第875話 〈クジャ〉周回宣言!〈金箱〉を集めまくるぞ!




 楽しく過ごした〈ギルバドヨッシャー〉のギルドをあとにしたのはもう夜も深くなりつつある時間だった。というか消灯時間の30分前だった。

 いやあ、居心地良すぎてつい長く居すぎてしまったぜ。危ない危ない。急いで帰らなければ。


 ちなみに〈ギルバドヨッシャー〉のメンバーはそのままギルドに残るそうだ。

 やっぱり寝泊り可だったか。屋敷だったしな。今日は夜通しギルドメンバーであれこれ語り合うんだと言っていたよ。修学旅行かな? 羨ましいんだけど! 俺もAランクになったら寝泊り可能な部屋を作ろうかな。きっと楽しいぞ~。


 そんなことを考えながら無事消灯時間前に寮へ帰還し、明日も授業があるので風呂に入って寝た。


 ◇


 翌日の火曜日放課後。


「待たせたな! これより放課後は周回をするぞ!」


 俺は〈上下ダン〉でギルドメンバーたちに宣言していた。


「いいわね! 〈金箱〉が私たちを待ってるわ!」


「ん、たくさん〈金箱〉稼ぐ」


「頑張りましょうねシエラ殿」


「そうね。もうだいぶ慣れてきたかもしれないわ。私たちも頑張りましょうエステル」


 上級最奥ボスの周回宣言だ。ラナとカルアはお宝に目を輝かせ、エステルは両手を合わせてシエラと応援し合う。

 シエラはなぜか非常識みたいな視線で俺を見ていた気がするが、きっと気のせいだろう。上級ダンジョンの周回なんて普通のことだ! 〈ダン活〉ではな。


「そういえばゼフィルス、昨日の〈ギルバドヨッシャー〉の交流はどんなことを話したの? 私は例の件でギルドメンバーの質問に答えていたから行けなかったじゃない? 教えてもらえるかしら?」


「え? いや、別に変わったことは無かったぞ? ただの技術交流だった。向こうの戦術に意見をくれって言われたり、サブマスターとして勧誘されて断ったり。ちょっとギルドバトルを模した遊戯版で遊んだり。うん、普通だった」


 なぜか詳しく話すのを躊躇う気持ちが芽生えたので無難に返した。無難だったと思う。いや、俺はやましいことはしていないんだけどな? 〈エデン〉の情報とかまったく喋っていないし。あれだ、将棋の勉強会みたいなもんだって。普通普通。


 昨日俺は〈ギルバドヨッシャー〉のギルドに1人で行った。これはシエラたちが忙しかったからだな。例の〈青空と女神〉に〈上級転職チケット〉を供与する件についてはメンバーの質問が相次ぎ、シエラは〈学生手帳スマホ〉のメッセージ機能でそれに答えていて手が離せなかった。故に一緒に来られなかったのだ。


「本当に?」


「もちろんだ」


「やっぱり私も付いていけば良かったかしら?」


 なぜか信用されてない気がする……気のせいであってほしい!


「そ、それでシエラの方はどうだったんだ?」


「……そうね。概ね好意的な意見が返ってきたわ」


 シエラが手を口に当てて考える仕草をしながら話してくれる。

〈青空と女神〉への〈上級転職チケット〉の供与の件だ。

 昨日メッセージでギルドメンバーに一斉送信した結果、概ね好意的な意見が返ってきた。


〈エデン〉のメンバーは生産職からのサポートやフォローが上級攻略にとても大事だと分かってる。

 改めて全員で集まって方針を決定する必要はあるだろうが、〈青空と女神〉への供与はほぼ決定したと言って良いだろう。これもシエラのおかげだ。


 一応シエラから直接話した方が良いと助言をいただき、全員の日程を調整して土曜日に全員集まってブリーフィングをすることに決まったようだ。


「平日の放課後はみんな何かしら予定があるみたいだから、土曜日集合ということになったわ」


「サンキューシエラ。助かる」


「2人とも、話はその辺で終わりよ! 今日はダンジョンの日なんだから忘れたらダメよ?」


「そうだったな、悪いラナ。気を取り直してっと。――みんな、ダンジョンに挑むぞ!」


「「「「おおー!」」」」


 シエラとの打ち合わせも大事だが、今はダンジョンの番だ。

 俺は〈転移水晶〉を取りだしてからみんなに言う。


「んじゃ行くぜ――〈転移水晶〉発動!」


 俺が〈転移水晶〉を使うと頭上の転移リングが光を放ち、瞬間、俺たちは〈嵐ダン〉最下層の救済場所セーフティエリアへと転移していたのだった。


 ここで上級ダンジョン以上でしか出来ない裏技をご紹介しよう。

 5階層毎に設置されているショートカット転移陣はダンジョンの最奥には存在しない。そのため地上から最奥には普通転移できず、〈嵐ダン〉であれば55層が最奥に近い最寄もよりのショートカット転移陣となる。


 しかし、地上から最奥に直接転移する裏技が存在する。ここで登場するのが〈転移水晶〉だ。これは帰還した場所に再び舞い戻ることも出来るアイテムでもある。最奥の救済場所セーフティエリアで使用していれば、次使った時は再び最奥に戻って来れるという寸法よ。


 もう最奥の転移陣なんて必要無い。これからは毎度最奥へ直通だ!

 放課後でも毎日上級ダンジョンボスへ挑戦できるんだぜ!


「当面は上級最奥ボスを周回してアイテム、レシピ、装備を整えつつ〈上級転職チケット〉を狙う! みんな行くぞ!」


「「「「おおー!」」」」


 ◇


 というわけで今週の放課後は〈クジャ〉のボス周回に費やした。

 火曜日から木曜日まででなんと29回も狩った。


 最初の方は三段あるHPバーに時間を取られ、1回狩るのに20分近く掛かっていたが、それも徐々に慣れていくに従い短くなり、最終日は15分に1回狩れるくらいにタイムが縮まった。これはLVが全員25まで育ったことも大きいだろう。〈嵐ダン〉では最奥ボスでLV25、レアボスでLV26までレベルを上げられる。これで1陣パーティは一先ず上限までLVを上げた形だな。


 そして報酬だが、やっぱりすごい。

 上級ダンジョンボスは〈金箱〉の出る確率が中級よりだいぶ高い。

 さらには俺たちには〈幸猫様〉と〈仔猫様〉の『幸運』に加え、〈金猫きんねこ小判こばん〉がある。


 29周のうち、ドロップした〈金箱〉の数は、なんと9個。このうち2個ドロが1回あった。ありがたやありがたや。

 もちろんお供え物は奮発させてもらいましたとも!


 ちなみに〈上級転職チケット〉は1枚入っていた。

 ふっふっふ、順調だ。とても順調だ。


 内3個はレシピが入っていたので生産組に流すことにした。全集ではなかったのが残念。

 さらに上級から手に入る〈空間収納鞄アイテムバッグ(容量:特大)〉や、〈優しい採集シリーズ〉の上級形態、〈優しい上級なた〉までゲット。

〈優しい上級鉈〉は『採取LV9』『伐採LV9』『量倍』『罠スルーLV5』の四つのスキルが付いた非常に優秀な採集アイテムだ。四つスキルが付いたアイテムなんて今まで〈幼若竜〉しか無かったからな。これがどれだけ優秀なアイテムか分かるだろう。


 残り三つは装備。しかも武器だった。


――――――――――

・武器 〈横破衝よこはしょう・シテン〉(片手メイス)

 〈攻撃力138〉

 『側面打撃LV10』『RES+40』

――――――――――


――――――――――

・武器 〈英勇剣えいゆうけん・ガイア〉(片手剣)

 〈攻撃力119〉

 『英勇覚醒LV10』

――――――――――


――――――――――

・武器 〈狩猟しゅりょう解放杖〉(片手杖)

 〈攻撃力11、魔法力131〉

 『首領しゅりょう解放LV5』

――――――――――


 まず〈横破衝よこはしょう・シテン〉さんはシエラ行き。

 え? なんでさん付けかって? ゲーム〈ダン活〉ではそう呼ばれていたからだ。

 なんか上級のメイス系って人の名前っぽいものが多いんだよ。


 しかもこれがめっちゃ強い。

 攻撃力もかなり高いことに加え、側面からの攻撃の場合ダメージが4割増しになるという破格のスキル『側面打撃LV10』を持っている。

 これ、全てのスキルに適応されるのでアタッカーにはとても重宝するのだ。


 しかもアタッカーだけではなくRESが+40もあるためヒーラーにも持たせられる。ゲーム〈ダン活〉時代はそこそこ人気のあった武器だ。

 問題は、〈エデン〉で片手メイスを使っているのはシエラだけってところだな。

 とはいえシエラにとっては『側面打撃LV10』も『RES+40』も嬉しいだろう。

 というわけでシエラの装備は更新することになったのだった。


 続いて〈英勇剣えいゆうけん・ガイア〉。

 マジか! これは大当たりだぜ!

 攻撃力こそ若干低めだが、スキルの『英勇覚醒』がとんでもなく強い。HPが5割を下回っていると攻撃力から素早さまで五つのステータスが1.5倍になるアクティブスキルだ。制限時間は3分、戦闘中1回しか使えないなど、俺の『勇気ブレイブハート』と同じようなスキルだ。それが武器で、誰でも使えてしまうと言えばこの武器がどれほどやべぇ装備か分かるだろう。


 正直〈ガラティン〉を装備していなかったら俺が装備したいくらいだったが、魔法力が無いのが難点。ということでこれはルル行きになった。

 5割を下回るとパワーアップならルルの方が相性が良い。


 最後は〈狩猟しゅりょう解放杖〉。

 こいつはとんでもないレア武器だぜ。そして俺が欲しかった一つでもある。

 中級上位チュウジョウのレアボスからでも極低確率でゲット出来るのだが、結局ドロップしなかったからな。今回来てくれて超ラッキーだった。

 これについてはまた後日語らせてくれ。

 直に出番が来るだろう。絶対だ。ふはは!



 ギルドハウスに帰還した俺は〈シテン〉と〈ガイア〉をそれぞれシエラとルルに渡した。


「シエラ、これからも頼むぜ」


「任せて」


「ルルはこれでバッタバッタと敵を倒してくれ!」


「ありがとうなのです! ルルとても大切にするのですよ! 敵さんもたくさん倒しちゃうのです~!」


 シエラは一言だったが簡潔にクールで、そして自信を持って答えてくれた。

 ルルはぴょんぴょん飛び跳ねながら喜んでくれた。可愛かった~。



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