第904話 ゼフィルスVSアギドン決着。見覚えのある戦斧。




 前方のゼフィルスたち。

 後方の要塞化した本拠地。


 予感が確信に変わる絶望的な状況でもアギドンは叫んだ。


「一点突破するぞ!」


「「おお!」」


 今は逃げる。逃げるしか無い。後のことは未来の自分に何とかしてもらおう。

 そう信じて今の自分に出来る事を――とりあえず逃げたいと叫んだ。


「逃がしはしない! 『天歩』!」


「何!? 空中を!?」


〈カッターオブパイレーツ〉は包囲の脱出、一点突破を狙ってきた。

 進路を東へ修正し、突破を図ろうとした。

 瞬間、まるで天を走るようにして行く手を塞ぐ者が現れた。

 上級職【ウラヌス】に〈上級転職ランクアップ〉したレグラムだ。


【ウラヌス】は速度系に特化した剣士系職業ジョブ

 パメラのような三次元の動きも可能な高速剣士だ。


 空中を走って回りこんできたことに一瞬度肝を抜かれた〈カッターオブパイレーツ〉の3人。

 その一瞬は致命的な隙となって彼らを脅かす。


「受けよ――『疾風天空・激天斬』!」


「こなくそ! でよ『大海船』!」


 レグラムがいきなりの大技。一閃した瞬間出た巨大な閃光と暴風の範囲攻撃が3人を襲う。

 それをギリギリのところでアギドンが海水を纏った船を出して防御した。

 しかし、足は完全に止められてしまう。そこへ。


「ん! 『デルタストリーム』!」


「おっしゃー『ソニックソード』!」


「先ほどのお返しです! 『騎槍突撃』!」


「来て――『式神ノ参』!」


「援護する『ヘイストサークル』!」


「精霊様の加護を『六精霊全召喚』! 『パーティ・エレメントリース』!」


「行っくデース! 『忍法・えん爆裂丸ばくれつがん』!」


〈エデン〉のメンバーの全員が一斉に〈スキル〉と〈魔法〉のオンパレードを発動した。


 まずカルアが素早い移動で3人の中心に飛び込むと、周囲範囲攻撃、自分の体を軸にして回転し竜巻を引き起こす『デルタストリーム』を発動した。

 さきほどのレグラムの暴風とあわせ、3人を分散させる狙いだと分かる。


 ゼフィルスは一番厄介そうなアギドンに切り込んだ。

 アギドンはレグラムとゼフィルスを牽制しつつ逃げにはいるが防ぎきれずに崩され、そこにゼフィルスの『勇者の剣ブレイブスラッシュ』を叩き込まれてしまう。


【サーチ・アンド・デストロイ】男子にはまずアイギスが槍と盾を構えた槍突撃で突っ込んだ。

 それを見て迎撃しつつ逃げようとするが、タバサが鬼を召喚することで逃げ道を塞ぐ。

 途中メルトからの素早さ上昇の強化バフ魔法が届いて速度が増したアイギスによって【サーチ・アンド・デストロイ】男子は迎撃も満足に出来ず、直撃してしまう。〈ドラゴンランス〉のダメージはたっかい模様だ。


 そこにシェリアが六属性全ての精霊を召喚し、1体から2体を残して味方全員に精霊を貸し出す『パーティ・エレメントリース』で味方の強化を図った。〈火精霊〉はレグラムのSTRを強化し、〈氷精霊〉はアイギスのVITを強化し、〈雷精霊〉はメルトのINTを強化し、〈光精霊〉はゼフィルスのAGIを強化し、〈闇精霊〉はタバサのRESを強化した。

 そして残った〈聖精霊〉を使い、シェリアが遠距離から精霊魔法を叩き込む。


 さらに【悪の女幹部】へ、パメラがドデカイ溜め攻撃を作って飛び込んでいったことで〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーは完全に分散してしまった。


「ナイスだパメラ! ――レグラム!」


「任せるがいい――『天歩天空・空斬そらきり』!」


 高速で空中を蹴り、レグラムがアギドンへ迫る。


「くっ! さすがは〈エデン〉! だが、負けるかよーーー! 『海賊ソウル』!」


 アギドンが自己バフを使う。体中に海色のオーロラのようなカーテンを纏い、攻撃力と防御力が飛躍的にアップする。


「食らうがいい!」


「『肉を切らせて、骨を絶つ』!」


「!」


 レグラムの『天歩天空・空斬そらきり』は高速移動からの斬撃スキル。ゼフィルスの『ソニックソード』の上位系だ。

 しかも空中移動からの攻撃なので反撃をされにくく、さらに火力もある優良スキル。


 しかし、対するアギドンが発動したのは、カウンター。

 攻撃を受けると自動で反撃する大技で。自分もダメージを受けるが、その分相手にも大きくダメージを与え、さらに吹き飛ばし効果のある斬撃だった。


 アギドンは自身がやられないよう自己バフで防御力を上げ、レグラムの攻撃を体で受け止めたのだ。

 瞬間、カウンターで振るわれるサーベルがレグラムに直撃する。

 アギドン渾身の一撃だった。


「うおりゃあああ!!」


「がっ!?」


「レグラム!! タバサ先輩!」


「『大回復の儀式』!」


 レグラムにはノックバック耐性の『貴族の矜持』があるが、吹き飛ばし効果には耐性効果が超えられることもある。

 特大の反撃を食らい、大ダメージを受けて吹き飛ぶレグラムに急いでタバサが回復を飛ばす。ついでにラナの回復も飛んできたようだ。

 たったの一撃で6割以上も削られたダメージが瞬時に回復した。


「やるな! アギドン先輩は俺に任せろ!」


「へ、ゼフィルスが来るか! ふっ!」


「む! あれは〈回復薬の息吹〉か! また高価なもんを」


 ゼフィルスがアギドンに向かうとアギドンがアイテムを使っていた。

 それは〈回復薬の息吹〉。パーティ全員のHPを300回復してくれる貴重なアイテムだった。

 ゼフィルスも持ってはいるが、使うのが勿体無くて埃を被っているアイテムである。


「くっ、もう逃げられないか……ならば、俺もこっちを使わせてもらおうか」


「そいつは……まさか〈怒りの竹割戦斧〉か?」


「! よく知ってるな。おうよ、サーベルは速度を出すための仮の武器、俺の相棒はこっちなわけよ」


 アギドンが武器を交換する。

 どうやら背中のマントに隠してあったようで、サーベルを鞘に戻すと両手で戦斧を持ち開放。ガシャンという音と共に柄が伸びて2メートルほどのバトルアックスになった。

 どうやらアギドンのメインウェポンはこの〈怒りの竹割戦斧〉だったらしい。


 あのサーベルには『移動速度上昇』スキルや『AGI+』が付いているが攻撃力はいまいちだった。

 アギドンは逃げ切れないと踏んで、全力で迎撃する構えのようだ。

 しかし、そんなアギドンの覚悟とは裏腹に、ゼフィルスはその戦斧に見覚えがあった。


「もしかしてそれってマリー先輩のところで買ったのか?」


「おっと、これが欲しかったのか? 悪いな、これは手に入ったら俺たちのギルドへ流すよう予約してあったんだ」


「あ、あ~、なるほど」


「まあ、3000とちと高かったがな。それを出すに値する性能なんだぜ。覚悟しろよゼフィルス!」


 まるで奥の手とばかりに戦斧を構えるアギドン。

 しかし……その〈怒りの竹割戦斧〉はゼフィルスがマリー先輩に売ったもので、マリー先輩がBランクギルドに2000万ミールで売りつけるとか言っていた気がしたのを思い出すゼフィルスだった。そしてどうやらマリー先輩は〈カッターオブパイレーツ〉に3000万ミールで売りつけた模様だ。


 戦いの前に余計な情報を知ってしまったゼフィルスは哀れみ目でアギドンを見てしまう。


「な、なんだ!? なんでそんな目で見る!?」


「ごほんごほん。いや、なんでもない。じゃあ――やろうか」


「く、そんな余裕ぶっていられるのも今のうちだ! 『怒りLV10』!」


 そして〈怒りの竹割戦斧〉の真骨頂、攻撃力を特大上昇させる自己強化バフ『怒り』スキルを使う。

『怒り』は上級でも通じるほど攻撃力が上がる代わりに、激昂状態になってスキルが使えなくなるデメリットがあった。しかし、初期LV1だった『怒り』をアギドンはLV10まで強化することでデメリットを緩和し、クールタイムが倍になる程度に抑えている。


「『マックス・アックス』!」


 そして振られるマックスまで巨大化した斧。

 ゼフィルスを叩き割らんとするそれだが、ゼフィルスからすれば何の問題もなく避けられる。肩に乗った〈光精霊〉が応援するようにピカピカ光る光景を横目に、『直感』にしたがって左へと避けながらアギドンへ迫った。

 ゼフィルスお得意、相手がスキル名を叫んだときにはすでに避けている超絶回避技だ。


 しかし、それを見てもアギドンは怯まない。


「避けられると思ってたぜ! これならどうだ! 『暴水衝撃斧』!」


 アギドンが次にしたのは地面を斧でたたきつけること。

 これにより、たたきつけた箇所を中心に海水が溢れ、波となってゼフィルスを襲う、はずだったが。


「『ライトニングバースト』!」


「くっ!」


 当然攻撃魔法によって海水ごと蹴散らされる。アギドンもギリギリで回避するが、そのときにはすでにゼフィルスが剣の間合いに入っていた。


「さすがにBランクは強いな」


「くっ嫌味かよ!」


「褒め言葉だぜ――『ハヤブサストライク』!」


「『白兵戦』!」


「『ライトニングスラッシュ』!」


「『唐竹割り』!」


「『聖剣』!」


「ぐっ『グランドアックス』!」


 ズドン、ガガンガンと金属音と火花が散る。

 ゼフィルスとアギドンが切り結ぶ。

 お互いに全力を込めて。


 そして、すぐに結果は現れる。

 アギドンのHPが危険域に突入したことで。

 それに対しゼフィルスのHPは8割以上残っていた。

 防御力、素早さでゼフィルスが圧勝し、アギドンの攻撃を避けては自分の攻撃を叩き込み、圧倒的に有利に事を運ぶ。


「『ライトニングバニッシュ』だ!」


「『アックス・大防御』!」


 ついに防御スキルで防御に回るしかなくなったアギドン。

 あまりの衝撃にズザザザと足が滑り、片膝を突く。


「はぁ、はぁ」


 息を吐く振りをしながら回復アイテムを探るが、もう1つしか残っていなかった。

 非常に高価なアイテム。〈エデン〉で販売されている〈エリクシール〉だ。これを飲めばHPを2100回復できる優れものだが、ゼフィルスは剣を向けており、いつでもアギドンを攻撃出来る構えを取っていた。とても〈エリクシール〉を飲める隙は無い。


「ぐっ、ここまでかよ」


「いや、強かったぜアギドン先輩」


「はっ! それをゼフィルスが言うかよ。というかあの白の本拠地はなんだ! なんで要塞化してるんだよ!? 本気すぎるだろうが!?」


「おうよ。何しろ〈ギルバドヨッシャー〉の薫陶とサポートを受けたって聞いていたからな。こりゃ俺らもむちゃくちゃ本気にならねぇとなって思ったわけだよ」


「そんな理由であんなの造っちゃったのか!?」


 真実は残酷なり。アギドンが知らなければ幸せだったかもしれない真実を知ってガガーンとショックを受けていた。


「俺は本気で戦えて楽しかったぞ? ロード兄弟は間違いなく〈エデン〉の脅威となってた。まあ、だから真っ先に潰したわけだが」


「いやいやいや! ロード兄弟はそんな簡単に潰せないからな!? あいつらは〈ギルバドヨッシャー〉が育てた麒麟児兄弟だからな!?」


「ハッハッハ。そんな大げさな……」


 いや、今の〈エデン〉はかなり戦力や職業ジョブが充実してきている。

 これを上回る戦法が出来るロード兄弟なら麒麟児と言われるのも分かるなとゼフィルスは考え直した。


「さて、話は終わりだ。最後の決着をつけるか」


「……へ、そのまま逃がしてくれてもいいんだぜ?」


「悪いがここで逃がしたらギルドメンバーに怒られちゃうんでな。めるぜ――『勇気ブレイブハート』!」


「けっ! なら最後の一撃だ! 俺は次の一撃に全てを賭ける!」


「ほう、ほぼ全部のHPとMPを持っていかれる特攻スキルか?」


「知ってるのかよ! つうかなんで知ってんだよ!? この無敗の勇者が! 一回敗者のお部屋へ行くのもいい経験だ! 俺が送ってやる!」


「それも有りだな! だが、残念だがお断りだ。全力で行くぜ」


「ああ来いや! これで終いだ―――『パイレーツオブデストリーム』!」


「はあああ! 『勇者の剣ブレイブスラッシュ』!」


 アギドンの最強スキル、文字通り特攻系、HPを1残し、残りのMPを全部使い切る代わりにドデカイ威力の攻撃を放つ【バンディット・パイレーツキング】のユニークスキル『パイレーツオブデストリーム』だ。

 ゼフィルスはユニークスキル二つを発動。『勇気ブレイブハート』で強化した『勇者の剣ブレイブスラッシュ』をそれに真っ向から叩きつけたのだ。


「「うおおおおおおお!!」」


「らああああああ!!」


「な、にぃぃぐああっ!?」


 ユニークスキルのぶつかり合い。

 それに打ち勝ったのは―――ゼフィルスだった。

 光の奔流にアギドンは飲まれた。



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