいところ。
というわけでしばらくイブキの量産はお預けだな。
ガント先輩には他に上級でドロップしたレシピでアクセ装備を作ってもらうことにする。
「素材が集まったら持ってこい」
おっとガント先輩にしては長文。
ガント先輩も〈嵐ダン〉のレアボス素材を心待ちにしている様子だ。
「おう! その時はまた〈イブキ〉を頼む。それまではこっちのレシピの装備を頼みたい」
「……いいだろう」
俺からレシピの束を受け取り軽く目を通すと、一瞬だけニヤりと笑ってからガント先輩は頷いた。
これでドロップのアクセを狙うだけじゃなく、生産でもアクセを揃えられるようになるだろう。また〈エデン〉メンバーの装備が整うぜ。
そろそろ〈エデン〉パーティの2陣目、3陣目の上級ダンジョン進行を計画している俺からすれば、この順調具合に口元が緩むのが隠せない。ふはははは!
とそこで俺の〈学生手帳〉がピロリン♪と通知音を鳴らす。
確認してみると相手はマリー先輩で、そこには「リーナはんとシズはんの装備、あとルルちゃんとニーコはん、それにアイギスはんとシャロンはんの装備が仕上がったで」と書かれていた。
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