第896話 ギルドバトル、三つの戦法のうちどれを出す?





「よっし、情報どおりだぜ! さすがはユミキ先輩だ!」


 俺は走りながら初動の展開が思った以上に上手く進んだことにほくそ笑んでいた。


 現在Bランク戦初動。

 場所は〈スマイリー〉フィールドという速さが求められるフィールドだ。


 ここの初動のやり方はいくつかルートがあるのだが、普通なら〈中央巨城〉を狙うのが王道だ。

 何しろ中心地にある。だが、ことはそう簡単にはいかないんだよなぁ。

 何も無いようでこのフィールド、かなり計算を必要とする。


〈エデン〉の白本拠地は西側、〈カッターオブパイレーツ〉の赤本拠地は東側にあるので、自分の本拠地側にある巨城はゲットしたも同然。ならどちらの距離も同じ〈中央巨城〉を最初に取れるかが焦点となる。

 これまでの考えならな。


 思い出してほしいのは、ここが第三アリーナであり、これが〈20人戦〉であるところだ。

 20人を全員動かして〈中央巨城〉へ向かう? まあそれも有りだろう。

 20人という戦力は巨城を軽く飲み込む。到着即凸で即落としてしまえるほどの大戦力だ。

 そこから展開し、〈北西巨城〉、〈北東巨城〉、〈中央西巨城〉、〈中央東巨城〉を取りにバラけるという〈中央花火戦法〉はかなり優秀な戦法だった。


 だがそれは、最初から〈中央巨城〉を捨て、他の〈北西巨城〉、〈北東巨城〉、〈中央西巨城〉、〈中央東巨城〉に狙いを絞るという〈周囲四点喰らい戦法〉で対抗できる。

 20人を5人1組にして4箇所の巨城を先取できれば、断然有利にことが進めるからな。


 だが、これも〈近三点狙い戦法〉、赤本拠地なら東側にある〈北東巨城〉、〈中央東巨城〉に5人ずつ、そして〈中央巨城〉10人を派遣することで対抗できる。

 相手が来る前に3箇所を落としてしまい後は〈南巨城〉次第、最悪同点で負けはしないというクールな戦法だ。


 だが、これも最初の〈中央花火戦法〉で対抗できる。〈中央巨城〉に派遣する人数が20人対10人なら、20人が一飲みして終わるからだ。後は周囲の4箇所に派遣すれば自分側の2箇所が確保できるため計3箇所過半数を手に入れて終わる。

 まあ、これはスピード次第なところがあるので〈中央花火戦法〉をするときは【ロード】系を連れて来たほうが良いなど、色々やり方はあったけどな。


 要は戦力が20人に増えたので出来ることが多くなったんだ。

 おかげで突出した戦法がなくなり、じゃんけんみたいな対抗手段が出来てしまった。

 三つの戦法のうちどれを出すの? とそういうことだ。相性がよければ持って行けるし、悪ければ持って行かれる。


 基本的に〈中央巨城〉を狙うのは道理に叶っているため〈中央花火戦法〉か〈近三点狙い戦法〉のどちらかを採用する。そしてこの二つでは〈中央花火戦法〉の方が相性が良い。相手が〈中央巨城〉を手放す〈周囲四点喰らい戦法〉をしてくると考えて〈近三点狙い戦法〉を仕掛けるのはリスクが高いため〈中央花火戦法〉はよく採用される戦法だった。

 いろいろ多角的に物事を考えなければならない。


 というわけで、相手がどんな戦法を使ってくるのか、事前情報が重要となる。

 いやぁ、今回〈カッターオブパイレーツ〉に〈ギルバドヨッシャー〉が戦法を伝授したって聞いたからな。三つの戦法のうちどれかしらを使って来るだろうと読んで、こりゃ俺も気合入れなくちゃと色々調べてみたわけだよ。


 そこで登場したのがお馴染み、【フリーダムメビウス】のユミキ先輩だ。今はなぜか実況席にゲストでいらっしゃる不思議。

 ユミキ先輩経由で有名な【ロード】系2人が〈カッターオブパイレーツ〉に加入したって聞いたときにピンと来たね。これは20人全員凸の〈中央花火戦法〉で来るって。


【ロード】系は〈乗り物〉と同じく大人数を引っ張ってこれるスキルを持つ。

 にもかかわらず〈馬車〉と違ってちゃんと小城マスを取れるためギルドバトル専用職業ジョブと設定されていた。〈馬車〉に乗ってると小城タッチが出来ないのでマスが取れないんだよ。


 それからも情報収集をしつつ大体つかめたので、対抗手段をメンバーに通達して、俺たち〈エデン〉は〈周囲四点喰らい戦法〉で対抗することに決めたのだった。


 結果、予想的中。

【ロード】系の上級職、【道案内人】は超スピードでロードを敷き、自分と同等のスピードでメンバーを運搬するという優れた職業ジョブだ。

 ギルドバトル戦でもかなり使用頻度が高い使われ方をしていた。

 しかし、案内人という特性上、バラバラに動けないという欠点がある。運搬する以上、メンバーを引っ張るしか出来ないからだ。

 まあ、その欠点を補って余りあるくらい優秀なので使い方次第ではある。


 さて、〈エデン〉が〈周囲四点喰らい戦法〉を使った後の展開だな。


「お、二手に分かれる様子だな。〈北東巨城〉は間に合わないと見て捨てて、〈中央東巨城〉だけでも何とか死守しようというところだろう。そのまま〈南巨城〉まで攻め込み3対3イーブンへ持ち込みたい狙いだな。だが、ロード兄弟をこのタイミングで退かせたのは完全に悪手だ。狙い変更〈中央巨城〉! 行くぜパメラ!」


「了解なのデース!」


〈カッターオブパイレーツ〉は俺たちの動きと狙いに気付いた様子で〈中央花火戦法〉を変化させた。

 俺たちが狙っていない〈中央巨城〉へ10人、俺たち白の本拠地から一番遠い位置にある〈中央東巨城〉に10人を向かわせたのだ。ロード兄弟は〈中央巨城〉へは向かわず、〈中央東巨城〉へと向かうみたいだな。


【ロード】は対人弱いから、俺らを避けたのかもしれない。これで俺たちは〈中央東巨城〉を取れなくなった。

 だが、この決断はちょっと早い。もうちょっと待ってからするべきだったな。

 おそらくだが、このままだと〈南巨城〉まで俺たちに取られると考えて焦っちゃったんだろう。対戦経験の少ないフィールドではよくあることだ。


 その行動に対し、俺率いる〈中央東巨城〉へ向かおうとしていたメンバーは〈中央巨城〉へ進路を変更する。

〈カッターオブパイレーツ〉は今まで前を走っていたロード兄弟が抜けて浮き足立っている。このまま〈中央巨城〉に行って囲み、俺たちの隣接をインターセプトするにはちょっと足りないと見た。


〈中央東巨城〉は白本拠地から一番遠い位置にあったため、そこへ向かう〈エデン〉メンバーは足の速い人を中心に選ばれている。ただカルアは別の班なのでその次に早い俺とパメラが地面を走る。


〈カッターオブパイレーツ〉は今の変化に動揺した様子を見せながらもしっかりと意識を変えてきた。今までロード兄弟に引っ張られていたが、それが無くなったことで多少の不安定さと急激な速度低下になりはしたものの、〈中央巨城〉への隣接は向こうの方が3マス速かった。

 そして、やはり俺たちをインターセプトするより巨城を落とすほうを優先させるようだ。そりゃ、ちょっとどころじゃなく甘いぜ?


「行け! 落とせ! まだ間に合う! 俺たちは10人いるんだ、負けるはずがねぇ!」


「落としゃー! 『斬れちまったよ』!」


「食らえ【暗殺者】の切れ味、『サイレント・スラッシュ』!」


「俺は【復讐者】。でも復習することは嫌いだ。『リベンジソウル』!」


 10人がいきなり足並み揃えるというのは無理だったが、足の速い者が先にたどり着き攻撃を始め、どんどん後続が到着しては〈中央巨城〉を攻撃していく〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーたち。


 一方で俺とパメラもそれから少しして隣接マスにたどり着く。

 その数秒後にはエステルが2人を連れて合流する。

 連れて来たのはメルトとシェリアだった。


「エステルナイス!」


「はい!」


 ここでエステルの新装備をお披露目。

〈蒼き歯車〉に替わる新しい個人用の〈戦車〉。

 エステルの足に輝く新しい装備。

 その名も――〈グローリーローラー〉。


 この1週間、毎日〈クジャ〉周回に行っていて〈金箱〉レシピからゲットした新装備だ。〈イブキ〉がBランク戦には間に合わなさそうなので、ガント先輩には無理言ってこっちを優先してもらったんだが、なんだか楽しそうに即で作ってくれたんだ。


 性能は〈蒼き歯車〉の上位。さらにオプションが付いていて、なんとこの車輪、2人までの運搬が可能なのだ。

 特徴的なのがその見た目、バランスを取るために〈グローリーローラー〉は足のカカト部分がかなり長く伸びていて、まるでスキー板の先端に乗っている感じになっている。


 つまりこのスキー板の後ろ部分に人を乗せることが可能なのである。右と左があるので1人ずつ。

 エステルに運搬、板に乗せられ引っ張られているようにしてメルトとシェリアも到着する。

 ふっふっふ、引っ張ってこれるのは【ロード】系だけではないのだよ。

 なお、この状態だとエステルは小城をタッチできないし攻撃も出来ないので運搬専用になってしまうのだが、それでも十分なメリットだ。


 足の遅い火力係を連れてこれるからな!

 メルトたちを降ろすだけで攻撃スキルも使えるようになるというのが大きい。

〈馬車〉とは違い装備を換装する手間を省けるため初動では非常に頼りになる強装備だ。


 到着するとメルトとシェリアはすぐに降り、自分にバフを掛ける。

 2人とも自己バフを発動し、いつでも魔法を撃てる状態に整えた。早い。


「いいぞゼフィルス!」


「こちらも、いつでもいいですよ」


「オーケーだ! 44秒に落とす!」


「「「「おおー!」」」」


 準備完了。

 全員が時計を見ながら5秒後である、〈残り時間:55分44秒〉に着弾させる狙い。

 巨城のHPはもうかなり減っている。5秒でギリギリだ。


 まずスキルを使ったのはパメラ、溜め系の高火力スキルを発動する。


「いっくデース! 『忍法・えん爆裂丸ばくれつがん』!」


 それはまるで太陽。

 パメラが抜いた片手刀の先に真っ赤な太陽が灯り、どんどん太陽が膨れ上がっていく。


「始めるぞ。――『グラビティ・ロア』!」


 ほぼ同時にメルトの四段階目ツリー。

 これも溜め技、まるでドラゴンがブレスを吐くがごとく、強烈なエネルギーがメルトの杖の先へ溜まっていく。


「大精霊イグニス様、そのお力、お借りさせていただきます。『イグニス・バースト』!」


 シェリアの四段階目ツリーは大精霊の権能の一部を使用できる精霊魔法。火の大精霊イグニスの炎がシェリアの杖に集中していった。


「合わせろ!」


「2、1――〈ジャストタイムアタック〉!」


 俺の言葉にメルトが静かに宣言し、ロアを解き放った。

 ほとんど同時にシェリアの精霊魔法が発射される。


「私も合わせます――『閃光一閃突き』!」


「とりゃー、落ちるデース!」


 エステルとパメラは近接攻撃、エステルが槍を突き出し、パメラが太陽を振るった。


「『聖剣』!」


 メルトのロアとシェリアの精霊魔法が着弾する寸前、エステルと俺はスキルを発動し、着弾すると同時に俺も巨城を切り裂いていた。


 遅れてくる大きな爆発がその威力を物語る。


「な、な、なあああああああ!?」


「なんだ今のはーーーー!?」


「うっそだろーーー!?」


 そして巨城の反対側から聞こえる阿鼻叫喚。

 そう〈中央巨城〉のHPはゼロになり、その旗には白色が輝いていたのだった。


〈中央巨城〉確保――〈エデン〉。


 今回も〈ジャストタイムアタック〉に死角無し。





 ――――――――――――――

 後書き失礼いたします。

 

 近況ノートに添付で図を貼り付けました! こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330653680850926


 また、昨日もお知らせいたしましたが重要なお知らせがあります!

 こちら近況ノートのリンクです↓ 5巻のカバーイラストあります。

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330653643065086

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