第903話 悲報。白本拠地の攻略無理だしロード弟も退場。
時は少し巻き戻り、視点はゼフィルスから2度目の撤退に成功した〈カッターオブパイレーツ〉のギルドマスターアギドンへと移る。
「ぜえ、ぜえ。ロード弟、助かったぜ」
「礼には及ばないのだ。1人助けられなかったのだ」
「くっ、〈エデン〉の殲滅力は異常だぞ。それにあのタイミングで助けが来るなんて、俺たちの行動が〈エデン〉に筒抜けだとしか思えん」
アイギスを討ち取れるか、というところでゼフィルスたちが現れた事実を見てアギドンは唸りを上げる。あんなタイミングで〈遠主タバサ〉や5人の援軍が到着するか? 答えは否だ。
自分たちの行動が〈エデン〉に筒抜けであると考えた方が自然である。ここまで見破られているといっそ清々しいくらいだった。
〈ギルバドヨッシャー〉の立てた作戦はほとんど潰された。もう残された手段は多くない。
〈エデン〉に有効なのはロード弟くらいだった。
ロード弟は希望だ。〈ギルバドヨッシャー〉がくれた希望がアギドンたちを支えてくれている。
ギロチン男子が退場してしまった事は痛い。
だが、まだ負けたわけでは無い。希望もある。それは――白本拠地の陥落だ。
上手く巨城ポイントを逆転させ時間稼ぎに徹すれば勝機はある。
今は上級職、【ドッペルゲンガー】男子が白本拠地に偵察に出ている。
一先ず合流するべしだ。
「ロード弟、このまま北へ向かってくれ! 白本拠地の方へ向かうぞ!」
「おうなのだ!」
ロード弟に回収されたアギドン、【悪の女幹部】女子、【サーチ・アンド・デストロイ】男子は一旦保護エリアで体勢を立て直すと、〈スマイリー〉フィールドの眉間部分を通って北上、西へと進路を切り、白本拠地を目指した。
―――そして絶望の姿を見てしまう。
要塞化され、星形に防壁が建てられた〈エデン〉のものと思われる本拠地。
偵察に出ていたはずのドッペル男子に光の宝剣が突き刺さり、もう1箇所では物見台から砲撃やらバリスタやらが降り注いでいる光景だった。
ロード弟が思わず立ち止まり、全員がピタリと固まってそれを見る。
そして最初に口を開いたのは、アギドンだった。
「な、なんじゃありゃああああああ!?!?」
そう叫んだアギドンはきっと悪くない。
「おおおおおお落ち付けなのだ!?」
「なんだありゃ。俺のサーチでも分からないぞ!?」
「オホホホホホ……」
もう当然みんな大混乱だった。【悪の女幹部】女子も乾いた笑いしか出ない。
遠目に見えるのはパワーアップした本拠地。否、大要塞。
1マスに収まる大きさの本拠地が今や八方の隣接マスを巻き込んで防壁が出来上がっていたのだ。
アレを突破するには〈防壁〉を破壊するしか無い。
え? 誰が? どうやって?
そりゃここにいる上級職で、城攻めして……。
「いや無理だろ!!」
考えなくても分かるわ! とでも言わんばかりにアギドンが叫んだ。
だってあの防壁の内側から放たれた宝剣がドッペル男子に刺さるのをしっかりアギドンたちは見ているのだ。
近づけばアレが降ってくる??
そんな中、城攻め?
もう考えるまでも無かった。むしろ考えたら負けだった。まあ考えなくても負けかもしれないが。
こんな時に頼りになるロード弟に全員の視線が集まった。
急に注目されたロード弟がうろたえる。
「な、なんなのだ!?」
「頼む、ロード弟だけが頼りなんだ! あれの城攻めが出来るか!? 出来ると言ってくれ!」
「無理なのだ!」
ロード弟、即答。
非常に重大で由々しき事態だった。
〈カッターオブパイレーツ〉の6人居る上級職のうち、【エクスキューショナー】男子は退場、【アベンジャー】女子がルルと対戦中なので、現在この3人と1人が〈エデン〉のメンバーに唯一対抗出来る戦力だった。
ロード弟も、こんな戦力で城攻めしてくれと頼まれても無理と言うしか無いだろう。
「ロード弟!?」
「無理なものは無理なのだ! 兄者が居ても内部に案内出来るかどうか分からないのだ!? ――い、一応は要塞の内側にある小城を確保できれば可能性はあるかもなのだ」
保護期間中の2分間は敵が入って来られない。〈防壁〉を破壊するのに邪魔はされないだろう。
しかし〈エデン〉は白本拠地の周囲8マスに星形の防壁を建てて本拠地を守護している。当然のように8マスの小城も防壁の内側にあるため確保することが難しい。
しかも近づくと王女殿下の遠距離攻撃が降ってきたり砲撃されたり、防衛システムも完璧な様子だ。絶対内側には入らせないという意思が見える。
ロード弟の言葉には「不可能ということを除けば」という意味がこもっていた。
「へ? それ無理じゃない?」
「「「…………」」」
【悪の女幹部】女子のバッサリとした言葉に無言になる男子たち。
どう考えても下級職には荷が重く、というより上級職でも荷が重い。
ハイドしていないと補足されてドカンされるのだ。していてもドカンされたドッペル男子を見ていた全員が「あれ? これ本当にどうやって攻めるの?」となっている。
ゼフィルスが用意した本拠地防衛用の最高傑作である。
これが本拠地を守る
全員がこのまま戦力を集め、本拠地へ攻めるのを躊躇してしまうほどに。
希望がどんどん絶望へと変わっていく……。
「あ、もうすぐ保護期間が終わるのだ」
「くっ、まずいな。すぐに隣のマスに移動する。宝剣は保護期間中のマスに入って防ぐしか無い。ロード弟、頼む」
「な、なのだ。『小城タッチ』! 行ってくるのだ!」
気が付けば残り20秒ほどで保護期間が消えそうな時間だった。
ロード弟がスキルを使い、すぐに北隣接マスへと向かう。
この『小城タッチ』は充填スキル。
普通は空きマスや相手マスを取るときは一度味方マスの小城にタッチして充填しておかなければ
しかし『小城タッチ』は味方小城にタッチして充填しなくても充填した事に出来る、まさに【ロード】のスキルである。
クールタイムがあるので連続して使えないため、1人で行動するにはちょっと足りないのが欠点。
そうして一度ロード弟が隣接マスに出たときのことだった。
それは起こる。
「討ち取ったりーデース! 『真・お命頂戴』デース!」
「へ? うぎゃあああなのだあああ!?」
「「「ロード弟ぉぉぉ!?」」」
ズバンと一閃。
ロード弟が向かった先にパメラが潜伏していたのだ。
目の前に突如として現れたパメラによってロード弟は斬られてしまった。
白本拠地へこれ以上近づきたくないという心理がロード弟たちを縛ったのだ。ラナから宝剣が飛んでくるかもしれないと考えれば白本拠地に近づく西側と南側のマスは行きたくないだろう。
そうなると自然と北の隣接へ行きたくなる。
そしてそのマスへ無防備に侵入したのが運の尽き。
普段は絶対やらかさないことだが、白本拠地の要塞化ショックで頭が回っておらず、ついそのマスに踏み込んでしまったのだ。パメラが潜伏させられていると知らずに。
そうして対人戦では威力が大きく上昇する『真・お命頂戴』によって斬られてしまったのだった。一撃ではやられなかったロード弟が、何とか距離を取ろうとする、しかしパメラに逃がす気はない。
アギドンはすぐにダメージの減退も気にせず遠距離スキルを使って援護した。
「マズい!! 『ハイパーカッター船投げ』!」
しかし、それは突如として現れた両手に盾を持つ甲冑騎士によって阻まれる。
「やらせはしないわ――『口寄せの儀式・四』! 〈ヘロくん〉!」
「な!? あんたは、タバサ女史か!」
「久しぶりねアギドン。――ここから先はとおせんぼうよ?」
そこにやってきたのはタバサ。気軽に、散歩でもするかのように歩いて来たタバサが道を塞いできたのだ。そしてぬいぐるみを巨大化させ使役する『口寄せの儀式・四』を使い、タバサが愛用している3体のぬいぐるみの1体、甲冑騎士人形の〈ヘロクロス〉、愛称ヘロくんを巨大化させて船を弾いたのだった。
「ヒーラーが1人で何を! いや、くっ、全員固まれ!」
「もちろん、ここに居るのは私だけではないわよ?」
「し、しまったのだーー!?」
アギドンとロード弟が慌てだす。
パメラの潜伏スキル『闇に溶けし忍者の本質』が解除され、そこにいた人物たちが顕わになったからだ。そこに居たのはレグラム、そしてカルアだった。
いつの間にか孤立無援になってしまったロード弟が叫ぶ。
「ぬぬぬ! こんなところに居られるかなのだ! 俺は1人でも逃げるぞなのだ!」
ロード弟は分断されつつもなんとか逃げ出そうとするが。
「ん。逃がさない、よ? 『ナンバーワン・ソニックスター』!」
カルアがユニークスキルを発動し、瞬間にはロード弟の進行を塞ぐ形でカルアが立っていた。
「!! ば、バカななのだ!? 俺より速い奴なんて―――」
「ん、私も速いの。じゃあね『
「うおおおお『スピンター――ぎゃあああなのだあああ!?」
「「「ロード弟ぉぉぉ!?」」」
カルアの短剣が光り、ロード弟がそれを回避スキル『スピンターン』で躱そうとするもカルアの方が速かった。
そのままスパンとクロスに斬られたかと思えば、次の瞬間には62回の追加斬撃がロード弟を襲い、ついにそのHPがゼロになる。カルアの新装備は
そしてとうとう猛威を振るったロード弟は退場してしまうのだった。
「ん、切り捨て御免」
「ナイスデースカルア!」
「ぶい」
勝利のお祝い。パメラとカルアがハイタッチする。
その頃にはアギドンたちを守る保護期間も無くなり。
「ようやく追い詰めたぜ」
東側からまるで白本拠地へ向けて追い込むように囲い込むゼフィルス、シェリア、メルト、アイギスがマスに侵入してきたのだった。
もう、頼りのロード兄弟はいない。
絶望の予感!
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