第876話 マリー先輩の店へ。人気過ぎて参っちゃうぜ!





〈エデン〉が上級ダンジョンの攻略を果たした話は瞬く間に広がり、あれからもアポイントを取りたいという話や、上級ボスの素材などを売ってほしいという要望が多数寄せられた。

 Bランクギルドからは毎日のように「うちと会ってくれたらこんな報酬を出すぞ!」と言ってレアアイテムのレートがどんどんつりあがっていって、ちょっと楽しかった。全部断ったけど。


 いや、反響がすごい。

 影響力も凄まじい。


 月曜日はまだ情報が出回り始めた段階でそうでも無かったんだが、日が経つにつれてだんだんと俺たち〈エデン〉が廊下を歩くだけで1年生たちが壁に寄って道を空け、俺たちに羨望の眼差しを向けるようになった。

 参っちゃうぜ。


 そこまでしなくていいのではとも思うかもしれないが、この世界ではこれが普通っぽい。なぜか俺たちに近づこうとする人は誰かがどこかへ連れて行ってしまうのだ。

 それがまるで示し合わせたかのように各地で起こるからな。不思議だなぁ。


 もう完全に学園の噂は〈エデン〉で持ちきり。

 至る所で俺たちの話が聞こえるようになった。


「いや~。参っちゃうよな~」


「全然参っているようには見えへんけどな~」


 そんな風に俺のコメントに返してくれるのはもちろんマリー先輩だ。

 俺の表情と言葉がまったくマッチしていないとケラケラ笑いながら指摘してくる。


「しっかし、ほんまに上級ボスを倒したんやな~。うちらの装備がここまで出来るんやって証明されたようでうちも嬉しいわ~」


「おう。マリー先輩たちが作ってくれた装備、無茶苦茶役に立ったぜ!」


「なんや、じ~んと来たわ。ん~生産者冥利に尽きるな~」


 上級ダンジョンの攻略に大きく貢献したマリー先輩が感慨に浸っていた。じんわりきている様子。これがエモいというやつかな?


 マリー先輩は俺の要望に精一杯応えて最高の装備を作ってくれた。

 俺たちの装備に全身金属装備なんて無い。防具には布系が多く入っている。

 つまりは俺たちの防具全てにマリー先輩の手が掛かっているということだ。

 そのパーティが公式記録上3番目となる上級ダンジョンの攻略を果たした。

 マリー先輩の感慨も察するにあまりあるぜ。


 ジーンときているマリー先輩が帰ってくるのを待っていると、奥から眠たげな先輩もとい、メイリー先輩がやってきた。


「おはにょ~。これ、上級の〈魔能玉〉、出来てるよ~」


「おお! 全然おはようじゃないけどメイリー先輩、ありがとう~」


 メイリー先輩から渡されたのは二つの〈魔能玉〉。

 これは上級ボス〈暴風爬怪獣・クジャ〉からドロップした〈銀箱〉産の杖を『能玉化』してもらったものだ。

〈能玉〉をセットするための『空きスロット』の付いた装備は、ドロップ率が低いこともあって『能玉化』のスキルに下級と上級の区別がなかったりする。つまり下級職であるメイリー先輩の『能玉化』だけで上級産の装備も〈能玉〉に出来てしまうのだ。上級『能玉化』のスキルは存在しないという意味でもある。


「これ鑑定書~」


「おう、しっかり受け取った」


 俺は鑑定書を受け取り、〈魔能玉〉の性能を確認する。

 ちなみに鑑定書とはその名の通り、鑑定の結果が書かれた紙だ。お金を支払って〈能玉〉を作ってもらうときはこれが手渡されるのが普通らしい。確かに〈能玉〉って見た目みんな変わらないからな。


「あ~、片方は外れだが、もう片方はいいな! これはハンナの戦闘力が上がるぜ」


「ハンナはんの戦闘力上げてどないすんのというツッコミは、してもええのかなぁ」


 結果、片方はいまいちだったが、もう片方の〈魔能玉〉は中々の性能だった。

 これはハンナ行きだな!


「んじゃ、マリー、店番よろしくね」


「あいよ~メイリーもおやすみ」


「おやすみ~」


「まだ19時なんだよな~」


 メイリー先輩は店の奥へと消え、マリー先輩は無事感慨の海から戻ってきた。

 そして、山のように積まれた素材へと向きなおる。その目はなぜか半目だった。どうしたのだろう?


「さて、んじゃ、これもやってまうかな~」


「頼むぜマリー先輩」


「いや、これまでの経験上兄さんたちが持ってくるボス素材がおかしいことは分かってたんやけど、これが一番おかしいで!? 上級でもボスのドロップは普通五つやろ! これどう見ても百個以上あるで! なんでこんなにあるんや!!」


「ふっふっふ、いっぱい狩ったからさ」


 良いツッコミだ。

 さすがはマリー先輩だぜ。


 とはいえこれでも減らしたんだぞ? アルルにだって渡さなきゃいけないし、ガント先輩にも納品しなくちゃいけない。

 その余り分がこれだな。とはいえカルアがラストアタックすると素材ドロップが2倍になる上級短剣〈コウセイ〉があったので、それでも大量になってしまっただけだ。


 しかし、ドロップしたのはもちろん素材だけではない。

 マリー先輩が欲しがるだろう服飾師系のレシピまで数枚ドロップしているのだ。


「しかもレシピまであるし……。聞いてもええか兄さん? この〈勇敢愛護シリーズ全集〉ってもしかしなくても上級ダンジョン最奥のボスからドロップしたんとちゃうか? しかも〈金箱〉で」


「おお! さすがはマリー先輩だぜ。大当たりだ! それは〈金箱〉からドロップした装備レシピだぜ! 是非ルル用に作ってくれ!」


「うちの肝はもう取れるところ無いで!? いったい何がどうなったら王族すら攻略するだけで手一杯なボスをたくさん狩ってくることになるんや!? 〈金箱〉の装備レシピ全集を手に入れて戻ってくるんや!? 言ってみぃ!?」


「マリー先輩たちの防具がとても強かったのさ。〈キングアブソリュート〉は上級生産職を味方に付けていないのが最大の欠点だ。比べて〈エデン〉には優秀な上級生産職がいる。こうなるのも必然だ」


「それを言われるとうちも照れるしかなくなるけど!」


 おお! マリー先輩がぷんぷんしながら照れていらっしゃる!

 今までマリー先輩の腕を褒めたことは多いがこれほど反応してくれることは無かった。振るわれるツインテールが可愛いらしい。

 レアシーンだ! 誰かスクショを撮ってくれ!


「まあ、ええわええわ。なんやこれ以上つついたら恥ずか死ぬ気がするわ! さっさと加工してしまうで!」


「おう! ちまたでは〈キングアブソリュート〉の上級ダンジョン攻略に続き、俺たちも上級ダンジョンを攻略した事で上級ダンジョン進出の機運が高まってる。これは上級装備をもっと売る大チャンスだぜマリー先輩!」


「せやな! 上級装備と言ったらギルド〈ワッペンシールステッカー〉。そう言われ始めんのも時間の問題かもなぁ~」


〈キングアブソリュート〉が上級ダンジョンを攻略したと発表したのが学園祭。その同月、2週間後に俺たち〈エデン〉が上級ダンジョンを攻略した事で、現在Bランクギルドたちがこぞって上級ダンジョンに進出できないかと燃え上がっているらしい。

 これは〈ギルバドヨッシャー〉で聞いたことだけどな。


「この好機、みすみす逃すうちやないで! 兄さんもここまでフォローしてくれてるしな。こっちは任せとき」


「俺はしばらくボス狩りしてるから、頼むな~」


「まだボス狩りする気かいな!? 兄さんもがんばりや~!」


 マリー先輩はつい先日この商機を逃さないため量産出来る上級装備〈風速軽装モデル〉を大々的に売り出した。おかげで〈ワッペンシールステッカー〉は連日大賑わいである。


 この上級装備はマリー先輩が持ついくつかの装備のレシピを組み合わせ、独自にコーディネートした装備マイセットだ。

 本来ならバラの装備の組み合わせで調和の取れてない見た目も〈ワッペンシールステッカー〉の〈デザインペイント変更〉があればあら不思議、コーディネート抜群でまるでシリーズ装備と言われても納得するようなデザインへと生まれ変わっている。


 スキルはまあまあのそこそこだが、その防御力の数値は〈木箱〉級とはいえさすがは上級装備。作製者が上級職のマリー先輩ということもありかなりの売れ行きなんだとか。


 欠点があるとすればまだ近接アタッカー用しかないので、せめてあと斥候と魔法使い用のレシピは欲しいとのこと。

 そっちは今回持ち込んだレシピを切っ掛けに何か閃いた様子だ。


〈青空と女神〉が持ち込んだ上級レシピは中級上位ダンジョンのレアボスや徘徊型でゲットしたものなので〈木箱〉産はほとんど皆無。

 この上級装備モデルはどこの誰も持っていないマリー先輩独自開発品だ。

 価格も上級品にしては抑えられるためバカ売れも納得だな。


〈クジャ〉の素材はルルの装備シリーズである〈勇敢愛護シリーズ〉に使ってもらう予定だ。それが終わったら今の所好きに使って良し。


 今後も周回する予定なのでマリー先輩の腕もどんどん上がっていくだろう!



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