第905話 〈カッターオブパイレーツ〉戦――決着!




 巨大な爆発にも似た歓声が会場を揺らした。


 ギルドマスター同士のぶつかり合いだ。

 一瞬前までは大騒ぎしていた会場も、モクモクと漂う土煙にグッと結果を見つめていた。


 そうして土煙が収まったとき、そこに立っていたのはゼフィルスだった。


「「「「おおおおおおお!!」」」」


「「「「きゃあああああ!!」」」」


「「「勇者君ー!」」」


「「「素敵ーー!」」」


 また会場中に爆発的な絶叫が響いた。

〈カッターオブパイレーツ〉のギルドマスターはその場におらず、完全に敗れたのだろうと分かる。

 勝者のゼフィルスも片手剣を上に挙げる勝者のポーズでアピールしていた。


「ハーッハッハッハッハー!! 勝ったどー!!」


 むっちゃテンションの高いゼフィルスだった。超高笑いしていた。

 ユニークスキル同士のぶつかり合いでテンションが上がったのだろう。

 とても気持ちよさそうだった。


 ―――しかし、そこでゼフィルスへ鋭く迫る影が一つ。


「アギドンの仇だ! 勇者をここで狩る! 『グラデーション・デスターガ』!!」


 それは――ラナの宝剣がぶっ刺さったはずのドッペル男子だった。囮スキルを寸前に使ったため、生き延びていたのだ。


 彼が使うそれは状態異常付与スキル。〈即死〉を含む3種類以上の状態異常をランダムに付与する短剣の突きだ。これの直撃を受けたらいくら格上だろうと敗北の危険のある切り札だった。

【ドッペルゲンガー】の下級職、【偽者】のユニークスキルである。

 さらにドッペル男子は念には念を入れ、自分の姿を数秒見えなくする『ステルスゲンガー』を使っての強襲を仕掛けたのだ。だが、


「ギルドマスターの邪魔をしないでもらおう! 『決壊天空・幻想斬り』!」


「な! ユニークスキルが!? ブレイク系だと!? いや、それ以前にどうして俺の接近に気づく!?」


 そこに割り込んだのはギルドマスター同士の戦いを邪魔されないよう控えていたレグラムだった。

 敵を倒した瞬間という一番の隙を突くのは常套手段。

 故にレグラムは隠蔽系を看破する『天眼』を使い、警戒していた。


 このタイミングで攻撃するのなら最大の攻撃技を使うと分かっていたため、素早い空中移動からのブレイク攻撃を放つ『決壊天空・幻想斬り』でユニークスキルを切り壊したのだ。


 これにはさすがに度肝を抜かれドッペル男子も動揺してしまう。


「『雷鳴剣』!」


「くっ!? しまった!? 『シャドウダッシュ』!」」


「逃げられると思わないでもらおう! 『天歩天空・空斬そらきり』!」


「ぐあっ!?」


 レグラムの攻撃を短剣で受け、大きなダメージを受けつつ、ようやくドッペル男子が逃げる決断をする。すでにゼフィルスはそれに気づいており、チャンスは失われていた。

 ドッペル男子は悔やむ思いで逃げようとするが、レグラムがそれを許さず、素早い移動からの斬撃スキルで回り込まれて斬られてしまう。


「終わりだ! 『轟天・雷神』!」


 大きくダメージを受けてダウンしたドッペル男子にレグラムが最大の一撃を放つ。流れるようなコンボ。「ダウンした相手には即最大の攻撃を放て」、〈エデン〉の薫陶が身体の芯まで染みこんだ一撃だった。


「――――!」


 単体攻撃で大火力の斬撃スキル。

 斬られた瞬間に轟音を鳴らして雷が降り注いでドッペル男子のHPはゼロになり、今度こそ退場してしまう。


 それを見届けて剣を仕舞い、ゼフィルスの元へ歩いて戻ってくるレグラム。


「終わったぞゼフィルス」


「ありがとなレグラム」


「問題無い。やはり、潜伏者が潜んでいたようだ。ゼフィルスが思いっきり羽目を外したからな。来るならここだろう」


「おう、正直もう少し早いタイミングで来るかと思ったんだが、まあ上手くあぶりだせたな。ギルドマスターが退場したタイミングとか、俺からすれば遅すぎなんだけどな。生きているうちに助けろよ」


「仕方あるまい。おそらく本来はもっと早く助けに入るハズだったのだと思うぞ? だがここには〈エデン〉メンバーの半分以上がいる。下手には動けないだろう。だからこそあぶり出すためにわざと隙を作ったのだろう?」


「お、おう。まあな!」


 レグラムは何かしらの潜伏者がいたことに気付いていた。

 いや、正確にはいるだろうなと思っていた。相手は【賊職】系統が集まる〈カッターオブパイレーツ〉、油断したところをやるとかしてきそうだし、ということでレグラムはアギドンに吹き飛ばされたあと、周囲を警戒していたのだった。


 なお、ゼフィルスは潜伏者がいるならアギドンが倒される前に助けに来るものだと思っていたので、アギドンが倒れた後は潜伏者がいないものと思って警戒を解いて高笑いしていたのだが、それを知るものは本人以外誰もいないのだった。レグラムのナイスファインプレーである。


 とそこへタバサとアイギスが合流する。


「ゼフィルスさん、お疲れ様。『快癒の儀式』! ――こちらも終わったわ」


「1人も逃がしませんでした」


「お、タバサ先輩もアイギスもお疲れ様。回復サンキュー」


 見れば【悪の女幹部】女子と【サーチ・アンド・デストロイ】男子が消えている。

 アイギスの報告で誰1人逃がさなかったと分かった。リベンジできたようで何よりだ。


 結局【悪の女幹部】女子はカルアとパメラによるコンビネーション攻撃により屈し、【サーチ・アンド・デストロイ】男子はアイギスとタバサを中心にして叩いたらしい。メルトとシェリアはサポートで援護に準じたようだ。


 それぞれから報告を聞いたゼフィルスは改めてメンバーたちに指示を出す。


「みんなお疲れ様、今ので大体の勝敗はついただろうが、試合はまだ終わっていない。もうひと頑張りだ」


「「「「はい!」」」」


「それでゼフィルス殿、ルルの様子は? ルルはどうなりましたか?」


「ああ、おっと話をすれば、リーナからの報告が来たぜシェリア」


 さすがはリーナだと、ゼフィルスは一言二言会話してギルドマスターたちの撃破に今度こそ成功したと報告した。


「『さすがはゼフィルスさんたちですわ。お疲れ様です。それとルルさんのことですわね』」


 リーナによればあの後、ルルの方にはエステルが合流して相手を全員倒してしまったらしい。そもそもルル1人でも勝ってしまうような勢いだったらしいと聞く。

 ゼフィルスはそれをみんなにも共有する。


「そうですか! ルルが無事で良かったです。エステルは良い働きをしました」


 シェリアが安堵のため息を吐いた。

 ロード弟によって分断され、1人になってしまったルルだったが、しっかりその辺はリーナがサポートしていた。

 ルルが飛ばされたのがマスの南側だったため、俺たちはアギドンたちを追いかけて北へ、エステルだけ南へ回り込んでルルの援軍に向かった。


 これにより、上級職【アベンジャー】女子を結果的に分断することになり、〈カッターオブパイレーツ〉最後の上級職もルルと駆けつけたエステルによって討ち取られてしまう。


 これで〈カッターオブパイレーツ〉の生き残りは下級職が8人。

 逆転は絶望的だ。


 しかし、最後まで全力がモットーの〈エデン〉は状況を把握してまた動き出す。


 ゼフィルスたちは小城マスの確保に周りつつ相手の二つあった巨城も落として点差を広げ、点数差が1万ポイントを超えたところでリーナから通信が入った。


「『ゼフィルスさん、残りの〈カッターオブパイレーツ〉が集結しております。おそらく〈エデン〉本拠地に攻め入る気なのかと。いかがいたしましょうか?』」


「了解だ。なら総力戦だな。小城マスはこれ以上増やさなくてもいい。全力でお迎えしてあげよう」


「『承知いたしましたわ。ではそのようにみなさんに伝えますわね』」


 小城マスのポイントはもう逆転が不可能な所まで差が付いていた。

 こうなるともう相手は白本拠地を落とすしか勝利の方法が無い。

 白本拠地を落とせば巨城六つが全て〈カッターオブパイレーツ〉のものになって12000Pが手に入るからだ。


 残り時間10分のところで〈カッターオブパイレーツ〉は最後の賭けに出た。


 しかし、悲しいかな。

 完全に察知されていたためその総攻撃は完全に完璧に防がれてしまうことになる。


 むしろ〈エデン〉は誰を迎撃に当てるか、選べる余裕まであったのだからとんでもないだろう。

 結局、今回のギルドバトルであまり対人戦をしていないメンバーを中心に選ばれることになり、シエラ、シズ、リカ、ノエル、ミサトのB班が中心となり迎撃することに決まる。


「後ろは任せて、私より後ろに攻撃を通過させたりしないわ――『四聖操盾しせいそうじゅん』! 『守陣形しゅじんけい四聖盾しせいたて』!」


「では、殲滅を開始します。『優雅に的確に速やかに制圧』! 『デスショット』!」


「これも勝負事、諦めてもらおう――『二刀斬・炎紅刀華えんこうとうか』!」


「MPの心配はしなくていいよー『元気いっぱい』! 今回は私も攻撃に参加しちゃうよー『歌魂』!」


「たはは~。その攻撃は通してあげられないかな? 全部返してあげるね――『リフレクション・ヘル』!」


 相手が最後の総攻撃を繰り出す中、シエラが防衛ラインを敷き、シズがユニークスキルを使った二丁銃モードで攻撃をばらまき、リカが燃える二つの巨刀で叩き斬り、ノエルが味方の消費するMPを削減するスキルを使って相手に魂を込めた歌の衝撃波で攻撃し、相手からの決死の総攻撃はミサトが反射で返してしまった。


 ……最後のが一番可哀想かもしれない。さすがは大罪のミサト。


 そしてさらにシエラたちの補助人員として控えていたゼフィルスたち、そしてラナの固定砲台など、〈カッターオブパイレーツ〉が可哀想になるほどの過剰戦力で出迎えられ、シエラたちが出迎えて1分後に〈エデン〉は全力攻撃を解禁。


「やっと私の出番ね! 『大聖光の四宝剣』!」

 

「さっきまで援護に徹していたからな。この〈竜杖〉の力、とくと見てもらおうか――『アポカリプス』!」


「では、私がデバフでサポートしましょう。テネブレア様、力を貸してくださいませ――『テネブレア・ダウンダーク』!」


「えっと、私も参加させてもらっちゃいますね! コテちゃん、レッツゴーです! それとメイリー先輩に作ってもらった新しい魔能玉も『クジャルヘルゲイル』――ドーンッ!」


「わたくしも参加させていただきますわ。『滅妨害陣めつぼうがいじん』! 『ビーム』ですわ!」


 ラナの四つの宝剣が飛び、メルトが全力の自己バフをしてユニークスキルをぶっ放し、シェリアが防御力と魔防力を低下させる攻撃精霊魔法を放ち、ハンナがゴーレムと上級魔能玉から暴風魔法をドーンして、リーナも妨害エリアを敷きハンナの暴風で打ち上がった学生をビームで撃ちぬいた。


〈エデン〉の攻撃によって〈カッターオブパイレーツ〉の残りメンバーから悲鳴が鳴り響いたのは言うまでもない。


 こうして1人、また1人、たまにまとめて、と〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーは退場していき、最後の1人も退場した事でBランク戦は決着した。


 ポイント〈『白18,670P』対『赤7980P』〉〈ポイント差:10,690P〉。

 〈巨城保有:白6城・赤0城〉

 〈残り時間8分33秒〉〈残り人数:白20人・赤0人〉


〈カッターオブパイレーツ〉全員の退場により、


 勝者――〈エデン〉。判定コールド勝ち。




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