第889話 〈青空と女神〉! 良い人材がいるじゃないか!





「ここが、Aランクギルド、〈青空と女神〉ですか……」


「商売、というより生産職の巣窟みたいなギルドハウスだな」


 アイギスがその建物を見上げてポカンとし、俺もちょっと目を細めながらそれを見る。

 それは〈A地帯〉にあるAランクギルドが一つ、生産トップギルド〈青空と女神〉のギルドハウスだ。しかし、なんとも目立つ。


 とってもシンプルなのだ。

 入口にはアーチ看板が掲げられ、アート的な青空とそれを見上げ両腕を大きく開いている女神が描かれているのが自由な創造を表しており、ここが〈青空と女神〉ギルドであると示している。

 だが庭は無く、敷地ギリギリまで建てられた建物、高さも校則で指定されている限界まで高く建造されており、室内という面積を最大限増やそうとしていると分かる造りをしている。豆腐建築で工場のような雰囲気をしていて、窓はたくさんあるがベランダは無く、完全に仕事場という印象が先に来ていた。


〈エデン〉でもそうだが、生産工房というのはとてもスペースがいる。

 Cランクギルドハウスでは1階と2階にアルルとハンナの工房を一つずつ取り付けるだけで精一杯というくらいには広い空間が必要だ。

 AランクギルドハウスはCランクギルドの倍の人数をギルドメンバーとすることが出来る上、学園から非常に優遇された措置を受けられるため、その敷地面積はCランクギルドと比べものにならないほど広い。


 しかし、それでも足りないのだろう。全員が生産職というギルドはそれほどスペースを多く必要としているのだ。


「入るか」


「は、はい。入りましょう」


 アイギスを連れて訪問。

 なお〈聖竜の卵〉も一緒で、アイギスが肩掛けのゆりかごのような物を吊るし、そこに収まっていたりする。見ると赤ちゃんを抱えるお母さんっぽい。


 今日は例の〈上級転職チケット〉受け渡しを兼ねて来ていた。

 日曜日の朝早い時間ではあるが、〈青空と女神〉ギルドからはこの時間にたずねてほしいと言われていたので訪問。


 ノックすると、直ぐにガラリと扉が開かれ、中から見覚えのある女子先輩が顔を出した。

 確かメーガス先輩が訪問したときにレシピの束を渡したりと秘書的な役割をしていた先輩だ。


「ゼフィルス様、お待ちしておりました。どうぞお入りください」


 黒髪で首まであるポニテにブラウン系の瞳。紺色のワンピースをベースに作業しやすいようにだろうか、ポケットやベルトがいくつもついた上着を羽織り、白い手袋と黒いソックスを履いている。おしゃれ作業着(?)とでもいうような服装の先輩。

 案内に従い中に入ると、改めて向かい合って深いお辞儀で出迎えられた。


「ご足労頂きありがとうございますゼフィルス様、2年生のソフィと申します。〈青空と女神〉ではアイテム生産などを担当する【魔道具師】に就いております。今日は私がゼフィルス様たちの案内をさせていただきます」


「ほう【魔道具師】か!(ご丁寧にどうも――)」


 ――おっといけない! 思っていたことと言葉が逆になりかけた!

 危ない危ない。

 ごめん、テイクツーで!


「げふんげふん。ご丁寧にどうもありがとう。知っての通り〈エデン〉のギルドマスターのゼフィルスだ。こちらは今日付き添いで来てくれたアイギス」


「? はい、存じています。〈新学年1組〉のトップ、アイギス様ですね。お会いできて光栄です」


「そんなに畏まらないでいいですよ。私は本当に付き添いみたいなものですから」


 ふう、なんとかごまかせたか。

 今回、俺たちの狙いはこの〈聖竜の卵〉の孵卵器だ。それには【アイテム職人】系の上級職の力が必要。目の前に居るソフィ先輩は、まさに俺たちが今欲しい職業ジョブなのだ。後は〈上級転職チケット〉で〈上級転職ランクアップ〉してもらえれば。

 ふはは!


「? ギルドマスターが首を長くしてお待ちです。こちらへどうぞ」


「ありがとう」


 なぜか首を一度傾げたソフィ先輩だったが、特に気にせず俺たちを案内してくれる。

 今日の俺たちはお客様。

 お礼を言いながら案内され、一つの大部屋へと通された。

 そこでは4人の上級生たちが、一つの明るい水色のドレスを仕上げている最中だった。


 俺はそれを見て、思わず言葉が出る。


「大空か?」


「お、おおその通りさ! 君見る目あるねー! 今日はこの大作、〈大白鳥の巨大羽〉をベースにした〈白鳥シリーズ〉、それを「大空」をテーマに染め上げている所なのさ!」


 そう言ってやってきたのは、テンションが高い一見普通に見える男子。

 どうやら自分たちの作品を正しく見てもらえたことでテンションが一気にMAXまでいった様子だ。


「フリーン、こちらは大切なお客様、粗相はしないでください」


「あ、ソフィちゃん!? いやぁその、ついテンション上がっちゃってさ、ははは」


「いや、見事なものだぞ? ここまで鮮やかな色合いは中々だせるもんじゃない。これは〈氷柱の純水〉〈瑠璃蝶の羽根〉〈ツユクサの花弁〉辺りを使ってるのか?」


「!! おお、その通りだ! 君すっげぇな! 見ただけで分かるのか? そうなのさ、実はこの空の色を出すために――」


「フリーンさん・・?」


さん・・!? ごめんなさいソフィちゃん! お願いだから心の距離を離さないで!? もう邪魔しませんから!」


 おおっと、つい素材を当ててしまったらフリーンと呼ばれた2年生の先輩とソフィ先輩の心の距離が離れてしまった。すまない。


「フリーンさん。メーガス先輩を呼んできてください」


「呼んできます! そしたら是非先ほどみたいに呼び捨てにしてください!」


「考えておきましょう」


 おお! ソフィ先輩がフリーン先輩を手のひらでコロコロ転がしていらっしゃる。

 フリーン先輩は作品を他の人たちに任せると、そのままどこかへとすっ飛んでいった。


 そして俺たちはこの部屋に設置されていた来客用? と思わしき大きなソファーに腰掛ける。


「生産部屋の中に応接する場所があるのですね」


「部屋が足りてないですから。工房以外の部屋はトイレ以外全て潰してしまいましたので」


「生産命過ぎる」


 さすがは生産トップギルド。気合いが違うな。


 そんな話をしていると、先ほどのフリーン先輩がメーガス先輩他数人を連れてやってきた。おお、早い。


「ソフィちゃん! 連れてきました!」


「ありがとうございます。フリーンさん・・


「ソフィちゃん!?」


 おお、哀れフリーン先輩。

 だが気づいてくれ、フリーン先輩がソフィ先輩に話しかけているせいでメーガス先輩たちが俺に話しかけられないんだ。このままだとどんどんソフィ先輩の好感度が下がることになるぞ。


「あっち行ってください。邪魔です」


「ごふっ!」


 あ、ついにトドメ入った。「あっち行ってください」と「邪魔です」の二大コンボがえぐり込むように刺さった様子だ。

 フリーン先輩はフラフラしながら大空ドレスの元へ向かってしまった。ドンマイだ。


 そして今のは無かったようにメーガス先輩が話しかけてきた。


「こほん。すみません待たせてしまいました。ゼフィルス殿、本日はご足労いただき感謝の言葉もありません」


「いいや、こっちもちょうど用があったところだったんだ。気にしないでくれ」


「そう言っていただけますと助かります」


 そう言って彼らの前に3枚の〈上級転職チケット〉をピラりと見せながら言った。


「先にこっちから話してもいいかな? 前の話だが〈エデン〉は〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を供与する用意がある。ただ今用意できるのは1枚だ」


「!? ありがとうございます! しかし、見たところチケットは3枚では?」


「ああ。それなんだが、〈キングアブソリュート〉からも2枚出させてほしいと打診があったんだ」


「……え?」




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