第887話 こ、これは戦略的撤退だ! 宝物庫での出会い。
「うおおおおおお! 『
全力で逃げる俺ゼフィルスです。
エリアボス並の番人が俺を排除しようと追いかけてきたからだ。
しかも2体では無い。
彼らが守る宝物庫の鉄格子が開くと中から追加で3体の番人が現れ計5体が俺を追いかけ回し始めたのだ。
エリアボス級のリザードマンが5体、マジやべぇ。
だがまだ慌てる時間では無い。
『
「「「「「
「うおおお怖ぇぇぇぇ!!」
俺はそのまま盆地の端に沿うようにダッシュした。
◇
一方、岩の影に隠れていた4人がひょっこりと顔を出す。
「あの、ゼフィルスさん、本当に追いかけられて行ってしまいましたが……」
「大丈夫よアイギス先輩。これも作戦のうちだもの。ゼフィルスも言ってたし、私たちは私たちで動くとしましょう」
「ん、先に行ってる。『ナンバーワン・ソニックスター』!」
「カルアいってらっしゃい! うふふ、楽しみね! どんなお宝が眠っているのかしら。私たちも早く行きましょ!」
アイギスがゼフィルスと番人たちが消えた方向を呆然と見るが、シエラ、カルア、ラナはゼフィルスの突拍子も無い行動には慣れたもので、自分たちの役目を全うしようとしていた。
そう、実は交渉は決裂させるのが目的だった。
ゲーム〈ダン活〉では「何が目的だ!」と言われたあとの選択肢で「宝物庫のお宝を全部頂く」と答えると、こうして番人が総出で排除しにくるのだ。
ちなみに「俺は〈金箱〉が大好きだ!」の部分はうっかり出ちゃったゼフィルスの本音である。
この総出で追いかけてくるというのがポイント。
つまり今、宝物庫の守りは無防備だ。しかも鉄格子まで開きっぱなし。
ゲーム〈ダン活〉ではこうして一パーティが番人を引きつけ、オートでダッシュさせて逃げているうちに、もう一つのパーティが宝物庫に忍び込んでお宝を全部ゲットするのがここの攻略法だった。
わざわざ番人を倒す必要は無いのだ。むしろ一パーティの犠牲でお宝を確保出来るなら安いまである。(引きつけたパーティが逃げきれるとは言っていない)
というわけで事前にゼフィルスが通達していた作戦通り、ラナたちは急いで宝物庫へと入室した。
「ん。罠と敵、無し。安全確認良し」
「仕事が早いわねカルア。お宝はどこかしら?」
「こっち。すごいの」
カルアに導かれ、ラナたちが進むと一つの豪華な部屋に突き当たった。
そしてそこにはなんと、六つの〈金箱〉が鎮座していたのだった。
未だかつてここまで圧倒的な〈金箱〉があっただろうか?
ラナやカルアだけじゃ無く、これにはシエラとアイギスも目を輝かす。
「わー! すっごーい!!」
「ん。〈金箱〉、すごい。すごい、〈金箱〉!」
「これは、見事ね」
「上級の〈金箱〉がこんなにたくさん!?」
もうテンションは最高潮だ。
もしここにゼフィルスが居て時間的余裕があればクルクルダンスを踊っていたことだろう。まあ、当の本人は今全力で鬼ごっこを満喫中だが。
「手分けして開けるわよ!」
「中身の鑑定は後でいいわ。とにかく今は〈
「「おおー」」
早速全員が散り、〈幸猫様〉と〈仔猫様〉へのお祈りも簡易的に済ませて〈金箱〉をパカリと開ける。
その中に眠っていたのは短剣、刀、杖、槍、盾、アクセだった。
この上級下位ダンジョンではまず手に入らないはずの破格の性能を誇る、〈ドラゴン◯◯〉シリーズである。
その出てきた装備の異様さに全員が驚き、手が止まってしまう。
「!」
「これは!」
「みんな、しっかりして、驚くのは後よ!」
しかしすぐにシエラが全員の正気を取り戻し、〈
無事六つの宝箱の中身を回収すると、カルアの直感にピキンときた。
「ん。なに、これ、卵?」
「どうしたのカルア」
「これ、大きな卵」
「! もしかしてこれが――ゼフィルスの言っていたものなの?」
宝箱に目を奪われて気が付かなかったが、宝物庫の奥にはゆりかごが設置されていた。
卵を守るようにしっかりとした作りの立派なゆりかご、そしてその中には一つの大きな卵が入っていた。
カルアがそれを見て首を傾げる。
『直感』スキルが変な感じに囁いていたからだ。
それを見て、シエラがすぐに気が付く。
「ラナ殿下、〈幼若竜〉を出してこの卵を見てもらえるかしら」
「任せて!」
「これは、この卵は! まさか本当に!?」
アイギスもこの卵の正体に気が付いたようだ。
カルアが両手でようやく持てるサイズ。
いや、持つというより抱えていると言った方が正しいだろう。
そんな卵が普通なはずは無い。
そしてゼフィルスは言っていた。ここに【竜騎姫】の発現条件を満たす可能性があると。
【竜騎姫】の発現条件は有名だ。むしろこの世で知らない人はいないんじゃないかというくらい有名だ。
その条件とは〈竜のテイム〉。
しかし竜種の発見報告が皆無なため、これは就くことが不可能な伝説の
だが、ゼフィルスの直感は当たる。本当に直感なのか怪しいほど当たる。変な知識をいっぱい持っている。そしてゼフィルスはここにその条件がある(気がする)と言っていた。
だからこそここに居る全員に「まさか……」の思いを抱かせた。
ラナがゼフィルスから預かっていた〈幼若竜〉を取り出すと、全員がそれに注目する。
「〈幼若竜〉、『解析』! あ、やっぱりそれはアイテムじゃないわ!」
ラナが〈幼若竜〉を取りだして『解析』するも反応なし。つまりはこの卵はアイテムでは無いのだ。ということは考えられるのは一つ、すぐにラナはもう一つのスキルを使う。
「〈幼若竜〉、『看破』! わ! やっぱりこの卵、モンスターよ! しかも〈聖竜の卵〉ですって!」
モンスターの情報を読み取る『看破』に反応あり。つまりこの卵はモンスターなのだ。番人たちが守っていたのは宝箱と、この卵だったのである。
「聖竜の卵……」
アイギスが呆然と呟いた。
いや、ラナ以外はみんな驚愕の表情だった。
カルアまで耳と尻尾をピンと伸ばしている。
「アイギス先輩、時間が無いわ。すぐにテイムしましょう」
「シエラさん」
モンスターを連れてダンジョンの外に出るにはテイム系スキルが必要だ。
それは卵でも変わらない。卵をテイム無しで持ち出せば、誰かに食べられてしまうかもしれない。
シエラは驚きの感情をギュッと押し込め、やるべきことを指示した。
アイギスも、目の前に自分の念願だった竜系モンスター、その卵があるという事実に完全に思考が真っ白になっていたが、今の一言で自分が何をすべきかを思い出した。
「き、『騎獣モンスターテイム』!」
アイギスが手を翳しスキルを使うと、光のリングが卵を囲い、そしてギュッと卵に巻き付いて消えた。
卵のような抵抗力皆無なモンスターへはテイムは100%成功する。
ラナが再び『看破』してちゃんとアイギスのモンスターになっていると確認した。
「ん。アイギスおめ。これあげるね」
「あ、ありがとうございます」
まだ実感皆無なアイギスにカルアが卵を渡す。
これでアイギスはとうとう、竜系モンスターをテイムしたのだ。
とそこでゼフィルスが宝物庫の中に勢いよく入ってきた。
「みんな脱出準備は大丈夫か!?」
「「「「!!」」」」
突然のことに全員がビクッとするが、すぐにタイムアップが来たのだと認識する。
『
ゼフィルスは時間内に番人を撒くのは不可能だと知っていたので、最後の終着点を宝物庫にして、ここから脱出しようと前もって打ち合わせていたのだ。
数秒もすれば番人がここへ押し寄せてくるだろう。
「ええ。大丈夫よゼフィルス」
答えたシエラと、〈聖竜の卵〉を抱えるアイギスをチラッと見て、ゼフィルスはニヤリと笑うと、手に持っていた〈転移水晶〉を掲げて言った。
「脱出するぞ! 〈転移水晶〉発動!」
ゼフィルスの手の中にあった水晶がパーンとエフェクトに消え、ゼフィルスたちは一瞬で光に包まれたかと思うと、〈上下ダン〉の転移リングの下に転移していたのだった。
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