第872話 上級職ランクアップ! ガント先輩編!?




 生産ギルドへ〈上級転職チケット〉を使う方向で話が進んだ。

 使用するのはとりあえず2枚。


 1枚はもちろん〈青空と女神〉へ、数々のレシピを〈エデン〉が使用するために、ゲフンゲフン、助けを求める〈青空と女神〉を助けるためにこれは必要不可欠だ!


 そしてもう1枚はもちろん〈エデン〉の十八番おはこにして、〈エデン〉をここまで最速で連れて来てくれた超優良装備、〈馬車〉作製のために使う。


 激レアドロップ〈浮遊戦車イブキ〉を作製するために、〈青空と女神〉ではないけど〈上級転職チケット〉を使わせてほしいという話も通ったのだ。

 というより〈イブキ〉については最優先という話になってしまったほどだ。


〈エデン〉がここまでスピーディに大きなギルドになれたのは、やはり〈馬車〉の存在が大きい。

 そして〈浮遊戦車イブキ〉はカテゴリー〈馬車〉と〈戦車〉両方を兼ね備えているためパーティを乗せて移動することが可能だ。


 上級〈乗り物〉なため、上級の道無き障害物だらけの大地を無視して移動出来る。初級や中級ダンジョンの時のように高速で最奥まで移動する、それが上級で可能なんだ。

〈エデン〉に所属するメンバーであれば、その意味が分からないはずがない。


 実際返ってきたメッセージは〈浮遊戦車イブキ〉の作製に同意するものしかなかった。

 みんな、〈乗り物〉への投資がさらなる〈上級転職チケット〉の回収を早めてくれると分かっているんだ。

 下級職であるシェリアや〈アークアルカディア〉のメンバーからも、これには大賛成のコメントが綴られていた。


 むしろ〈青空と女神〉よりも〈イブキ〉の方を優先してほしいという要望まであったほどだ。

 ニーコからは「これって僕の周回回数が増えないよね? ね?」と来ていた気がしたが、上級ダンジョンはボスのHPバーが三段で時間が掛かるため周回回数は中級より減る。問題はないだろう。


「ふははは!」


 おっと思わず笑いが漏れてしまった。

 メッセージを発信して30分くらいで〈イブキ〉の件については全員から賛成の返事が来たのには驚いたが、それならば早速行動に移そう。

 思い立ったが吉日。時は金なりだ。


 俺は〈上級転職チケット〉を手に、いつもお世話になっている寡黙な先輩、ガント先輩のいるギルド〈彫金ノ技工士〉を訪ねた。〈青空と女神〉より、こっち優先だ。


「ガント先輩はいるか!」


「……勇者か」


「あ、どもっすゼフィルスさん。どうしたんすかそんなに急いで?」


 店の中には案の定、ガント先輩とその弟子のケンタロウ君がいた。

 これはちょうど良いな。

 俺はすぐに説明しようとする。


「実は――」


「出せ」


 しかしその前にガント先輩に「出せ」ってプリーズされた。

 く~、相変わらず説明いらずな先輩だぜ!

 俺はその差し出された手に〈浮遊戦車イブキ〉のレシピを渡した。


「これなんだガント先輩」


「へ? いやいやいやギルマス、ちゃんとお客さんの言葉を聞くっすよ!? いきなり『出せ』はいかんっすよ!?」


「相手は勇者だ。問題ない」


 さすがはガント先輩。とても分かっていらっしゃる。

 無駄を極限までそぎ落とした手並み、さすがだ。


 ガント先輩は俺から受け取ったレシピを見ると、一瞬でフッと笑った。

 続いて俺に視線を固定する。


「〈上級転職チケット〉は?」


「ああ。ちゃんと用意してきたぜ」


「話が早いな」


「話が早いなじゃねーっす! 早すぎて僕は置いてきぼりになってるっす! というか〈上級転職チケット〉!? どういうことっすか!?」


「俺がやろう」


「ってこのレシピ、上級装備の依頼じゃないっすか!? ギルマス、まさかこれを引き受ける気っすか!?」


 ケンタロウ君の驚愕は続く。

 ガント先輩が持つレシピを覗き込んでおったまげた様子だ。


「ちょーっと待つっすギルマス! お願いだから話を進めないでくださいっす! 〈上級転職チケット〉の使用っすよ!? もうちょっと慎重になるっす!」


 そうだな。いくらいつものノリの方が早いとはいえ、ことは〈上級転職チケット〉だ。

 使うからには〈エデン〉の専属になってもらわなければならない。

 もっと言えばガント先輩は3年生のため後4ヶ月で卒業だ。もう少し若い世代を登用するのが普通ではある。何しろ〈上級転職チケット〉を使用したガント先輩が卒業したら、上級品を作れる人が居なくなってしまうということだからな。


 俺はマリー先輩にもした専属の説明をして、この〈上級転職チケット〉を誰に使うのかを問うた。


 それを聞いたガント先輩は一度目を瞑り、腕を組んで目を開いた。


「卒業まで金はいらん」


「なるほど。そう来るか、確かに悪い話じゃ無い……か」


「えっとー。僕としてももし上級職に就いたとして、最初の仕事がこれというのはちょっと自信が……うちのギルドでこれが受けられるのはギルマスくらいっすよ。なんすかこの装備? 性能高すぎっすよ!」


 そりゃ〈金箱〉の上級中位ジョウチュウ級だからな。

 2人の言葉を合わせると、ガント先輩は〈エデン〉から受ける依頼は、素材はともかく依頼料は全額免除で良いとのことだ。


 これはそれなりにメリットと言える。

 現在〈エデン〉で使っている〈からくり馬車〉の制作費は700万ミールだったが、これは初級のレシピだ。上級中位じょうちゅう級レシピともなればざっくりの試算でも億の技術料がかかってもおかしくはない。それが無料だ。

 卒業までのリミットを加味してもこれはアリだろう。


 また、〈彫金ノ技工士〉は実力主義、そのギルドマスターの椅子に座っているガント先輩であれば腕は保証するが、他の場合は確実ではない的なことをケンタロウ君に言われる。


 なら、俺のすべきことは決まっている。


「ガント先輩、頼む」


「任せろ」


「ええ! 即決っすか!? ガント先輩はもうすぐ卒業なんすが……やっぱり〈エデン〉のギルドマスターとなると肝が据わってるっすね!? 据わりすぎっす!? 〈上級転職チケット〉なんてそんな簡単に渡しちゃって大丈夫なんすか!?」


「おうよ。〈上級転職チケット〉だって無くなればまた採ってくればいいからな」


「大物過ぎるっす……」


「それでガント先輩、俺はガント先輩に【クラフトマン】の上級職、【プロフェッショナルクラフター】に就いてほしい。俺と一緒に〈測定室〉まで来てほしいんだ」


「……いいだろう」


 少しの間の後、ガント先輩がいつもの調子で頷いたのでそのまま〈測定室〉へ向かった。

 就いてほしいのは上級職、高の下、【クラフター】系の最高峰の一つ、【プロフェッショナルクラフター】だ。


 これもマリー先輩の時と同じく、大失敗デザートファンブルを10回する必要があるのだが、驚いた事にガント先輩はすでにその条件を満たしていた。探究心が強いな!

 ステータスも問題無く、LVはカンスト済み。後は〈心〉系アイテム〈信じる心〉を使ってもらえばすぐに【プロフェッショナルクラフター】に〈上級転職ランクアップ〉出来た。


「ガント先輩、〈上級転職ランクアップ〉おめでとう!」


「……受け取ろう。行くぞ」


 お祝いもそこそこにギルドへと戻り、先ほどの依頼を受理してもらった。


「本当に上級職になって戻って来たんっすか!?」


 ケンタロウ君が再びおったまげていたが、慣れてくれ。そんなことでは〈彫金ノ技工士〉ではやっていけないぞ。(大物依頼者)


 俺はレシピと一緒に〈リザーロス〉の素材と〈クジャ〉の素材も全部渡しておいた。とはいえこれだけじゃあ全然足りないので、まだまだ最奥のボス素材が必要になるだろう。

 ボス周回を頑張る理由が増えたぜ。たくさん素材を持ってこよう!


 だが〈イブキ〉を作るには〈上級転職ランクアップ〉したばかりのガント先輩ではまだまだLV不足だ。まずはガント先輩も上級職の慣れとレベル上げが必要なので、上級で採れた鉱石類と途中でゲットしたアクセ系のレシピも渡しておいた。これでしばらくレベル上げしてほしい。


 そして十分にレベルが上がったところで〈イブキ〉を作製してもらおう。

 楽しみだぜ。


 それが終わってもガント先輩にはまだまだたくさん働いてもらわなければならない。〈浮遊戦車イブキ〉の量産もそうだし、俺たちが装備する用の上級アクセ装備の作製も依頼することもあるだろう。


 ガント先輩は金はいらないとは言ったが、本当に払わなくてモチベーションは大丈夫か? という心配はいらない。

 俺には分かる。ガント先輩は上級装備に興味津々の様子だ。

 新しいレシピを何度も融通すれば高いモチベーションを維持して作製してくれるだろう。


 これで〈エデン〉はさらに装備が充実すること間違いなしだ! ふはははは!




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る