第868話 学園長とお話。Aランク戦〈拠点落とし〉が近い
アポイントの件はセレスタンに進めてもらい、俺は学園長からの連絡を受けて放課後、学園長室へと向かった。
「よく来てくれたのゼフィルス君。急な話ですまぬな」
「いえいえ、学園長にはお世話になっていますから」
社交辞令を述べつついつものソファーに座り、スーツ姿の秘書さんが入れてくれたとても美味しい紅茶をいただく。ふう。美味い。
学園長も向かい側に座り、世間話の延長で上級ダンジョンの近況報告へと入っていく。
「まずは発足したばかりの第四の学園公式ギルド、〈ハンター委員会〉についてじゃな。こちらは〈サンハンター〉のほぼ全員が参加することに決まり、このダンジョン週間だけで新たに2人が上級職へと至っておる。もうすぐ2軍メンバーが上級ボスを狩れるようになるとのことで、〈上級転職チケット〉の回収量も増えるだろうとの予測じゃ。〈救護委員会〉は3枚の〈上級転職チケット〉を入手し支援職を中心に育成中で、〈上級転職チケット〉はまず支援職に使いたいと要望が来ておる」
「とても順調ですね」
カップをソーサーに置き、俺は学園長の言葉に笑みを深くした。
ダンジョン週間に入る前、学園祭で発表された新組織、第四の学園公式ギルド〈ハンター委員会〉が発足した。
そしてダンジョン週間中はエリアボスを狩りまくったようだ。うむうむいいことだ。
「まあ、全てのことが順調というわけでもないがの。狩り場に少し問題が出始めとる」
「というと?」
詳しく話を聞くと、彼らは〈嵐ダン〉の5層から20層と、〈山ダン〉の5層から10層までを狩り場にしているとのことだ。
なぜ1層からじゃないのかと言うと、上位ギルドと狩り場が被るのを嫌った結果だという。
――狩り場問題。
エリアボスは日に1度しかリポップしない。そのタイミングは朝だけだ。
1度倒されたらその日は復活しないということで、つまりは早い者勝ちとなる。
リソースの取り合いだ。
そして上位のギルドは〈サンハンター〉や〈エデン〉に負けじと
〈転移水晶〉も〈エデン〉では売り出しているので安全性は問題無い。〈救護委員会〉もダンジョン内での巡回を増やしているとのことだ。
学園は〈霧ダン〉の霧を払い上級ダンジョンの入門を推し進めてはいるものの、〈霧ダン〉もリソースの取り合いが起きており、エリアボスを狩るためにそろそろ上位ギルドが〈嵐ダン〉や〈山ダン〉に入ダンしようと動き出しそうなのだという。
「また、Bランクギルドが少しずつ〈霧ダン〉に参加し始めておる。Cランクも早いものはそろそろ上級に現れようとしておるの。霧を晴らす範囲は現在3階層までじゃが、狩り場問題もあるためそろそろ階層を5層までに増やす予定じゃ。もちろん〈霧払い玉〉は学園が厳重に管理しておるよ。後は上級ダンジョンへの入ダンにはケルばあの承認を必須にして、ほかの受付員を雇い、ケルばあには見極めに専念してもらっておる」
ランク2の〈霧ダン〉。
霧さえ晴れれば上級ダンジョンでも非常に難易度が低くなるため、ここは学生の上級ダンジョン入門口として利用されることになった。
〈霧払い玉〉もコストがまだ高いためずっとは無理だが、日を決めることでその日は学園が霧を晴らしてくれる。そこに体験を希望したギルドは入ダン出来る仕組みだ。
今は3層までだが、今後は少しずつ学園が晴らす階層を増やしていく予定。これである程度狩り場問題が払拭出来るだろうと考えているようだ。
ただこの〈霧払い玉〉に関しては好きに作られてしまうと学生がどんどん先へと進んでしまい、結果事故が起こる可能性もあるため〈転移水晶〉のように公開レシピにはせず、作るのは今のところハンナのみ、管理は学園に一任してもらっている。
〈霧払い玉〉が欲しければ学園から購入しなければならず、それにも学園から試験を出し、合格しなければ販売してもらえないという規則を作っている最中だ。
現状、安全マージンを確保して確保しすぎることはない。十全に注意しながら進めているという。
「後はユーリ殿下のことじゃが、様々な処理が多く、今は42層を攻略中とのことじゃよ」
「ユーリ先輩は大変そうですね」
「ほっほっほ、嬉しい悲鳴じゃろうて。ゼフィルス君が色々と協力してくれたからの、ユーリ殿下の王位継承はほぼ盤石なものになったわい。とはいえここで油断して変な横やりが入ってもいかんからの、踏ん張りどころじゃ」
うむ。ユーリ先輩はとても忙しいらしい。
だが、学園長の言うとおりここが踏ん張り処だ。頑張って大きな実績を残してほしい。
ユーリ先輩の立場が盤石になればラナが連れて行かれることはない。
ラナはこれから上級下位ダンジョンだけじゃない。上級上位ダンジョンだろうが、その上にある最上級ダンジョンだろうが攻略してもらう予定なんだ。
ユーリ先輩より実績が上回ってしまうとラナを国王へと押し上げようとする勢力が湧き、王位継承権に亀裂が出来るとのこと、そのためユーリ先輩には最上級ダンジョン攻略すら霞んでしまうような成果と実績を出してもらわなければならないのだ。
まあ、その辺は俺も手助けは惜しまない。
〈エデン〉以外にも最上級ダンジョンに進出し、攻略出来るギルドが多く現れればそれだけラナの実績は緩和され弱くなる。学園全体をパワーアップさせることはユーリ先輩の実績を上げ、ラナの実績を弱くすることにも繋がってくるのだから協力は惜しみませんよ~。
とはいえ協力するのはリアルブーストの恩恵や俺がただこの世界を楽しむためという理由の方が大きいんだけどな。
それはともかくだ。
今の所とても順調で何よりである。
だが、そんな報告もここまでだった。
「こほん。さて、そろそろ本題に入るかの」
俺は背筋を伸ばして聞く態勢になる。
もちろん報告をするためだけに突然呼び出すなんてことがあるわけが無いと思っていたよ。
理由は、うん、多分昨日上級ダンジョンを攻略した事かな?
「分かっておるとは思うのじゃが、昨日〈エデン〉は大きな成果を成した。公式記録上で3例目となる上級ダンジョンの攻略を成し遂げた。ワシはこれを学園長として誇りに思う。ゼフィルス君には深く賛辞を贈りたい。おめでとう」
「ありがとうございます」
賛辞の言葉は素直に受け取るに限る。
へたをすれば〈キングアブソリュート〉の実績に泥を塗るようなものだが、そこはすでにユーリ先輩たちに様々な実績を作る協力をしている。
それ故に大きな問題は起こらない、と思う。
「うむ。しかしの、いくつか問題があるのじゃ。様々な方面から〈エデン〉の情報を聞かせてほしいと催促の連絡が来ると予想されておる」
「そう言われましてもね」
「うむ、それはこちらでなんとかしよう。どの道、〈エデン〉が攻略しなくても近々上級ダンジョン攻略者が現れたはずじゃからの」
「ありがとうございます」
「うむ。しかし、一つだけ学園からお願いがあるのじゃ」
「なんでしょうか?」
「〈エデン〉のギルドランクじゃ」
「ああ、〈エデン〉はCランクギルドですからね。上級ダンジョンに無理して挑む学生が現れる可能性と懸念がありますか」
「それもある。それに学園としても上級ダンジョン攻略という偉業を為したギルドがCランクでは少々体面が悪い。〈エデン〉には最低でもAランクになってもらいたいのじゃ。なるべく早くの」
「なるほど、どのくらいの時期までにですか?」
「できれば年内にはなってほしい所なんじゃ」
「年内ですか?」
ランクが低いのは確かに問題だ。Cランクの人たちが俺たちも〈エデン〉と同じ事ができるかもしれないと勘違いして上級ダンジョンで無理をする、なんてことが発生しても困る。
しかし、Aランクギルドかぁ。
Aランク戦を行なうには「Bランクギルドである」「Bランクの防衛戦で3回連続勝利する」の最低二つの条件がある。一応〈25人戦〉を行なうためギルド人数は25人以上を揃える事も条件と言えば条件だが、人数はそれ未満でも仕掛けられるので今は省く。
条件の一つであるBランクギルドへは、正直いつでもなれる。(強気)
だが、防衛戦3回連続勝利は最低でも3ヶ月掛かる。校則でランクアップ後、防衛戦後は1ヶ月ランク戦を挑まれないと決まっているからだ。
つまり年内は無理だ。
「こちらから言い出したことじゃ、学園側も機会を作る。もちろん学生に公平な機会じゃ。そこで〈エデン〉に勝利してもらえればいいと思っておる。もちろん、負けても問題無しじゃ」
負けたときは、ダンジョンは優秀だけどギルドバトルはそこまでじゃなかったと言い訳が立つからですねわかります。
「その内容を教えてもらっても良いですか?」
「もちろんじゃ。今Aランクギルドの〈サンハンター〉の席が半ば空席になりつつあるというのは知っているじゃろう?」
「〈サンハンター〉がそのまま〈ハンター委員会〉に移行されたからですね」
学園公式ギルドはギルドランクの範囲外だ。
〈サンハンター〉が〈ハンター委員会〉として移行するのであればAランクギルドの地位も返上しなくてはならない。
しかし、まだそれは行なわれていなかった。
C以上のギルドランクに空席ができれば、その席を賭けてギルドバトル〈拠点落とし〉が行なわれるのが通例だが、今はまだ〈サンハンター〉が引っ越し中という名目でAランクギルドが空いていない状態である。
ちなみに、〈ハンター委員会〉には新しく〈S等地〉に拠点となるギルドハウスが与えられた。
そこへ現在引っ越しをしている途中なのである。
それが終われば行なわれるハズだったAランク戦〈拠点落とし〉。
なるほど、〈拠点落とし〉はギルドランキングバトル、通称ランク戦とは別扱いだ。参加条件はただ一つ、「一つ下のギルドランクであること」のみ。
希望ギルドを募り、一つランクの下のギルドであればどこでも参加が可能なギルドバトルなのである。
今回、Aランクギルドに空席が出来る。その席を取り合うため、募集はBランクギルドにかけられるだろう。
それまでにBランクギルドになっておけということだな。
「さすがゼフィルス君、理解が早いの。じゃがの、実は席はそれだけではないのじゃ。ゼフィルス君は来年から学園が学生の受け入れ枠を増やすのは知っておるかの?」
「はい。存じています」
「うむ。昨日会議で決まったばかりのことじゃがな。それに伴いギルド数も増やそうという話になっておるのじゃ」
「! それは……」
「もちろんSランクからCランクギルドまで、全てのギルドが対象じゃ」
Sランク、Aランクなどの枠が、増える? へ? マジで? そんなイベントはゲームの時は無かったぞ。ヤバすぎる! え、本当に? マジでマジ!?
「ゼフィルス君の想像の通りじゃ。端的に言えばSランクは2枠、Aランクは4枠の席を増やすことに決まった。これを来年を待たず、冬休みに〈拠点落とし〉で決めることになるじゃろう。Aランクの空席は、これで7枠となる。〈エデン〉には楽勝かも知れぬの。ほっほっほ」
そう言った時の学園長は、とても面白そうに笑っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます