第892話 迎える新しいメンバーとBランク戦の指名決定!




「セレスタンいるか~」


「ゼフィルス様、こちらに」


「うお!? 後ろにいたのか!?」


 ギルドハウスに戻ってきて早々、結果を伝えようとセレスタンを呼ぶと、なぜか斜め後ろから声がした。いつの間にそこにいたんだ!?


「執事ですから」


「執事だからか!?」


 またセレスタンが心を読んで回答してくれた。あまり読まないでほしいところ!

 とそこで俺は、セレスタンの後ろにいる2人に気が付いた。


「あ、2人とも無事〈エデン〉に加入したんだな」


「はい。今日から無事〈エデン〉に移籍されました。ラウさん、ルドベキアさん、ゼフィルス様にご挨拶を」


 セレスタンの後ろに並んでいたのは以前から加入が決まっていた2人。

 Cランク防衛戦の時に挑んできた新進気鋭、〈新学年〉のみで構成された高位職ギルド〈ディストピアサークル〉に所属していた男子と女子だ。

 2人とも「獣人」カテゴリーで、男子が「狼人」、女子が「兎人」である。


 まず「狼人」男子が前に一歩踏み出して自己紹介してきた。


「ゼフィルスさん、ずいぶん待たせてしまった。改めて名乗る、俺はラウ。〈新学年1組〉に所属し、【獣装者】の職業ジョブに就いている。今後は〈エデン〉でお世話になる。どうかよろしく頼む」


 簡潔に自己紹介を済ますラウは、元2年生なので年上だ。

 身長は高く、レグラムよりも大きい。しかし細身であり、セレスタンのように引き締まった体型をしている。黒にブラウンが混じった髪を伸ばしており、野性味を感じる髪型だ。

 カルアよりさらに小さな耳がちょこっと髪から飛び出ていて、そこだけちょっと可愛らしいが、全体的にはワイルド系だな。


「私はルドベキア、ルキアって呼んでね。今回は採用してくれてありがとう~! とても感謝してるんだ! これから〈エデン〉で活躍できるよう、精一杯頑張るから、ラウ君共々よろしくね! あ、ラウ君はこう見えても結構頭がいいから部隊長とかオススメだよ。私はサポート系が得意だからね!」


 続いて、2人目。

 親しみを感じる明るい話し方、自分たちの得意分野もしっかり口にしてラウをフォローしている様子はなるほど、根っからのサポート役を思わせる。ミサトとは違い髪の色は黒。目は金色に近い。体型は……ミサトに似ているな。細身でやや小さな体に大きい果実が二つ。「兎人」の標準体型のようだ。


 ルキアはラウと同じく〈新学年1組〉の学生で元2年生。年上だ。

 職業ジョブは【タイムラビット】。ギルドバトルの時も見事な魔法で支援し、回復や攻撃、バフを使い分けラウをサポートしていたな。


 2人とも地頭が良いらしく、アイギスやオリヒメさんたちと同じ〈新学年〉の1組に所属している。その片鱗はギルドバトルでも見させてもらった。

 是非、〈エデン〉でその実力を発揮してほしい。


「…………」


 ルキアに何か言いたそうに口を開くラウだったが、結局口をつぐむことにしたようだ。

 どうやら尻に敷かれている雰囲気。

 そのままこっちに向きなおる。


「こほん。ゼフィルスさんには感謝している。まさか採用してもらえるなんて思わなかった」


「ギルドバトルでは簡単に全滅しちゃったからね。しかもたったの10分で、本当にビックリしたよ」


 ラウの言葉にルキアが茶々を入れる。仲が良いなぁ。


「実力があるならいつでも歓迎だ。ラウ、ルキア、ようこそギルド〈エデン〉〈アークアルカディア〉へ。俺たちは2人を歓迎するぞ」


 俺も2人を快く迎えると、2人は満更でもない嬉しそうな表情をしてくれた。


 ラウたちの言葉の通り、実はラウとルキアは本日より〈エデン〉に採用となり、その下部組織ギルドの〈アークアルカディア〉に所属することになったのだ。

 本当はもう少し前には採用が決定していたのだが、例の脱退のあれこれで今まで掛かったので加入が遅くなっていた。ギルドマスターを引き抜いたのでいつもより時間が掛かったらしい。風の噂では〈ディストピアサークル〉は名称を変更し、今は〈ユートピアサークル〉となって新しい道を踏み出しているのだとか。


 いったい何があったんだ?


 ちなみにギルドの名称変更はDランク以下なら初回だけ可能だ。

 まあ、その時のノリとテンションでやっちまったな名称を命名してしまうギルドも中にはいるので1回だけ変更の機会が与えられている。ちなみに2回目はダメだ。

 これは、そんなコロコロ名称を変更するギルドは信用がおけないためだな。

 なお、Cランク以上はエリート族なため名称の変更は出来ないと決まっている。学園の信用にも関わるからだ。

 ギルドの名称を変更するのはよっぽどのことだというイメージ。


「セレスタンもご苦労様。それで結局、そっちのギルドはどうなったんだ?」


「はい。2人を引き取った後は本当に落ち着いたギルドになりました。前のような増長は完全に取り払われ、新ギルドとして新しい一歩を踏み出せているかと」


「そうか、ラウの想定どおりに進んだわけか~」


 元〈ディストピアサークル〉は元々〈エデン〉に吸収してもらおうと画策してCランク戦を挑んできた。

 しかし、その裏にはラウの思惑があり、ちょっと思春期特有の思い上がっちゃったメンバーたちに冷や水を浴びせたい思いがあった。

 簡単に言えばぐうの音も出ないほどボコボコにして分からせてやってほしいと〈エデン〉に挑んできたらしい。


 俺たちもCランク戦後に知ったよ。

 だがその甲斐あってギルドメンバーたちの増長はポッキリ折れていい感じにカットされ、今は落ち着きのあるギルドになっているそうだ。なんかラウから「ボコボコにしてもらって感謝している」って言われて「どんなお礼だ」ってツッコミを入れてしまったよ。


 まあ、俺たちのギルドバトルを通して上手くいったということらしいのでまあいいけどさ。


「ゼフィルス様の方はいかがでしたか?」


「おおっとそうだった。〈青空と女神〉とは事前に決めていたとおりいい感じに纏まったぞ。だが帰りに少しだけトラブルがあってな。その辺を相談したかったんだ」


「といいますと?」


 俺はさっきのBランクギルド〈カッターオブパイレーツ〉の話をして、〈青空と女神〉に絡んでいた旨を伝える。

 そして最後に、〈エデン〉のBランク戦の相手にどうだろうかと相談した。


「よろしいのではないでしょうか? 〈カッターオブパイレーツ〉は随分前に防衛実績の期間が終わっておりますのでいつでも挑戦することが可能ですし、Bランク戦の候補には挙がっておりましたから」


 セレスタンの許可が出た。簡単に。


「それに〈エデン〉がここで動かずとも〈キングアブソリュート〉が動くかと思われます」


「あ、確かに」


〈青空と女神〉の後ろ盾って〈キングアブソリュート〉だしな。

〈エデン〉が動かなくても〈キングアブソリュート〉がことを治めるだろう。

 しかし! それでは〈青空と女神〉に、もっと言えばソフィ先輩に不義理ではなかろうか!


〈カッターオブパイレーツ〉はソフィ先輩狙いなのだ。

 そしてソフィ先輩は〈エデン〉の専属だ。ここで〈キングアブソリュート〉に任せるのは違うだろう。

 やはり、ここは〈エデン〉がしっかり白黒つける必要があると俺は思う。

 指名型のランク戦はQPが掛かるからどうかとも思ったが、セレスタンからあっさりと許可が出た。元々予算は組んでいたからだとかなんとか。

 ならば、やってしまおう!


 チラッと見ると、さっきから後ろに控えていたアイギスが「やりましょう!」と言わんばかりにやる気満々のポーズを取っていた。

 よし、決まりだな!


「よし。では〈エデン〉はこれよりBランク戦の相手に〈カッターオブパイレーツ〉を選ぶとする。仕掛けるぞ!」


「では、準備いたしましょう」


 こうして〈エデン〉は〈カッターオブパイレーツ〉にBランク戦を仕掛けようと動き出した。


 そしてその日のうちに、〈カッターオブパイレーツ〉に〈エデン〉からランク戦の挑戦状が届いた。



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