第890話 話し合い完了! ソフィ先輩をランクアップ!




 どういう経緯で〈キングアブソリュート〉が関わってきたのかをメーガス先輩たちに説明する。

 まず、この話は〈エデン〉に持ってこられたので〈エデン〉から〈青空と女神〉へ説明するのが筋、ということで今回〈青空と女神〉は初めて〈キングアブソリュート〉が関わってくると知ることになった。


 ちなみに俺が手に持つ3枚のチケットは全部〈エデン〉のだったりする。

 これは見せチケットだ。〈青空と女神〉には絶対にこれを承知してもらいたいからな。

 絶対に釣らフィッシュしなければならない。インパクト大事!


 もちろん今日使うのはこの内の1枚だ。残り2枚については〈キングアブソリュート〉と話し合って決めてほしいと言えば問題は無いだろう。


 当然、いきなり〈キングアブソリュート〉まで話に加わってきたと知って〈青空と女神〉のメンバーがざわめいた。


 俺の言葉に聞き耳を立てながら作業をしていたメンバーたちの手も止まる。


「〈キングアブソリュート〉が……本当なのか!」


「に、2枚もチケットを提供してくれるだって!?」


「――計3枚!?」


「それだけあれば〈青空と女神〉は持ち直せるぞ!」


「「「おお! おお!」」」


 驚きにざわめく〈青空と女神〉。


 気持ちは全員同じなのだろう。

 まるで信じがたいような目をして俺の手の中にある〈上級転職チケット〉を見つめていた。


 この世界の〈上級転職チケット〉は1枚でも破格、それが3枚だ。

 そして〈キングアブソリュート〉というトップギルドからも提供したいという申し出。


 おそらく〈青空と女神〉は俺たちが持って来たチケットは1枚だと思っていたはずだ。

 故に、驚きすぎて何をしたら良いか分からないと言わんばかりにどよめきまくっていた。

 やっとのことで最初に我に返ったのはさすが、ギルドマスターのメーガス先輩だった。


「フーリン君! フーリン君はいますか!?」


「ふ、フリー・・ンです先輩!」


「おおフリーン君。すぐに〈キングアブソリュート〉にアポを取ってください。ことは〈上級転職チケット〉です。〈エデン〉にしたためたように丁寧に、〈青空と女神〉がお礼をしたい事を強調してください」


「りょ、了解です!」


「それと――」


 メーガス先輩はすぐに〈キングアブソリュート〉へ使いの者を出す。

 それが一通り終わるとメーガス先輩はこちらに向きなおった。


「こほん。ふう、ゼフィルス殿。予想外だったため取り乱してしまい申し訳ない」


「いやいや、驚くのは当然だ。気にしてない」


「そう言ってもらえるとありがたい」


「これは確認だが、〈青空と女神〉は〈キングアブソリュート〉の申し出を受けるという事でいいか?」


「もちろんです。是非もありません。これは〈青空と女神〉の総意と思ってください。協議するまでもないことですから。……他のギルドならともかく〈キングアブソリュート〉でしたら信用が置けますし」


 咳払いと深呼吸でようやく落ち着いたメーガス先輩。 

 しかし、最後の言葉はなんか含みがあるな。何かあったのかな?


 だが、その視線は未だ〈上級転職チケット〉に注がれたままだ。

 これが〈青空と女神〉が現在の状況を打破するために必要な救いのチケットなのだ。

 気持ちはとても理解出来る。


 いずれにせよ、〈青空と女神〉は〈キングアブソリュート〉の申し出を受けると同意した。良し!


「〈キングアブソリュート〉の方は〈青空と女神〉の方で話し合ってもらうとして、今は〈エデン〉の話を続けても?」


「はい、構いません。お願いします」


「では条件の再確認を、前回交渉したとおり〈エデン〉は〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を供与する。その代わり〈青空と女神〉は〈エデン〉に最大限配慮し、優先的に要望の生産を行なうこと。またレシピの貸し出しなども無理の無い範囲で行なうこと。それと、レシピの使用にギルド〈ワッペンシールステッカー〉所属のマリー先輩も加えて欲しいなど、詳しくはこちらの書面に纏めておいた」


「マリーさんといえば〈エデン〉の専属の方ですね。はい、あまり増やされると困りますが、彼女だけなら問題ありません。私たちの生命線でもある〈エデン〉には最大限配慮し、優先的に仕事を仕上げると誓います」


 俺の言葉にメーガス先輩が決意を込めた表情で頷いた。周りのメンバーからも異議は出ない。しっかり根回しは済んでいる様子だ。


 また〈青空と女神〉はこれまであった企業優先の考え方から学生優先に変更してもらう。

 学生の上級装備を仕上げてもらうことを優先してもらい、それ以上に〈エデン〉を優先してもらう。言ってしまえばそれだけのことだ。


 リーナとセレスタンがたった1週間でしっかり書類を作ってくれたので、後は同意を得るばかりだ。


「あと、〈上級転職チケット〉の1枚はこちらの指定した人物に使用してもらうという話は?」


「もちろん大丈夫です。とはいえ、これほど早く持って来てもらえるとは思っていませんでした。もしかして今日使っていただけるのですか?」


「俺たちも考えたんだが、やはり上級生産職は急務だ。〈青空と女神〉だけじゃない。他の生産職ギルドだってどんどん〈上級転職ランクアップ〉してほしいところなんだ。じゃないと、上級戦闘職が増える一方で装備の質はイマイチになる。これを回復させるには大きな時間が掛かるだろう。今日すぐにでも〈上級転職ランクアップ〉したいと思ってる」


「その考え、深く同意します。ゼフィルス殿は深い思慮をお持ちだ。本当に〈エデン〉には感謝してもしきれません」


〈青空と女神〉は上位ギルドの拠り所だ。

 支援職を増やして上級ダンジョンに潜り、ボスを倒してレベルを上げる今の方法だと、ボスというリソースが限られているため限界が、結構早めに来る。

 もっと深い階層へどんどん足を伸ばさなければリソースの奪い合いで成長が停滞してしまうだろう。そんなとき後一歩踏み出すための生産職装備が絶対に必要となる。


 学園側もなんとかしたいとは思っているようだが、まだまだ時間が掛かるだろう。

 なら、俺とユーリ先輩でなんとかしよう。


「聞きたいんだが、メーガス先輩は誰を上級職にしてほしいんだ?」


 1枚は使う人を決めているし、〈キングアブソリュート〉も2枚は自分で指定したいだろう。それとは別に、今後の参考として聞いておきたい。

 俺がそう言ったところでメーガス先輩の後ろに並んだ4人から大きな緊張感が生まれた。


「後ろにいる4人なら誰でもかまいません」


「なるほど、ドワーフだな」


 そう、その4人には特徴があった。全員背が小さいことだ。男子はかなり横に広く、すでに髭が生えている。それももっさりとだ。まさにファンタジードワーフ男子である。女子の方は安定のマリー先輩、ではなくアルルのようなロリ。

 男2人(髭)、女2人(ロリ)だった。


「はい。上級ダンジョンを攻略するには攻撃力と防御力が何より重要だと考えます。物理攻撃で行くのなら金属武器が必要ですし、防御力なら金属鎧こそ優秀です。ドワーフを選ぶのは既定路線だと考えています」


「だな。さすがはトップ生産職だ。ちゃんと戦闘職の欲しがるツボを押さえてる」


 メーガス先輩の話に俺はとても満足して頷いた。

 3種の生産職は攻略においてとても重要だ。


「他には?」


「次は、そこの服飾メンバー。もしくは私でしょうか。ですが〈青空と女神〉存続の観点から見れば2年生の誰かが良いと考えています」


 そう言ってメーガス先輩が向く先には、先ほどの大空ドレスを作製しているメンバーたちがいた。ちなみにフリーン先輩はいない。

 うむ、服、軽装、辺りを抑えるのは基本中の基本だ。

 ちなみにメーガス先輩も【服飾師】系統らしい。


 しかし、メーガス先輩は3年生。もう後4ヶ月もしないうちに卒業だ。

 そこへ投資するのは〈青空と女神〉の存続の意味では難しいと考えている様子だ。

 さすがはAランクギルドのギルドマスターだ。ギルドのことを第一に考える姿勢がすごい。彼と話すことはとても有意義に感じるぜ。


「今度はこちらからお聞きしたいのですが、〈エデン〉はどなたを選ぶか、もう決めているのですか?」


〈エデン〉は〈上級転職チケット〉を誰に使うのか。

 これが重要だ。


「〈エデン〉は【アイテム職人】系の上級職、高の下である【マスター・アイテム】を求めている」


「【アイテム職人】系、ですか」


 その言葉に全員の視線がソフィ先輩の下へ集中する。


「そうですね。私であれば【魔道具師】ですので可能性はあるかと」


「ソフィでしたら2年生ですし、実力も一番高いです。この前のクラス対抗戦でも優勝しています。不足は無いでしょう。もしかすれば希望の【マスター・アイテム】という職業ジョブにも就ける可能性があります」


「それはありがたいな。では、そう言うことで」


「……え?」


 俺がそういうと、メーガス先輩が呆けた声を出した。

 マジか、ソフィさんってそんなに優秀だったの!? もう〈上級転職ランクアップ〉させるしかないじゃん!?

 ということで決めた。


「私でよろしいのですか?」


「よろしい。俺はソフィ先輩が気に入った!」


「なんだと!? ソフィちゃんを攫っていくなら俺を倒してからにしてもらおうか!」


 そこにフリーン先輩が乱入した。この人、いつのまに!?


「フリーンさん。話に入ってこないでください。邪魔です」


「ごっふ!?」


 そして撃沈。その間3秒。


「あれ? あの先輩勝手に倒れたぞ? これはソフィ先輩を攫っても良いという意味なのか?」


「いえ、それは困りますが……」


 むう、それは残念。

 そういえばこの世界の〈上級転職チケット〉って〈嫁チケット〉な風習があったっけ……。

 フリーン先輩……。


 まあ、ソフィ先輩を気に入ったのは確かだ。生産職としてだけどな!

 さて、では早速話を進めようかね。


「了解した。では話を進めようか。メーガス先輩は〈上級転職チケット〉の件で〈キングアブソリュート〉との調整もあるだろうから、後は俺とソフィ先輩でやっておこう」


「そうですか? こちらとしてはありがたいですが。ソフィはどうですか?」


「私も構いません。〈青空と女神〉をしっかり支えて見せます」


 両拳を胸の前に持ってきてフンスするソフィ先輩。

 おお! ソフィ先輩が可愛い!

 よし! その決意、俺が叶えてやんよ!


「ということで後はよろしく! 俺はソフィ先輩を一足先に〈上級転職ランクアップ〉させてこよう。注文したいものがあるからな」


「注文ですか?」


 俺はソフィ先輩に向きなおる。

 そしてアイギスに抱えられてなでなでされている卵を指さして言う。


「これだ」


「これですか。実は先ほどからとても気になっていました」


「そうだろうな。これの〈上級孵卵器〉の作製を頼みたいんだ」


「ということはまさか、これは上級モンスターの卵……。わかりました。私が上級職になった暁には全力を持って作製いたしましょう」


「決まりだ。じゃあ早速測定室へ行こうか!」


「今からですか?」


「今からです!」


「うう、おおおおー。待ってくれー、ソフィちゃんを連れて行かないでくれー」


 なんだか地面から嘆きの声が聞こえた気がしたが、きっと気のせいということにして、ソフィ先輩を連れてそのまま測定室へと向かったのだった。




 そして30分後。


「まさか、驚きました。これが上級職、高の下【マスター・アイテム】……ですか」


「それじゃあ〈上級孵卵器〉よろしくな。あ、そういえばレシピってあるのか?」


「……ありますね。この前まで埃を被っていましたが、〈上級転職ランクアップ〉の可能性を掴んだことで、上級レシピは全て埃から脱出しました」


「あれだけのレシピを持っているならあるだろうと思っていたが、あるんなら安心だな。じゃあ最優先で頼む。素材もこっちで集めてくるから」


「承りました。それと〈上級孵卵器〉を作るに当たって卵の大きさを測らせてください。これほどの卵は見たことがありません」


「オーケー、じゃあ測り終わったら一度戻るかアイギス」


「はい」


 無事ソフィ先輩の〈上級転職ランクアップ〉が完了。

 一足先に上級職になってしまったソフィ先輩に〈青空と女神〉のメンバーはどんな反応をするのか、とても楽しみだ。




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