第877話 ユーリ先輩の協力願い。うちのギルドも2枚出す
今日は金曜日の選択授業。
この日は上級ダンジョン攻略して初めての、俺が講師としての授業がある日だ。またまた質問攻めが多くて、いっぱい自慢しちゃったぜ。
「上級ダンジョンに進出するにはどうすれば良いでしょうか!?」
「ゼフィルス先生、何かコツとか教えてください!」
「上級職ってどうやって成長させればいいのでしょう!?」
「まあまあ待て待てみんな、一つずつ答えていくからな。まずは上級ダンジョンに進出する方法だが、まずは上級装備を揃えるところからだな――」
「やっぱり上級装備は必須!?」
「今〈ワッペンシールステッカー〉で上級装備の5点セットを売り出してるんだって!」
「か、かかか買いに行かなくちゃ!?」
上級ダンジョン進出ブームが学園に到来する中で、自分も上級ダンジョンに進出するんだと、これまで以上の目標を掲げて学ぶ学生が多く出てきていて俺はとても嬉しくなった。これもいっぱい教えてしまった。ついでにマリー先輩の店の宣伝もしておいた。頑張ってほしいな!
放課後も質問やら俺と話がしたいという学生が授業の後も押し寄せて大変だったぜ。
今日は帰れないのではなかろうかとヒヤヒヤした。
とはいえ、その日の放課後はちょっと人と会う約束があったのでセレスタンがしっかりサポートしてくれて帰してくれたけどな。さすがはセレスタンだぜ。
「じゃあ悪いがみんな、今日はここまでだ。さようなら~」
「「「「「さようならゼフィルス先生!」」」」」
◇
講師の授業が終わってからも2時間くらい質問攻めにあってしまったがなんとかさよならして、俺は再び学園長室へと来ていた。
「やあ、ゼフィルス君。待っていたよ」
「ユーリ先輩、なんだか久しぶりな気がしますね」
そこで待っていたのはラナの兄、ユーリ先輩だった。
実は今日この学園長室に来たのはユーリ先輩が俺に会いたがっているからだと聞いたからなんだ。学園長はどうやら急な仕事で席を外したらしい。お忙しい方だからな。
上級ダンジョンの一つ〈嵐ダン〉を〈エデン〉が攻略して5日。
ついに〈キングアブソリュート〉のギルドマスターが接触してきたということでちょっとドキドキしている。
なんの話かな?
「まずはお祝いの言葉を贈らせてほしい。上級ダンジョンの攻略、おめでとうゼフィルス君」
「ありがとうございますユーリ先輩!」
お祝いは素直に受け取るに限る。
「でもこんなに早く攻略されるとは思ってもみなかったよ」
「頑張りましたからね。ラナの活躍がとても大きかったんですよ?」
「それは誇らしいよ。やはりラナは〈エデン〉にいることが正解みたいだ。これからもラナをよろしく頼むよ」
「もちろんです。任せてください」
ラナをよろしく頼むのくだりのユーリ先輩の目はとても迫力があった。
だが、俺はそれにしっかり頷いて返す。任せてくれ。ラナは誰にもやらん!
その答えに納得したのかユーリ先輩の表情が自然体に戻った。
「それを聞いて安心したよ。ああっといけない。今日はその話が本題ではないんだった」
ユーリ先輩が苦笑する。
どうやらラナのことが心配すぎて話が脱線したようだ。
脱線ついでに俺も聞きたかったことを聞いてみることにする。
「ユーリ先輩、〈霧ダン〉の調子はどうですか? 確か42層まで進めることが出来たと聞いていますが?」
〈霧ダン〉の42層といえば、以前聞いたが王家が所有する〈霧ダン〉の地図の最奥地との話だ。当時その霧の深さに攻略を断念し、42層までの地図しか王家は持っていないと聞いたことがあった。
ユーリ先輩は、この世界で公式上まだ誰も為しえたことの無い未知の階層へと突入しつつあるのだ。
「それについては是非ゼフィルス君にお礼を言いたいと思っていたんだ。君が持って来てくれた〈霧払い玉〉の効果は素晴らしい。42層の深い霧も完全に取り払われて僕たちの行動を縛るものはなくなった。まだ次の階層門は見つかっていないが、階層更新は時間の問題だと思う」
「それは良かったです」
ユーリ先輩の表情は非常に和やかだった。希望に満ち次の展望を考えられる、余裕に満ちた表情だ。上手くいっているようで安心したよ。
元々ユーリ先輩は〈霧ダン〉を攻略するためギルドを結成した。
一応上級ダンジョンの一つ〈嵐ダン〉の攻略は終わってはいるものの、目標を断念したままでは王家の名折れ。〈霧ダン〉だけはなんとしても攻略したいらしく、攻略の目処が立ったことを素直に喜んでいるようだ。
「ゼフィルス君。ことが落ち着いた暁には是非お礼をさせてほしい。なんでもゼフィルス君にはとても欲しいものがあるそうじゃないか。王家の名にかけてそれを用意すると誓うよ」
「おお! ありがとうございます!」
はて? 俺が欲しいもの? いっぱいあるんだが、どれのことだろう?
しかしそんなことはおくびにも出さず、俺はしっかりユーリ先輩と握手を交したのだった。
それからいくつか世間話に興じ、ユーリ先輩はどうやら〈エデン〉が〈嵐ダン〉を攻略したことについて何も含むことは無く、純粋にお祝いしてくれているようだった。
よかったぜ。今はまだギルドメンバーを上級職にしたり、レベル上げをしたりと準備中だが、終わり次第一気に〈キングアブソリュート〉を抜き去っていく所存だったが、それも問題無さそうだ。(多分)
そんなこんなで話が一段落するとユーリ先輩は改めて言う。
「さて、そろそろ本題に入ろうか」
あ、そういえば本題がまだだったっけ。うっかり忘れていたぜ。
そんなことはもちろん表情に出さず、ユーリ先輩の次の言葉を待った。
その本題とは?
「〈青空と女神〉についてだけど〈エデン〉が〈上級転職チケット〉を援助するという話を聞いてね。僕たち〈キングアブソリュート〉もそれに協力させてほしいんだ」
それは〈青空と女神〉の援助、その協力の申し出だった。
そういえばリーナが〈青空と女神〉に援助をするという話を広める的なことを言っていたのを思い出す。
「ユーリ先輩は〈上級転職チケット〉を用意出来るのですか?」
「うん。これでも上級ダンジョンを攻略している最中だからね。〈キングアブソリュート〉には2枚、〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を援助する用意があるよ」
おお、まさか2枚も用意しているとは! 生産職へ〈上級転職チケット〉を渡す試みは〈エデン〉以外、どこもしてこなかった。これはすごいことだぞ!
学園が変わる、第一歩ではないだろうか!?
一度落ち着いて考えてみよう。
〈エデン〉は【魔道具師】の上級職が欲しい。
〈青空と女神〉を助けるのは、言ってはなんだがそのついでだ。
専属が付いてくれるのはありがたいことだし、〈エデン〉も〈青空と女神〉もハッピーになれる。しかし問題が無いわけでは無い。
〈エデン〉はまだ〈上級転職チケット〉に余裕があるわけでも無いので、供与出来るのは喫緊では1枚だ。そして〈エデン〉に専属で色々作ってもらおうと画策している。
ということはだ、俺が目標にしている学園全体の向上にはあまり影響しないということでもある。2枚目以降の〈上級転職チケット〉はおいおい、〈エデン〉メンバー全員が上級職になってからを予定していた。
だが、それだと遅いのでは? 〈青空と女神〉の願いを叶えきれないのではないかとはちょっと考えていた。
そこに2枚の用意がある〈キングアブソリュート〉が援助してくれるのは〈青空と女神〉にとって渡りに船だろう。学園としても大きなプラスになるはずだ。
「〈青空と女神〉のことについては聞いているよ。学園では学生の自主性を重んじているからね、軽はずみな援助は出来ない。しかし僕たちのギルドは〈青空と女神〉には大変お世話になった。〈キングアブソリュート〉であれば彼らが困っているのなら助ける行動をとってもいい」
それは昔どこかで聞いたな。
学園はただ困っているから助ける、ということはしない。学生の自主性をまず鑑みて、どうしても手助けが必要だというときは学園が入り、助け解決するのだ。
ギルドが手を広げ、広げすぎたが故に困っているので学園に助けてというのは違う。
まずはギルドが解決すべく行動すること。行動してどうしてもダメだった場合なら学園はちゃんと助けてくれる、ということだな。行動もしないで学園に助けを願うだけではそれは通らない。
〈青空と女神〉は困ったのでまず〈エデン〉に援助を頼み、そして解決した。
そこに〈キングアブソリュート〉も協力したいという話だ。
〈エデン〉としては、別に〈青空と女神〉という
ただ【魔道具師】さんには〈エデン〉の専属になってもらいたいと思っている。
そして〈キングアブソリュート〉が援助に協力するとなるとユーリ先輩の株も上がるだろうな。
生産職が充実することで学園全体のステップアップに繋がり、学生が上級ダンジョンに進む手助けになる。より学生の成長に繋がるだろう。そこにユーリ先輩に加わってもらうのは良い手だ。ユーリ先輩の評価が上がるのはこの国の安定にも繋がる。
考えてみれば〈キングアブソリュート〉に協力してもらうのは学園にとって、この国にとって良い事尽くめな気がしてきた。
「どうだろうかゼフィルス君」
「もちろん俺は構いません。持ち帰ってギルドで相談する必要はあるでしょうが、多分通ると思います」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
どうやらユーリ先輩は筋を通すために、〈青空と女神〉が協力願いをした〈エデン〉のギルドマスターにこうして話をしに来たようだ。確かに〈青空と女神〉が困っている、〈エデン〉の協力で解決した、そこに割り込むのは道理に反するからな。
さすがはユーリ先輩だ。分かってるぜ。
それからいくつか話を詰め、〈キングアブソリュート〉は少し優先的に自分たちにも上級装備やアイテムを作ってほしいことを条件に、〈青空と女神〉へ〈上級転職チケット〉を援助することを表明。
後は〈青空と女神〉にこの話を持っていくだけとなった。
なんだか話が大きくなっちゃった気がするけど、きっと大丈夫だろう。
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