第893話 アギドンに秘策有り!? 助けてヨッシャえもーん!




 その日、〈カッターオブパイレーツ〉のギルドマスターアギドンは〈学生手帳〉を通して来たメッセージに震撼していた。


『防衛戦の対戦相手が決定しました。対戦相手――Cランクギルド〈エデン〉』


 そう、簡潔に書かれた内容に一瞬意識が遠くなり、1分掛けてなんとか戻って来られたと思ったらまたメッセージを見て意識が遠くなった。


「まさか、こんなことが……うぉぉぉぉ……」


 アギドンは安易に〈エデン〉へ絡んだことを後悔する。

〈エデン〉はその頃Bランク戦の相手を見繕っている最中。

 一番絡んじゃいけない時期に絡んじゃったのだ。

 まるでお腹を空かせた狼の群に小動物が絡んだような所業。アギドンは頭を抱えていた。


「Aランクになれる目前だったというのに……」


 Aランクギルド〈サンハンター〉が近々学園公式ギルドに丸々移籍する。

 さらに最近になって発表された、ギルドの席が増えるという発表。

 つまりAランクギルドに空席が出来るのだ。噂では6席~7席、戦闘ギルドに空きが生まれるらしい。


 現在Bランクギルドでは、その空席を巡り、水面下で牽制、もしくは力を付けている真っ最中だった。それはBランクギルド非公式ランキング3位である〈カッターオブパイレーツ〉とて油断はできない。


 空席を巡る戦いはギルドバトル〈拠点落とし〉。

〈カッターオブパイレーツ〉は〈拠点落とし〉で勝つため、装備の充実化を図って戦力を伸ばそうと考えた。


 しかし、周りが上級ダンジョン進出で賑やかになっている昨今、中級装備をいくら揃えたところで周りとはドングリの背比せいくらべ。


 ならばどうするか、そんなときに聞こえてきたのが「〈エデン〉上級ダンジョン攻略」の報だった。

 しかもそれに続くように次々と〈エデン〉メンバーが中級上位チュウジョウの高ランクダンジョンを攻略していく光景。

 自分たちが為しえないことを年下の、しかもCランクギルドが成していく光景に少なからずメンバーたちが阿鼻叫喚に包まれたのは苦い思い出だ。


〈カッターオブパイレーツ〉は〈エデン〉に対抗意識を持つことになる。

 まだ・・勝てないとは知ってはいるが、対抗意識を持つくらいは自由なのだ。

 そして、〈エデン〉がしていることを盗むことで自分たちもパワーアップ出来るという結論に至った。


 そこで知ったのが〈青空と女神〉が〈エデン〉に接触し、何かの依頼をしたとの噂だ。

 詳しいことまでは分からなかったが、情報屋経由で確度の高い予想を立てることに成功する。まあ、そこまで難易度は高くは無いが、〈青空と女神〉が〈エデン〉に〈上級転職チケット〉を求めたのではないか、その見返りとして〈青空と女神〉が専属となり、〈エデン〉をさらにパワーアップさせることを約束したのではないか? というのが結論だった。


 まずい。


 これ以上パワーアップされたら〈エデン〉に追いつけなくなる(※すでにもう追いつけない)。

 そこで〈カッターオブパイレーツ〉は少ない頭を捻り倒して考え、〈青空と女神〉が欲しがっている〈上級転職チケット〉を先に確保し、〈エデン〉の代わりに〈カッターオブパイレーツ〉の専属になってもらえば良いのではという考えを絞り出した。


 そうすれば〈エデン〉がパワーアップすることもなくなり、〈カッターオブパイレーツ〉は〈青空と女神〉という専属が出来る。Aランクギルドに入れる確率はグッと上がるだろう。いやむしろAランクになるのは確実だ。Aランクギルドになれば〈青空と女神〉の後ろ盾にだってなれる。

 そしてあわよくば生産職のクール美少女、ソフィちゃんとお近づきになれるかもしれない。

 一石三鳥の作戦。


 最終的にメンバーたちは作戦が上手くいった時を夢見て盛り上がった。


 問題は〈上級転職チケット〉が無いことだが、〈エデン〉を出し抜くには手に入れるほかない。

 下級職のメンバーから文句はいくつか上がったが、直に〈上級転職チケット〉が学園から入手できるようになる。その時はAランクギルドである〈カッターオブパイレーツ〉が優先されるはずだ、という意見で納得させ、〈上級転職チケット〉を採りにダンジョンに潜った。


 そしてこれは運が良いのか悪いのか、1発で〈上級転職チケット〉をゲットしてしまったのだ。これはアギドンも含む、このギルド特有の職業ジョブの能力でレアドロップをゲットしやすかったおかげもある。

 メンバーたちはAランクギルドになった自分たちを想像してうっとりした。

 人相の悪い学生たちが集団でうっとりする絵は割とホラーだった。


 結果、現在絶望が〈カッターオブパイレーツ〉の間で蔓延している。


「おいアギドン! これはいったいどういうことなんだ!?」


「〈エデン〉とランク戦をすることになったってどういうこと!?」


「なんで〈青空と女神〉は俺たちを受け入れなかったんだ……」


「ソフィちゃん……」


「よく考えてみたら〈エデン〉に割り込むこの作戦って、最初から〈エデン〉を敵に回す行為だったんじゃ?」


「ま、マジで!?」


 どうやら〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーはようやくこの作戦の超ハイリスクに気づいたようだ。


「アギドン! 俺たちはいったいどうなるんだ!?」


「Aランクギルドになれる夢はどこに消えたんだ!? あとほんのちょっとのとこまで来てたはずだろ!?」


「この通知は何!? いったいどういうこと!? なんで〈エデン〉が俺たちのような木っ端Bランクギルドに挑んでくるんだ!?」


「「「おい!? 木っ端じゃねえよ!?」」」


「し、静まれお前たち、まだ負けたわけではない」


「でもアギドン。〈エデン〉は全戦全勝、〈ギルバドヨッシャー〉みたいなギルドでっせ?」


「俺たち、負けるのかな」


「いやだー! 昨日の夜Aランクになった自分を夢に見たのに、翌日になったらCランクになることが約束されたなんて現実はいやだー!!」


〈カッターオブパイレーツ〉の面々、再び阿鼻叫喚。

 公式上3ギルド目となった上級ダンジョン攻略を成し遂げた〈エデン〉は、すでにSランク以上の実力を持っているというのは周知の事実だ。


〈カッターオブパイレーツ〉はBランクギルドの中でもかなりの実力者集団で、18ある戦闘ギルドの中でも3番目に位置する高い実力を持っている。

 この〈カッターオブパイレーツ〉を支えている強さの源は、このメンバーの多くが【賊職】系の職業ジョブに就いてることにあった。


 ――――【賊職】系。

 それは学園祭という限られた期間の〈迷宮防衛大戦〉でモンスター側の先兵となり、防衛側の選手を5人以上倒した上で勝利するという非常に難易度が高い条件をこなすことで就く事が出来るグループ。これだけで成した人物は並の選手以上の実力を持っていると分かるだろう。


 さらにこれは〈転職〉が条件として存在している。

 選手を5人も退場させるためには何かの職業ジョブに就いていないと不可能だからだ。さらに、そこまで育った職業ジョブを捨て、【賊職】という不穏な名前の職業ジョブに〈転職〉するなど、普通は条件を知っていても出来はしないだろう。


 しかし、それを成しているのが〈カッターオブパイレーツ〉。ここのメンバーたちだ。

【賊職】系はその難易度の高い発現条件から、かなりの強職業ジョブが多い。最低でも下級職、中の中以上しかいないと言えばその実力の高さが分かるだろう。

 ノーカテゴリーでも「貴人」系や「獣人」系などと同等の水準を誇るのだ。とってもヤバい。

 悪は強い。その言葉を体現するがごとく、最高で高の中までの職業ジョブを獲得出来る。ノーカテゴリーの中でも最高峰の職種グループなのだ。


 このギルドは代々、その条件を認識しており、口伝でもってメンバーたちに伝えてきた。

〈転職〉を受け入れ、【賊職】となる事を受け入れた者たちだけがたどり着ける、Bランクギルド、それこそがエリート賊〈カッターオブパイレーツ〉だ。

 まあ、今は落ちぶれる寸前まで来ているが。


「落ち着けおまえら!」


 再び嘆くメンバーたちの前でアギドンが叫ぶ。


「確かに〈エデン〉は強え。だが、それでも俺たち〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーは負けねぇ!」


「嘘だ!」


「だまらっしゃー! げふんげふん! おまえら、ヤジるんじゃねぇ!」


 仲間からとんでもないヤジが飛んできた。

 しかし秒で撃ち落としてアギドンは続ける。


「良く聞け、俺たちはこれまで多くのものを捨てて今の実力を身につけてきた! 以前苦労の末にカンストまで育て上げた職業ジョブを捨ててまで【賊職】になった者もいる! 俺だ! そんな俺たちの覚悟は〈エデン〉にも負けてねえ! 今回も、俺たちは捨てるぞ。そして〈エデン〉への勝ち目を身につけるのだ!」


「ご、ごくり。いったい何を捨てようというのだ!? はっ!? まさか俺のモヒカンを!?」


「いや、モヒカンはそのままでいい。おまえら、俺たちにはこの超アイテムがある事を忘れたのか!」


「そ、それは、俺たちが苦労もせずにゲットした〈上級転職チケット〉!」


「そうだ! 俺はこれを手土産にSランクギルドが一つ、〈ギルバドヨッシャー〉に向かう! 〈エデン〉の攻略法を、作戦を考えてもらうのだ!」


「「「「おおおお!!」」」」


 それは天命か。

〈エデン〉を打倒しうる可能性がある、〈カッターオブパイレーツ〉唯一の作戦であった。



 なお、すでに〈ギルバドヨッシャー〉とゼフィルスは仲の良い関係であり、〈ギルバドヨッシャー〉にやってきたゼフィルスに「さっき〈カッパー〉のギルマスが来てな、〈エデン〉の攻略法を教えてくれって言ってきたから色々とやってほしい戦術を伝授しておいたぞ。内容はお楽しみだ」「マジで!? おお! 面白くなってきたな~! こりゃ、本気を出しても良さそうだ!」「データ取りが捗るな! 観測班、分析班、気合い入れるのだぞ!」とそんなやり取りをしていたことを彼らは知らない。


〈ギルバドヨッシャー〉が教えたのは対〈エデン〉戦術では無く、ただ〈ギルバドヨッシャー〉が編み出した戦法の数々だった。なお、それを〈カッターオブパイレーツ〉が活かせるかは彼ら次第。

〈ギルバドヨッシャー〉は〈エデン〉にも情報を少し与え、本気を出してもらえるよう動いたのだった。


 なお、事前情報として〈エデン〉のメンバーが全員上級職になっているととある情報筋から知ってしまったアギドンは、また意識を軽く飛ばしてしまうのだったが、それは別の話。




 ―――――――――――

 後書き

 なぜ〈カッターオブパイレーツ〉にカッターを採用したのか?

 の声が多かったのでお答えします。


〈カッターオブパイレーツ〉→〈カッパー〉→〈銅〉→〈銅メダル〉→3位


 実はこんな感じの連想がありました。(もちろんカッター船海賊という意味も入ってます)


 1位は〈サクセスブレーン〉、2位は〈筋肉は最強だ〉なため、これらと当たるのは時期尚早。(お楽しみ的な意味で)

〈エデン〉がギルドバトルするなら3位だろう、から始まった連想ゲームでした。



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