第886話 隠し通路発見!奥にいたのは会話のできるボス!?




「この〈鎮火の秘薬〉、これを溶岩に放り投げると」


 俺はそう言いながら秘薬入りの小瓶を溶岩に向けて放り投げた。

 そのままドボンと溶岩に落ちると、効果発動。


「わわ! 溶岩が固まっていくわ!」


「にゃう!?」


 落ちた場所を中心として、それまで真っ赤だった溶岩の川が一気に鎮火していき、そして黒く固まってしまったのだ。

 後に残ったのは平らな地面だ。ラナとカルアがビックリしてお互いに抱きついていた。


「これは、すごいわね」


「驚きました。こんなことが出来るだなんて」


 その光景にシエラとアイギスもそれ以上の言葉が出ない様子だ。

 ふっふっふ、良いリアクションだ! そのリアクションが見たかった!

 特にラナとカルアの反応がナイス!


〈鎮火の秘薬〉は溶岩を固め、通行可能にしてしまうアイテム!

 固まったそれは川の流れを塞き止めているに等しいはずなのだが、追加で溶岩が流れこむことは無いので悠々と道を渡れる。効果は1日。翌日には溶岩に飲み込まれて元に戻ってしまう仕様なので注意だ。


「溶岩の中にいたモンスター、気配消えちゃった」


「まあ、固まっちゃったからな。とはいえ溶岩に戻ったらいつの間にか復活しているから心配しなくていいぞ」


「そうなの?」


 カルアがおっかなびっくりで固まった溶岩を足でツンツンしていたので答える。

 そして、みんなにこの道が安全だと示す意味で先に固まった溶岩に乗っかった。


「ほら、固まった溶岩はこの通り熱くないからな。この上を通り向こう岸に渡るぞ」


「あ、待ってよゼフィルス。……これ、本当に熱くないのね?」


「またとんでもないわね。上級ダンジョンってこういうのばかりなのかしら」


「なんだか、足場は固まっているのに、歩くと変な感じがしますね」


「ん。ちょっと怖い」


 ラナ、シエラ、アイギス、カルアがそれぞれ感想を言う。

 まあ、さっきまでドロドロでボコボコ言ってた溶岩の上だからな。

 アイギスがまず溶岩の上に踏み出し、それからみんな恐る恐るといった感じで歩いて付いてきた。

 早めに向こう岸に渡ってしまおう。


「つ、ついたわ!」


「なんだか妙にドキドキしたわね」


 向こう岸に到着すると、みんなが息を吐く。

 まるでつり橋を渡ったかのようなドキドキ感を味わったらしい。

 はっ! これはまさか、つり橋効果が発動しちゃったりするのだろうか!?

 俺はラナとシエラを見る。


「少しスリルがあったけど、でもちょっと楽しかったかもしれないわ!」


「ようやく落ち着いてきたかしら」


 どうやら効果は無かった様子です。

 と思ったらアイギスが話しかけてきた。


「あの、ゼフィルスさん、次は手を引いてもらってもいいですか? なんだか少し足場が怖くて」


「! おう、任せとけ!」


「ちょっと待ちなさいアイギス! それはいけないわ!」


「アイギス先輩、まだ見ぬ伝説の職業ジョブへ〈上級転職ランクアップ〉したいのならこれくらいの試練、1人で乗り越えられなくてはダメよ」


「そ、そうですね。気を引き締めます」


 なんと。アイギスにつり橋効果発生!? と思ったらラナとシエラにブロックされた。

 ああ、上級職の先輩としての言葉に真面目なアイギスがしゃきっとしてしまったじゃないか~。


「ん。ゼフィルス、寂しそう?」


「そ、そんなことはないぞ? よし、みんな行こうか!」


 うん。全然そんなことはない。

 カルアの気のせいだ。

 ということで俺たちは先に進むことにした。


 ここまでくれば2層の階層門は近い。


 遠目に見えるからな。


「あ! 2階層への階層門見つけたわよ!」


「! ラナ、危ない、そこ罠ある」


「わっぷ!?」


「ありゃ~」


「もう、何これ! ビックリしたじゃない!」


 階層門を見つけてはしゃいだラナが珍しく罠の直撃を受けていた。

 火山の罠といえば毒や火柱が定番。

 今回の罠は毒のほうだった。とはいえ、ラナには高い耐性があるのでまったく意に介した様子は無かったが。


「ん。ところどころ天然の罠がある。気をつけて」


「火柱が噴出する場所もたまにあるが、そっちは見て分かる通り赤い穴が空いてる。地面をよく見て警戒して歩こう」


 このダンジョンには罠が仕掛けられている。いや仕掛けられているというより、なんか自然と噴出した的な罠が多いので発見が割と簡単だ。穴空いてるし。

 少なくともよく地面を見ておけばブービートラップのように隠されている仕掛けよりかは見つけやすい。ただ近くを通るとなぜか狙い違わず噴出するので注意だ。

 近寄らないのがベスト。


 ラナに注意を促しつつそのまま進み、俺たちは2層の階層門に到着した。


「ん。異常無し」


「2層も、1層と同じ感じかしら?」


 カルアが先頭で入り、まず状況を把握してから俺たちも続けて入る。

 シエラの言うとおり2層も1層と大きな違いは無い。ただレアイベントがあるだけだ。

 さて、その場所へ誘導しよう。


「お! なんかあっちから良い感じの反応がある気がする!」


「ん? ん? ん?」


 俺が指を向けるとカルアが隣にやってくるが、頭には?しか浮かべていなかった。


「ゼフィルスの反応なら間違いないわね! また隠し扉かしら~?」


 すでに味を占めまくっているラナが宝箱に思いを馳せていた。まだ早いぞラナ!?


 ということで満場一致で出発。

 アイギスだけは、「え? え? え? ゼフィルスさんの勘で行く場所を決めるのですか?」と戸惑っていたようだが、な~に問題ない。アイギスもすぐに馴染むさ!

 シエラがアイギスの横に立って何かを助言していたが俺にはよく聞き取れなかった。


 ということで俺たちがやって来たのはとある岩肌から溶岩が流れ出て小さな滝のようになっている場所だった。


「わぁ、良いところ~。これはこれで壮観ね。ちょっと怖いけど」


「ん。でも、なんとなく、すごい」


「見ごたえがある場所ね」


「ゼフィルスさん、どうしたのでしょう? ここに何があるのですか?」


 その迫力ある場所を見てラナ、カルア、シエラが感想を言い、アイギスが俺に問いかけてくる。


「ああ、あの溶岩から反応がある気がするんだ。よっと」


 溶岩の滝のせいで見えないが、実はここに隠し通路の入口である洞窟があるんだ。

 しかしこのままだと溶岩のせいで洞窟に入れないので〈鎮火の秘薬〉を溶岩の噴出している部分に投げる。溶岩を塞き止めるためだ。

 見事溶岩が出ていた岩肌に命中すると溶岩の滝のような流れが二つに割れて固まっていき、なんと中央に洞窟が現れる。隠し通路のお披露目だ。


「これは!?」


「洞窟!」


「まさか、隠し通路!?」


 アイギスがまず驚きの声を上げカルア、ラナもそれに続くように驚きの声を上げた。隠し通路自体は上級ダンジョンにいくつもあるからな。ラナは知っていたらしい。

 俺はそのリアクションに満足しながらさらに秘薬の小瓶を投げる。


「んで地面の溶岩も固まらせれば、ほら道が出来たぞ」


「…………」


 シエラからなぜかジト目を感じる気がする! やったぜ!


「よし! 反応はあの洞窟からだ! みんな俺についてこい!」


 テンション高らかに固まった溶岩の上を歩いて進む。ここまで来たらもうすぐだ! 俺が洞窟の中に入ると続けて4人も洞窟に入ってきた。


「中は、溶岩が入っていないみたいね」


「溶岩があっても固まらせれば問題ないんだぜ」


 洞窟の中は一本道だった。

 俺は〈ドローンランタン〉を点けてからみんなを促し先に進む。


「反応はこの道の先みたいだな。行こうか!」


「こんなところに、道?」


 シエラがしきりに洞窟内を観察しては首を捻っている様子が微笑ましい。

 大丈夫だ。ここには何も出ないから。

 そうしてしばらく進むと、洞窟から抜け、開けたエリアへと出た。かなり広い空間。ここは窪地となっていて、溶岩が流れてこず、絶壁に囲まれた地形をしている。


「ん。秘密基地みたい」


「ああ、そんな感じだな。ちょっと広すぎるが」


「カルア、秘密基地って何?」


 秘密基地が分からないお姫様組が首をかしげていたがそれは置いておき、やっと目的地に到着だ。


「あっちからだな」


「ん! 強い反応ある」


「え? 敵なの?」


 ここでようやくカルアの『直感』にもビビッと来たようだ。俺にも来た。

 一瞬で臨戦態勢をとるメンバーが優秀。

 広場の奥にはなんと人工物っぽい鉄の柵があり、その前には門番らしきトカゲ顔で二足歩行のモンスターが2体立っていたからだ。


 こいつらは1体がここのエリアボス並の力を持つボスモンスター。

 希少ボスに分類されるボス、

 その名も〈怪異兵隊リザードマン〉だ。分類は〈怪獣〉になる。


 しかも彼らが守っている鉄の柵の向こうにはさらに3体の〈怪異兵隊リザードマン〉がいることを俺は知っている。

 合計5体だ。


 エリアボス並のモンスターが5体いるのだ。

 もうとんでもない。カルアが一瞬で警戒態勢に入ったのも分かる。


「あいつらはここを守る兵隊さんのようだな」


「戦うの?」


「いや……多分今戦っても倒せないな」


 俺はさも『直感』がそう言っていますと言わんばかりに話す。

 こいつらと戦う場合5体をいっぺんに相手にしなくてはならない。

 今の戦力じゃどう頑張っても倒すのは難しいだろう。

 ボス5体との戦闘だ。これが推奨LV60と言われていた所以である。


「どうするのゼフィルス?」


「俺の『直感』はあの鉄格子の奥にお宝があると言ってる気がするんだ。なんとしてもお宝はゲットしたい」


 だってこれ〈竜の宝物庫〉ってレアイベントだからね。あの鉄格子の向こうはね、宝物庫なんだよ。

 ゲームではあの門番を倒すと〈竜の宝物庫〉の中身はプレイヤーがゲットできる流れだった。

 つまりお宝部屋だ。

 門番を打ち破り、お宝をゲットせよ、というイベントだな。


「あの門番をなんとかしてお宝をゲットするぞ!」


 俺の言葉にラナとカルアの目が宝箱になった。




 さて、ミッションだ。ミッションが始まった。

 これは中々高度なミッションです。


 相手はエリアボス級が2体、奥には3体。戦うことになったら全員が襲ってくるこのレアイベントの推奨LVは60だ。まず勝てません。

 最初2体と思わせておいて3体の増援が来るってむっちゃ初見殺しだからな!

 しかし宝箱は欲しい。


 そこで〈ダン活〉プレイヤーたちは効率良く、門番と戦わずに宝物庫の中身だけをゲットする画期的な方法を編み出していた。それの方法が、


「こんにちは門番さん、お仕事お疲れ様!」


「誰だ貴様!」


 ――交渉だ。

 びっくりだろ?

 実はこの門番、会話が出来ます。中々渋い声だった。

〈ダン活〉の世界ではたまに言葉を発するモンスターがいたが、こういうレアイベントだとたまに会話できるモンスターと遭遇する場合があるんだ。イベント・・・・と名付けられていた所以である。


 ゲームの時は選択肢で門番の質問に答える、という仕様だった。

 そして正解の選択肢を選び続けると、――ふはは!


 しかし交渉はとても危険な役目。ここは俺に任せておけとメンバーに伝えてシエラたちには近くの岩陰にそっと隠れていてもらい、俺だけが門番の前に来たわけだ。1人で来たのは他の人が喋ったとき変に言葉を拾われてご破算になると困る。という側面もある。


 というわけで俺はゲーム知識を披露しながら質問に答えていくのだ。


 さて、交渉開始!


「俺はゼフィルスだ! そっちこそ誰だ!」


「我らは上級下位ダンジョンが一つ〈火山の入口ダンジョン〉に眠る、〈竜の宝物庫〉を守る番人也! 貴様はここに何しに来た、何が目的だ!」


「我らは真偽を見破るまなこを持つ。嘘を吐けばその場で屠ってくれると知れ!」


「はい! 俺は〈金箱〉が大好きだ! ここに来た目的は、宝物庫に保管されているお宝を全部頂くためだ!」


 俺の答えにピキンっと番人の目が光る。そして、


「「排除はいじょ!!」」


「うっひょあーー!?」


 交渉はする前に決裂。

 俺は追いかけられてしまった。




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