第894話 試合開始が近づいて、実況席にゲスト登場!




 12月7日土曜日。

 今日は朝から注目のギルドバトルが開催されようとしていた。


 場所は第三アリーナ。主にBランクのギルドが使用し、切磋琢磨して競い合う大きなバトルフィールド。

 実況席では、ギルドバトルを今か今かと待ちわびる実況者が声を上げていた。


「レディースアーンドジェントルメーン! さあやってきたよBランク戦ギルドバトル! 開催まで残り10分を切り、徐々に盛り上がりを見せてきたー! そろそろ選手たちが入場してくるだろうけど、その前に本日の実況者を発表するよー! 実況者はみんなのアイドル、勢いと熱のある実況で会場を沸かせるキャスと――!」


「クールに状況を分析し、情報をお届けするスティーブンがお送りいたします」


「さらに今日は特別ゲストもお招きしているよー! あるときは学園ニュースの情報担当、狙った獲物は丸裸!? またあるときはとある情報発信者! 彼女がひとたびつぶやけば情報は瞬く間に学園中へ広がってしまう、情報のスペシャリスト、〈調査課3年生〉のユミキさんだー!」


「よろしくね」


「おおっとユミキさんの紹介で会場の盛り上がりがすごい事になってるねー!」


「さすがは学園が誇る最高の情報屋です。知らない人はむしろいないのでしょう。僕たちも負けてはいられませんね」


「私は元情報屋で、今は学園ニュースの情報担当よ。そこら辺間違わないでね?」


「おっと、これは失礼いたしました」


「ではでは紹介が済んだところで、今日ギルドバトルを行なうギルドの紹介もしていこうかー!? え、もう知ってる? まあまあそう堅いこと言わずに聞いちゃってー。今日は特別にユミキさんに紹介してもらうからさ」


「承知したわ。今日はBランク戦、入学してから破竹の勢いでここまで上り詰めた1年生ギルド、〈エデン〉が仕掛けたランク戦ね。相手は戦闘系Bランクギルドの中でも指折りの実力派、〈カッターオブパイレーツ〉」


「〈カッターオブパイレーツ〉は割と知られたギルドですね。Bランクギルドの中でも非公式ランキングで第三位の実力派ギルドだとか」


「ええ。今年はBランクギルドでも色々と変動が起こったわ。中でもBランクで実力トップだった〈筋肉は最強だ〉ギルドが〈転職制度〉で20人を超す〈転職者〉を出したことでトップの座を手放したのは有名な話ね。今は〈サクセスブレーン〉という、これまた異色のギルドがその座に替わったのだけど、この〈サクセスブレーン〉も今年、もっと言えば夏休み明けに急に駆け上がってきたギルドね」


「Bランクでは〈転職制度〉が始まる前に〈転職〉する若者が多く出たことで身を持ち崩し、たくさんの入れ替わりがおきましたね。かの〈金色ビースト〉なんてギルドの解散までいってしまったらしいですよ」


「そんな激動の年で〈カッターオブパイレーツ〉は時代の波にも翻弄されず、Bランクギルドの上位にずっと居続けたの。とても強いギルドね」


「おおお! あのユミキさんがここまで評価する〈カッターオブパイレーツ〉の実力は本物だ! 非常に高い実力を秘めたギルドだというのが分かったでしょうー! しかし、〈エデン〉はなぜ敢えてそんなに強力なギルドへランク戦を挑む事を決意したのでしょう!?」


「そうですね。Bランクギルドは18の戦闘ギルドがありますから、普通でしたら非公式ランキングが低いギルドに挑むはずです」


「それはね、そうする必要が無かったからよ」


「! それは……」


「〈エデン〉の実力は高いわ。元Aランクギルド〈テンプルセイバー〉戦の大勝利を始め、先にあった〈迷宮防衛大戦〉での大きな活躍。そして、歴代公式記録で三例目となる上級ダンジョンの攻略ギルドよ。その実力はすでにSランクと言われているわ。それは保有する上級職の数が証明している。知っている方はどれだけいるかしら? 〈エデン〉に所属する上級職は下部組織ギルドを含めれば24人もいるのよ?」


「!! それは、〈キングアブソリュート〉と同じ数ですか!」


「ええ。〈キングアブソリュート〉は6月の時点で上級職は18人だったけど、上級ダンジョンを攻略した時は24人いたわ。上級ダンジョンを攻略するにはこれくらいの上級職がいなければならないという証明と共に、Sランクギルドでもトップの〈キングアブソリュート〉と同じ数なの」


「つまり、最強Sランクギルドと同等の戦力を保有しているに等しいという訳だね! おおお、会場の盛り上がりがまたすごい事に! なるほど、ユミキさんありがとうございました! 〈エデン〉はすでにどこのBランクギルドに挑もうが問題無い所まで戦力が整っているようだー! これは〈カッターオブパイレーツ〉危うしーー!?」


「お! ここで選手の入場です! まず現れたのは防衛側、〈カッターオブパイレーツ〉の20人! 本日はBランク戦、つまりは〈20人戦〉が行なわれます。これが一種の壁と言われているところでCランクギルドは最大で20人までしか在籍できないので総力戦になるんですね。つまりは余力ゼロ。Bランクギルドに勝てない大きな理由となっております」


「挑戦者側は自由に挑戦するギルドを選べるからねー。防衛側は勝っても報酬は微々たるものなのに負けたらランク落ちという危機! そりゃあ防衛側が有利になるよ~。バトルフィールドも防衛側が決められるしね」


「ですね。そして今回のバトルフィールドですが、珍しい〈スマイリー〉フィールドですよ」


「あまり見ないフィールドだね! 中央に巨城がそびえ立ち、障害物の形が頭上から見るとスマイルみたいな絵になってるー! これはこれでちょっと面白いー。でも障害物が目と口の部分しかないからあまり機能していないように見えるフィールドだねー」


「はい。丸いフィールドで巨城の数は六つ。そのうちスマイルの目の位置に二つ、中央に一つ、頬の位置に二つ、口の下に一つが配置されています。このうち口の下以外は障害物があまり機能していないため、障害物無しフィールドとほぼ同じですね。スピードが問われると思われます。実は僕、このフィールドは初めて見たのですが、ユミキさんはこのフィールドは見たことありますか?」


「私もあまりないわね。データベースで見るとこの3年間で〈スマイリー〉フィールドが使用されたのは2回だそうよ。今回で3回目ね。年に1度くらいしか使われない珍しいフィールドだけど、私は両方を観戦したことがあるわ」


「おー! ではでは教えてもらっちゃいましょう! このフィールドを有利に進めるポイントは!?」


「ふふ、今それは言えないわ。〈カッターオブパイレーツ〉にも届いてしまうもの。だから内緒ね。でも安心して、〈エデン〉はいつも驚くほど画期的な戦法でフィールドを駆け回ってきたギルドよ。きっと私が説明するより最大効率を実現させるはずだわ」


「いいねいいねー、盛り上がってきたねー! 〈エデン〉の期待値がじゃんじゃん上がっています! さて、続いてフィールドに登場してきたのはギルド〈エデン〉だーー! あれ、しかし〈エデン〉馬車を持っておりません!」


「むぅ。今回は〈馬車〉無しですか……」


「〈エデン〉の十八番とも言われている〈馬車〉。〈城取り〉には〈空間収納鞄アイテムバッグ〉の類いは持ち込めないから〈馬車〉くらい大きな物となると登場したと同時に持ち込んだと分かるものね。でもそれを持ち込んでいないということは、使うまでも無い、ということかしらね?」


「確か〈迷宮防衛大戦〉では四台馬車を併用し、あの恐ろしい第二形態の〈ヘカトンケイル〉に追いつき、強撃を食らわせたというあの〈馬車〉が不要!? 〈エデン〉の余裕が垣間見えるー!」


「当然のように〈馬車〉という最大の武器無しで手を振って入ってくる〈エデン〉のメンバーたち! 観客席は大盛り上がりです! これではどちらが防衛側なのか分かりません! 本当に〈エデン〉は挑戦者なのかー!!」


「これに対して〈カッターオブパイレーツ〉は――動揺はほとんど見えません! 〈エデン〉が入場しても余裕を崩さぬ表情です!」


「! おおっとこれはいったいどういうことなんだーー!? 〈カッターオブパイレーツ〉に明らかに余裕が見えるーー!?」


「ここである情報を伝えさせてもらうわね」


「ユミキさん、さすが情報担当ですね。何か新情報ですか?」


「ええ、実は〈カッターオブパイレーツ〉はとあるギルドに頼り、〈エデン〉に勝つ戦法を伝授してもらったという情報が入っているの」


「なんと! これはまさか、〈カッターオブパイレーツ〉に〈エデン〉を倒す秘策有り!?」


「これは面白い展開になるかもしれませんね。両者配置に付きました。両者並んで一礼。しっかりギルドバトルのルールにのっとり、正々堂々と戦うことを誓い合っています」


「ちなみに〈馬車〉って正々堂々のうちに入るんでしょうかユミキさん?」


「入ります」




 ――――――――――――――

 後書き失礼いたします。

 

 近況ノートに添付で図を貼り付けました! こちらからどうぞ↓

 https://kakuyomu.jp/users/432301/news/16817330653594519339


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