第891話 〈カッターオブパイレーツ〉なる者が現れて…。




 一足先に上級職になってしまったソフィ先輩に〈青空と女神〉のメンバーはどんな反応をするのか、ちょっと楽しみにしつつ〈青空と女神〉ギルドに戻った所、なんだか〈青空と女神〉のギルドの前が騒がしくなってた。

 5人くらいの集団が〈青空と女神〉ギルドの入口で押し問答を繰り広げていたのだ。


「〈青空と女神〉よ! なぜ〈エデン〉に頼ったのだ!? 我々〈カッターオブパイレーツ〉に依頼すれば……見よ! この通り〈上級転職チケット〉を持って来たのに!」


「それは大変ありがたいことです。ですが、もう終わったことですので。〈エデン〉はすでに3枚の〈上級転職チケット〉を持ってきてくれました」


「さ、3枚だと!? そんなバカな!? いや、それでは我らがAランクギルドになるために上級生産職を囲もうとした計画がパーになるではないか!? ほら、この〈上級転職チケット〉が欲しいのだろ? 今ならまだ間に合う、我ら〈カッターオブパイレーツ〉と専属契約を結ぼうぞ!」


「いえ、先ほど〈エデン〉がとてもいい話を持ってきてくださいましたので、結構です」


「返品すれば良いのだ、我らと組もう! 先ほどということはまだ上級職に至っている者は居るまい? 〈エデン〉には突き返し、我ら〈カッターオブパイレーツ〉のチケットを受け取るべきだ。そうだ、我らがAランクになった暁には後ろ盾になろう! どうだ?」


 おおっとどうやらトラブルな予感。

 聞こえた内容を加味すると、〈青空と女神〉が〈上級転職チケット〉をかなり欲しがっていると漏れていてそこに〈カッターオブパイレーツ〉なるギルドが〈上級転職チケット〉を片手に訪問してきた図だろうか?


 んで〈エデン〉と契約を結んだから結構ですと〈カッターオブパイレーツ〉とかいうギルドを追い返しているところと見た!


「しかし、世紀末のヤンチャボーイみたいな格好はなんだろう?」


「あれは、〈学賊のアギドン〉。あまり良い噂は聞かない人ですね。実力はありますが」


「知ってるのかアイギス!?」


「またあそこですか。困った人たちです。あそことはそんな話、欠片もしていないハズです。ですが〈上級転職チケット〉を持ってくるなんて……もしもう少し早ければ危なかったかもしれません」


 さらにソフィ先輩も言う。

 単純に〈カッターオブパイレーツ〉の押しかけの様子。

 それをメーガス先輩が追い返しているようだ。

〈学賊のアギドン〉とかいう人がペラペラと〈上級転職チケット〉でビンタしようとしているが、全て失敗している模様。


 とそこで〈カッターオブパイレーツ〉がこっちに気が付いた。


「! アギドンの兄貴! 噂をすれば〈エデン〉が現れましたぜ!」


「なにぃ!? おお、あれはまさしく〈エデン〉のギルドマスター! いったいなぜここに!?」


「俺を知っているのか? そうだ、俺が〈エデン〉のゼフィルスだ! それでそっちは誰だ?」


「ほう、俺を相手に先に名乗るとはなかなか。よし、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀。我はBランクギルド〈カッターオブパイレーツ〉がギルドマスター、アギドン! 人は俺を〈最強のアギドン〉と呼ぶ!」


「嘘ですよ。この人は〈学賊のアギドン〉と呼ばれています」


「ぬお!? そこに居るのはソフィちゃん!? なぜ〈エデン〉とソフィちゃんが一緒に!?」


「教えてあげます。つい今し方、私はゼフィルス様の手で上級職に至りました」


「…………はえ? すまない、良く聞こえなかったんだ。もう一度――」


「そうですか。ではもう一度言います。もう私は〈エデン〉の専属になったのです。彼ら以外のアイテムはお作りできません。よって、お引き取りください」


「な、ななななななんだとぉぉぉぉぉ!?」


 おかしいな。〈青空と女神〉を驚かせるはずが、こっちを先に驚かせてしまったぞ?


「先ほども言ったとおりですアギドン。私たちはすでに〈エデン〉と契約しました。お引き取り願いま――」


「ちょーっと待ったぁぁぁぁ!!」


「お?」


 なんだかソフィ先輩の言葉に打ちのめされて、やや放心していたアギドンが我に返って吠えた。


「〈エデン〉ギルドマスターゼフィルスよ、ここに〈上級転職チケット〉がある」


「あるな」


 アギドンにしっかり握られているのはまさしく〈上級転職チケット〉だ。

 未だに価値が高いそれを〈青空と女神〉に渡そうという計画、中々に先見の明がある。

 油断はできない。どんなセリフが飛び出してくるのか、俺は警戒を強めた。


「ソフィちゃんをゆ、譲ってくれ。そうすればこのチケットはゼフィルスにやろう」


 ん? あれ? なんか思っていたのと違う。ソフィ先輩が欲しいって?


 ……いや、いくらこの世界の〈上級転職チケット〉に〈嫁チケット〉的な意味があるからといってギルドの大切な〈上級転職チケット〉を渡しちゃう人はいないだろう。

 なら専属的な意味だよな??

 でもソフィ先輩はあげないよ?


「え? いらんよ別に。俺はソフィ先輩の方が欲しいし。〈上級転職チケット〉はまたゲットすれば良いし」


「それはダメだーー! 我がなんのために〈上級転職チケット〉を持って来たと思っている! 〈青空と女神〉の生産力を我が〈カッターオブパイレーツ〉に引き込み、我らは上級ダンジョンへ進出し、Aランクギルドに至り、あわよくばソフィちゃんとお近づきになるためだったのだぞ! そして1回目の〈金箱〉で〈上級転職チケット〉が出た! これはもう運命なのだ!」


「マジかよ。ソフィ先輩大人気だな!?」


「はい。でも変な人ばかり寄ってきて困っています」


「ひゅ!?」


 あ、巻き添えでメーガス先輩の横にいたフリーン先輩にまで刺さった予感。

 そっとしておこう。


 つまりだ、〈青空と女神〉としては〈上級転職チケット〉は欲しいけれど、専属を結ぶ相手は選びたいと、そういうことだろう。さっきもそんなようなこと言ってたしな。


 とそこで前へ出る人が1人、アイギスが口を開いた。


「いい加減にしてください。話を聞けばわがままばかり、駆け引きには時に強引さも必要ですが、あなたたちは迷惑にしかなっていません。それを自覚なさい! お説教です! そこに直りなさい」


「うお!?」


 アイギスが妙な迫力でお説教を始めたのだ。

 これにはたまらずアギドンたちも怯む。


「ゼフィルスさん、少し卵を預かっていてください」


「あいさー」


 おっとアイギスが本気の様子だ。俺に〈聖竜の卵〉を預けて腕まくり。

 そういえばアイギスは【正義漢】のダイアス先輩がギルドマスターをしていた〈ホワイトセイバー〉の出身だったな。曲がったことが嫌いというのは知っていたが、お説教をするほどとは知らなかった!


「いいですかあなたたち、筋を通せないのであれば道理無しです。前に進みたければ正しい道を歩みなさい。間違った道を行けばどこにもたどり着けず、やがては自滅してしまうのだと知るのです」


「う、むむむむ、難しいことばかり言いおって!」


 なぜか大人しくお説教を聞く〈カッターオブパイレーツ〉たち。

 アイギスのお説教はご褒美か何かかもしれない?


「特に女の子とお近づきになりたいならもっと見た目を気にしなさい。そんな世紀末のヤンチャボーイな格好がモテると本当に思っているのですか?」


「え? これモテないのか?」


「「「「え?」」」」


 なぜかショックを受ける〈カッターオブパイレーツ〉たち。お説教がこの上なくクリーンヒットしている様子だ。

 それからもお説教は続き、〈カッターオブパイレーツ〉はとうとう目覚めた。


「分かったぞ。あなたが女神だったのだ。アイギスさん、あなたの言うとおり俺たちは世紀末のヤンチャボーイをやめよう。真っ当に生きると約束する。だから、どうだ、お、おおお俺たちとお近づきになってはくれまいか!?」


「え? いえ、私には気になる殿方がいるのでちょっと……」


 そう言ってこっちを見るアイギスの視線に気が付いてそっちを向く。

 あれ? いつの間にか説教が終わってる。

 話が長かったからソフィ先輩と〈聖竜の卵〉の計測なんかをしてたら終わっていたみたいだ。

 しかし、


「ん? どういう状況なんだこれ?」


 と思ったらなぜか俺は〈カッターオブパイレーツ〉たちに囲まれていた。

 もの凄い悔しそうな顔で見つめてくる〈カッターオブパイレーツ〉たち。


「貴様――! ゼフィルス、ソフィちゃんだけじゃなくアイギスさんまで!? おのれ許せん! 成敗してくれる!」


「どういうこと?」


「お待ちなさい〈カッターオブパイレーツ〉のみなさん。先ほど言いましたよね。筋を通すようにと。以前同じ事をしようとしたギルドは捕まってしまいましたよ」


「くっ!」


「思い出した。確か〈天下一なんとか〉ってギルドが捕まってた!」


〈カッターオブパイレーツ〉の誰かが言う。ちょっと覚えがあるような話の気がするが、気のせいかな?

 それを聞いて悩むアギドン。


「ならば、どうすればいい!?」


「確かその時は〈天下一なんとか〉が〈エデン〉にギルドバトルを仕掛けたんだ。それで白黒付けたって聞いたぜ」


「! なるほど、ギルドバトルか」


「お? ギルドバトルやるか? ちょうど今〈エデン〉って相手を探していたところでさ」


「よかろ―――いやダメだぞ!? 〈エデン〉とはギルドバトルなんてやらないぞ!?」


 その気満々な気がしたのに急に青ざめたアギドンがやらないと叫んだ。

 なんだと!? おいおいいきなりの手のひら返しじゃないか!?


 しかし、ことはソフィ先輩の専属を取り合う勝負だ。ソフィ先輩も困っているし、別にこのまま挑んでもいい気もする。

 チラッとアイギスを見ると、「やりましょう!」というポーズを取ったアイギスがいた。


 よし、なら決まりだな。


「その話はまた後日にしよう! これからギルドメンバーと相談してくるから!」


「待ってくれ、何を? 何を相談する気なんだ!? ちょっと待ってはくれないか!? 早まるんじゃない!」


〈学賊のアギドン〉がやたら引き留めてきたが、アイギスが「今日は帰りますね。お疲れ様でした」と言って去ると、煤けた姿になってしまった。


 こうして俺たちはギルドへと帰還し、セレスタンに〈城取り〉の相手候補を相談するのだった。




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