第895話 Bランク戦開始!ギルドバトル専用ジョブ現る!




 俺は〈カッターオブパイレーツ〉のギルドマスター、人は俺を〈最強のアギドン〉と呼ぶ。

 ギルドでは正しくメンバーを導き、〈転職〉の道へと誘い何人もの学生を【賊職】にしてメンバーを増やしてきた。


【賊職】は忌避すべき〈転職〉を行なわなければ就けない上、名前もあまりよろしくないため発現条件を知っていてもなりたい者はあまりいない。しかし、まったくいないわけではない。

 何しろ強い。ただただ強い。強さを追い求め【賊職】へと身を落と――げふんげふん。身を昇華させる者もいるのだ。


 俺はそいつらを纏め上げ、先代、先々代の意思を継いで〈カッターオブパイレーツ〉をBランクギルドでも上位3ギルドに数えられるほど強くした。


 そしてAランクへの道が開かれようとしていた。とうとう〈カッターオブパイレーツ〉がAランクギルドになる時が来たのだ!

 そう思っていたのに〈エデン〉にギルド戦を仕掛けられた……。


 負ければCランク落ち。再びBランクに上がる事は容易いが、Aランクへの道は遠のいてしまう……。Aランク戦を仕掛けるには3回連続防衛をこなす必要があるからだ。

 ここで負けるわけにはいかない。


 俺は断腸の思いで〈上級転職チケット〉を手土産にギルドバトル最強ギルド、〈ギルバドヨッシャー〉の門を叩き、ギルドバトル必勝法を伝授してもらった。


「これで君たちはこの1戦のみ非常に有利になった。だけど忘れてはいけないよ。〈エデン〉はあの勇者氏がいる。この戦術だって平気で踏み越えてくるかもしれない」


「それでは意味がないのだ!」


「分かっているさ。だから〈上級転職チケット〉は成功報酬で構わない。私たちはその戦術を使ったときの〈エデン〉の反応が見たいのだ。そのために全力で援助しよう」


「……わかった。では遠慮なく借りていく……」


「言っておくけど、ちゃんと返せよ? 返さなければ、分かっているな?」


「くっ!」


 双方の利害の一致から〈上級転職チケット〉は成功報酬、つまり〈エデン〉に勝ったらで良いと言われたのは大きい。

〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスターとの対峙は非常に緊張を強いられたが、成果はあった。

 それが、俺の後ろにいる2人の人材だ。この2人が〈エデン〉を越えうる唯一の手。


「〈学賊〉~ちゃんと作戦分かってる~? しっかり付いて来いよ~?」


「ちょっとでも不備があれば負けると思うのだ。特に初動は絶対に気を抜くななのだ」


 そこには見た目瓜二つの双子の男子がいた。2年生だが、背が低く、小さい。本当にこんな小っこい体で役に立つのかと疑いたくなるほどだ。

 しかし、凄まじい能力を秘めている。


 この双子が〈ギルバドヨッシャー〉から借りた人材だ。

 正確には〈ギルバドヨッシャー〉が懇意にしている無所属・・・の学生だな。


 普通、ランク戦を仕掛けられたギルドは他のギルドから人材を借りることは出来ない。

 そんな制度を許してしまえばギルドという団体の意味がなくなってしまう。

 だが、どこにも抜け道はあるもので、無所属の学生を加入させるのは校則違反ではない。

〈ギルバドヨッシャー〉は自分たちがギルドバトルをできないからと、いつでも動かせる無所属の予備人員を保有しているのだ。


 いや、保有という言い方も正確ではないらしい。

 こいつらは〈ギルバドヨッシャー〉のお願いを聞いただけで、指示されたわけでは無いからだ。よく分からなくなってきたが、要はこの戦力を借りてもなんの問題も無いということだ。


「分かっている。あまり見くびらないでもらおうか。これでもBランクで上位のギルドなのだ」


「分かっているならいいさ~」


「〈エデン〉を相手に油断しなければ問題ないのだ」


 こいつらの言葉使いは何とかならないのか? 気が抜けそうになるのだが……。

 だが、こいつらの実力は本物だ。何しろプロギルドバトルでチームに入れるべき必須職とも言われている職業ジョブを持っている。こいつらは将来プロの道へ進むことを目指し、ダンジョンを、他のものを全て捨て、ギルドバトルでしか輝くことが出来ない職業ジョブに就いた存在だ。プロの卵と言っていい。期待していないと言えば大嘘になるくらいにはこいつらに希望を抱いていた。


「僕たちロード兄弟が道を敷く~」


「絶対遅れずに付いて来いなのだ」


 その2人、通り名〈ロード兄弟〉はそう言い。とうとう試合が開始された。


「「「「おおおおおお!!」」」」


 開始と同時に観客席から歓声が上がる。

 初動は何よりも大事だというのは周知の事実。

 下手をすれば、ここで勝負が決まってしまうと言っても過言ではない重要な場面。


 そして何より大事なのが、速度スピードだ。

 道を敷き、目的地に誰よりも速くたどり着き、巨城を確保する。

 相手より速く、相手を出し抜き、速度で相手を置き去りにする。


 速度こそが何よりも大事。


 特にこの〈スマイリー〉フィールドは六つの巨城が全て拠点より南側に位置している超特殊なフィールドだ。つまり早い者勝ちという特性が色濃く出ているフィールドである。

〈ギルバドヨッシャー〉からはロード兄弟の貸し出しと共に、このフィールドを勧められたのだ。


 故に、ロード兄弟の職業ジョブもまた、速度に特化しているものだ。

 ギルドバトル専用職業ジョブ、小城を確保し道を敷く特化職業ジョブ―――【ロード】。

 その上級職――【道案内人】が彼らロード兄弟の職業ジョブだった。


「速い速い!? あれはまさか、ロード兄弟ではーー!? 最近は見かけなかったロード兄弟、まさか〈カッターオブパイレーツ〉に身を寄せていたのか!?」


 実況が飛ぶのを『盗み聞き』スキルで拾う。

 さすがはロード兄弟、有名人だ。

 それを聞いて観客席がさらに盛り上がっている。


 俺たち〈カッターオブパイレーツ〉18人はロード兄弟のスキルによってスピードが上がり、全員がロード兄弟の後に付いて行けている。とんでもない速さだ。これがロード兄弟たちが見ている景色なのか。

 とんでもないスピードで次々小城が赤チーム、〈カッターオブパイレーツ〉の物となっていき、まっすぐ目標へと進んでいく。


 最初の目的地は中央にある巨城。〈中央巨城〉だ。

 この〈スマイリー〉フィールドではまず〈中央巨城〉の取り合いがセオリーとなる。


 最も激化しやすい場所ということで、真っ先にここを取れれば勝率が爆発的に上昇する。

 何しろ天王山の位置に巨城があるのだ。ここを抑え第二の拠点として運用できれば小城マス確保は勝ったも同然だ。まず〈中央巨城〉を20人の物量で速攻確保し、その後に四箇所に分散。〈北東巨城〉〈北西巨城〉〈中央東巨城〉〈中央西巨城〉へ向かい、このうち半分を手に入れる算段だった。


 その後は〈南巨城〉。ここだけは一番遠いため、足の速いロード兄弟がいる我々が確実に確保出来る。最低でも四つの巨城を確保出来るだろう。

 6箇所の巨城を視野に入れた〈ギルバドヨッシャー〉直伝の戦法だった。

 上手くいけば初動で6箇所の巨城をゲットし、試合終了まで持って行く事も出来るという。恐ろしい戦法だ。


 さすがは〈ギルバドヨッシャー〉。

 敵に回すと恐ろしいが、味方に付ければこれほど頼もしい存在はいない。


 ロード兄弟の速度は〈エデン〉より上だ。

 よって〈中央巨城〉、そして〈エデン〉本拠地から遠い〈中央東巨城〉は手に入れたも同然。我々の本拠地に近い〈北東巨城〉もこちらの手に落ちるだろう。さらに一番遠い位置にある〈南巨城〉もロード兄弟が居れば手に入る。


 いくら〈エデン〉が強くても、速度専門職業ジョブには勝てない。


 ロード兄弟は赤の本拠地から最短距離で〈中央巨城〉へ向かう。

 赤本拠地があるのは〈スマイリー〉フィールドの北東、顔で言う所のこめかみの位置だ。

 そこから目である障害物を東側から南に下るようにして迂回し、中央へと向かう。


 この速度だ。絶対に〈エデン〉は追いつけない。

 俺は勝ちを確信した。


 だが、前を走るロード兄弟がなにやら慌てたように叫んだ。


「あ、これまずいかも~!?」


「まさか〈エデン〉はこれを読んでいたのだ!?」


 見れば〈エデン〉は最初から〈中央巨城〉へ向かわず、〈北東巨城〉、〈北西巨城〉、〈中央東巨城〉、〈中央西巨城〉の4箇所を目指していた。


 このままでは俺たちが取れる巨城は一つ、〈エデン〉が取れる巨城は四つ?

 冗談だろ?




 ――――――――――――

 後書き失礼いたします。重要なお知らせがあります!


 本日12時に近況ノートを投稿するのでチェックしてくださると嬉しいです!

 長らく、本当に長らくお待たせいたしました!



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