第869話 訪問者〈青空と女神〉のギルドマスターご一行。




 学園から〈エデン〉は今年中にAランクギルドの仲間入りを果たしてほしいとお達しがあった。


 冬休みにはギルドの枠を大幅に増やし、ギルドバトル〈拠点落とし〉を開催するとの話。

 これをなんでこんな時期に始めるのかと言えば、やはり〈エデン〉を早めに昇格させたいという学園の意思が見え隠れしているのだろう。


 まずは〈サンハンター〉を除くAランクギルド5席のうち2席がSランクへと昇格するとのこと。そして〈サンハンター〉は正式に公式ギルドへと移籍し、Aランクの座を返上する。

 Aランクは3枠の空きが出来、さらにそこへ増設される4枠が合わさり、7枠の空席が出来るわけだ。

 Bランクギルド20席はこの空席を賭けてギルドバトルを行なうことになるだろうとは学園長の話だ。


 なるほどなぁ。

 現在Bランクギルドの戦闘ギルドは18席だ、生産ギルドが2席。

 そこから上位7席までがAランクに上がるだろうと言われた。

 なるほど、〈エデン〉なら楽勝だろう。

 しかし、それだけでは面白くはない。

 やるのなら1位だ。それ以外は目指さねぇ!


 1位ならば〈サンハンター〉が抜けた穴ということで学園のお膳立てギルド枠増設が有っても無くても関係ない。実力でその地位を勝ち取ったと証明できるだろう。

 ふっふっふ、冬休みが楽しみだぜ!


「さてさて、そのためにはまずBランクギルドにならないとな。さてどこに挑戦するか。指名するのか、いっそのことQPの掛からないランダムマッチング申請でもいいな、その辺はまたギルドで相談するかな~」


 ギルドランクが入れ替わる〈ランク戦〉は大きく分けて2種類の挑み方がある。

 相手ギルドを指名してマッチングする指名型と、学園にマッチングを任せるランダムマッチング型だ。


 指名型は好きな相手に挑めるメリットはあるが、競争が激しいところや、指名が被ったりすると抽選だし、指名料としてQPが掛かる。Bランク戦なら5万QP(5000万ミール)だ。


 しかし、ギルドバトルは就活にも直結する大事な活動。

 お金が無いので出来ませんは学園として問題だ。

 そのため相手を指名できず、学園がその相手を決める代わりに無料でランク戦を挑めるランダムマッチング申請という方法がある。


 なお、ランダムマッチング申請は学園が就職活動ギルドバトルをさせるための制度というのが背景にあるため、大体はランク戦を指名されないような強いギルドがマッチングされる傾向があるそうだ。まあ、だから無料なんだけどな。

 また、ランダムマッチング申請は月に1度しか申請できない。アリーナの使用枠は指名型の方が優先されるなどの制限もある。


 正直〈エデン〉としては指名料を払ってまでこのギルドとやりたいという思いは今のところ無いので、俺的にはランダムマッチング申請の方がいいと思っている。


 挑戦されてしまったBランクギルドには悪いが、これも実力主義、諦めてほしい。


 俺はルンルン気分でギルドハウスへと帰った。


「今帰ったぞー」


「あ、おかえりなさいですわゼフィルスさん、お待ちしておりましたわ」


「ゼフィルス、戻って早々で悪いのだけど、ちょっと来てもらえるかしら」


「ん? どうかしたのか?」


 しかし一息吐く間もなくリーナとシエラがやってきて連れて行かれてしまう俺。

 いったいどうしたというのかね?


 いや冗談ではないな。

 リーナとシエラがこうも急かすなんて、何かあったのだろう。

 俺は少し緩みそうな表情を引き締めて大部屋へと入った。


「今帰った」


「お帰りなさいませゼフィルス様」


 部屋に入るとまずセレスタンが一礼。テーブルを挟んだ向かい側には見知らぬ学生たちがいて、どうやらセレスタンが相手をしていたようだ。

 お客さんだな。


 さて、どなただろうか?

 数は5人。女子が2人に男子が3人、あまり鍛えられているという感じがしないことから戦闘職ではないと思われる。というか装備が生産系だな。生産職ご一行というところだろう。


 生産職がうちに来るなんて珍しい。

 いや、戦闘職もほぼ来たこと無いけど。


 さてどうしたものかと頭を悩ませていると、生産職のお客さんが一斉に立ち上がってこっちを向いた。

 代表っぽい男子学生の1人がピッと背筋を伸ばし、やや緊張しながら話しかけてきた。


「初めまして、〈エデン〉のギルドマスターゼフィルス殿とお見受けします。我々はAランクギルドが一つ〈青空と女神〉、僕はギルドマスターをしているメーガスといいます。今日は急な来訪で失礼しました。ですが是非ゼフィルス殿と話がしたくて参上しました」


 なんと、まさかのAランクギルド〈青空と女神〉、そのギルドマスターだった。

〈青空と女神〉といえば、ここ〈迷宮学園・本校〉でトップの生産職ギルドの名前だ。

 上級職が1人もいないためAランクに留まっているが、〈迷宮学園・本校〉の生産職の中でもトップクラスしかギルドに加入することは出来ないという、ガチのトップギルドである。


 そのギルドマスター、メーガスと名乗ったのは、学生服風の装備に黒のマントを羽織った、黒髪黒目でメガネを掛けた男子だった。


「ご丁寧に、俺はゼフィルス。ここ〈エデン〉のギルドマスターをしている。確かに〈青空と女神〉からはアポイントの打診は受けていたが、ずいぶんと早急だったな」


 確かさっきセレスタンが持ってきたアポイントの資料の中に〈青空と女神〉からのアポイントの希望は入っていた。そして受ける方向で話を進めてくれと言っておいたはずだが、まさかもう来たとは。理由は聞いておかなければならないだろう。


「我々はなんとしてもゼフィルス殿と話がしたかったのです。急な訪問で申し訳ないのですが」


「ゼフィルス様、僕の権限でお通ししました」


「セレスタンが良いって言ったんならいいさ。俺も〈青空と女神〉には興味があったからな。――メーガス先輩たちも座ってくれ、話を聞こう」


「! 感謝します」


 まあ、元々上級ダンジョンを攻略したばっかりでメンバーにも休養を取ってもらいたかったし、今日のダンジョンは休みの予定だった。ちょうどよかったな。


 いつもメンバーが集まって座る長テーブル、〈青空と女神〉の向かい側の席に座ると早速セレスタンがお茶を用意してくれた。

 まずは一口、口の中を潤してから聞く体勢に移る。


「それで話というのは?」


「まず改めて感謝の言葉を。急な訪問にも関わらず話を聞いてもらえること、深く感謝します」


「そこはあまり気にしないでくれ。さっきも言ったとおり俺も〈青空と女神〉とは話をしてみたいと思っていたんだ」


「そう言ってもらえると気が楽になります」


 メーガス先輩がふうと一息吐き、そして表情を引き締めて俺に向けて言う。


「今日はお願いがあって来ました。ゼフィルスさん、どうか〈青空と女神〉を助けてください! このままでは、このままでは、ギルド存続の危機なのです! 上級職がいないので!」


 それは魂の叫びだった。

 はてさて、どういうことだろう?




 ―――――――――――

 後書き。

 今までAランク以上のギルドを相手に成り立っていた〈青空と女神〉。

 そのAランク以上のギルドが全員上級ダンジョンへ進出。

 それなのに〈青空と女神〉には上級生産職がいない。さあどうしようピンチ。

 今この辺り。



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