第899話 反撃ギルドバトル専門ジョブ、ロード本領発揮!
「テッターイなのだ! 『こっち来い』!」
「「「うおおお!!」」」
「ううっ!? 討ち漏らしたデース!?」
「見事な撤退だ」
「『ライトニングバースト』! ――あ~、ギリギリHP削りきれなかったか」
ロード兄弟の片方しか仕留められなかった。
一度逃げに入ると速いのなんの。さすがに俺でも追いつくことは出来ない。五段階目ツリーのあれがあれば追いつけるんだけどなぁ。後LV5が遠い。
隣接マス(図AK-26)に逃げ込んだロード弟とアギドンが小城を取って保護期間を発動。
さらに俺たちが相手をしていた足止め要員を引き寄せる『こっち来い』で回収させられてしまった。【道案内人】、やっぱり強いな。
フワッと浮かんで飛んでいく【復讐者】男子へ咄嗟に追撃の魔法を放つがギリギリでHPを削りきれず、隣接マスに引き込まれてしまい、俺の魔法は途中で保護バリアによって弾かれてしまった。残念。
「だが、ロード兄弟のうち1人は片付いたな。これは大きいぞ。これで高速小城マス確保ができなくなる」
「できれば2人片付けておきたかったが、最低限の目的は達したか」
「じゃあシェリアとエステルと合流して小城マス確保に戻るデース?」
「だな、リーナから次の作戦が来るまで、っておっと、早速来たようだ」
「『お疲れ様ですわゼフィルスさん』」
「リーナもお疲れ様。悪い、1人しか倒せなかった」
「『問題ありませんわ。次の作戦を用意しますのでそこで決着を付けましょう。今は小城ポイントの差を広げておいてください』」
「頼もしいなぁ」
そういうことになった。
リーナが俯瞰しているかぎり、たとえ【ロード】系だろうが逃げきることは出来ない。
◇
ロード弟を連れたアギドンたちは南西へと進路を取りつつなんとか包囲から脱出し、小城ポイント収集に当たっていた。だが、その成果は芳しくない。
ロード兄弟の片方が落ちてしまったため、最速のツーマンセルが崩れ、片方が通常速のアギドンになってしまったためだ。
さらに人数も減っているため当初の高速小城取り作戦が潰れてしまっている。
「くう~、こんなに簡単に兄者が逝くとは思わなかったのだ」
「〈エデン〉、Sランクを超えるギルド。これほどの差があるとは!」
走りながらロード弟とアギドンは唸る。
ロード兄がやられたこともそうだが、逃げる際ロード弟が全力で隣接マスを確保し、すぐに足止めをしてくれた味方を回収したのにも関わらず1人やられていた。
これでもBランク上位の実力を自負する〈カッターオブパイレーツ〉だからこそ目を疑うレベルだった。あのたった十数秒で1人やられたのかと。さらに1人はHPバーがレッドゾーンまで削られていたのだから恐ろしい話だった。
いったいいつ
いつ作戦を練ったのか、いつ作戦を通達したのか。まったく見破れなかったのだ。
これは通信系の
それを踏まえ、アギドンは〈ギルバドヨッシャー〉の作戦を思い出していた。
「『ロード兄弟が1人になったら小城ポイントでは確実に負ける。だから小城Pを取りつつ各個撃破を狙うしかない。君たちの強さは2人行動の連携力。4人行動を心がけるべきだね。そしてロード兄弟の片方を使って分断、孤立させるんだ。そのやり方も教えておくね――』」
「(そうだ。まだ終わったわけではない。〈ギルバドヨッシャー〉の作戦はどれも奇想天外。〈エデン〉を出し抜くことは、まだ可能だ。可能のはずだ)」
Sランクギルドで唯一普通の人間(?)が集まるギルドにしてギルドバトル最強、〈ギルバドヨッシャー〉。
注目すべきはその良く練られた作戦にある。
いくら〈エデン〉が通信などを持っていたとしても、〈ギルバドヨッシャー〉の作戦は見抜くことは出来ない。〈エデン〉は1年生ばかりのギルドだ。初見で見たものに対応しきれない可能性は十分あった。(対応し切れなかったのは〈カッターオブパイレーツ〉の方だったのだが、アギドンはまだ知らない)
上空スクリーンには小城ポイントの差がどんどん開いていく様子が映し出されている。これは〈カッターオブパイレーツ〉の人数が減ったと同時にロード兄弟が欠けたのが理由だ。このままでは差が開く一方だろう。西の方に小城マスの確保に向かったメンバーだけでは足りない。
小城ポイントを逆転させるには相手の人数を減らすしかない。
Bランク以上からは小城ポイントの管理をミスるわけにはいかない。
何しろフィールドが大きいのだ。そして参加人数も増える。そうなると、巨城ポイントである2000Pを小城で稼いでしまうことが可能になってくるのだ。
もし、万が一4000P小城で差が出た場合、たとえ相手本拠地を落としたとしても逆転は不可能になる現象が発生するのだ。
小城ポイントの獲得は続けつつ相手の数を減らしていかなければならない難題。
本来、〈エデン〉のメンバーは精強だ。いや、全員上級職である。もう意味が分からないくらい強い。
〈カッターオブパイレーツ〉の上級職は僅か6人だ。ロード弟を入れれば7人だが、ロード弟に戦闘力は無い。あっても焼け石に水レベルで、まともに戦って勝てるわけがない。
だが各個撃破なら可能性はある。
何しろ〈カッターオブパイレーツ〉は連携力に強みを持っているからだ。
そして、ロード弟が居れば、場を整えられる。
「時間が無いか。ロード弟、すぐに俺たちの№2~№4を集める。例の作戦を実行するぞ!」
「兄者の仇なのだ!」
そうして〈カッターオブパイレーツ〉は動き出す。
アギドンは南西へ逃れてばらけていたメンバーと合流、部隊を編成しながら北上。
〈カッターオブパイレーツ〉の中でも上位4人が集まった強力な部隊を整えたのだ。
天王山、フィールドの中央付近まで進むと、近くにいる〈エデン〉メンバーにまず標的を絞る。
そこに居たのはアイギスとルルのツーマンセルだった。
当然向こうは気が付いている。
アイギスとルルは小城の獲得をしながら警戒を高めた。
「アイギスお姉ちゃん、とっても怖そうな顔の人たちが来ているのです!」
「ですね。今の私では荷が重そうです」
「大丈夫なのです! ルルがみんなやっつけてやるのです!」
剣を掲げたポーズのルルが「えい」と振ると、小城を守っていたはずのモンスターは光にされる。
とても頼もしいとアイギスは思った。
アイギスはゼフィルスに〈聖竜の卵〉をもらいはしたものの、まだ〈上級孵卵器〉が無いため孵化していない。さすがの〈青空と女神〉でも1週間でLVを上げスキルを整えることは難しかったのだ。つまり今のアイギスは竜無し【竜騎姫】である。
現在ちょっとだけ名乗るのが恥ずかしかったりする。なのでまだ秘密なのだ。
さらに問題は多い。【竜騎姫】のスキルは〈竜〉が居ることを前提としているものが大多数で、〈竜〉がいない今のアイギスでは使えないスキルが多いのだ。〈
早く竜という相棒が孵化しないかなと、アイギスは首を長くして待っていたりする。
そのため、〈エデン〉の強力な使い手、ルルとツーマンセルを組んでいたのだ。
ルルはこの見た目なのに〈エデン〉の中でもかなりの強者。アイギスは以前ルルの戦いっぷりを見て、開いた口がしばらく塞がらなくなった経験を持っていた。しかもそれは下級職時代のルルである。そのルルもこの前上級職に至った。あれより強くなっちゃったのである。
だからアイギスは思う。ルルがいれば、なんとかなるのだろうと。
「頼りにしています。ルル」
そうアイギスが言った直後のことだった。
ロード弟が突いてきたのは。
「あらよっとごめんねなのだ」
「んな!」
「にゅ!?」
その速度は〈エデン〉一のスピードスター、カルアを超える。
まだだいぶ距離があったはずなのに、ロード弟がマスに侵入し、今まさに小城へタッチしようとしていたのだ。
「分断するのだ――『あっち行け』!」
スキルエフェクトに輝く手でロード弟が小城にタッチした瞬間、保護バリアが形成される。
〈カッターオブパイレーツ〉のマスとなり、敵である〈エデン〉のメンバーは強制的に外へと弾かれてしまう。しかし、その弾かれ方が問題だった。
普通なら弾かれた場合、マスの四隅にある救済スポットへと弾かれるのだが、その時一番近くの救済スポットに弾かれるというルールがある。
しかし『あっち行け』はその理を変え、スキルLVが高ければ自分の任意のスポットに飛ばすことが出来るのだ。つまり、強制分断スキル。
これが【道案内人】がギルドバトルで引っ張りだこになるもう一つの理由であった。
これによりアイギスは、〈カッターオブパイレーツ〉が待ち伏せていた付近へ強制的に飛ばされてしまったのである。ルルとははぐれてしまうというおまけ付きで。
「きゃ!?」
慌ててアイギスは体勢を整える。
この感覚はそれなりに経験しているのですぐに体勢を立て直すことに成功し、自分が居る場所を瞬時に把握。そしてその直後に盾を翳しながら大きく跳んで身を躱していた。
「何!? あれを避けるのか!?」
〈カッターオブパイレーツ〉の№3と呼ばれている【エクスキューショナー】に就く男子が驚愕の声を上げた。
スキル『断罪のギロチン』で完全に上という死角から攻撃したのにも関わらず、それを回避したアイギスに驚愕したのだ。
「ふっ、『竜の権能』に助けられました」
アイギスは滑るように高速でステップしながらも自分が居た場所を確認して安堵の息を付く。
アイギスの〈四ツリ〉『竜の権能』は『直感』系スキルだ。
竜が持つ感覚を身に宿すという効果で、危機感知も当然のように出来る。
アイギスは救済スポットに弾かれた直後に警報を鳴らす『竜の権能』に従い、確認もせず全力で回避していたのだ。おかげで命拾いしたのである。
しかし、一撃躱したくらいでは状況はあまり変わらない。
№1【バンディット・パイレーツキング】のアギドン、№2であるサブマスター【悪の女幹部】女子、そして№4【サーチ・アンド・デストロイ】男子がすでにアイギスへ躍りかかっていたからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます