第902話 見るがいい、そして知れ、これが絶望だ。ー城編ー




「なんだ、あれ?」


 呆然とした様子で呟いたのは〈カッターオブパイレーツ〉のメンバー。上級職【ドッペルゲンガー】に就く男子だ。

 斥候能力とスピードはあるが戦闘力としてはそこまで強くはなく、主に小城のマス取りや、相手の位置、部隊構成などを探る担当をしていた。


 アイギスとルルをターゲットに選んだのもこの男子だ。


 そんな彼は一度赤本拠地へ戻る形で北東から西へと進み、白本拠地に程近い場所に偵察に来ていた。


 ――――そして発見してしまう。


 白本拠地、〈エデン〉の城は一見なんの異常も無いように見えた。

 しかし彼は優秀な斥候だ。スキルによってなんか違和感を感じ取っており、相棒に言って本拠地を試しに攻撃してもらったのだ。

 するとまるで今まで見ていたのは幻とでも言うようにその姿が掻き消え、次に現れたのは要塞。


【難攻不落の姫城主】であるシャロンが増築しまくった要塞とも言えるものが現れたのだった。

 これはシャロンの城の状態を隠蔽するスキル『見た目の変わらないお城』の効果である。


 突如として冗談のような要塞が出現したことで固まっていた男子だったが、突如防壁付近で攻撃音があったことで我に返った。


「しまった!」


 よく見れば要塞の上部には物見台のようなものが設置され、なんの冗談か迎撃用と思われる大砲やバリスタなどが設置されていた。そこから砲撃が放たれており、気付けば自分の相棒だった男子の断末魔の叫びが聞こえて来ていた。あかん。


 そりゃ要塞の隠蔽を破られたのだから迎撃するのは当たり前だ。あまりの衝撃にそんなことすら飛んでいたドッペル男子はすぐに相棒の救出に走ろうとした。

 だが、ちょっと遅かった。

 要塞から四つの光の剣が放たれたからだ。


「な! 光の宝剣!? 王女殿下か!? 『スマートゲンガー』! ――ってぐあああ!?」


 残念。

 囮を設置して逃げようとしたが、囮ごと光の宝剣がぶっ刺さった。

 続いて地面に光が走ったかと思った瞬間、地面から光の木が立ち上り、ドッペル男子は光の奔流に消えていったのだった。



 ◇



「クリアですわラナ殿下」


「え? もう終わっちゃったの? なんだかあっけないわね」


「それはラナ殿下がお強いからですわ。下級職が相手ですと普通に耐えられませんわね」


 ここは白本拠地の前、要塞の内側。

〈白の玉座〉を装備しているラナと目の前で〈竜の箱庭〉を俯瞰するリーナが斥候を排除したところだった。


 斥候がいたのは白本拠地から5マスも隣だったが、ラナにすればそんな距離はあって無いようなものだ。リーナの指示通り撃って、それで終わりである。

 本当に隙がなく、鬼のような固定砲台だった。

 なお、ドッペル男子は上級職なのだが、リーナには下級職と判断されたようだ。南無。


「あ、ハンナさんのところも終わっていますわね」


「あっちはシャロンとラクリッテもいるから逃げることは出来ないわね」


 2人の言うとおり、〈竜の箱庭〉を見れば白の本拠地に攻撃し、幻を解いてしまった男子がシャロンとラクリッテにより逃げ場を失い、ハンナの砲撃とアイテムによってやられたところだった。


「クライマックスですわ。ゼフィルスさんたちに追い立ててもらいましょう」


〈竜の箱庭〉に映るのは〈スマイリー〉フィールドの眉間部分を北上してきたアギドンたち。そして、その南側にいるゼフィルスたちだった。リーナはそれを見て『ギルドコネクト』を掛けるのだった。



 ◇



 時は少し巻き戻り、まだ『見た目の変わらないお城』が掛かっているころ、ハンナたちはリーナの指示で物見台の上で待機していた。


「て、敵影接近、数2人とのことです」


 物見台の上で待機しているのは3人、その内ラクリッテがリーナの『ギルドコネクト』によって得た情報をハンナとシャロンに伝えていた。


「シャロンさん、今相手には普通の本拠地にしか見えていないはずなんですよね?」


「そのはずなんだけど、レベルの高い『索敵』系スキルを使われると見破られちゃうんだよ。今1人来ているのが偵察っぽいね。ひょっとしたら威力偵察かも」


 ハンナの言葉に『見た目の変わらないお城』の欠点を語るシャロン。スキルは〈四ツリ〉だがスキルLVが5なので、たとえ下級職の『索敵』でもLV10を使われると違和感を覚えるのだ。


 だが違和感は所詮違和感なので、スルーする可能性もある。

 そのためハンナたちは身を潜めていたのだ。こちらから攻撃してしまえばスキルが解除されてしまうのも『見た目の変わらないお城』の欠点である。


 仕掛けるなら相手が攻撃してきて『見た目の変わらないお城』が解除されたらになるだろう。

『見た目の変わらないお城』は攻撃されると掻き消えてしまう脆弱性を持つ隠蔽スキルだ。見た目をごまかし、その内に城を強化できるため非常に強力なスキルではあるが、その分弱点も多いというわけだ。それをカバーするのがハンナとラクリッテである。


 そうして身構えつつも様子を見ていると、ついに偵察に来たステゴロ男子が攻撃スキルを使った。


「む、来たわ」


「「はい!」」


 瞬間、衝撃音が炸裂した。要塞の壁をしこたま殴られたのである。


「カモフラージュが解除されたわ! ラクリッテちゃん、行くよ! 『ディザイアランパート』!」


「ポン! 夢幻ゆめまぼろしの一塔――『夢幻塔むげんとう』!」


「『防壁エリア集中強化』!」


「―――!?」


 カモフラージュが解け、現れた要塞に見上げて驚く男子だったが、驚きに固まったのは悪手だった。

 シャロンの『ディザイアランパート』は三方向から防壁を召喚して囲うスキルだ。本来は攻撃を防ぐための防御スキルだが、こうして敵を逃がさないための壁としても使える有用スキルである。脱出口は一つだ。

 しかしその脱出口もラクリッテの『夢幻塔』によってふさがれてしまう。


『夢幻塔』はラクリッテのユニークスキル『夢幻四塔盾』の簡易版だ。塔が一つだけしか出ないがその防御力は非常に高く、一つしか塔が出ないために掛かるMPやクールタイムなどのコストが低いので、ユニークスキルよりも使いやすいスキルとなっている。


 続いてシャロンが使ったのが『防壁エリア集中強化』。これもユニークスキル『プリンセスヴァレション』に近い効果で、〈防壁〉カテゴリーのみではあるがエリア内にある物を一時的に強化し、効果時間も延長してくれるスキルだ。


 これにより『ディザイアランパート』と『夢幻塔』は強化され、ちょっとやそっとでは破壊されず、敵を閉じ込めてしまう檻となった。

 そこへハンナが追い討ちをかける。


「このアイテム、初の実戦なのでドキドキしますね。行ってきて、〈コテちゃん〉!」


「―――!」


 ハンナの声に鉄の塊が動き出す。

 要塞の防壁部分の上に置いてあったのは二足歩行に二つの腕を持つゴーレムの中のゴーレム。つまり普通のゴーレム。

 アイテム名〈鋼鉄ゴーレム〉。ハンナ命名〈コテちゃん〉だ。


 このアイテムはモンスターに近いがモンスターにあらず。見た目モンスターだがちゃんとしたアイテムだ。

 ハンナの【アルケミーマイスター】はゴーレムやスライムなどのアイテムを作製することが可能だ。

 学園祭でハンナはとある男の方からゲットした〈上級鋼鉄ゴーレム〉レシピを使い、コテちゃんを作りあげていた。今回が初の実戦投入である。


 コテちゃんはハンナの指示に従い起動。そのまま防壁の上から四方が塞がれた閉鎖空間へと飛び降りたのだ。ズシーンッという音と共にゴーレムが降ってきてステゴロ男子の驚愕の声が響く。


「なんじゃこりゃー!」


「―――!!」


 そうして鳴り響く悲鳴と「ドカン」「ボカン」「バキ」「ドキ」「パコーン」の打撃音。

 物見台からそーっと中を覗くハンナがアワアワしていた。


「すっごく殴り合っています! コテちゃんがんばってー」


「す、すごいです! 結構動けるのですね」


「なぜか1ギルドで一つまでしか使えないらしいけどね! 迫力ある~」


 ハンナが応援し、ラクリッテがドキドキし、シャロンが面白がって言う。

 中ではコテちゃんが侵入者とステゴロで戦っていた。


 ただ、さすがにアイテム一つでBランクギルドメンバーを倒せるほど甘くは無い。

〈カッターオブパイレーツ〉のステゴロ君も気を持ち直し、コテちゃんを圧倒しだす。


「あわわ! このままじゃコテちゃんが、なんとかしないと!?」


 ゴーレムは鈍重で固く、本来は使用者を守る壁として使われる。

 さすがに上級アイテムとはいえBランクメンバー相手はコテちゃんには荷が勝ちすぎていたようだ。


 すぐにハンナは物見台の上から爆弾アイテムを投げて援護する。

 しかし―――これがちょっとした悲劇を生んだ。

 ハンナが持っていたのは中級上位の通常モンスターでも二撃で屠れるような大威力の爆弾ボム。名称〈上級下位級レガドラシル火爆弾ファウム〉だ。

 そんなものを逃げ場の無い空間に投げたらどうなるか。


「えーい!」


 ハンナの元気な声と共に、四方が囲まれた空間にボム投下。


 ―――ボンッ!!


「うわーお」


 シャロンがおったまげたような声を出した。


 ステゴロ男子は壁に激突。大ダメージでダウン。

 なお、コテちゃんも仲良くダウン。なんという悲劇。

 しかし、まだ悲劇は終わらない。


「えっと、これやっちゃってもいいのです?」


「はわわ、コテちゃんまでやっちゃいました!?」


「ラクリッテちゃん、ハンナちゃん、勝負は非情だよ。攻めてきたのは向こうだもん、全力で撃っちゃおう!」


「わ、分かりました!」


「コテちゃんごめーん!」


 そこにラクリッテ、ハンナ、シャロンが物見台の上から大砲やらバリスタやらを撃ちまくり。

 ステゴロ男子は集中攻撃に耐えられず、退場してしまったのだった。



 ◇



 その様子を見ていた者たちがいた。アギドンたちだ。


「な、なんじゃありゃああああああ!?!?」


 アギドンのその言葉に答えられる人物は誰もいなかったのだった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る