第873話 突撃、〈ギルバドヨッシャー〉へのギルド訪問!




〈イブキ〉の依頼が無事完了した。

 というわけでこの勢いのまま〈青空と女神〉にも突撃しようとしたのだが、これは〈イブキ〉より簡単ではなく、ちゃんとメンバーに説明するようにとシエラからお達しがあったので延期。


 今メンバーに招集を掛けて調整しているという話なので、〈青空と女神〉に突撃するのは後日となった。


 となると、時間が少し余ってしまったな。


「ん~色々あったけど時間を見ればまだ5時か。意外にすんなり終わったからなぁ。少し時間があるし、ちょっと〈ギルバドヨッシャー〉のギルドに行ってみるのもいいかな?」


「よろしいのではないでしょうか? 先方もいつでも来てほしいと言っておられましたから。これから話をしてみますか?」


「頼むセレスタン」


 思い立ったがなんとやら。早速セレスタンに頼んでみる。


 向こうに来てもらうのではなくこちらから行くのは、ちょっと〈エデン〉がまだ落ち着いていないのと、俺がSランクギルドハウスを見たいからだな。

 Sランクギルドのギルドハウスって興味あったんだよなぁ~。


 セレスタンが〈学生手帳スマホ〉でメッセージを送ると1分も掛からず返事が送られてきた。「すぐに会いたい。いつでも来てくれ」との事だったので早速準備をして俺は1人、〈ギルバドヨッシャー〉のギルドハウスへと向かうことにした。




 ―――Sランクギルド〈ギルバドヨッシャー〉。

 ギルドバトル大好きじんたちが集う、ギルドバトルオタクたちのギルド、と呼ばれている。

 過去のギルドバトルの記録は一切の黒星無し。全てのギルドバトルに勝利し、Sランクの座についている、〈迷宮学園・本校〉が誇る最強ギルドの一角だ。


 ただ、あまりに強すぎるということで敬遠され、最近はランク戦を挑んでくるギルドも、〈決闘戦〉を受けてくれるギルドもおらず、オタクたちはとても寂しがっていると情報にある。

 あ、これはどうでも良かったか。


 それと、やはりギルドバトルオタクばかりということで全員がギルドバトルに精通し、ギルドバトルに特化した職業ジョブやステータスビルドをしているらしい。

 とはいえダンジョンの攻略階層は中級上位が七つ。現在は〈霧ダン〉の3層が最高階層とのことで、ダンジョンでもそれなりの活躍が出来ているらしい。


 事前情報としてはこんな感じだな。


 今回は〈エデン〉とギルドバトル交流を行ないたいということで、「是非ゼフィルス氏と話がしたい!」と熱く所望されてしまった。

 ふふふ、いやぁまいったなぁ(全然まいってない)。


 まあそのため、今回〈ギルバドヨッシャー〉に行くのは俺1人である。


「ここか?」


 場所は〈S等地〉の一角、〈ダンジョン公爵城〉のお膝元。

 ここにはSランクのギルドハウスが3棟佇み、他に〈救護委員会〉や〈秩序風紀委員会〉、新築の〈ハンター委員会〉の本部がある区画だ。

 また現在この場所は急ピッチで大きなギルドハウスが2棟建築されている最中だったりする。

 学園長が言っていた、Sランクギルドを二つ増やすという例のあれだな。


 実は俺もSランクギルドに来るのは初めてだ。

 前にここに来たのは〈救護委員会〉に用があっただけだしな。

 というわけで一つのSランクギルドハウスの前に立ち、改めて見る。


「おお~。これが生のSランクギルドハウスか~。でもほぼスタンダードの屋敷タイプだな」


 そこにあったのは巨大な屋敷。

 どこの億万長者のお屋敷だ? と思うほどの大きさ。庭が広いぜ。フットサルとかバスケとか庭でできそう。特に何も設置されていないが。

 知ってるか? ここって学生が好きに使えるギルドハウスの敷地なんだぜ?


 Sランクギルドまで行くと、もはやギルドハウスは屋敷になるのだ。

 冗談だ。本当は少し豪華なハウスが与えられるに留まる。このお屋敷は〈ギルバドヨッシャー〉が自費で建てたのだろう。


 なんといってもSランクギルドに与えられる中で一番大きいのが、その土地だ。

 何を建てても良い土地が与えられる。しかもかなり広い。


 屋敷を建てるも良し、デパートを建てるも良し、工場を作るのも良し。でも城を建てるのはダメ。目の前に〈ダンジョン公爵城〉があるからな。

 後、景観などリアルでは色々と気をつけないといけない部分があるらしいが、そこをわきまえれば要は好きに自分の建物を作れる権利と土地が与えられると考えて相違ない。


 Sランクギルドともなるとその資産はとんでもないものだ。

 だから学生は割と好きに建物を建てて勉強したり商売したりと学んだりするらしい。


 そして〈ギルバドヨッシャー〉が選んだのは屋敷タイプだった。見た目は初期のカタログにあるスタンダードタイプだな。

 うむ、引きこもりやオタクの感性が如実に表れている選択だ。


 さて、では早速入ってみよう。


「ごめんくださーい?」


「ははははーいっ」


 マジ玄関。

 しかもチャイムやドアノッカーが見当たらない徹底振りなので声を掛けてごめんください。

 まさかの来客拒否か?

 そんな心配をしていたが、ちゃんと返事が返ってきた。

 やけに「は」が多かったが、まずはホッと胸をなでおろす。


「こ、ここここんにち!」


「こんにち?」


「は!」


「おお~、こんにちは」


 やって来たのはオカッパヘアーで目元を隠している学生服姿の女子だった。

 制服の襟には緑と青の二重の刺繍が入っていたので元2年生の新学年生というのが分かる。

 むっちゃつっかえていたが、勢いだけは評価したい。

 早速自己紹介する。


「俺は〈エデン〉のギルドマスターゼフィルスだ。〈ギルバドヨッシャー〉から招待を受けたんだが」


「はい! 知って、いえ存じておりまする!」


「おりまする?」


「わひゃ! な、何でもないです! ここここちらへ付いて来てどうぞ!」


「おう。案内よろしく頼むな」


 女の子さんの自己紹介聞けず、残念。

 テンパっているオカッパ女子先輩に付いて行くと、屋敷の奥の奥、多分一番奥にある部屋に案内された。

 だがこれ迷うな。いや、もしかしたら敢えて迷う構造にしているのかもしれない。

 帰りも案内が必要かもしれないな。


「失礼します!」


「入りたまえ」


「お邪魔しまーす」


 オカッパ女子先輩がきびきびした声を上げると、中から厳格そうな声が聞こえてきたので入室する。


 中には20人くらい男子女子がいた。中々大きな部屋だな。

 全員が俺を注目している、その視線は様々だったが、みんな好意的、好奇な視線が多いようだ。

 そしてオカッパ先輩が奥に歩き出したので付いていく。


 奥には学園長室にもあった室長席があり、そこにはまたオカッパヘアーでめがねを掛けた男子が座っていた。あれがギルドマスターだな。その斜め後ろにノッポな四角い黒縁めがねを装備した男子が1人控えている。あれは……あれ? 誰だっけ? どこかで見かけた気はするんだが。


 近づくと室長席に座っていたギルドマスターが立ち上がり、声を掛けてきた。


「よく来てくれたゼフィルス氏! 噂はかねがね、後夜祭でちょっと話した以来だな。改めて自己紹介させてくれ、私が〈ギルバドヨッシャー〉のギルドマスター、名はインサーだ。こうして来てくれたこと、とても嬉しいぞ」


「ギルド〈エデン〉のギルドマスターゼフィルスだ。こちらこそゆっくり話せる機会を楽しみにしていたんだ」


「嬉しいことを言ってくれるな。――おおっとメイコ君、案内大儀であった。ゆっくり休んでくれ」


「はい! 勿体無いお言葉ですギルド長!」


 インサー先輩、中々にテンションが上がっている様子だな。あとオカッパ女子先輩の名前判明。メイコ先輩というらしい。いや新学年なのだから普通にメイコさんでいいか?

 メイコさんは休めと言われたのになぜかインサー先輩の斜め後ろの位置に立った。あ、そっち行くの?


「おっと、紹介がまだだったな。私の後ろにいるこの無愛想でノッポな男がサブマスターのオサムスだ」


 最初からインサー先輩の斜め後ろに控えていたのはどうやらサブマスターだったようだ。

 無愛想な男と言われて文句を言いたそうにインサー先輩を見つめていた。


「おいインサーちょっとは落ち着け、ちゃんと紹介しないか。まったく――サブマスターのオサムスだ。今日は楽しみにしていた。よろしくゼフィルス氏」


「よろしくオサムス先輩」


 どうやらオタクと言われているだけでギルドマスターやサブマスターは普通に話せるようだ。俺は少しホッとした。

 続いて代表してギルドマスターが話を進めだす。


「さて、挨拶はここまでだ。時間も有限だし早速本題に入ろう! ゼフィルス氏の噂はかねてより聞き及んでいる。そこで聞きたいのだが〈エデン〉の今までのギルドバトル、そしてクラス対抗戦での〈1組〉の活躍は全てゼフィルス氏が作戦を練ったと言うのは本当なのかね!?」


 インサー先輩の質問に周りが一斉に耳を澄ましたのを感じた。

 うむ、ここで一発かましておこう。


「そうだ。俺がほぼ全ての作戦を立て、ギルドメンバーと共に練習して実行した」


「「「おおお~」」」


「おおお! そうか、素晴らしい! ここに集まったのはみなゼフィルス氏の作戦に心撃ち抜かれた者たちだ。もちろん私もだ! 特にあの巨城を同時タイミングで落とす技術は実に素晴らしい」


「あれは〈ジャストタイムアタック〉と言う」


「「「おおお~」」」


 なんだろう。俺のコメントに周りがいちいち驚いてくれる。

 なんだかすごく気分がいいぞ!?


 こうして俺と〈ギルバドヨッシャー〉の交流は始まった。




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